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「あら、まだ学園にいたの? 昨日のうちに家に泣き帰っていればよかったのに」
「生憎と、俺はまだここでやることがある」
私はレンテリア公爵家──国内では王家に継いで影響力を誇る、由緒正しく強大な一族の直系だ。この学園に王家はいない。つまり私の天下みたいなものだ。流石に先輩に対して大きい顔はしていないが、同じ学年で私に表立って逆らう人はほとんどいない。
と言っても、別にそんな高圧的な支配体制を敷いているとかじゃないけど。
せいぜい、取り巻きが数人いるとかそのくらい。
あとのクラスメイトは私の反感を買わないように頭を低くして、時折仲良くなるチャンスも伺っている。誰だって公爵家に嫌われるのは怖いけど、コネはほしいってわけだ。
「生意気ね。フェリシア様がこんなに心を砕いてくださってるのに」
「そうよそうよ。フェリシア様から直々にお声掛けしていただいてるのよ? うらやまし……じゃなくて、有り難がりなさい」
私の取り巻きは入れ替わりが激しい。私がどうこうしているというわけじゃなくて、この二人……子爵家の双子であるサリーとコニーが管理していて、私に相応しくないと判断した人は取り巻きをクビにしているんだとか。
二人ともよく慕ってくれるので好きにさせている。私に害はないし。「私たちはフェリシア様の美貌保護団体なので……」「フェリシア様は存在してくれるだけで世界を救ってるんです……」とか言われるのはちょっと怖いが。
教室に入るのを邪魔するように立っている三人の令嬢。
ライナスの力なら、無理矢理どかすこともできるのだろうが、彼はそういうことはしない。どれだけムカついても、ライナスの精神はあくまで騎士なのだ。
だから私たちがつけ上がるのだけど。
「大体、制服の着方からなっていないのよ。袖が余っているわ。みっともない。自分の体型にあった物を買いなさいよ」
学園の制服は濃紺のブレザー。男子生徒はスラックス、女子生徒は膝が隠れるほどのスカートである。着こなしはそこそこ自由だが、手本となるような高位貴族は大抵規定通り、他も遊びはあってもみっともなくない程度に着崩している。
ライナスは自分の背丈よりも少し大きいサイズの制服を購入したらしく、スラックスもジャケットもシャツも少し大きい。
そういう生徒はいないこともないが、ライナスの実家が伯爵家、高位貴族に該当する爵位であることを加味すればみっともないと言えるだろう。
「これは……別にいいだろう。誰にも迷惑をかけていない」
「貴族には品位というものがあるのよ。あなたにはまだわからないのでしょうね」
言外に彼の育ちを揶揄する。
「……俺の育ちはお前らと違って良くないかもしれないが、俺は今成長期なんだ。ぴったりの制服を買ったらすぐ着れなくなる」
「何を言ってるの? 買い直せばいいじゃない」
そんな発想もなかったのだろう。
ライナスはぽかんと口を開け、目を丸くした。
「買い直す……って、この制服、いくらすると思ってるんだ」
「あなた、伯爵家でしょう。それも由緒正しいウィンズレット家の一人息子。制服の値段を気にするなんておかしいわよ。お金の代わりに、あなたがウィンズレットの名に泥を塗っていることに気づいた方がいいわね」
言いたいことだけ言った私は、サリーとコニーを引き連れ教室に入る。そろそろ始業の時間だ。ライナスも少し遅れて中に入り、私たちとは目一杯離れた席に座った。
ああ、いい感じ。
今日もライナスに対して悪役令嬢を上手くやれている。
教室の重たい空気に気づいたのか、入ってきた先生は首を傾げていたが、授業は問題なく始まった。
午前中の座学が終われば、昼休みを挟んで学科ごとの授業だ。
騎士学科の彼と普通科の私は基本的に授業がバラバラだ。
だが、原作フェリシアの悪意をなめてもらっちゃ困る。
彼女はとにかくライナスの邪魔をすることに情熱を注いでいた。午後、普通科は一週間に三回の座学、二回の自習時間を与えられる。つまり、五回に二回は自由行動なのだ。
その二回を、フェリシアは騎士学科の見学に宛てた。
つまり。
「フェ、フェリシア様、本当に見るんですか? こんなむさ苦しいところ、フェリシア様に似合わないと思います……」
「サリーの言う通りです。今すぐ女子寮に戻りましょう」
サリーとコニーの反対を押し切り、私は騎士学科の本拠地……訓練場の隅、屋根とベンチの用意された見学場所に座っていた。予想通りというか、若干の汗臭さと暑苦しさの漂う場所である。特に私はここに来たことがなかったので、騎士学科の生徒たちがこちらを見てザワザワしている。
「二人は帰ってもいいのよ。私はこれから、自習時間を騎士学科の見学に充てると決めただけだから」
そんな~と悲しげな声を上げた二人だが、帰る様子はない。汗臭さよりも私を取ったらしい。双子はいいのだ。私が見に来たのは、ライナスと……
「やあ、珍しいお嬢様方。あまり熱心に見学されると騎士学科の連中は浮き足だって怪我をしてしまいそうなので、見るのはオレだけにしとく、なんていかがです?」
歯の浮ききそうな、キザなセリフ。
燃えるような長い赤髪を後ろで結った男子生徒が近づいてきた。
ユーリ・エーメリー。
後の、ライナスの親友となる男である。
「生憎と、俺はまだここでやることがある」
私はレンテリア公爵家──国内では王家に継いで影響力を誇る、由緒正しく強大な一族の直系だ。この学園に王家はいない。つまり私の天下みたいなものだ。流石に先輩に対して大きい顔はしていないが、同じ学年で私に表立って逆らう人はほとんどいない。
と言っても、別にそんな高圧的な支配体制を敷いているとかじゃないけど。
せいぜい、取り巻きが数人いるとかそのくらい。
あとのクラスメイトは私の反感を買わないように頭を低くして、時折仲良くなるチャンスも伺っている。誰だって公爵家に嫌われるのは怖いけど、コネはほしいってわけだ。
「生意気ね。フェリシア様がこんなに心を砕いてくださってるのに」
「そうよそうよ。フェリシア様から直々にお声掛けしていただいてるのよ? うらやまし……じゃなくて、有り難がりなさい」
私の取り巻きは入れ替わりが激しい。私がどうこうしているというわけじゃなくて、この二人……子爵家の双子であるサリーとコニーが管理していて、私に相応しくないと判断した人は取り巻きをクビにしているんだとか。
二人ともよく慕ってくれるので好きにさせている。私に害はないし。「私たちはフェリシア様の美貌保護団体なので……」「フェリシア様は存在してくれるだけで世界を救ってるんです……」とか言われるのはちょっと怖いが。
教室に入るのを邪魔するように立っている三人の令嬢。
ライナスの力なら、無理矢理どかすこともできるのだろうが、彼はそういうことはしない。どれだけムカついても、ライナスの精神はあくまで騎士なのだ。
だから私たちがつけ上がるのだけど。
「大体、制服の着方からなっていないのよ。袖が余っているわ。みっともない。自分の体型にあった物を買いなさいよ」
学園の制服は濃紺のブレザー。男子生徒はスラックス、女子生徒は膝が隠れるほどのスカートである。着こなしはそこそこ自由だが、手本となるような高位貴族は大抵規定通り、他も遊びはあってもみっともなくない程度に着崩している。
ライナスは自分の背丈よりも少し大きいサイズの制服を購入したらしく、スラックスもジャケットもシャツも少し大きい。
そういう生徒はいないこともないが、ライナスの実家が伯爵家、高位貴族に該当する爵位であることを加味すればみっともないと言えるだろう。
「これは……別にいいだろう。誰にも迷惑をかけていない」
「貴族には品位というものがあるのよ。あなたにはまだわからないのでしょうね」
言外に彼の育ちを揶揄する。
「……俺の育ちはお前らと違って良くないかもしれないが、俺は今成長期なんだ。ぴったりの制服を買ったらすぐ着れなくなる」
「何を言ってるの? 買い直せばいいじゃない」
そんな発想もなかったのだろう。
ライナスはぽかんと口を開け、目を丸くした。
「買い直す……って、この制服、いくらすると思ってるんだ」
「あなた、伯爵家でしょう。それも由緒正しいウィンズレット家の一人息子。制服の値段を気にするなんておかしいわよ。お金の代わりに、あなたがウィンズレットの名に泥を塗っていることに気づいた方がいいわね」
言いたいことだけ言った私は、サリーとコニーを引き連れ教室に入る。そろそろ始業の時間だ。ライナスも少し遅れて中に入り、私たちとは目一杯離れた席に座った。
ああ、いい感じ。
今日もライナスに対して悪役令嬢を上手くやれている。
教室の重たい空気に気づいたのか、入ってきた先生は首を傾げていたが、授業は問題なく始まった。
午前中の座学が終われば、昼休みを挟んで学科ごとの授業だ。
騎士学科の彼と普通科の私は基本的に授業がバラバラだ。
だが、原作フェリシアの悪意をなめてもらっちゃ困る。
彼女はとにかくライナスの邪魔をすることに情熱を注いでいた。午後、普通科は一週間に三回の座学、二回の自習時間を与えられる。つまり、五回に二回は自由行動なのだ。
その二回を、フェリシアは騎士学科の見学に宛てた。
つまり。
「フェ、フェリシア様、本当に見るんですか? こんなむさ苦しいところ、フェリシア様に似合わないと思います……」
「サリーの言う通りです。今すぐ女子寮に戻りましょう」
サリーとコニーの反対を押し切り、私は騎士学科の本拠地……訓練場の隅、屋根とベンチの用意された見学場所に座っていた。予想通りというか、若干の汗臭さと暑苦しさの漂う場所である。特に私はここに来たことがなかったので、騎士学科の生徒たちがこちらを見てザワザワしている。
「二人は帰ってもいいのよ。私はこれから、自習時間を騎士学科の見学に充てると決めただけだから」
そんな~と悲しげな声を上げた二人だが、帰る様子はない。汗臭さよりも私を取ったらしい。双子はいいのだ。私が見に来たのは、ライナスと……
「やあ、珍しいお嬢様方。あまり熱心に見学されると騎士学科の連中は浮き足だって怪我をしてしまいそうなので、見るのはオレだけにしとく、なんていかがです?」
歯の浮ききそうな、キザなセリフ。
燃えるような長い赤髪を後ろで結った男子生徒が近づいてきた。
ユーリ・エーメリー。
後の、ライナスの親友となる男である。
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