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終章 LASTBATTLE ON THE EARTH
腹が減っては〈死戦〉はやれぬ
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本日中に予定?されているはずのD‐EYESとの決戦に備えてがっつりスタミナを補給しておこう、との詠斗の提案によって高◯市内の焼肉店に入った二人であったが、注文を終えて手首に巻いた【遠征隊端末】の〈メンション欄〉に怜我からの“レンタカーは系列店に返却しました”と簡潔に記されていたのを発見したかつての同僚はかつてない感傷的な口調で訥々と語った。
「たった一行…これがアイツからのラストメッセージか…。
どうもいけねえな…こういうのはよ…。
だってあまりにも寂しすぎるじゃねえか…オレらは一応、仲間だったはずだろ…。
だとしたら、せめて各自に宛てたメッセージくらいあってもバチは当たらねえはずだぜ…」
「……」
「まあ、一世一代の復讐戦に臨む身としてとてもそんな心境にゃなれなかったっつーのも理解できんワケじゃねえが、これじゃ残された方の立場ってモンはどうなるんだよ…」
「……」
言葉の接穂を失い、グラスの水を一息で飲み干したラゼム=エルドは氷を噛み砕きながら照れたような表情で詫びる。
「すまん…しかしオレも戦闘者として決してヒヨッ子じゃねえつもりだが、この地球に来てから身の回りに起きる出来事の異常さにゃあ唖然とさせられるばかりだ…。
今の心境としちゃあ、一刻も早く“悪ガキ戦隊”に襲来してもらって、とっとと戦闘の冷たい熱狂に身を委ねたいってのが正直なところだぜ…!」
「──同感ですね。
ですが早々とレイガル氏を欠いてしまった以上、こちらも余計な荷物を背負い込むことになってしまったワケで、周辺被害を考慮するとやはり戦場は宝麗仙宮しかなさそうですね…」
到着した肉皿にトングを突っ込んで豪快に半分以上掴み取って灼熱化したグリルにブチまけ、要領よく並べてゆく詠斗は、
「オレは米の飯も野菜も要らねえ…。
血が滴るとはいかねえまでも、あくまでも生焼けの肉だけで腹拵えさせてもらうぜ…」
と呟いてから徐ろに彫り深い貌を上げ、対面の怪少年に「そういうことだな」と半笑いしながら頷きかける。
「それに神野君のことも気になるしな…。
キミの見立てだと現在あの呪われた館に残ってるのは星王専属技師のビドゥロと“決勝進出者”のラヌーガとジェフェズ、そして調理係のベラクとコームだけということだが、さすがにビドゥロと料理人たちは除くとしてもあの2匹の野獣が大人しくババイヴの帰りを待ってるとも思えねえんだよな…」
宣言通りいっぺんに3枚の生焼けロースをどっぷりとタレに浸して頬張った詠斗は、
「さあ遠慮せずに食ってくれ。
さもねえとオレ様が全部頂いちまうからよ…。
尤もこの後スーパーにも寄って当面凌げるだけの食糧は調達するつもりだが、ロクに調理するヒマはねえだろうからこの席がいわゆる〈最後の晩餐〉ってヤツになる…ここで食っとかねえと躰が保たねえぞ…!」
「ありがとうございます…それじゃ、頂きます」
しっかりと大盛りライスも注文していた真護が合掌して一礼し、割り箸を握って戦闘態勢にはなったもののその食事スタイルは異星人ほどワイルドではないようであった。
「やっぱりミディアム派だったか…何かそんな気がしたんだよな。
…ひょっとして、ホントは菜食主義者じゃねえのかい?
だとしたら悪かった、こちとらどーしても肉が食いたかったモンでな…。
全然ムリするこたあねえぜ、まだまだ時間はたっぷりあるから回転寿司でもさ◯きうどんでも…何ならこだわりのパン屋でもキミのリクエストに可能な限り応じるからよ…」
八割方焼け上がった肉片を摘み上げた怪少年が微笑みながら応じる。
「お気遣いありがとうございます──肉は大好物ですよ。
ですけど決して見栄を張るワケでもなくて量はそれほど食べられないんです。
その代わり白米は…我ながら情けなくなるほど幾らでも食えちゃうんですよねえ…今じゃ高級品の部類なのに…」
✦
約2時間後に店を出た両雄は詠斗の希望で予めリサーチしていた人気うどん店に立ち寄ってからディスカウントスーパーで主に缶詰類と飲料水を大量に買い込むと高◯港付近でレンタカーを返却し、エルドが用意していた2台の折畳式キャリーカートに荷物を分乗させてからフェリーでT島の立山家別荘に向かう。
その船中で遠征隊の生き残り五名の処遇を巡って二人は持論を戦わせた。
「少なくともビドゥロは利用されてるだけの可能性が高い…従って何とか彼だけは救ってやりたいな…。
たが後の連中はどうかな?
もちろんかつての仲間を粛清などしたかろうはずもないが、なまじ人並み以上の戦士──いや、一般地球人からしてみれば殆ど怪物といえるアイツらを本土に解き放ってしまうのはどう考えても良策とはいえんだろう…。
ここは負極界人としての最低限の作法として、このオレが責任持ってケジメをつけさせてもらうよ…」
されど意外なことに、闇黒の鬼公子の意見は真逆であった。
「そうですか…わが帝界聖衛軍としては、ラヌーガ&ジェフェズ両氏については受け入れる用意がありますけれども。
もちろんそれはあくまでも賓客であるはずの神野氏を礼節を以て遇している場合に限りますが…」
「──お言葉ですがね、
少なくともオレが知る限り、あの五人の中で紳士といえるのはビドゥロ氏だけのはずなんだがな…」
「…そうなのですか?
ですがそれはあくまでも悍ましい素顔を隠すための仮面に過ぎないのではありませんかね?
彼は現在、メラミオ嬢の遺骸という最高の素材を得て屍体愛好者として“究極の至福”を味わっている模様ですが…。
これはあくまでも私の個人的意見ですが、いかに粗暴な心性の主とはいえ意識の根底に戦士としての矜持を秘めるお二方とこの化け物を比較した場合、どちらが地球人にとって真に有害かは論ずるまでもなく明らかな気がしますがね…!」
「たった一行…これがアイツからのラストメッセージか…。
どうもいけねえな…こういうのはよ…。
だってあまりにも寂しすぎるじゃねえか…オレらは一応、仲間だったはずだろ…。
だとしたら、せめて各自に宛てたメッセージくらいあってもバチは当たらねえはずだぜ…」
「……」
「まあ、一世一代の復讐戦に臨む身としてとてもそんな心境にゃなれなかったっつーのも理解できんワケじゃねえが、これじゃ残された方の立場ってモンはどうなるんだよ…」
「……」
言葉の接穂を失い、グラスの水を一息で飲み干したラゼム=エルドは氷を噛み砕きながら照れたような表情で詫びる。
「すまん…しかしオレも戦闘者として決してヒヨッ子じゃねえつもりだが、この地球に来てから身の回りに起きる出来事の異常さにゃあ唖然とさせられるばかりだ…。
今の心境としちゃあ、一刻も早く“悪ガキ戦隊”に襲来してもらって、とっとと戦闘の冷たい熱狂に身を委ねたいってのが正直なところだぜ…!」
「──同感ですね。
ですが早々とレイガル氏を欠いてしまった以上、こちらも余計な荷物を背負い込むことになってしまったワケで、周辺被害を考慮するとやはり戦場は宝麗仙宮しかなさそうですね…」
到着した肉皿にトングを突っ込んで豪快に半分以上掴み取って灼熱化したグリルにブチまけ、要領よく並べてゆく詠斗は、
「オレは米の飯も野菜も要らねえ…。
血が滴るとはいかねえまでも、あくまでも生焼けの肉だけで腹拵えさせてもらうぜ…」
と呟いてから徐ろに彫り深い貌を上げ、対面の怪少年に「そういうことだな」と半笑いしながら頷きかける。
「それに神野君のことも気になるしな…。
キミの見立てだと現在あの呪われた館に残ってるのは星王専属技師のビドゥロと“決勝進出者”のラヌーガとジェフェズ、そして調理係のベラクとコームだけということだが、さすがにビドゥロと料理人たちは除くとしてもあの2匹の野獣が大人しくババイヴの帰りを待ってるとも思えねえんだよな…」
宣言通りいっぺんに3枚の生焼けロースをどっぷりとタレに浸して頬張った詠斗は、
「さあ遠慮せずに食ってくれ。
さもねえとオレ様が全部頂いちまうからよ…。
尤もこの後スーパーにも寄って当面凌げるだけの食糧は調達するつもりだが、ロクに調理するヒマはねえだろうからこの席がいわゆる〈最後の晩餐〉ってヤツになる…ここで食っとかねえと躰が保たねえぞ…!」
「ありがとうございます…それじゃ、頂きます」
しっかりと大盛りライスも注文していた真護が合掌して一礼し、割り箸を握って戦闘態勢にはなったもののその食事スタイルは異星人ほどワイルドではないようであった。
「やっぱりミディアム派だったか…何かそんな気がしたんだよな。
…ひょっとして、ホントは菜食主義者じゃねえのかい?
だとしたら悪かった、こちとらどーしても肉が食いたかったモンでな…。
全然ムリするこたあねえぜ、まだまだ時間はたっぷりあるから回転寿司でもさ◯きうどんでも…何ならこだわりのパン屋でもキミのリクエストに可能な限り応じるからよ…」
八割方焼け上がった肉片を摘み上げた怪少年が微笑みながら応じる。
「お気遣いありがとうございます──肉は大好物ですよ。
ですけど決して見栄を張るワケでもなくて量はそれほど食べられないんです。
その代わり白米は…我ながら情けなくなるほど幾らでも食えちゃうんですよねえ…今じゃ高級品の部類なのに…」
✦
約2時間後に店を出た両雄は詠斗の希望で予めリサーチしていた人気うどん店に立ち寄ってからディスカウントスーパーで主に缶詰類と飲料水を大量に買い込むと高◯港付近でレンタカーを返却し、エルドが用意していた2台の折畳式キャリーカートに荷物を分乗させてからフェリーでT島の立山家別荘に向かう。
その船中で遠征隊の生き残り五名の処遇を巡って二人は持論を戦わせた。
「少なくともビドゥロは利用されてるだけの可能性が高い…従って何とか彼だけは救ってやりたいな…。
たが後の連中はどうかな?
もちろんかつての仲間を粛清などしたかろうはずもないが、なまじ人並み以上の戦士──いや、一般地球人からしてみれば殆ど怪物といえるアイツらを本土に解き放ってしまうのはどう考えても良策とはいえんだろう…。
ここは負極界人としての最低限の作法として、このオレが責任持ってケジメをつけさせてもらうよ…」
されど意外なことに、闇黒の鬼公子の意見は真逆であった。
「そうですか…わが帝界聖衛軍としては、ラヌーガ&ジェフェズ両氏については受け入れる用意がありますけれども。
もちろんそれはあくまでも賓客であるはずの神野氏を礼節を以て遇している場合に限りますが…」
「──お言葉ですがね、
少なくともオレが知る限り、あの五人の中で紳士といえるのはビドゥロ氏だけのはずなんだがな…」
「…そうなのですか?
ですがそれはあくまでも悍ましい素顔を隠すための仮面に過ぎないのではありませんかね?
彼は現在、メラミオ嬢の遺骸という最高の素材を得て屍体愛好者として“究極の至福”を味わっている模様ですが…。
これはあくまでも私の個人的意見ですが、いかに粗暴な心性の主とはいえ意識の根底に戦士としての矜持を秘めるお二方とこの化け物を比較した場合、どちらが地球人にとって真に有害かは論ずるまでもなく明らかな気がしますがね…!」
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