Flesh Eater/STORY Fragment

ユズサン@ユグドラオン卓ストーリー

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第一章【前日談】

第一話「腐った海の香りに紛れ 嗚呼少年、愚かなり」

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今回の迷言/セッション前の文月・ライサンダーPLからの一言
「さて、少年とオカマというとてもなPTになってしまった(絵面が危険)」


怪物の噂がある。生きたまま人間を連れ去り、数日後にはナマの喰いかすだけを現場に棄てていく。
付いた仇名が『踊り喰いフレッシュ・イーター』。全層に渡って神出鬼没に現れ、幾人もの駆除業者からの追撃を全て掻い潜った、恐るべき怪物。

そこそこ有名な話だ。耳の良い人間は誰でも知っているし、君達も知っているだろう

----


或るひとりの少年には友人がいる。名前は「ココ・トランスファー」。15歳の少女だ。

この者は君と会う約束をしていた。しかし待ち合わせの時間になってもまだ来ない。


『……どうしたんだろうか……いつまでたっても来ないな……』
眉尻を下げ、持っている携帯端末から連絡を取る少年。
彼の名は「十葉月 ユウキ」。友人である、同い年の少女の遅刻を心配していた。

だが、連絡を入れても返信は来ない。



『……まだかなあ』
幾分たっただろうか。そろそろ痺れを切らしてきた。
そんな頃、急に返信が来た。

もしかして、ここまで待たせたのに急用かなんかがあった、とかいうのだろうか。
ほんの少しの不信に目を細め、アプリを開く。

ただ、その不信はすぐに掻き消え。

『――――』
彼の顔に青を遺した。









「たすけて」
そう書き残されたメッセージアプリ。
悪戯かも知れない。

だが、彼は、彼の背中から闇へ飲み込まんとする嫌な空気が流れているのがわかった。
親を失った次は、友人までも失うのか。
ぎっ、と奥歯を噛み鳴らすと、

「待っててください。すぐいきます」

そうとだけ書いて、走っていくのだった。






ココは一人暮らしだ。彼と同じく、両親とは死別し。犬と一緒に暮らしている。

彼女の家の前に、独り。彼が音を立てて走り着く。

『はッ……はぁッ……』
青を残したその顔で、窓から様子を伺う。
……いない。居ない? 犬もいないじゃないか。

そう、外の犬小屋は
どうやら、待ち合わせの前に犬の散歩に出かけていたようだ。

『……って、ことは』
犬の散歩中に何かが起きた。そう理解せざるを得なかった。

犬の散歩には、何度か一緒に行ったこともあるのでルートは覚えている。
全部の道が近場だ。……どこかで何かがあったんだ、助けに行かないと。

駆け回りながら、名を呼ぶ。
夜道に入ると、暗がりから犬が駆け寄ってきた。
リードを引きずって歩いているが……そのリードを持つべき少女は居なかった。

その犬は、こちらへ来いと言わんばかりに吠えながら進み、頻りに振り返る。
その先に、彼女がいるのか。


走る。
喉が潰れて血を吐きそうなほどに、名を叫ぶ。

走る。
海の香りがするような気がした。

走る。
誰かの吐息の音がする。

走る。
もっと走る。

早く、早く、早く速く疾く。

は、は、と短く息を吐きつつ、足を止めて周りを見る。
真っ暗な十字路だ。あまり人通りのない道なのか……「ひとつの人影しかなかった」。

その人影は、青くなって息を切らす、紛う事なきココの姿だった。

『――――ココさん? ……大丈夫、ですか…………?』
明らかに様子がおかしい。心配しつつ、彼女の元へ近寄る。

「――――」
一瞬、彼女が安堵したような視線を向けたあとに、はっと気づくようにして、この世の終わりのような表情に変わった。

「逃げてッ!!」

そう叫ぶと同時に。



ユウキとは、別のもう一方の道路から。黒く巨大な影が飛び出してココを絡めとった

『――――!!』
彼の顔がまた青く色づく。

海水の腐ったような臭気を放つ、タコのような頭部をした5m程の怪物の姿だった。

怪物の手に抱かれたココはみるみるうちに、怪物の青白い輝きと同じ色に変わっていく。

「「Grrrrrrrr....!」」
君を見つめながら目を細めて呻き声を上げる怪物は、まるで、ユウキを挑発しているようにも見えた。

対するユウキは、ち、と舌打ちをするとリボルバー型の銃を抜き、両手で構える。

『ココさんから離れろッ、じゃないと――――!!』
威嚇射撃を放つ。が、怪物は、一層目を光らせるばかりで怯む様子がない。

『……ダメか、なら!』
当てる気で銃を放つ。ただ、ほとんどが何かに弾かれて当たったのは1発のみ。
その一発が命中した直後、怪物も全身が真っ青になってココと共にひとつの塊になって高速移動をはじめる。

『!』
向かってくる塊を避けようとする、が。
直撃は避けられたものの。

掠った瞬間、彼の体表に焼け付くような電流が流れた。……直撃していたらどこかしら焦がしていただろう。

『いっ……』
焼けたような痛みを覚える場所を手で押さえる。だが、その場所からはドロリとぬるつく感触がした。
手を見てみると、べっとりと付いたヘドロとココの衣服の破片。
またそれを見て焦る。だが、時間はなかった。

電気だ。怪物とココは電気に変わっていると彼は気づいた!
電気と化した怪物とココは電流となり、さらに路上を!壁面を縦横無尽に高速移動する!


電気の塊が電柱へ飛び込み、バチリと大きな音を立てた後、
また十字路は全くの無音へと戻った。異臭のするヘドロと、ひらひらと舞うココの衣服の破片を残して。

『――――は。
 ははは……何だあれ、あんなの見たことないぞ……?』
嫌な汗をかきながら、少年はその場にへたり込む。
もう現実味がなさすぎて、笑えてきてしまった。

『……あは、ははは……あははははははっ……』

彼は笑う。笑って、絶望の闇へ突き落とされていった。
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