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「お前がその気なら、おれたちにも考えがある」
バキバキと両手を鳴らした先輩たちが、ライナスに飛びかかっていく。しかしライナスは慌てることなく、素早く力強い動きで次々とのしていった。
小柄だからと舐めていたのだろう。
ライナスの馬鹿力は作中最強だ。実直な彼らしく、平民として暮らしていた頃からずっと筋力トレーニングを欠かさなかったこと、貴族たちよりずっと厳しい暮らしをしていたこともあり、体作りという点で一つ抜きん出ている。
「くそ、そんなことならこっちにも考えがある」
リーダー格と思われる一人が、悔し紛れに懐から取り出したのは……
銀色に鈍く光る、ナイフだった。
「いくら力が強くとも、丸腰に刃物じゃ太刀打ちできないだろう! ははは。安心しろ、殺しはしねえ。ただ、腕でも大怪我してもらって、一生その馬鹿げた夢を見られなくしてやるだけだ!」
「くっ」
ライナスが後ろに飛び退る。近くにあった枝を拾い、切り結ぼうとしたがすぱっと切り捨てられてしまう。
この先輩、腕は良い。
「お前さえいなければ、お前さえいなければ、おれは彼女と……」
好きな女の子がライナスのファンになってしまったとか、そんなところだろうか。恨み節を募りながらライナスを責める。ギリギリで避けているが、やはり掠ってしまうことはあるのか、浅い切り傷が増えていく。血が滲んでいるのが遠目にもわかる。
「お前の! 願いが叶わないのを俺のせいにするな!」
ライナスが深く踏み込んだ。ナイフを左手で掴み、相手の懐に入る。
怯んだところで殴り倒した。
地面には五人の男が伸びている。
ライナスはあちこちに切り傷を作り、左手からはどくどくと血を流していたが……彼の驚くような強さが露わになった。
「自分の欲しいものは自分で掴め。守りたいものは自分で守れて。それができないのは、全て、自分に責任があるんだ」
眩しいまでのオリーブグリーンが歪む。
──ライナスには、二歳の頃の記憶がある。
愛する母親が死ぬ記憶だ。
ライナスと彼の母は崖上から転落した馬車に乗っていた。ライナスが生き延びたのは、幸運と、母の腕に守られていたからだった。
だが、母は死んだ。
二歳のライナスは大好きな母が自分を抱いたまま冷たく、固くなっていくのを……守られることしかできなかった自身を……一生忘れられなくなってしまった。
彼が人を守れる騎士という職種に強い憧れを持ち、自分の手で人を守るのだと決意したのは、この記憶がずっと胸の内にあるからだ。
「誰がなんと言おうと、俺は騎士になる」
血を流しすぎたのか、ライナスがふっと倒れる。
血だらけ、泥だらけ、しかも素手で戦っておいて騎士になるとは、大きく出たものだ。だが、彼にとって騎士になるというのは大切な人を守るための手段である。そういう彼の強かさが充分に発揮された序盤の印象深いシーンだ。
私は体を起こし、急いでライナスのところに駆け寄った。
彼に意識がないのなら、私が少し手を出しても大筋を変えることはないはずだ。
原作のライナスは、たまたま通りかかった生徒によって保健室に運び込まれる。私がたまたま通りかかった生徒でもいいだろう。実際通りかかっているのだし、出血しているのだから早く保健室に運んだ方がいい。
ハンカチを割き、ライナスの左手に巻きつける。それから念の為先輩たちの顔をしっかり覚え、ライナスをなんとか背負い上げた。
「お、もい……」
あと一年もすれば持てなくなるだろうが、問題ない。保健室はすぐそこだ。それまでくらいは持つだろう。ぷるぷる震える体を叱咤し、なんとか一歩を踏み出す。
一歩動けば体はどうにか動いてくれるものだ。
なんとか一番近い保健室まで歩き切ることができた……というか、途中で保健室の先生が気づいて半分引き受けてくれたので全部私の功績というわけでもないのだけど。
「レンテリアさんが小柄とは言え男子生徒をおぶってきたのを見て腰を抜かしそうになったわ」
「わ、私が彼を背負ったのは誰にも……ライナスにも言わないでくださいね」
私のイメージを損なう図であることは自覚している。
「それは構わないわよ」
先生が手早く処置してくれたおかげで、ライナスは今清潔なベッドでぐっすり休めている。左手も血が止まったようだ。
こうして寝ていると、金髪で美貌なのもあってまるで天使のようだ。
さすが主人公。
「ん……?」
長い睫毛がぴくりと動く。
慌てて部屋から出ようとしたが、ライナスの目が覚めるのが先だった。
「フェリシア……?」
こんなに回復が早いなんて聞いてない。
主人公って怖い。夢だとか言って誤魔化しきれないだろうか。ぐるぐる回る頭で口を開き、どうにか言い訳を紡ごうとしたところで……。
「すう」
ライナスは再び夢の世界に旅立ってくれた。
よ、よかった。
どっと疲れてしまった。ライナスをおぶったことで制服も汚れているし、今日は早いところ女子寮に帰ろう。そうしよう。
バキバキと両手を鳴らした先輩たちが、ライナスに飛びかかっていく。しかしライナスは慌てることなく、素早く力強い動きで次々とのしていった。
小柄だからと舐めていたのだろう。
ライナスの馬鹿力は作中最強だ。実直な彼らしく、平民として暮らしていた頃からずっと筋力トレーニングを欠かさなかったこと、貴族たちよりずっと厳しい暮らしをしていたこともあり、体作りという点で一つ抜きん出ている。
「くそ、そんなことならこっちにも考えがある」
リーダー格と思われる一人が、悔し紛れに懐から取り出したのは……
銀色に鈍く光る、ナイフだった。
「いくら力が強くとも、丸腰に刃物じゃ太刀打ちできないだろう! ははは。安心しろ、殺しはしねえ。ただ、腕でも大怪我してもらって、一生その馬鹿げた夢を見られなくしてやるだけだ!」
「くっ」
ライナスが後ろに飛び退る。近くにあった枝を拾い、切り結ぼうとしたがすぱっと切り捨てられてしまう。
この先輩、腕は良い。
「お前さえいなければ、お前さえいなければ、おれは彼女と……」
好きな女の子がライナスのファンになってしまったとか、そんなところだろうか。恨み節を募りながらライナスを責める。ギリギリで避けているが、やはり掠ってしまうことはあるのか、浅い切り傷が増えていく。血が滲んでいるのが遠目にもわかる。
「お前の! 願いが叶わないのを俺のせいにするな!」
ライナスが深く踏み込んだ。ナイフを左手で掴み、相手の懐に入る。
怯んだところで殴り倒した。
地面には五人の男が伸びている。
ライナスはあちこちに切り傷を作り、左手からはどくどくと血を流していたが……彼の驚くような強さが露わになった。
「自分の欲しいものは自分で掴め。守りたいものは自分で守れて。それができないのは、全て、自分に責任があるんだ」
眩しいまでのオリーブグリーンが歪む。
──ライナスには、二歳の頃の記憶がある。
愛する母親が死ぬ記憶だ。
ライナスと彼の母は崖上から転落した馬車に乗っていた。ライナスが生き延びたのは、幸運と、母の腕に守られていたからだった。
だが、母は死んだ。
二歳のライナスは大好きな母が自分を抱いたまま冷たく、固くなっていくのを……守られることしかできなかった自身を……一生忘れられなくなってしまった。
彼が人を守れる騎士という職種に強い憧れを持ち、自分の手で人を守るのだと決意したのは、この記憶がずっと胸の内にあるからだ。
「誰がなんと言おうと、俺は騎士になる」
血を流しすぎたのか、ライナスがふっと倒れる。
血だらけ、泥だらけ、しかも素手で戦っておいて騎士になるとは、大きく出たものだ。だが、彼にとって騎士になるというのは大切な人を守るための手段である。そういう彼の強かさが充分に発揮された序盤の印象深いシーンだ。
私は体を起こし、急いでライナスのところに駆け寄った。
彼に意識がないのなら、私が少し手を出しても大筋を変えることはないはずだ。
原作のライナスは、たまたま通りかかった生徒によって保健室に運び込まれる。私がたまたま通りかかった生徒でもいいだろう。実際通りかかっているのだし、出血しているのだから早く保健室に運んだ方がいい。
ハンカチを割き、ライナスの左手に巻きつける。それから念の為先輩たちの顔をしっかり覚え、ライナスをなんとか背負い上げた。
「お、もい……」
あと一年もすれば持てなくなるだろうが、問題ない。保健室はすぐそこだ。それまでくらいは持つだろう。ぷるぷる震える体を叱咤し、なんとか一歩を踏み出す。
一歩動けば体はどうにか動いてくれるものだ。
なんとか一番近い保健室まで歩き切ることができた……というか、途中で保健室の先生が気づいて半分引き受けてくれたので全部私の功績というわけでもないのだけど。
「レンテリアさんが小柄とは言え男子生徒をおぶってきたのを見て腰を抜かしそうになったわ」
「わ、私が彼を背負ったのは誰にも……ライナスにも言わないでくださいね」
私のイメージを損なう図であることは自覚している。
「それは構わないわよ」
先生が手早く処置してくれたおかげで、ライナスは今清潔なベッドでぐっすり休めている。左手も血が止まったようだ。
こうして寝ていると、金髪で美貌なのもあってまるで天使のようだ。
さすが主人公。
「ん……?」
長い睫毛がぴくりと動く。
慌てて部屋から出ようとしたが、ライナスの目が覚めるのが先だった。
「フェリシア……?」
こんなに回復が早いなんて聞いてない。
主人公って怖い。夢だとか言って誤魔化しきれないだろうか。ぐるぐる回る頭で口を開き、どうにか言い訳を紡ごうとしたところで……。
「すう」
ライナスは再び夢の世界に旅立ってくれた。
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「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
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