悪役令嬢だけど、男主人公の様子がおかしい

真咲

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 私には、前世の記憶がある。

 前世。交通事故で死ぬまで、私は要領の良い大学生だった。
 子供の頃から大抵のことは人より上手くできた。ルックスも悪くなかったと思う。友達も人並み以上にいたし、大勢と一緒にいるのは苦ではなかった。
 広く浅く。
 逆に言えば、親友と言えるような相手も、恋人もいなかった。家族とさえ、どこか疎遠だったような気がする。

 なまじ何でもできたせいで、物事を俯瞰する癖があったのかもしれない。人と接する時はどれだけ親しげにしても親しくはなれなかった。誰かに心を開けないのに、誰かから心を開いてもらえるわけもない。
 人に囲まれていても孤独で、だがどうしたって自分では心の開き方がわからなかった。

 孤独を忘れられる読書を好んだのは必然だったのかもしれない。
 『金色の騎士と引きこもりのお姫様』……主人公であるライナスの成長物語を描いたシリーズを読み切ったその日。
 私はトラックに跳ねられ、そのまま二十一年の人生を終えた。

 そして、生まれ変わったと思ったら『金色の騎士』の冒頭に出てくるちょっとした悪役の女の子になっていたのだ。
 悪役──フェリシア・レンテリアは主人公が十八歳になり、騎士学科を卒業するまでの間、ことあるごとに彼に突っ掛かり、煽ってくる女子生徒である。フェリシアを見返すためにライナスは一層剣に励み、結果として目標だった第五騎士団どころではなく、一足飛びに第一騎士団に入団することになる。

 そこからもライナスの物語は更に続いていくのだが、役目を終えたフェリシアは己の所業の報いを受ける。匿名複数の告発により、フェリシアがライナスをいじめていたことが明らかになると、フェリシアの評判は下りに下がるのだ。その後ライナスが大きく活躍するのだから尚更だろう。
 縁談の格もどんどんと落ちていき、フェリシアの父が苦心して取り付けた結婚は、フェリシアとは親子ほど離れた年長の貴族とのものだった。

 ……と、フェリシアが作中で言及されるのはここまでだ。

 悪役令嬢と言っても、殺されたり国外追放されたりするわけではない。あくまで、序盤を盛り上げるためのちょっとした悪役。フェリシアは小物に過ぎないのだから、退場もそこまで印象深いものではない。

 それでも、フェリシアがいなければライナスが入団するのは第一騎士団ではないかもしれない。ストーリーを変えないためには、フェリシアらしく……悪役らしく振る舞う必要があるだろう。

「大丈夫、演技は……やったことはないけど、できないってこともないでしょう。記憶力も良い方だし。現に、今日もちゃんとフェリシアでいられたわ」

 王立学園女子寮の個室。一年生は大抵相部屋だが、寄付の多い公爵家の娘である私は特別に一人部屋だ。その窓から目を凝らせば、騎士学科の人たちがいる訓練場が見える。耳をすませば、自主練中の声も聞こえた。

 あそこに、きっとまだライナスがいるはずだ。
 彼は真面目な主人公だから。

 窓に反射した自分の顔を見つめ返す。
 波打つ黒髪と、鮮血のような紅色の瞳。肌は白く透き通るようで、剣なんて握ったことのなさそうな、華奢な体だ。出るところは出て引っ込むところは引っ込んでいる。十四歳にして妖艶さのようなものを身につけ始めている私は、自分で言うのも何だがかなりの美女である。

「性格さえ良ければ、原作のフェリシアも良い人と結婚できて、ハッピーエンドになれたと思うんだけどな」

 富も権力も、美貌もあるのだ。
 いくらライナスが目障りだからって、高等部卒業までいびり続けるというのはどうかと思う。性格だけマイナスなの何なんだ。勿体無い。

「ま、私も……原作をなぞるつもりだから、あまり言えないけど」

 ライナスには苦労を強いることになってしまうし、自分は望まない結婚をさせられることだろう。だが、私がライナスをいびらないことでライナスが剣の腕を原作よりも磨けなかったら、どうなるかわからない。
 ライナスに倒されるはずの敵が野放しなんてことのなったら最悪だ。

 ライナスのことは巻き込んでしまう形になるけれど、私一人ちょっと嫌な目に遭うくらい、どうってことない。未来のことを考えればそれが最適解だ。

 自己犠牲ではない。
 そういうのは、ライナスみたいな人間がやることだ。
 私はライナスもしれっと犠牲にする道を選んでいる。そしてそこに、罪悪感も抱いていない。だって、それが最適解なのだから。正解のわかっている道をわざわざ狂わせる必要はない。そもそも、ライナスはフェリシアと違って幸せになる未来が確約されているのだし。

 そういう風に考えられるのだから、私はきっと、悪役に向いているのだろう。
 フェリシア・レンテリアとして、明日からも上手くやれそうだ。
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