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第七章 迫り来る凶影
かくて悲劇は語られる…
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「──なかなか面白い話で思わず聴き入っちまったが、もちろん内容を鵜呑みにするわけにはいかないな…!
そもそも、君はわれわれに何らの証拠も提示できていないではないか?
もとよりペトゥルナワスなる、いかに特異ではあっても結局のところ大宇宙に浮かぶ一惑星なのであろう〈異世界〉についてはこちらの関知せぬことであるしな…。
だがしかし、君が負極界の事情に驚くほど通じていることだけは認めるが…。
むろん、ガズルオムとアクメピアで進行中の異変──君の情報が仮に真実だとすればそれは負極界全体を根底から揺るがすほどの〈歴史的転機〉ではあるが…。
されど私個人としてはそれよりも聞き捨てならぬ怪情報の真偽、これだけは質さぬわけにはいかんッ…!
もう察しただろうが、負極界において形骸化したと君がのたまう浄化委員会のわが第三惑星における代表者・イルージェ=カイツ星爵が星王様を裏切ったという主張だッ!
百歩譲って他の件には目を瞑るとしても、少なくともこれに関する証拠だけは示してもらわねば以後の君の発言は全て憶測だけの与太話であり、会話の継続は全く無意味と断じざるを得んが、そちらの意見はどうかねッ!?」
「──ご尤もです」
と頷いた太鬼真護は、それまでよりもやや眼光を強めて意外なことを口にした。
「…ですがまず最初に弁明させて下さい。
特に銀魔星とその首領に関してですが、私自身は彼の姿形を特殊瞑想による〈脳内ヴィジョン〉として明確に把握しておりますけれども、未だ実体の彼と遭遇するに至ってはおらぬゆえ、わが絵筆によって拙いながらも描出して差し上げることはできますが、本物を映し出した画像や動画を提供することは現時点では不可能ということなのです…。
ですがご関心の、星爵の裏切りによる負極界浄化委員会の崩壊についての根拠ははっきりとお示しすることができます。
──即ち、あなた方が手首に巻かれた遠征隊専用の通信端末…それを今すぐ開いて宝麗仙宮の様子をご覧頂ければ…」
「──!?」
確信に満ちた相手の断言に不吉な予感を覚えた二人の戦士がデバイスを素早く操作してみると、そこには驚愕の光景が映し出されていた!
「なッ…どういうことだッ!?
敷地の隅に…格納されているはずの小型宇宙艇が消え失せているぞッ!!」
怪少年を挟んで思わず顔を見合わせる詠斗と怜我──そして真護は虚空を見つめたまま、
「館の内部の様子は窺えますか?
尤も重要なのは紅の間だけなのですが…」
「!?」
──何故コイツは星王様の居室の名を知っているのだ?
当然の疑問を呑み込みながら、ラゼム=エルドが首を振る。
「いや、ダメだ…。
地表と地下の3階部分だけはこの端末でアクセスできないことになっている。
もちろん館内は監視カメラだらけだが、この2フロアのヤツだけは特殊な障壁が二重三重に施されていて、覗くことができるのは星王様だけなんだ…。
最も地下の方は牢屋だから、囚人による異変が突発すれば警報が建物内に鳴り響いて全員が気付けるという仕組みになっているがな…」
「…なるほど。
では窓からはどうでしょう?
カーテンは燃え落ちているはずですし、中央付近のガラスは溶け去って内部を覗くには十分な大穴が空いていませんかね…?」
この不気味な指示に従い、二人同時に指令を送信することで惹起される誤作動を回避するため怜我が敷地内で作動中である大小37個の上下左右に360°回転可能な高性能監視カメラの内、対象区域の3つを巧みに遠隔操作することにしたのだが、まさに言葉通りの歪な丸い空洞を目の当たりにして二人は息を呑んだ!
「い、一体何が起こったんだ!?
星王様が外から何者かに襲撃されたというのかッ!?
だとしたら果たしてご無事なのかッ!?
君は知ってるんだろッ!?事情を説明してくれよッ!!」
左隣の怪少年を睨みつけながら珍しく声を荒げるレイガルだったが、割って入った同僚が冷静に推測する。
「いや待て…この痕跡に最も合致するのはリュザーンド軍の流焔小砲じゃないか?
星王様はあの物騒な携行兵器が何故かお気に入りで、イザという時の用心であの部屋に備え付けておられたはず…。
ということは、閉め切った室内から外に向けて小砲を撃ったのか?
つまり、窓の外に尋常ならざる侵入者の怪影を察知して機敏に迎撃の挙に出られたということじゃないのか…!?」
現役軍人のエルドはさすがに格闘特化型のアクメピア星人よりも銃火器類に明るく、あくまで訓練上ではあったが実際の使用経験もあったため流焔小砲の火力の猛威を承知していたのである。
「内部から発射…!?
ということは襲撃は室内で行われた可能性も…!?」
「いや、それは分からん」と憶測の連鎖を断ち切った詠斗はいつしか瞑目していた太鬼真護の端正な横顔を睨んで詰問する。
「因堂君がさっき質問したのを遮って悪かったが、改めて君に確かめたいことがある…どうか単刀直入に答えてほしいッ!
ここで何があったのかを知っているのかッ!?
だとしたらなるべく詳しく教えてくれたまえッ!!」
その間も怜我は何とかカメラ群を駆使して内部の様子を探ろうとするが、遂にそれを放棄して嘆息した。
「ダメだ…そもそも紅の間は星王様の厳命で敷地内のカメラではどう支柱を伸ばして回転させても角度的に捉えきれない位置にあるんだからどだいムリな話だ…」
「…しかもUVカットと強固な防弾性を兼ねた特殊強化ガラスであるから、穴自体もさほど広がらなかったようだな。
とはいえ標的が窓から10メートル以内まで接近し、堅牢な装甲で隙間無く自らを鎧ってでもいなけりゃ、殆ど瞬間的に炭化され、そのまま凄まじい熱圧で残った灰と骨の欠片は海まで吹き飛ばされちまったことだろうぜ…」
ここまで聞いた太鬼真護は目を見開き、小さく頷いた。
「──分かりました。
それでは私が心眼によって内観した通りのことをお話しますが、予めお断りしておきたいことがあります。
まず、私がこの事件を目の当たりにしたのは全てが終わった後のことであり、発生を事前に知っていたのではない──つまり、悲劇を未然に防ぐことはできなかったということです。
なお、お二方とも屈指の強者と認識しておりますゆえにありのままをお伝えしますが、かなりショッキングな内容ですのでそのおつもりで…」
一旦言葉を切った太鬼真護は、特に右横の人物からの視線を痛ましい思いで意識しながら静かに語りはじめた…。
そもそも、君はわれわれに何らの証拠も提示できていないではないか?
もとよりペトゥルナワスなる、いかに特異ではあっても結局のところ大宇宙に浮かぶ一惑星なのであろう〈異世界〉についてはこちらの関知せぬことであるしな…。
だがしかし、君が負極界の事情に驚くほど通じていることだけは認めるが…。
むろん、ガズルオムとアクメピアで進行中の異変──君の情報が仮に真実だとすればそれは負極界全体を根底から揺るがすほどの〈歴史的転機〉ではあるが…。
されど私個人としてはそれよりも聞き捨てならぬ怪情報の真偽、これだけは質さぬわけにはいかんッ…!
もう察しただろうが、負極界において形骸化したと君がのたまう浄化委員会のわが第三惑星における代表者・イルージェ=カイツ星爵が星王様を裏切ったという主張だッ!
百歩譲って他の件には目を瞑るとしても、少なくともこれに関する証拠だけは示してもらわねば以後の君の発言は全て憶測だけの与太話であり、会話の継続は全く無意味と断じざるを得んが、そちらの意見はどうかねッ!?」
「──ご尤もです」
と頷いた太鬼真護は、それまでよりもやや眼光を強めて意外なことを口にした。
「…ですがまず最初に弁明させて下さい。
特に銀魔星とその首領に関してですが、私自身は彼の姿形を特殊瞑想による〈脳内ヴィジョン〉として明確に把握しておりますけれども、未だ実体の彼と遭遇するに至ってはおらぬゆえ、わが絵筆によって拙いながらも描出して差し上げることはできますが、本物を映し出した画像や動画を提供することは現時点では不可能ということなのです…。
ですがご関心の、星爵の裏切りによる負極界浄化委員会の崩壊についての根拠ははっきりとお示しすることができます。
──即ち、あなた方が手首に巻かれた遠征隊専用の通信端末…それを今すぐ開いて宝麗仙宮の様子をご覧頂ければ…」
「──!?」
確信に満ちた相手の断言に不吉な予感を覚えた二人の戦士がデバイスを素早く操作してみると、そこには驚愕の光景が映し出されていた!
「なッ…どういうことだッ!?
敷地の隅に…格納されているはずの小型宇宙艇が消え失せているぞッ!!」
怪少年を挟んで思わず顔を見合わせる詠斗と怜我──そして真護は虚空を見つめたまま、
「館の内部の様子は窺えますか?
尤も重要なのは紅の間だけなのですが…」
「!?」
──何故コイツは星王様の居室の名を知っているのだ?
当然の疑問を呑み込みながら、ラゼム=エルドが首を振る。
「いや、ダメだ…。
地表と地下の3階部分だけはこの端末でアクセスできないことになっている。
もちろん館内は監視カメラだらけだが、この2フロアのヤツだけは特殊な障壁が二重三重に施されていて、覗くことができるのは星王様だけなんだ…。
最も地下の方は牢屋だから、囚人による異変が突発すれば警報が建物内に鳴り響いて全員が気付けるという仕組みになっているがな…」
「…なるほど。
では窓からはどうでしょう?
カーテンは燃え落ちているはずですし、中央付近のガラスは溶け去って内部を覗くには十分な大穴が空いていませんかね…?」
この不気味な指示に従い、二人同時に指令を送信することで惹起される誤作動を回避するため怜我が敷地内で作動中である大小37個の上下左右に360°回転可能な高性能監視カメラの内、対象区域の3つを巧みに遠隔操作することにしたのだが、まさに言葉通りの歪な丸い空洞を目の当たりにして二人は息を呑んだ!
「い、一体何が起こったんだ!?
星王様が外から何者かに襲撃されたというのかッ!?
だとしたら果たしてご無事なのかッ!?
君は知ってるんだろッ!?事情を説明してくれよッ!!」
左隣の怪少年を睨みつけながら珍しく声を荒げるレイガルだったが、割って入った同僚が冷静に推測する。
「いや待て…この痕跡に最も合致するのはリュザーンド軍の流焔小砲じゃないか?
星王様はあの物騒な携行兵器が何故かお気に入りで、イザという時の用心であの部屋に備え付けておられたはず…。
ということは、閉め切った室内から外に向けて小砲を撃ったのか?
つまり、窓の外に尋常ならざる侵入者の怪影を察知して機敏に迎撃の挙に出られたということじゃないのか…!?」
現役軍人のエルドはさすがに格闘特化型のアクメピア星人よりも銃火器類に明るく、あくまで訓練上ではあったが実際の使用経験もあったため流焔小砲の火力の猛威を承知していたのである。
「内部から発射…!?
ということは襲撃は室内で行われた可能性も…!?」
「いや、それは分からん」と憶測の連鎖を断ち切った詠斗はいつしか瞑目していた太鬼真護の端正な横顔を睨んで詰問する。
「因堂君がさっき質問したのを遮って悪かったが、改めて君に確かめたいことがある…どうか単刀直入に答えてほしいッ!
ここで何があったのかを知っているのかッ!?
だとしたらなるべく詳しく教えてくれたまえッ!!」
その間も怜我は何とかカメラ群を駆使して内部の様子を探ろうとするが、遂にそれを放棄して嘆息した。
「ダメだ…そもそも紅の間は星王様の厳命で敷地内のカメラではどう支柱を伸ばして回転させても角度的に捉えきれない位置にあるんだからどだいムリな話だ…」
「…しかもUVカットと強固な防弾性を兼ねた特殊強化ガラスであるから、穴自体もさほど広がらなかったようだな。
とはいえ標的が窓から10メートル以内まで接近し、堅牢な装甲で隙間無く自らを鎧ってでもいなけりゃ、殆ど瞬間的に炭化され、そのまま凄まじい熱圧で残った灰と骨の欠片は海まで吹き飛ばされちまったことだろうぜ…」
ここまで聞いた太鬼真護は目を見開き、小さく頷いた。
「──分かりました。
それでは私が心眼によって内観した通りのことをお話しますが、予めお断りしておきたいことがあります。
まず、私がこの事件を目の当たりにしたのは全てが終わった後のことであり、発生を事前に知っていたのではない──つまり、悲劇を未然に防ぐことはできなかったということです。
なお、お二方とも屈指の強者と認識しておりますゆえにありのままをお伝えしますが、かなりショッキングな内容ですのでそのおつもりで…」
一旦言葉を切った太鬼真護は、特に右横の人物からの視線を痛ましい思いで意識しながら静かに語りはじめた…。
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