328 / 435
第三章
マッチ売りの潤 4
しおりを挟む
甘い情熱。
潤は、男の手を取った。
男は潤の手を引いて、雪の積もる道を大股で歩き出した。
潤は遅れをとらないように、スカートとダボダボのブーツで、必死について行った。
「黒い氷に気をつけろ」
と男は、つるっと滑りそうになった、潤の腕をとっさにぐいと引いて、叱るように注意した。
潤は男を見上げた。
「黒いところは、雪が溶けて濡れているように見えるが、石畳みが黒く凍っているんだ」
寒さのせいか少し赤ら顔になった男の顔から、白く凍りそうな息が吐かれた。
男は潤の肩を腕で抱いた。
「もう少しだから、気をつけて歩け」
男は髭面の顔を、潤からそらして、ぶっきらぼうに言った。
道は歩道も車道の境目も分かたず真っ白だ。
「溝にはまるな。あんまり端を歩くと溝に落ちる」
男は潤の腰を抱いて、ぐいと自分の方に引き寄せた。
男の息は少し乱れていた。
まるでセックスの時のように、と潤は思った。
早く抱かれたい。
そして食事にありつきたい。
あたたかい湯気のでた具のたくさん入ったスープをすすりたい。
ほくほくした黄色いジャガイモ。
オレンジ色の人参の香り。
煮込んだ緑のキャベツの甘さ。
願わくば鶏肉の端切れが入っていますように。
痛くてベタベタして気持ちの悪いセックスの後の嬉しいご褒美。
潤は、男の手を取った。
男は潤の手を引いて、雪の積もる道を大股で歩き出した。
潤は遅れをとらないように、スカートとダボダボのブーツで、必死について行った。
「黒い氷に気をつけろ」
と男は、つるっと滑りそうになった、潤の腕をとっさにぐいと引いて、叱るように注意した。
潤は男を見上げた。
「黒いところは、雪が溶けて濡れているように見えるが、石畳みが黒く凍っているんだ」
寒さのせいか少し赤ら顔になった男の顔から、白く凍りそうな息が吐かれた。
男は潤の肩を腕で抱いた。
「もう少しだから、気をつけて歩け」
男は髭面の顔を、潤からそらして、ぶっきらぼうに言った。
道は歩道も車道の境目も分かたず真っ白だ。
「溝にはまるな。あんまり端を歩くと溝に落ちる」
男は潤の腰を抱いて、ぐいと自分の方に引き寄せた。
男の息は少し乱れていた。
まるでセックスの時のように、と潤は思った。
早く抱かれたい。
そして食事にありつきたい。
あたたかい湯気のでた具のたくさん入ったスープをすすりたい。
ほくほくした黄色いジャガイモ。
オレンジ色の人参の香り。
煮込んだ緑のキャベツの甘さ。
願わくば鶏肉の端切れが入っていますように。
痛くてベタベタして気持ちの悪いセックスの後の嬉しいご褒美。
0
あなたにおすすめの小説
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
【完結】 男達の性宴
蔵屋
BL
僕が通う高校の学校医望月先生に
今夜8時に来るよう、青山のホテルに
誘われた。
ホテルに来れば会場に案内すると
言われ、会場案内図を渡された。
高三最後の夏休み。家業を継ぐ僕を
早くも社会人扱いする両親。
僕は嬉しくて夕食後、バイクに乗り、
東京へ飛ばして行った。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる