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第四章 チーム✦カリギュラの脅威
ペティグロスの最強戦士〈中編〉
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「まあそれはそれとして…たしかに拙速は厳に戒めなねばならんが、ガズムオルの危機的状況を鑑みればそれほと悠長なこともいっておられん…。
──しかし全く、あれほどまでに排除を望んでいた“恐怖の暴君”が不在となった途端にここまでタガが外れるとはな…!
今やあの惑星は主星でも何でもない、むしろ“負極界全体を死に至らしめかねないガン細胞”だ。
…されど、いかに残りの三惑星がわれら浄化委員会の指揮の下に総攻撃を仕掛けようが、およそ14億の星民どもを根絶やしにするのは不可能であり、決して揺るがせにできぬ宇宙を貫く経済原則にも著しく相反しておる…」
「──それであるがゆえに、D-EYESを皮切りに選ばれし地球人たちのガズムオル移住を促進させて新たな“生命体の地平”を切り拓くと同時に、これまで負極界の核としてほしいままな支配を及ぼしたかつての主星をいわば最劣位の〈植民星〉へと格下げ…否、疎外するという革命を成就した浄化委員会こそが新たなる…いや、神にも等しい覇者であるのだとのこれ以上ない〈啓示〉となるというわけですね…!」
「──まさしくそのとおりだ」
空になった詠斗のタンブラーに聖紅酒を注ぎながら大きく頷いたマスクド=カリギュラであったがその口調はあくまで抑制されており、高ぶったトーンなど微塵も無い。
「話題がわれらの故郷である以上、飲るのは〈地酒〉でなくては雰囲気が出まい…。
しかもガズムオルほど露骨ではないものの、憂悶を強いる難題は他の惑星にも事欠かぬのだから頭が痛いわ…。
…一例を挙げさせてもらえば、貴君の母星であるペティグロス──ここでも統治の根幹を成す《星主制》が空前の危機に曝されているらしいと仄聞するのだが…」
満たされた酒器を手に一礼し、これが戦士の嗜みであるのか一気に干したラゼム=エルドは、窪んだ瞳の奥に青白い鬼火を燃やしつつ「嘆かわしいことです…」と呟いた。
「まことに不名誉ながら、諸勢力が入り乱れるガズムオルよりも高度に組織化された反動組織の脅威という点ではわが星の方が深刻かもしれません…。
何しろ、地球にとっての月に該当する最大の衛星である【アーメス】が丸ごと【星霊道院】の拠点となってしまっているのですから…!」
自らのグラスを飲み干した星王ザジナスは静かにそれをカウンター上に置いて「らしいな…」とポツリと呟く。
「──現在、ティリス星主はお幾つになられた…?」
その名を耳にした瞬間、精悍な戦士の190センチに迫る巨体がビクリと揺らぎ、“ペティグロス最強の漢”の表情がにわかに曇る。
「…今年15歳になられたはずです…。
もちろん道院の暗躍がいかに猖獗を極めようと、いやそれが烈しさを増すほどにわれら民草の星主様への支持は強固となってゆくはずであるのですが、何より許し難いのは決して侵さざるべき【星主宮】内部にこそ最悪の敵が平然と蟠踞しているという事実でしょう…!!」
「ほう…そこまで言い切れるということは、君の目にはその凶影がまざまざと捉えられているようだな…。
むろん私も独自の情報網によって決してこのまま野放しにはできぬ何人かの危険分子を把握してはいるつもりだが…。
できればこの機会に答え合せしたいものだが──よければ聞かせてもらえるかね?」
十数秒間の沈黙を経て、奥歯をギリッと噛みしめた網崎詠斗は意を決したように「──分かりました」と頷いて仮面の遠征隊長の金剛石を嵌め込んだかのごとき双眸を見据える。
「イルージェ=カイツ星爵──彼こそがこの巨大な毒蛇の頭であると確信しております…!」
「やはり、そうか…」
両腕を組んだザジナスは小さく頷き、独自の見解を披瀝する。
「──一説では、星爵こそが星霊道院の〈大首領〉ではないかと囁かれているようだが…。
というのも、道院それ自体は決して反星主主義の牙城などではなく、むしろ太古からの伝統ある星主制の最大の守護者であったのに、代々そこの〈筆頭信徒〉であるイルージェ家…別けても現星爵の父がかつてないほど自身の〈権勢の具〉として利用したことで腐敗が一気に進行し、それに猛反発したいわば良識派がイルージェと結んだ主流派の予想を上回る、武力闘争をも辞さぬ強硬姿勢を鮮明にし──その結果何と百名を超える犠牲者とそれに数十倍する負傷者を生んだ骨肉合い食む内部抗争の果てに辛くも勝利した(かに見える)主流派の背後には、これを奇貨として一気に道院の中枢を完全掌握せんともくろんだカイツが、あろうことか【ペティグロス星衛軍】への強力なパイプによって投入した〈暗殺部隊〉の存在があったのではないかと睨んでいるのだが…!?」
「……的確なご指摘かと存じます」
重い声音で同意するエルドを見つめつつ、「危険だな、あの男は…」とカリギュラが応じる。
「…ですが、もし星爵が星主様を亡きものとし、ペティグロスをその穢れた手中に収めんという邪悪な野望を実行に移すようなことになれば──このラゼム=エルドは栄誉ある星衛軍の戦士として…そして何よりも負極界浄化委員会の一員として必ずや彼を討ち果たし、星霊道院を壊滅させんと決意しております…!!」
それに対する返事をマスクド=カリギュラが口にしようとした刹那、“淫蕩な刺客”三池千鶴を処置した後に地下3階の【幽閉房】で眠り続けるババイヴ=ゴドゥエブンⅥ世の本日分の経過観察を終えた為永夏実医師こと星王ザジナスの主治医・ケイファーが入室してきた。
──しかし全く、あれほどまでに排除を望んでいた“恐怖の暴君”が不在となった途端にここまでタガが外れるとはな…!
今やあの惑星は主星でも何でもない、むしろ“負極界全体を死に至らしめかねないガン細胞”だ。
…されど、いかに残りの三惑星がわれら浄化委員会の指揮の下に総攻撃を仕掛けようが、およそ14億の星民どもを根絶やしにするのは不可能であり、決して揺るがせにできぬ宇宙を貫く経済原則にも著しく相反しておる…」
「──それであるがゆえに、D-EYESを皮切りに選ばれし地球人たちのガズムオル移住を促進させて新たな“生命体の地平”を切り拓くと同時に、これまで負極界の核としてほしいままな支配を及ぼしたかつての主星をいわば最劣位の〈植民星〉へと格下げ…否、疎外するという革命を成就した浄化委員会こそが新たなる…いや、神にも等しい覇者であるのだとのこれ以上ない〈啓示〉となるというわけですね…!」
「──まさしくそのとおりだ」
空になった詠斗のタンブラーに聖紅酒を注ぎながら大きく頷いたマスクド=カリギュラであったがその口調はあくまで抑制されており、高ぶったトーンなど微塵も無い。
「話題がわれらの故郷である以上、飲るのは〈地酒〉でなくては雰囲気が出まい…。
しかもガズムオルほど露骨ではないものの、憂悶を強いる難題は他の惑星にも事欠かぬのだから頭が痛いわ…。
…一例を挙げさせてもらえば、貴君の母星であるペティグロス──ここでも統治の根幹を成す《星主制》が空前の危機に曝されているらしいと仄聞するのだが…」
満たされた酒器を手に一礼し、これが戦士の嗜みであるのか一気に干したラゼム=エルドは、窪んだ瞳の奥に青白い鬼火を燃やしつつ「嘆かわしいことです…」と呟いた。
「まことに不名誉ながら、諸勢力が入り乱れるガズムオルよりも高度に組織化された反動組織の脅威という点ではわが星の方が深刻かもしれません…。
何しろ、地球にとっての月に該当する最大の衛星である【アーメス】が丸ごと【星霊道院】の拠点となってしまっているのですから…!」
自らのグラスを飲み干した星王ザジナスは静かにそれをカウンター上に置いて「らしいな…」とポツリと呟く。
「──現在、ティリス星主はお幾つになられた…?」
その名を耳にした瞬間、精悍な戦士の190センチに迫る巨体がビクリと揺らぎ、“ペティグロス最強の漢”の表情がにわかに曇る。
「…今年15歳になられたはずです…。
もちろん道院の暗躍がいかに猖獗を極めようと、いやそれが烈しさを増すほどにわれら民草の星主様への支持は強固となってゆくはずであるのですが、何より許し難いのは決して侵さざるべき【星主宮】内部にこそ最悪の敵が平然と蟠踞しているという事実でしょう…!!」
「ほう…そこまで言い切れるということは、君の目にはその凶影がまざまざと捉えられているようだな…。
むろん私も独自の情報網によって決してこのまま野放しにはできぬ何人かの危険分子を把握してはいるつもりだが…。
できればこの機会に答え合せしたいものだが──よければ聞かせてもらえるかね?」
十数秒間の沈黙を経て、奥歯をギリッと噛みしめた網崎詠斗は意を決したように「──分かりました」と頷いて仮面の遠征隊長の金剛石を嵌め込んだかのごとき双眸を見据える。
「イルージェ=カイツ星爵──彼こそがこの巨大な毒蛇の頭であると確信しております…!」
「やはり、そうか…」
両腕を組んだザジナスは小さく頷き、独自の見解を披瀝する。
「──一説では、星爵こそが星霊道院の〈大首領〉ではないかと囁かれているようだが…。
というのも、道院それ自体は決して反星主主義の牙城などではなく、むしろ太古からの伝統ある星主制の最大の守護者であったのに、代々そこの〈筆頭信徒〉であるイルージェ家…別けても現星爵の父がかつてないほど自身の〈権勢の具〉として利用したことで腐敗が一気に進行し、それに猛反発したいわば良識派がイルージェと結んだ主流派の予想を上回る、武力闘争をも辞さぬ強硬姿勢を鮮明にし──その結果何と百名を超える犠牲者とそれに数十倍する負傷者を生んだ骨肉合い食む内部抗争の果てに辛くも勝利した(かに見える)主流派の背後には、これを奇貨として一気に道院の中枢を完全掌握せんともくろんだカイツが、あろうことか【ペティグロス星衛軍】への強力なパイプによって投入した〈暗殺部隊〉の存在があったのではないかと睨んでいるのだが…!?」
「……的確なご指摘かと存じます」
重い声音で同意するエルドを見つめつつ、「危険だな、あの男は…」とカリギュラが応じる。
「…ですが、もし星爵が星主様を亡きものとし、ペティグロスをその穢れた手中に収めんという邪悪な野望を実行に移すようなことになれば──このラゼム=エルドは栄誉ある星衛軍の戦士として…そして何よりも負極界浄化委員会の一員として必ずや彼を討ち果たし、星霊道院を壊滅させんと決意しております…!!」
それに対する返事をマスクド=カリギュラが口にしようとした刹那、“淫蕩な刺客”三池千鶴を処置した後に地下3階の【幽閉房】で眠り続けるババイヴ=ゴドゥエブンⅥ世の本日分の経過観察を終えた為永夏実医師こと星王ザジナスの主治医・ケイファーが入室してきた。
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