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ユーリ・エーメリーは侯爵家の嫡男。キザなセリフ回しと甘いマスクで女子生徒から強い人気のあるクラスメイトだ。私に恐れず話しかけてくる珍しいタイプでもある。ちなみに侯爵家も高位貴族だから、結婚相手として釣り合っていると言えば釣り合っている。全然そんな気配はないが。
ユーリは言動に軽薄なところが思い切り出ているので、原作のフェリシアは歯牙にもかけなかった。彼女、ユーリにしろライナスにしろ、とびきりのイケメンと一緒にいるのに全然恋愛感情とかに流されずいびり続けてたの今考えるとすごい。ある意味ストイックだ。
やっぱり自分も美形だから、鏡で見慣れてたのかな。私はまだ見慣れないです。眩しい。
そんなユーリだが、彼には夢があった。
商売人になるという夢だ。高位貴族の嫡男であるユーリにとって、それは困難な夢だろう。器用であるため騎士学科で優秀な成績をおさめ、さも騎士になりたそうにしているのだが、実態は異なる。こっそりと商売に関する勉強をしていた。
ユーリにとって、ライナスはきっと眩しい存在だろう。今のところライナス本人にコンタクトを取ってはいないが、ひっそりと彼を支援している。
私に話しかけてきたのもそうだ。
ライナスにちょっかいをかけに来たのだと気づき、先手を打って注目を自分に集め、ライナスを守ろうとしている。
正直なところ、これには弱った。
小説はライナス視点で進む。ユーリと私がどんな会話をしたかなんてこと細やかには書かれない。完璧に再現することは難しいし、私はライナスをいびりたくて仕方ない原作フェリシアの気持ちなんてわからないので尚更だ。
まあ、取り敢えずライナスをいびる方向に持っていければ間違いない、はずだ。
「あなたの実力によっては、あなただけを見てもいいと思ってるの」
私がニコリと微笑みかけると、ユーリは目を丸くさせた。
双子が何やら小さく悲鳴を上げたが気にしない。
「思った以上に前向きな言葉だな。フェリシア嬢、それは、期待してもいいのかな」
「お好きに解釈してもらって構わないわよ」
「高嶺の花が、こちらに微笑んでくれるとは思わなかったな」
困ったような顔で流される。
腹の探り合い。
私と婚姻を結べれば、商人をやるにしても貴族をやるにしてもとびきりの収穫であることに間違いない。レンテリア公爵家とのコネ、さらの縁談なんて極上の餌だ。
実際のところ本当にただ「見る」だけかもしれないが、期待を含ませるだけの言葉は織り込んだつもりだ。
脳内で算盤を弾いていそうなユーリの喉がゴクリと鳴る。
彼は頭の回転が早い。動揺しているうちにこちらの要求を言ってしまおう。
「ライナスを負かしてほしいの。完膚なきまでに」
ユーリのチョコレートブラウンの眼差しがすっと冷える。表情は変わらないが、なんとなく交渉が決裂したのはわかった。
「うちのクラスの女帝陛下はライナスの敗北がお望みか。最近は彼にべったりだな、妬けるよ」
「目障りなのよ。彼が。実力で騎士になるなんて考えられないくらい、負かして頂戴。あなた、騎士学科では一番優秀な生徒なんでしょう」
「あなたに知られているとは。まあ、オレはこれでも侯爵家なもんで……ある程度接待されている気もするよ。ライナスは容赦がないし、昔から自分なりにも練習していたみたいだ。勝てるか自信はないが、やってみるさ」
ひらひらと手を振り、ユーリが去っていく。
太陽は真上から少し傾いて訓練場を照らす。見た目は野球のスタジアムみたいだ。ただ、前世のそれより流石に小さい。円形になるよう、客席がぐるりとそこを囲んでいて、下は砂が敷かれている。
騎士学科は学期末になると全生徒の前でトーナメント戦をやるので、その時はこの客席がびっしりと埋まり、見応えがある。
その訓練場の中央には、現在二人の先生とそれを囲む騎士学科の生徒らがいた。
ユーリもその輪に入っていく。
よく見れば、金髪頭の少年が私たちに気づいたのか、こちらをじっと見ていた。見つめ返してやると、ふいと逸らされる。
すぐに授業が始まった。
準備運動や肩慣らしに素振りをして、それから打ち合いをするらしい。実力の近い二人一組に分けられ、木製の剣で切り結ぶ。
ライナスはユーリと組むらしい。
入学して日が経っていない段階で実力者であるライナスとペアになるとは。本当に随分高く買われているらしい。
先生の合図で始まった打ち合いは穏やかなものだったが、ユーリがへらりと笑って鋭くライナスの脇を狙ったことで空気が一変する。
ピリリと走った緊張の後、ライナスはユーリの攻撃をかわす。ユーリは立て続けに、しかし軽い調子で畳み掛ける。
ユーリの剣筋は軽く、素早い。一手一手に大きなダメージを与える力はこめられていないが、ステップでも踊るような軽やかさと優雅な剣技、彼自身の美しさもあって汗臭い訓練場が夜会にでも変化したようだった。
ライナスは防戦を強いられてた。彼はまだ、騎士の習うような剣技はあまり知らない。平民として生きていた頃、兵士や傭兵のそれを真似したり、稽古をつけてもらっただけだ。
本格的な騎士の戦い方を学んで日が浅い。
この勝負、わかってはいたがユーリに分がある。
「その調子よ!」
ユーリは言動に軽薄なところが思い切り出ているので、原作のフェリシアは歯牙にもかけなかった。彼女、ユーリにしろライナスにしろ、とびきりのイケメンと一緒にいるのに全然恋愛感情とかに流されずいびり続けてたの今考えるとすごい。ある意味ストイックだ。
やっぱり自分も美形だから、鏡で見慣れてたのかな。私はまだ見慣れないです。眩しい。
そんなユーリだが、彼には夢があった。
商売人になるという夢だ。高位貴族の嫡男であるユーリにとって、それは困難な夢だろう。器用であるため騎士学科で優秀な成績をおさめ、さも騎士になりたそうにしているのだが、実態は異なる。こっそりと商売に関する勉強をしていた。
ユーリにとって、ライナスはきっと眩しい存在だろう。今のところライナス本人にコンタクトを取ってはいないが、ひっそりと彼を支援している。
私に話しかけてきたのもそうだ。
ライナスにちょっかいをかけに来たのだと気づき、先手を打って注目を自分に集め、ライナスを守ろうとしている。
正直なところ、これには弱った。
小説はライナス視点で進む。ユーリと私がどんな会話をしたかなんてこと細やかには書かれない。完璧に再現することは難しいし、私はライナスをいびりたくて仕方ない原作フェリシアの気持ちなんてわからないので尚更だ。
まあ、取り敢えずライナスをいびる方向に持っていければ間違いない、はずだ。
「あなたの実力によっては、あなただけを見てもいいと思ってるの」
私がニコリと微笑みかけると、ユーリは目を丸くさせた。
双子が何やら小さく悲鳴を上げたが気にしない。
「思った以上に前向きな言葉だな。フェリシア嬢、それは、期待してもいいのかな」
「お好きに解釈してもらって構わないわよ」
「高嶺の花が、こちらに微笑んでくれるとは思わなかったな」
困ったような顔で流される。
腹の探り合い。
私と婚姻を結べれば、商人をやるにしても貴族をやるにしてもとびきりの収穫であることに間違いない。レンテリア公爵家とのコネ、さらの縁談なんて極上の餌だ。
実際のところ本当にただ「見る」だけかもしれないが、期待を含ませるだけの言葉は織り込んだつもりだ。
脳内で算盤を弾いていそうなユーリの喉がゴクリと鳴る。
彼は頭の回転が早い。動揺しているうちにこちらの要求を言ってしまおう。
「ライナスを負かしてほしいの。完膚なきまでに」
ユーリのチョコレートブラウンの眼差しがすっと冷える。表情は変わらないが、なんとなく交渉が決裂したのはわかった。
「うちのクラスの女帝陛下はライナスの敗北がお望みか。最近は彼にべったりだな、妬けるよ」
「目障りなのよ。彼が。実力で騎士になるなんて考えられないくらい、負かして頂戴。あなた、騎士学科では一番優秀な生徒なんでしょう」
「あなたに知られているとは。まあ、オレはこれでも侯爵家なもんで……ある程度接待されている気もするよ。ライナスは容赦がないし、昔から自分なりにも練習していたみたいだ。勝てるか自信はないが、やってみるさ」
ひらひらと手を振り、ユーリが去っていく。
太陽は真上から少し傾いて訓練場を照らす。見た目は野球のスタジアムみたいだ。ただ、前世のそれより流石に小さい。円形になるよう、客席がぐるりとそこを囲んでいて、下は砂が敷かれている。
騎士学科は学期末になると全生徒の前でトーナメント戦をやるので、その時はこの客席がびっしりと埋まり、見応えがある。
その訓練場の中央には、現在二人の先生とそれを囲む騎士学科の生徒らがいた。
ユーリもその輪に入っていく。
よく見れば、金髪頭の少年が私たちに気づいたのか、こちらをじっと見ていた。見つめ返してやると、ふいと逸らされる。
すぐに授業が始まった。
準備運動や肩慣らしに素振りをして、それから打ち合いをするらしい。実力の近い二人一組に分けられ、木製の剣で切り結ぶ。
ライナスはユーリと組むらしい。
入学して日が経っていない段階で実力者であるライナスとペアになるとは。本当に随分高く買われているらしい。
先生の合図で始まった打ち合いは穏やかなものだったが、ユーリがへらりと笑って鋭くライナスの脇を狙ったことで空気が一変する。
ピリリと走った緊張の後、ライナスはユーリの攻撃をかわす。ユーリは立て続けに、しかし軽い調子で畳み掛ける。
ユーリの剣筋は軽く、素早い。一手一手に大きなダメージを与える力はこめられていないが、ステップでも踊るような軽やかさと優雅な剣技、彼自身の美しさもあって汗臭い訓練場が夜会にでも変化したようだった。
ライナスは防戦を強いられてた。彼はまだ、騎士の習うような剣技はあまり知らない。平民として生きていた頃、兵士や傭兵のそれを真似したり、稽古をつけてもらっただけだ。
本格的な騎士の戦い方を学んで日が浅い。
この勝負、わかってはいたがユーリに分がある。
「その調子よ!」
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