悪役令嬢だけど、男主人公の様子がおかしい

真咲

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 私が声援を送ると、ユーリの勢いはさらに強まった。

 ……が。それは悪手である。ユーリの動きは軽やかで素早いからこそライナスに防戦を強いたが、調子づいて力強い動きをすれば、必然スピードが緩まる。
 ライナスのオリーブグリーンの瞳がきらりと光った気がした。

「はあっ!」

 素早い剣舞の隙をつく、強力な攻撃。

「、ぐっ」

 本来、力のこもった剣を繰り出すのなら、剣を振りかぶる動きが伴ってしまう。守りが手薄になる、剣技の弱点だ。ユーリはそれを力をこめず素早さ、数の多さでカバーする。ライナスはと言うと、そもそも振りかぶりをほとんどしない。
 ただ純粋な、馬鹿力。腕力に物を言わせてねじ伏せるのである。

 ユーリの剣が勢いよく弾かれた。空高く上がる木剣。
 太陽に重なったように見えたそれが、ヒュンヒュンと回転しながら見学席に降ってくる。

「避けろ!」
「逃げてくれ!」

 一番反応が早かったのはライナスとユーリだった。
 こちらに向かって走ってくるが、間に合わない。

「きゃああああああっ」
「きゃああああああっ」

 サリーとコニーが顔面蒼白で叫ぶ。彼女たちはこういうことに慣れていない。咄嗟に体を動かすことなどできないはずだ。
 原作ではどうだっただろうか。
 令嬢たちが怪我をするシーンなどなかったはずだ。
 もしかして、私がユーリを煽ったりしたから?
 打ち合いに気合いが入りすぎた?

 目の前に迫る木剣。
 死にはしないが、怪我はするだろう。私も、双子も。

 立ち上がる。
 体が動いた。どうすればいいのか、なんとなくわかるような気がした。

 見学席の側には古くて使わなくなった木剣が置いてある。令嬢の華奢な手には少し重いが、手によく馴染む。それを振り上げ、迫る木剣を打ち返した。

 カンッ──と。
 呆気なく弾かれたそれが地面に転がる。

「──驚いた。剣、使えるんだな」

 ライナスとユーリがようやく見学席に辿り着いたらしい。こちらを見て驚いた顔をしている。それはそうだ。貴族令嬢が剣を使うことはまずない。女騎士なんてのも僅かにいるらしいが、全員平民出身だ。貴族の女は条件の良い相手と結婚するのが仕事。その前に運動なんかして体に傷でも作ったら大惨事だ。

「本当に悪い。怪我はしてないか?」

 自分を酷く扱う相手でも、怪我をさせるかもしれなかったとあっては心配するのだろう。そわそわとライナスが動き続けている。大型犬みたいだ。

「してないわ。少し腕が痺れるだけ」
「念の為保健室に行こう。手首をひねっているかもしれない」

 騒ぎを聞きつけた先生とユーリが話している間もライナスはずっとこちらに話しかけてくる。というか、私の手首を見ている。
 よほど貴族令嬢が剣を振るったことが衝撃だったのか。
 私も自分が剣を振れることなんて知らなかった。ただ、使ってみたら思ったよりできたのだ。要領が良い方だと思ってたが、この体は剣の才能もあるらしい。ハイスペックだな。

 レンテリア公爵の血だろうか。それとも、昔から騎士の父、騎士志望の兄を見ていたから、どうすればいいのかわかったのだろうか。

「一人で行けるわ。あなたと二人で歩くくらいなら、手首が折れた方がマシよ」

 ライナスを怒らせる言葉がするりと出る。
 今回は自分に非があると思っているからか、言い返したり睨んだりすることはなかった。原作通り、ライナスの剣技について批評も付け加えておく。

「あなたの剣は、基礎がなっていないのよ。恵まれた怪力で大体叩き折れて来たから問題なかったんでしょう。足の動きが未熟。もっと他人からのダメージを受けないことを考えた方がいいわね。はあ。平民丸出しの動きと力加減だから、ずっと周りに迷惑をかけるのよ」

 剣を習ったこともない、小娘の難癖。
 原作のライナスは怒り心頭になり、フェリシアが難癖つけられないほど見事な剣術を身につけてやると隙間時間あで剣に没頭した。

「……ああ」

 しゅんと落ち込んだ彼の様子がおかしい。
 発破をかければかけるほど、何か落ち込んでいる気がする。怒ったり言い返したりすればいいのに。

「フェリシア様、保健室に行きましょう」

 双子が泣きそうな顔で私を呼んでいる。
 ライナスの様子は気に掛かったが、取り敢えず私は役目をまっとうしたはずだ。先生に断りをいれ、ユーリからの謝罪も受け入れ、保健室に足を向けた。
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