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第八章 魔島殲滅戦
宝麗仙宮崩壊⑤
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星王直属エンジニア・ビドゥロは生涯最悪の絶望感に打ちのめされて顔面蒼白となっていた。
「何ということだ…
もう30分も呼びかけているというのに、ウィラーク艦長からは全く返答がない…。
表向きはケイファーが月面最大のクレーターに潜伏する聖歓隊々員を迎えに行ったということだが、それが偽りであることはこの非情な仕打ちからも明白…。
…だが何故だッ!?
それこそ他の何物でもない、ただ負極界の未来のためにわが身の危険も顧みず、遥かなる星の海を渡って暴虐の絶対者の追放と傭兵獲得のために挺身した遠征隊がどうして見捨てられねばならんのだッ!?
し、しかもこちらには誰あろう第二惑星星王にして負極界浄化委員長のザジナス様がおられるのだぞッ!!
こ、これが狂気の沙汰でなくして一体何だというのだッ!?
さ…されど悪鬼と化した忘恩の徒どもがあくまでも耳を塞ぎ続けるというのであれば、恥を忍んで第三惑星のギルガが艦長を任ぜられた小型艦に救難信号を送信するしかないが…流謫の身となったわれらに手を差し伸べてくれるとはとても考えられぬ…」
──一縷の望みを託してそれから15分間、ギルガ艦への悲壮なSOSを発信し続けたビドゥロであったが、聡明であるがゆえに自己の運命を正確に見透かしてしまったものか悄然たる表情で早々と打ち切り、母星に残した妻子の名を呟きつつ立ち上がると、星王に不首尾を直接伝えるべく重い足を引きずって紅の間に向かったのであった…。
✦
「独りで戦う…あえて最も過酷な道を選ぶのは何故なんだ?
因堂君…そう出るのならば些か邪推を許してもらいたいが、もしや君は地底に幽閉された大教帝を再び担いで、この地球を第二のガズムオルに変えんともくろんでいるのではあるまいなッ!?」
ラゼム=エルドと太鬼真護の注視を一身に浴びたレイガルは動揺する素振りもなく、微苦笑しながら頭を振る。
「──参ったな…。
でもまあ私の思想信条を熟知されておられる詠斗さんがそう危惧されるのもムリはありませんね。
ですが、その点だけはご心配されるに及びません。
とはいえ故郷から見捨てられ、今まさに星王様まで身罷られようとしているからには、大教帝様をこのまま地底の虜囚にしておくわけにいかぬのもたしかですが、ね…。
更に私の読みでは、ウィラーク艦長は僅かな傭兵要員を確保する他は負極界が地球に干渉する意志がないことをこの惑星を動かす指導層に示すためにも、遠征隊の痕跡を微塵も残すことあるまじ、と固く決意しているはず。
つまり、間もなく来襲する強力な攻撃隊はわれわれを一人残らず殲滅するつもりなのでしょうから、真剣に応戦するほどに死は確実であろうとの判断なのですよ…」
「……!」
言葉にはせずとも同じ認識であったと思しきペティグロス星人はむしろ清々しい表情で頷く。
「──たしかにな。
事ここに至ったからには、天助を希求するなどという女々しき態度など潔く打ち棄て、己が身命尽き果てるまで非道な敵に背を向けることなく戦い抜くのが真の負極界軍人の真骨頂というものなのかもしれん…!」
ここで傍らの真護に向き直ったエルドは逞しい手を星渕特抜生の肩に置いて語りはじめる。
「…太鬼君、どうやらわれわれ二人の方針はキミが提示した①に落ち着いたようだ。
その決定的要因は…キミも男なら分かってくれると思うが、やはり負極界への絶大なる貢献にもかかわらず、ザジナス星王とメラミオ王妃に加えられた卑劣にして無残極まる犯罪的反逆行為にある…。
…そしてこれは因堂君はいざ知らず、私個人の抜き差しならぬ本音なのだが、先程キミがその脅威を報せてくれた、銀魔星なる機械戦士の軍団──少なくともガズムオルとリュザーンドという外道惑星だけは彼らにとことんまで蹂躙し尽くしてもらいたいとすら念じているのだ…!」
十秒ほどの間を置いて、黒衣の怪少年が口を開く。
「なるほど…おっしゃることの意味はよく分かります。
そしてこれは負極界のみならずわがペトゥルナワスにも言えることなのですが、決して全面的な許容はできぬにせよ、銀魔星のごとく略奪等の犯罪行為に一切手を染めることなく、ただひたすらに(素体を機械化することを含め)破壊のみに邁進する軍団の出現は、その世界を覆い尽くす腐敗の暗雲を一掃するために必然的に用意された宇宙的現象なのかもしれませんね…。
むろんこの見解は私だけのものに非ず、聖剣皇ご自身が常々強調されておられるいわば帝界聖衛軍の共通認識なのでありますが…。
かといって連中をこのまま放置し続けることはそれこそわれらの尊厳の根幹に関わることでもありますから、残念ながらわたくし自身は宝麗仙宮に立て籠もる人々と最後まで運命を共にすることはできませんが…」
微笑しつつ小さく頷く両雄に微笑を返しつつ、太鬼真護はこう宣言した。
「もちろんまだ玉砕が確定した宿命というわけではありませんし、明らかに気迫で勝っているこちらが勝利することも十分にあり得るわけです。
そのために私も持てる手駒を全投入致しますし、加えてどうしてもあの蒼頭星人が傑出した能力で創造した尖兵たちを駆り出す必要がありますね…。
となると彼が身を灼く大教帝への凄まじい怨念を利用するしかないわけで、まさしくレイガルさんにとってはこれこそ両刃の剣というべきものでしょうし、もしも天香蝶の目玉を介して蛸ノ宮に事実を告げることが容認できぬということであれば、私との闘争は避けられぬということになるのですが…どうされますか?」
「何ということだ…
もう30分も呼びかけているというのに、ウィラーク艦長からは全く返答がない…。
表向きはケイファーが月面最大のクレーターに潜伏する聖歓隊々員を迎えに行ったということだが、それが偽りであることはこの非情な仕打ちからも明白…。
…だが何故だッ!?
それこそ他の何物でもない、ただ負極界の未来のためにわが身の危険も顧みず、遥かなる星の海を渡って暴虐の絶対者の追放と傭兵獲得のために挺身した遠征隊がどうして見捨てられねばならんのだッ!?
し、しかもこちらには誰あろう第二惑星星王にして負極界浄化委員長のザジナス様がおられるのだぞッ!!
こ、これが狂気の沙汰でなくして一体何だというのだッ!?
さ…されど悪鬼と化した忘恩の徒どもがあくまでも耳を塞ぎ続けるというのであれば、恥を忍んで第三惑星のギルガが艦長を任ぜられた小型艦に救難信号を送信するしかないが…流謫の身となったわれらに手を差し伸べてくれるとはとても考えられぬ…」
──一縷の望みを託してそれから15分間、ギルガ艦への悲壮なSOSを発信し続けたビドゥロであったが、聡明であるがゆえに自己の運命を正確に見透かしてしまったものか悄然たる表情で早々と打ち切り、母星に残した妻子の名を呟きつつ立ち上がると、星王に不首尾を直接伝えるべく重い足を引きずって紅の間に向かったのであった…。
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「独りで戦う…あえて最も過酷な道を選ぶのは何故なんだ?
因堂君…そう出るのならば些か邪推を許してもらいたいが、もしや君は地底に幽閉された大教帝を再び担いで、この地球を第二のガズムオルに変えんともくろんでいるのではあるまいなッ!?」
ラゼム=エルドと太鬼真護の注視を一身に浴びたレイガルは動揺する素振りもなく、微苦笑しながら頭を振る。
「──参ったな…。
でもまあ私の思想信条を熟知されておられる詠斗さんがそう危惧されるのもムリはありませんね。
ですが、その点だけはご心配されるに及びません。
とはいえ故郷から見捨てられ、今まさに星王様まで身罷られようとしているからには、大教帝様をこのまま地底の虜囚にしておくわけにいかぬのもたしかですが、ね…。
更に私の読みでは、ウィラーク艦長は僅かな傭兵要員を確保する他は負極界が地球に干渉する意志がないことをこの惑星を動かす指導層に示すためにも、遠征隊の痕跡を微塵も残すことあるまじ、と固く決意しているはず。
つまり、間もなく来襲する強力な攻撃隊はわれわれを一人残らず殲滅するつもりなのでしょうから、真剣に応戦するほどに死は確実であろうとの判断なのですよ…」
「……!」
言葉にはせずとも同じ認識であったと思しきペティグロス星人はむしろ清々しい表情で頷く。
「──たしかにな。
事ここに至ったからには、天助を希求するなどという女々しき態度など潔く打ち棄て、己が身命尽き果てるまで非道な敵に背を向けることなく戦い抜くのが真の負極界軍人の真骨頂というものなのかもしれん…!」
ここで傍らの真護に向き直ったエルドは逞しい手を星渕特抜生の肩に置いて語りはじめる。
「…太鬼君、どうやらわれわれ二人の方針はキミが提示した①に落ち着いたようだ。
その決定的要因は…キミも男なら分かってくれると思うが、やはり負極界への絶大なる貢献にもかかわらず、ザジナス星王とメラミオ王妃に加えられた卑劣にして無残極まる犯罪的反逆行為にある…。
…そしてこれは因堂君はいざ知らず、私個人の抜き差しならぬ本音なのだが、先程キミがその脅威を報せてくれた、銀魔星なる機械戦士の軍団──少なくともガズムオルとリュザーンドという外道惑星だけは彼らにとことんまで蹂躙し尽くしてもらいたいとすら念じているのだ…!」
十秒ほどの間を置いて、黒衣の怪少年が口を開く。
「なるほど…おっしゃることの意味はよく分かります。
そしてこれは負極界のみならずわがペトゥルナワスにも言えることなのですが、決して全面的な許容はできぬにせよ、銀魔星のごとく略奪等の犯罪行為に一切手を染めることなく、ただひたすらに(素体を機械化することを含め)破壊のみに邁進する軍団の出現は、その世界を覆い尽くす腐敗の暗雲を一掃するために必然的に用意された宇宙的現象なのかもしれませんね…。
むろんこの見解は私だけのものに非ず、聖剣皇ご自身が常々強調されておられるいわば帝界聖衛軍の共通認識なのでありますが…。
かといって連中をこのまま放置し続けることはそれこそわれらの尊厳の根幹に関わることでもありますから、残念ながらわたくし自身は宝麗仙宮に立て籠もる人々と最後まで運命を共にすることはできませんが…」
微笑しつつ小さく頷く両雄に微笑を返しつつ、太鬼真護はこう宣言した。
「もちろんまだ玉砕が確定した宿命というわけではありませんし、明らかに気迫で勝っているこちらが勝利することも十分にあり得るわけです。
そのために私も持てる手駒を全投入致しますし、加えてどうしてもあの蒼頭星人が傑出した能力で創造した尖兵たちを駆り出す必要がありますね…。
となると彼が身を灼く大教帝への凄まじい怨念を利用するしかないわけで、まさしくレイガルさんにとってはこれこそ両刃の剣というべきものでしょうし、もしも天香蝶の目玉を介して蛸ノ宮に事実を告げることが容認できぬということであれば、私との闘争は避けられぬということになるのですが…どうされますか?」
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