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第七章 迫り来る凶影
宝麗仙宮の虜囚たち①
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越水ルリアと神野優彦を捕らえたチーム✦カリギュラの2台の黒いバンは午前7時頃T市U港で合流し、そこからフェリーに搭乗して瀬◯内海の東部に位置する香◯県“第二の島”T島を目指した。
ここにはマスクド=カリギュラこと立山満寿也の祖父が趣味の釣りを楽しむために所有していた別荘があり、そこで車を乗り捨てて迎えのリュザーンド星人のエンジニア・カルソが操縦する自家用クルーザーに乗り込んで10キロばかり南東に走ると終末論者であった父・満太郎が昭和バブル最盛期の余勢を駆って建設した総面積5千坪・地下3階の“長期居住用核シェルター”=通称【立山要塞】を擁する0.15平方キロの無人島に到着する。
幸いにも当時懸念されていた米ソの核戦争は起こらなかったが、終生破滅思想を固持し続けた所有者がこれを手放すことはなく、海への愛着も一方ならぬものがあったことから、敷地内に豪奢な邸宅を増築して終の棲家としたのである。
そして時は流れ、喫緊の脅威は核よりも南海トラフ巨大地震となった現在、むしろ要塞の存在はリスクでしかないと判断した現当主が売却相手を文字通り血眼で探し回っていたまさにその時、リュザーンド星王の依代として白羽の矢を立てられてしまったのであった…。
かくて幾つかの“強化改装”を経て負極界遠征隊の拠点【宝麗仙宮】として生まれ変わった立山要塞を先代が目の当たりにすれば、自身のビジョンが違う意味で的中したことを知って愕然とするであろう…。
✦
「…到着次第、雷の聖使は速やかにケイファー医師に引き渡します。
何しろこの二三日、興奮のあまりロクに眠れてないっていうんだからいやはや大変なご執心ぶりね…。
一方の神野青年だけど、何しろ彼に関してはオファーが殺到しててね。
もちろん筆頭に挙げられるのはかつての大教帝だけれど、ルリアを巡ってあの男に複雑な感情を持ってらっしゃる星王様のご提案で、目下宝麗仙宮地下一階の特設リングでは神野優彦を賞品とする〈バトルトーナメント〉が盛大に開催中で、たしか二日目の今日が決勝戦のはず…。
私は全然興味無いけど、誰と誰が勝ち残ってるのかしら…?」
片時も肌身離さぬ6つの【霊闘具】を収めた紫色の小型アタッシュケースを傍らに、薄茶色の高級革張りキャビンシートの背凭れにゆったりと躰をあずけた美しき神霊闘術師が隣に陣取った筋骨逞しい練獣師ノディグに妖艶な流し目で問いかけ、古代ローマ人のごとき精悍にして濃厚な面立ちのリュザーンド戦士は浅黒い肌を心持ち紅潮させて応じる。
「──はッ。
私も結果が気になるもので、僚友のアべラからバトル終了毎にメンバー専用端末に結果を送信して貰っていたのですが、それによると8名参加の本大会を勝ち抜いたのはラヌーガとジェフェズらしいですね…」
「──うむ、やはりあの二人か…。
共に進境著しい、武技全般何でもござれの万能型ファイターであるがゆえ、身に寸鉄も帯びぬ格闘特化の今トーナメントでの激突はかなりの長丁場となろうて…」
コの字型のシートでメラミオを囲むようにノディグの対面に着座したバラムが黒Tシャツを盛り上げる太い両腕を組んだまま軽く頷くが、その厳しい視線は未来の王妃に対して色目を使うという臣下にあるまじき越権行為に及んだ一番弟子を容赦無く咎めるかのようであった。
当然それに気付かぬはずもないノディグは軽く咳払いし、微かに震える声音でおずおずと師にお伺いを立てる。
「…それを踏まえた上であえて下賤な質問をお許し願いたいのですが、今回のごとき“特殊形式”の対戦の場合、いかなる精神状態の者が優位に立てるのでありましょうか?
即ち同性愛者のジェフェズと両刀のラヌーガでは、やはり褒賞への執着の差が結果に影響するものなのか?ということなのですが…」
予め断っていた通りの下世話なクエスチョンに渋面となるバラムをよそに、麗しきJDの艶めかしい笑声がエンジン音轟く瀟洒な船内に響き渡った。
「ほほほほほッ!
それは面白い質問ねッ!
そういう話題なら私も興味があるわ──でも女である身の心情としては、都合良くその場で性癖を切り替えちゃうどっちつかずの半端野郎よりも、純情一途な男色家さんに勝たせてあげたいっていうのが本音なんだけど…。
生意気なことを言うようですけれど、神霊闘術師のあたしから見ても器用貧乏なラヌーガ氏よりもリュザーンド屈指の拳法家であるジェフェズさんに分がありそうな気がするんだけどね…」
このメラミオの横槍がノディグへの助け舟であることは明白であったが、あえてそれを飲み込んだバラムは律義に腕を解いて頷くと己の見解を開陳する。
「…さすがのご慧眼ですな。
さよう…互いに完全フル装備を帯びての殺し合いならばともかく、裸でのぶつかり合いとなれば体格及び技術で勝るジェフェズの優位は動かぬはずだが──先程隊長がいみじくも指摘された通り、並外れて器用なラヌーガには神霊闘術というこれだけは相手が持たざる秘密兵器がありましてな…」
このコメントに一瞬にして険しい表情となったメラミオは、固い口調でこう宣言した。
「…ということは、星王様が厳密に定めたルールを僭越にもラヌーガが破る可能性があるってこと?
なるほどたしかに、彼の術は私の弟子である五名の聖歓隊員を別にすれば遠征隊中で最上位にあることは認めるわ。
すると決勝まで駒を進められたのも星王様ですら見抜けない特殊な裏技を駆使した結果ということも考えられるわね…。
もしそうなら、このまま違反者のラヌーガを優勝させたらチーム全体に示しがつかないってことになるじゃない…!
よしッ、こうなったらこのあたしが直接リングサイドで観戦して、事の顛末を見届けてやるわッッ!!」
ここにはマスクド=カリギュラこと立山満寿也の祖父が趣味の釣りを楽しむために所有していた別荘があり、そこで車を乗り捨てて迎えのリュザーンド星人のエンジニア・カルソが操縦する自家用クルーザーに乗り込んで10キロばかり南東に走ると終末論者であった父・満太郎が昭和バブル最盛期の余勢を駆って建設した総面積5千坪・地下3階の“長期居住用核シェルター”=通称【立山要塞】を擁する0.15平方キロの無人島に到着する。
幸いにも当時懸念されていた米ソの核戦争は起こらなかったが、終生破滅思想を固持し続けた所有者がこれを手放すことはなく、海への愛着も一方ならぬものがあったことから、敷地内に豪奢な邸宅を増築して終の棲家としたのである。
そして時は流れ、喫緊の脅威は核よりも南海トラフ巨大地震となった現在、むしろ要塞の存在はリスクでしかないと判断した現当主が売却相手を文字通り血眼で探し回っていたまさにその時、リュザーンド星王の依代として白羽の矢を立てられてしまったのであった…。
かくて幾つかの“強化改装”を経て負極界遠征隊の拠点【宝麗仙宮】として生まれ変わった立山要塞を先代が目の当たりにすれば、自身のビジョンが違う意味で的中したことを知って愕然とするであろう…。
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「…到着次第、雷の聖使は速やかにケイファー医師に引き渡します。
何しろこの二三日、興奮のあまりロクに眠れてないっていうんだからいやはや大変なご執心ぶりね…。
一方の神野青年だけど、何しろ彼に関してはオファーが殺到しててね。
もちろん筆頭に挙げられるのはかつての大教帝だけれど、ルリアを巡ってあの男に複雑な感情を持ってらっしゃる星王様のご提案で、目下宝麗仙宮地下一階の特設リングでは神野優彦を賞品とする〈バトルトーナメント〉が盛大に開催中で、たしか二日目の今日が決勝戦のはず…。
私は全然興味無いけど、誰と誰が勝ち残ってるのかしら…?」
片時も肌身離さぬ6つの【霊闘具】を収めた紫色の小型アタッシュケースを傍らに、薄茶色の高級革張りキャビンシートの背凭れにゆったりと躰をあずけた美しき神霊闘術師が隣に陣取った筋骨逞しい練獣師ノディグに妖艶な流し目で問いかけ、古代ローマ人のごとき精悍にして濃厚な面立ちのリュザーンド戦士は浅黒い肌を心持ち紅潮させて応じる。
「──はッ。
私も結果が気になるもので、僚友のアべラからバトル終了毎にメンバー専用端末に結果を送信して貰っていたのですが、それによると8名参加の本大会を勝ち抜いたのはラヌーガとジェフェズらしいですね…」
「──うむ、やはりあの二人か…。
共に進境著しい、武技全般何でもござれの万能型ファイターであるがゆえ、身に寸鉄も帯びぬ格闘特化の今トーナメントでの激突はかなりの長丁場となろうて…」
コの字型のシートでメラミオを囲むようにノディグの対面に着座したバラムが黒Tシャツを盛り上げる太い両腕を組んだまま軽く頷くが、その厳しい視線は未来の王妃に対して色目を使うという臣下にあるまじき越権行為に及んだ一番弟子を容赦無く咎めるかのようであった。
当然それに気付かぬはずもないノディグは軽く咳払いし、微かに震える声音でおずおずと師にお伺いを立てる。
「…それを踏まえた上であえて下賤な質問をお許し願いたいのですが、今回のごとき“特殊形式”の対戦の場合、いかなる精神状態の者が優位に立てるのでありましょうか?
即ち同性愛者のジェフェズと両刀のラヌーガでは、やはり褒賞への執着の差が結果に影響するものなのか?ということなのですが…」
予め断っていた通りの下世話なクエスチョンに渋面となるバラムをよそに、麗しきJDの艶めかしい笑声がエンジン音轟く瀟洒な船内に響き渡った。
「ほほほほほッ!
それは面白い質問ねッ!
そういう話題なら私も興味があるわ──でも女である身の心情としては、都合良くその場で性癖を切り替えちゃうどっちつかずの半端野郎よりも、純情一途な男色家さんに勝たせてあげたいっていうのが本音なんだけど…。
生意気なことを言うようですけれど、神霊闘術師のあたしから見ても器用貧乏なラヌーガ氏よりもリュザーンド屈指の拳法家であるジェフェズさんに分がありそうな気がするんだけどね…」
このメラミオの横槍がノディグへの助け舟であることは明白であったが、あえてそれを飲み込んだバラムは律義に腕を解いて頷くと己の見解を開陳する。
「…さすがのご慧眼ですな。
さよう…互いに完全フル装備を帯びての殺し合いならばともかく、裸でのぶつかり合いとなれば体格及び技術で勝るジェフェズの優位は動かぬはずだが──先程隊長がいみじくも指摘された通り、並外れて器用なラヌーガには神霊闘術というこれだけは相手が持たざる秘密兵器がありましてな…」
このコメントに一瞬にして険しい表情となったメラミオは、固い口調でこう宣言した。
「…ということは、星王様が厳密に定めたルールを僭越にもラヌーガが破る可能性があるってこと?
なるほどたしかに、彼の術は私の弟子である五名の聖歓隊員を別にすれば遠征隊中で最上位にあることは認めるわ。
すると決勝まで駒を進められたのも星王様ですら見抜けない特殊な裏技を駆使した結果ということも考えられるわね…。
もしそうなら、このまま違反者のラヌーガを優勝させたらチーム全体に示しがつかないってことになるじゃない…!
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