THUNDER⚡️ANGELS

幾橋テツミ

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第七章 迫り来る凶影

宝麗仙宮の虜囚たち⑥

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 暗殺未遂犯を取り押さえた後、ダギンが部屋備え付けの消火器によってひとまずこれ以上の延焼を食い止めた。

 続いてルコスが星王の治療のため侍医を呼び出すが、不可解なことに相手の端末の電源が切られているではないか?

 これはチーム内で厳格に定められた規則の重大な違反である!

「ケイファー医師がこちらとの接続を断っている…一体どういうことだ?

 だ…大丈夫ですか星王様!?」

 ノディグの一撃によって鼻骨を砕かれたらしく立山満寿也の整った鼻梁は無残なまでに“くの字”に曲がり、更に血液が気管に流れ込んだことで激しくせながら、を分厚い絨毯に吐き散らす…。

「…うげげッ…げほッ…げぼッ…。

 バッ、バカ者が…は、早くケ…ケイファーを連れて来んかッ…ゲッ、ゲボォッ…!

 つ、通信を断っておるというなら、あ、あやつの部屋か2階の診療室を探してこいッ…!」

「は、ははッ!」

 さりとておそるべきパワーを秘めた凶猛なテロリストから目を離すわけにもいかず、三人の中で最も体格と腕力に秀でるゾネロとダギンがもがくノディグを押さえ続け、俊敏なルコスが王命を実行すべく地獄の部屋を飛び出していった…。

        ✦

 その頃、中庭は騒然となっていた。

 避難で飛び出した連中が敷地の隅にポッカリと開いた小クレーターのごとき大穴に気付かぬはずもなく、そこに格納されていたはずの小型宇宙艇が影も形も無いとあってはパニックに陥るのは当然であった。

「だっ、誰だッ、われらの命綱である艇を勝手に動かしたのはッ!?」

「星王様から発進命令など出されてはいないはずだぞッ!?」

「そもそも、遠征隊全員が乗り込んではじめて反重力ブースターが駆動するというのが鉄則のはずッ!!」

「ということは、宝麗仙宮ここから脱走者が出たということなのかッ!?」

「いや、分からんぞッ!

 ひょっとしたら聖闘防霊団によるかもしれんじゃないかッ!?」

「──とにかく星王様にご報告をッ!」

 真っ先に館に向かって駆け出したトランクス姿で裸足のラヌーガが、窓が開け放たれている真紅の間の真下で「星王様、大変ですッ!」と叫ぶ。

 数秒後、うっすらと残煙が立ち昇るバルコニーに現れたのはダギンであった。

「何だ騒々しいッ!

 現在星王様は負傷されておられるのだぞッ、静かにせんかッッ!!」

 実は両者は昨日のトーナメント初戦で対戦しており、3分3ラウンドをフルに戦い抜いてラヌーガが僅差の判定勝ちを収めていたのだが、ダギンの高所からの高飛車な一喝にはその意趣返しの感情が多分に込められていたようである…。

「うぬッ、この負けイヌが星王様の威を借りて偉そうにッ…!

 バカめッ、キサマはただこの事実だけをお伝えすればよいのだッ、いいかよく聞けッ!

 小型宇宙艇が何者かに盗み出されたッ!!

 従って一刻も早くご聖断を仰ぐ必要があるッ、急げっ、このウスノロがッ!!」

「ななな、何だとォッ!?」

 慌てて〈格納穴〉の方角に視線を向けて衝撃の事実を確認し、脱兎のごとく引っ込むダギンを待つまでもなく、室内の三人はいやでも耳に入った仰天情報に呆然となっていた。

「宇宙艇が…盗まれただと?

 い、一体、誰によって…!?

 ──はッ、そ、そういえばケイファーと連絡がつかぬと言ったな…?

 ま、まさかあやつが犯人なのか…!?」

 その時、ダギンの右手首から鋭い電子音が響き、ONと同時にボリュームを上げたことで一同に切迫したルコスの声が届けられた。

「診療室にも居室にも医師の姿は見当たりませんッ!

 ちなみに助手のアトスもですッ!!

 私も今しがた外の連中からこの凶事を報されて大至急格納穴を映す監視カメラの記録を確認してみたのですが、二人がそこに近寄る決定的な証拠は確認できませんでしたッ!

 ということは、おそらくケイファーは何らかの手段で第三惑星ペティグロス製…しかも最新の【携帯式透明戦装膜発生機】を複数所有していると思われますッ!!」

 ──このルコスの推察は的中しており、彼女はこれによって星王愛飲の聖紅酒の瓶に自身が調合した強力な【脳神経破壊神経毒】を混入するという高難度の犯罪行為に成功したのであった。

 空気が凍りついてから数秒後、ザジナスの苦痛と驚愕に震える声音が絞り出された。

「──うげえぇッ、げぼォッッ…!

 な…何ということだ…

 あ、あのケイファーが、私を裏切ったというのかッ…?

 げほッ、ゲホッ、ゲボホッ!

 う、宇宙艇を奪ったというなら…行き先は…げ…月面に潜むに、忍者艦隊しかあるまいが…うげえッ…た、直ちに執務室の指令装置で艦長のウィラークかギルガを呼び出せッ!

 うげほッ、と、特にリュザーンド出身のウィラーク艦には、わ…わが妃の愛弟子である四人の聖歓隊員が乗り込んでおるのだからなッ、げへッ…ゲホホッ!!

 も…もちろん、お、おまえらはソイツを押さえつけておかねばならんから、ゲホッ…ビドゥロにやらせろッ!

 そ、そしてウィラークが出たら私が直接話すッ、ゲェッホオッッ!!」

「──は、はいッ」

 星王直属のエリートエンジニアを指名したのは彼がザジナス専用の通信機器を起動するための合言葉パスワードを熟知しているためであったが、庭先の大異変によって錯乱した隊員どもが彼の居室目がけて押し寄せてくるのを予知した立山満寿也は更に激しく噎せながらこう喚いた。

「…ゼェゼェ…はあぁッ…よ、よいかッ、連中を決して紅の間に近づけるでないぞッ!

 と、とりあえずヤツらにはこう言っておけ…ゲボホッ、ぐえッ!

 わ…私の命を受けたケ…ケイファーが聖歓隊員を迎えに行ったとッ…!

 ゲヘエエエエッ、ひぎっ、うげえッ!

 き…帰星の暁には、お…王の命を救ったおまえたち三人には、せ、星誉章と王宮典侯官の位を褒賞として授けよう…。

 だ…だが、こ…この愛の儀式の存在と経緯をこ、口外した瞬間に、い…一族郎党に至るまでその命は無いと思えッ…!

 で…では

 エギッ、ぐはッ、あげえッ…

 だ…だがくれぐれも

 い、言っておくぞッ、ご、午後5時まで誰一人この部屋に入ってくるなッ…!!

 は…話はこ、これで終わりだッ、さ、さっさと出て行けッ…

 ──うげへおええええぇッッ!!!」



 



 


 


 




 
 



 

 
 
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