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大学二年生
芝生の上の恋人時間・その後――まさかの目撃編
しおりを挟む柊の膝枕でうとうとしていた千歳は、心地よい陽射しとそっと撫でる指先に、すっかり気が緩んでいた。
目を閉じて、微かに聞こえる風の音と、柊の体温だけを感じる。
……それはまるで、世界にふたりしかいないような――
「……うわ、なにこれ、青春かよ……」
不意に頭上から聞こえてきた声に、千歳はバッと目を開けた。
「えっ……誰……?」
柊の表情が固まっている。その目線の先に立っていたのは――
「やっぱり、千歳と柊じゃん。なにやってんの? ここでイチャついて……え、これ、膝枕? マジで?」
そこにいたのは、サークルの同期であり、ふたりの共通の友人でもある野々村だった。
気まずさに全身が一瞬で熱くなる。
「ちょっ、野々村……! なんでここに!?」
「ゼミの教授がさ、芝生の裏のほうで資料落としたかもって言って探してたら……カップル発見したってわけ。いやー、やっちゃってるなあ、まじで」
ニヤニヤと口元をゆがめた野々村に、千歳は思わず起き上がって、柊の膝から飛び退いた。
「ご、ごめん、柊……!」
「え、何で謝るの? むしろ俺は――」
「お前ら、つきあってんの?」
あっけらかんとした野々村の質問に、空気が止まった。
柊がちら、と千歳を見た。
千歳は一瞬だけ躊躇したが、すぐに小さく笑って、頷いた。
「……うん。そう。つきあってる」
「そっか……マジか……」
野々村は目を丸くして、ふたりを交互に見た。
数秒の沈黙のあと――
「めちゃくちゃお似合いだな、お前ら」
あっさりと、そう言って笑った。
「えっ……」
「いや、なんとなく、そんな感じはしてたけどさ。隠してたのはちょっとさみしいけど、まあ……膝枕してる現場見せつけられたら、もう祝福するしかないっしょ」
柊は呆然とした顔のまま、ぽつりとつぶやいた。
「……意外と、受け入れ早いな……」
「そりゃそうでしょ。俺、今の現場で萌えてるし。ていうか千歳、照れてる顔えっっっっっっぐいかわいいから、顔上げて」
「やめて!!!」
千歳が本気で抗議の声をあげると、野々村は爆笑した。
「いいなあ、お前ら。そういうの、幸せそうで。俺も誰か芝生で寝転ばせてくれないかなー」
「じゃあ俺、今度紹介してやろうか? 理工の“ちょっと奥手なイケメン”の友達とか」
「おお、マジで!? ……って、柊、お前そんな手広く行ってたの? 他大から遠征してまで?」
「いや、俺が行くんじゃなくて、千歳に行かせないように見張ってただけ」
「なにそれこわ……」
笑いながら、野々村は軽く手を振って芝生の坂を降りていった。
その背中が見えなくなると、千歳は深くため息をついて柊の方を見る。
「……ばれた」
「うん。でも、別に悪いことしてないし」
柊はにっこり笑ったあと、千歳の手をそっと取った。
指先をからめて、しっかりと握る。
「これで、やっと“俺の彼氏”ってちゃんと言えるね」
「……なんか、すごい恥ずかしいけど、でも……嬉しい」
「じゃ、次は“芝生で彼氏の寝顔を堂々と見守る回”ね」
「……僕の寝顔、見てたの?」
「うん。ぜんぶ、写真に撮っておきたかったくらいかわいかったよ」
「……恥ずかしいよぉ」
「ふふふ。恥ずかしがる顔もかわいい」
「わぁ、やめて~」
千歳は手で顔を隠す。
ふたりの笑い声が、また芝生の上にやさしく響いた。
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