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第四章 チーム✦カリギュラの脅威
リュザーンドの魔天使〈後編〉
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この想定外の椿事に対する因堂怜我の反応はひたすらな沈黙であったが、それが20秒を超えたあたりで「怜我さん、聞いておられますか?」というやや気色ばんだ問いかけによってようやく破られた。
「──はい、もちろん聞いてますよ…しかしまた、どエラいことが起こってしまいましたね…」
「全くですわ…しかも淫鬼と化した女史の攻撃はそれに留まらず、畏れ多くも主宰の…その…つまり、あの…」
和紗が急に口ごもったことで、ここから先は花も恥じらううら若き乙女の口からは到底発音しかねるNGワードが頻発するのであろうと読んだ怜我は、とりあえず助け舟を出すことにした。
「桜城さん、それ以上ムリに踏み込まなくていいですよ、大体想像はつきますから…。
それよりも現在の主宰のご様子はどうなのですか?」
望んでいた展開となってホッとしたらしいメラミオは、恥じらいよりも憤りを込めて、
「──はい、もちろんカリギュラ主宰の〈ご正体〉であられる星王様は異変を察知された瞬間に女史の頭部を包みこんでいた両掌から【醍侃波】を発せられてたちまち失神させてしまわれたのでした…」
「……」
「もちろん威力は必要最小限に抑えられてはいたものの、一歩間違えればいかに星王様といえど深傷を負われかねぬまさに青天の霹靂ともいうべき事件であったのですが、どうやらこの奇襲の背後には憎っくき聖闘防霊団の影が揺曳している模様なのでございます…」
「はい」
「結果的に主宰が負われたのは幸いにもごく軽微な掠り傷であったのですが、さすがのご判断で醍侃波を放つと同時に女史の脳内を調査された星王様は、彼女が強力な〈後催眠暗示〉に罹っている事実を確信なされたのですッ!」
「むう、なるほど…たしかに三池女史に聖防霊が直接憑依するなどという露骨なやり方では謁見した瞬間に看破されてしまったでしょうからね…」
「むろんですわ」
何を当然のことを、と言わんばかりの口ぶりに苦笑しつつ、黒ずくめの美青年はこう訊ねた。
「それで、ザジナス様は彼女をどう処断されるおつもりなのですか…?」
数秒の間を措いて、神霊闘術師は答えた。
「目下、彼女はチームドクターである為永医師の観察下で眠っておりますけれど、その間、大教帝様と協議された星王様はある結論に到達されたのでございます…。
それは、このまま苛烈な尋問なり逆催眠なりを強行して催眠の経緯を探り出そうとすれば最悪の場合命に関わる、そして防霊団はそれを見越してさらなる悪辣な仕掛けを女史の意識内に施しているかもしれぬ、と…」
「……」
「そこで、チーム…いいえ、ここはあえてサロン内と言い換えさせて頂きますけれど、そこにおいて最も彼女と親密な関係にあった怜我に身柄を預けたい…されど淫獣人化された状態で、と──!」
この衝撃情報にはさしもの因堂怜我も表情を強張らせたが、それは言葉の意味合いよりもあの激甚な作用を人体に及ぼす怪液が千鶴の生命にもたらす影響を懸念したためであった。
「三池先生を淫獣人に…!?
し、しかし防霊団による強引な意識操作による後遺症が生々しく刻まれた状態でそれを行うことは、場合によっては予想外の深刻な事態を引き起こしかねぬのではないですかね…?」
されどこの至極当然の反論は想定済みであったのであろう、異星より飛来した最高権力者の代弁者である美しき女子大生は落ち着いた…否、冷徹ともいえる口調で渋る相手をねじ伏せにかかる。
「その時はその時──というのも冷淡で突き放した言い方になりますけれども、事実として三池女史が主宰のご尊体に対して一歩間違えれば取り返しのつかない剣呑極まる加害行為に及んだのは事実なのですから、その懲罰という意味合いも含めて淫獣人化への相応の危険性は甘受すべき、というのがチームの決定事項だということをお伝えしておきます。
しかしもちろん大教帝様も星王様も女史を他の淫獣人と同様の戦闘要員として用いるお考えは今のところは無いとのことでございますから、件の秘薬は数回に分けて適量を摂取させればよいとのことでありました…。
そしてこれは特に大教帝様からのご指示であったのですが、投与は必ずやあなたご自身が、特別に女史との同衾の機会を持って実行されよとのことです…!」
──もはや完全に敗者の遺骸を貪り尽くした漆黒の球体が一つに融合してゆくのを呆然と見つめつつ、因堂怜我はまたもや沈黙する。
「…怜我さん、お気をしっかり(笑)
でもまあ、致し方ありませんわね、
チーム内において、こと淫獣人に関する案件は原則貴方様のご管轄事項なのですから…。
なお、あくまで突発事案ともいうべき本件とは別に、これは遠征隊の主目的ともいうべき重要な事柄ですけれども、現在【D-EYES】計画は幸いにも順調に進展しており、いよいよ〈第二段階〉に突入という次第に相成ったわけですが…」
「……」
「われわれにとって一方の課題であった淫獣人製造が一段落した今、怜我さんには難航する操縦者選定にぜひともご協力頂きたいのですけれど…」
ここでピクリと怜我の左の眉が上がり、努めて抑制しながらも明らかに不満気な口吻で返答する。
「エルド氏とですか…。
ですが、第三惑星出身の彼と私とでは価値基準が大幅に異なりますから、プロジェクトの主唱者であるザジナス様が掲げておられる〈統一性〉という旗印から大きく外れた結果に終わってしまうのではないかと愚考するのですが…」
「ほほほ、決してそんなことはございませんわ…そもそもからして【D-EYES】は第二惑星ではなくあくまで負極界浄化委員会の“肝煎りプロジェクト”なのですし、その主戦場となるのは戦雲たなびく第一惑星なのですから、むしろ三惑星による多様な視点から地球兵士たちを選出することがより強靭な組織作りに繋がると星王様も常々申されておられます…。
つまり統一性うんぬんは、あくまでもこのプロジェクトの運営が徹頭徹尾、浄化委員会の麾下にあるという指揮系統の問題に過ぎませんわ…」
今や完全に一体化した10個の消腐鞠鼓は直径1メートルほどのいびつな丸い物体と成り果てたが、その内部で奇怪な消化運動は継続しているらしく鞣し革のような光沢の表面はモゴモゴと不気味に波打ち、ボコボコという巨大な気泡が潰れるような怪音が断続的に発生している。
あと2分も経てば物体は急速に収縮し、最初のビー玉よりもはるかに微小な粒子となった後に完全消滅するはずであった。
「…やれやれ、人使いの荒いことだ…」
「──何かおっしゃいました?
もちろん本来ならば、怜我さんには誕生間もない淫獣人の育成等、凶祭華同盟の活動に専念して頂くべきなのですけれど、チーム内のいわば連絡係を仰せつかっているわたくしに星王様の特命が下されたこともありまして、メンバーの“分散行動”は当面なるべく控えるようにとのことでして…」
「──貴女に特命が?
もしよければ、それをここで教えて頂いてもよろしいですか…?」
微かな動揺を示した相手の反応に満足したか、若き神霊闘術師は些か気取った口調でこう告げた──。
「もちろんですともッ!
それに、何よりわたくし自身がこの機会を待ち望んでいたのですからッ!!
即ち、聖闘防霊団の呪われし奴僕にしてわがチーム✦カリギュラの神聖な空気を糜爛させる忌まわしき淫夢魔…雷の聖使こと越水ルリアを抹殺することですわッッ!!!」
「──はい、もちろん聞いてますよ…しかしまた、どエラいことが起こってしまいましたね…」
「全くですわ…しかも淫鬼と化した女史の攻撃はそれに留まらず、畏れ多くも主宰の…その…つまり、あの…」
和紗が急に口ごもったことで、ここから先は花も恥じらううら若き乙女の口からは到底発音しかねるNGワードが頻発するのであろうと読んだ怜我は、とりあえず助け舟を出すことにした。
「桜城さん、それ以上ムリに踏み込まなくていいですよ、大体想像はつきますから…。
それよりも現在の主宰のご様子はどうなのですか?」
望んでいた展開となってホッとしたらしいメラミオは、恥じらいよりも憤りを込めて、
「──はい、もちろんカリギュラ主宰の〈ご正体〉であられる星王様は異変を察知された瞬間に女史の頭部を包みこんでいた両掌から【醍侃波】を発せられてたちまち失神させてしまわれたのでした…」
「……」
「もちろん威力は必要最小限に抑えられてはいたものの、一歩間違えればいかに星王様といえど深傷を負われかねぬまさに青天の霹靂ともいうべき事件であったのですが、どうやらこの奇襲の背後には憎っくき聖闘防霊団の影が揺曳している模様なのでございます…」
「はい」
「結果的に主宰が負われたのは幸いにもごく軽微な掠り傷であったのですが、さすがのご判断で醍侃波を放つと同時に女史の脳内を調査された星王様は、彼女が強力な〈後催眠暗示〉に罹っている事実を確信なされたのですッ!」
「むう、なるほど…たしかに三池女史に聖防霊が直接憑依するなどという露骨なやり方では謁見した瞬間に看破されてしまったでしょうからね…」
「むろんですわ」
何を当然のことを、と言わんばかりの口ぶりに苦笑しつつ、黒ずくめの美青年はこう訊ねた。
「それで、ザジナス様は彼女をどう処断されるおつもりなのですか…?」
数秒の間を措いて、神霊闘術師は答えた。
「目下、彼女はチームドクターである為永医師の観察下で眠っておりますけれど、その間、大教帝様と協議された星王様はある結論に到達されたのでございます…。
それは、このまま苛烈な尋問なり逆催眠なりを強行して催眠の経緯を探り出そうとすれば最悪の場合命に関わる、そして防霊団はそれを見越してさらなる悪辣な仕掛けを女史の意識内に施しているかもしれぬ、と…」
「……」
「そこで、チーム…いいえ、ここはあえてサロン内と言い換えさせて頂きますけれど、そこにおいて最も彼女と親密な関係にあった怜我に身柄を預けたい…されど淫獣人化された状態で、と──!」
この衝撃情報にはさしもの因堂怜我も表情を強張らせたが、それは言葉の意味合いよりもあの激甚な作用を人体に及ぼす怪液が千鶴の生命にもたらす影響を懸念したためであった。
「三池先生を淫獣人に…!?
し、しかし防霊団による強引な意識操作による後遺症が生々しく刻まれた状態でそれを行うことは、場合によっては予想外の深刻な事態を引き起こしかねぬのではないですかね…?」
されどこの至極当然の反論は想定済みであったのであろう、異星より飛来した最高権力者の代弁者である美しき女子大生は落ち着いた…否、冷徹ともいえる口調で渋る相手をねじ伏せにかかる。
「その時はその時──というのも冷淡で突き放した言い方になりますけれども、事実として三池女史が主宰のご尊体に対して一歩間違えれば取り返しのつかない剣呑極まる加害行為に及んだのは事実なのですから、その懲罰という意味合いも含めて淫獣人化への相応の危険性は甘受すべき、というのがチームの決定事項だということをお伝えしておきます。
しかしもちろん大教帝様も星王様も女史を他の淫獣人と同様の戦闘要員として用いるお考えは今のところは無いとのことでございますから、件の秘薬は数回に分けて適量を摂取させればよいとのことでありました…。
そしてこれは特に大教帝様からのご指示であったのですが、投与は必ずやあなたご自身が、特別に女史との同衾の機会を持って実行されよとのことです…!」
──もはや完全に敗者の遺骸を貪り尽くした漆黒の球体が一つに融合してゆくのを呆然と見つめつつ、因堂怜我はまたもや沈黙する。
「…怜我さん、お気をしっかり(笑)
でもまあ、致し方ありませんわね、
チーム内において、こと淫獣人に関する案件は原則貴方様のご管轄事項なのですから…。
なお、あくまで突発事案ともいうべき本件とは別に、これは遠征隊の主目的ともいうべき重要な事柄ですけれども、現在【D-EYES】計画は幸いにも順調に進展しており、いよいよ〈第二段階〉に突入という次第に相成ったわけですが…」
「……」
「われわれにとって一方の課題であった淫獣人製造が一段落した今、怜我さんには難航する操縦者選定にぜひともご協力頂きたいのですけれど…」
ここでピクリと怜我の左の眉が上がり、努めて抑制しながらも明らかに不満気な口吻で返答する。
「エルド氏とですか…。
ですが、第三惑星出身の彼と私とでは価値基準が大幅に異なりますから、プロジェクトの主唱者であるザジナス様が掲げておられる〈統一性〉という旗印から大きく外れた結果に終わってしまうのではないかと愚考するのですが…」
「ほほほ、決してそんなことはございませんわ…そもそもからして【D-EYES】は第二惑星ではなくあくまで負極界浄化委員会の“肝煎りプロジェクト”なのですし、その主戦場となるのは戦雲たなびく第一惑星なのですから、むしろ三惑星による多様な視点から地球兵士たちを選出することがより強靭な組織作りに繋がると星王様も常々申されておられます…。
つまり統一性うんぬんは、あくまでもこのプロジェクトの運営が徹頭徹尾、浄化委員会の麾下にあるという指揮系統の問題に過ぎませんわ…」
今や完全に一体化した10個の消腐鞠鼓は直径1メートルほどのいびつな丸い物体と成り果てたが、その内部で奇怪な消化運動は継続しているらしく鞣し革のような光沢の表面はモゴモゴと不気味に波打ち、ボコボコという巨大な気泡が潰れるような怪音が断続的に発生している。
あと2分も経てば物体は急速に収縮し、最初のビー玉よりもはるかに微小な粒子となった後に完全消滅するはずであった。
「…やれやれ、人使いの荒いことだ…」
「──何かおっしゃいました?
もちろん本来ならば、怜我さんには誕生間もない淫獣人の育成等、凶祭華同盟の活動に専念して頂くべきなのですけれど、チーム内のいわば連絡係を仰せつかっているわたくしに星王様の特命が下されたこともありまして、メンバーの“分散行動”は当面なるべく控えるようにとのことでして…」
「──貴女に特命が?
もしよければ、それをここで教えて頂いてもよろしいですか…?」
微かな動揺を示した相手の反応に満足したか、若き神霊闘術師は些か気取った口調でこう告げた──。
「もちろんですともッ!
それに、何よりわたくし自身がこの機会を待ち望んでいたのですからッ!!
即ち、聖闘防霊団の呪われし奴僕にしてわがチーム✦カリギュラの神聖な空気を糜爛させる忌まわしき淫夢魔…雷の聖使こと越水ルリアを抹殺することですわッッ!!!」
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