悪役令嬢だけど、男主人公の様子がおかしい

真咲

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 先輩方が高等部に上がり、私たちは中等部の最高学年である三年生に進級した。
 そして三年生と言えば。

「みなさん。明日から課外活動の一環として、二泊三日の合宿を行います。騎士学科の生徒は合宿先でも訓練を行いますので、木剣を忘れないように」

 合宿。私たちは、王国のはずれである巨大な森、その中の学園が所有している宿泊施設に泊まることになる。安全な王都から遠く離れた僻地、しがらみの少ない場所、自然の側でいつもとは違う学びをすることが目的だ。

「先生、何故森の中に泊まるんですか? 虫も多いし、面白い物は何もないのでは?」

 一人の生徒が疑問を口にする。

「あなたたちは将来、立派な貴族となって領地を治めたり、守ったりしますよね。みなさん領民や街には気を配るでしょう。しかし、森や……自然に対してはどうですか? そういった土地も立派な領地です。何も知らない場所を何となくで治めるのは難しいでしょう。この合宿でみなさんが将来に役立つことを学べるかどうかは、みなさん自身にかかっています」

 実際に、見て、感じることで学べることがあるのだと言う。
 皆まだ子供だが、貴族としての自覚はある。先生の話を神妙に聞き、頷いていた。

 私はというと、今回の合宿のためにわざわざ原作『金色の騎士』のことを念入りに思い出し、イメージトレーニングをきっちり済ませておいた。
 というのも、中等部最高学年で行く合宿で主人公ライナスは二つの重要な出会いをすることになるからだ。

 一つ目はヒロインである『引きこもりのお姫様』との出会い。
 我らがアスカム王国王家の末娘、極度の人見知りである彼女は新鮮な空気を吸うため、偶々森の近くに療養しに来ている。
 ライナスはヒロインをお姫様だとは知らずに助け、交流していく。そうして卒業後、今度は主従となって出会うのだ。

 ロマンチックだ。できれば近くで隠れて観察したい。原作ファンのしては逃せないワンシーンだ。

 そしてもう一つの出会いは……。

「フェリシア、さっきユーリから聞いたんだが、あの森には伝説があるらしいぞ」

 気づけば先生の話は終わっていた。
 合宿に期待を膨らませ、ワイワイ盛り上がる空気の中から、ライナスがこちらに手を振り、笑顔で寄ってきた。金色の髪の毛も相まってゴールデンレトリバーのようだ。た最近ぐんぐん身長が伸びているようなので犬と言うには大きすぎるかもしれない。

「気軽に声をかけないで頂戴」
「ああ、悪いな。それで、その伝説って言うのがさ」

 なんか慣れてる! やっぱり慣れてきてるよね!?
 ライナスはこの一年間、頻繁ではないが徐々に彼から話しかけてくるようになった。当然私は冷たくあしらっているのだが、彼はもう殆ど苛立ちすら滲ませることなく、私の側に寄る。
 ゆっくりと、だが確実に距離を詰められている気がする。
 気のせいだと思いたい。
 険悪だという体面は保っているものの、ユーリあたりから生温い視線をもらうので居心地が悪いのだ。

 そもそもの目的である「嫌味で煽ってライナスの剣の腕を磨かせる」ということは大体達成できているため、一応最大の懸念点はクリアできている。だからこそ、私もこのライナスの距離感を無理に押し返すことができずにいた。エイベル先輩の件の恩もあることだし。

「あの森の奥には、ドラゴンの遺骸があるらしい」

 息を潜めたライナスの言葉に、私は一気に現実に引き戻された。
 ドラゴン。とっくに滅びたという、伝説の古代種。尻尾を揺らせば山を切り崩し、その灼熱のブレスは一瞬で人を丸焼きにしてしまうと言う。

「その昔、建国したアスカム王国の初代王とその騎士、親友たちが倒したと言う、この世界最後のドラゴンだ」

 ライナスは目を輝かせている。

「あくまで伝説だけどね。騎士学科は訓練も兼ねて奥まで行くんだ。森の、整備されていないような道を長い時間歩いたり、その中で戦ったりする訓練はどこででもできるわけじゃないから。それで伝説の話をしたんだけど」

 ライナスはドラゴンがいるって信じちゃったみたいだから、とユーリが困った顔で私とライナスの会話に入ってきた。

「なんだよ。信じた方が楽しいものは信じるようにしてるんだ」
「ライナスらしいね」

 サンタさんを信じる信じないみたいな論争なのかもしれない。

「フェリシアは? 信じるのか?」

 ライナスに話を振られ、少し考える。
 このくらいは言ってもいいだろう。

「信じてるわ」

 ライナスがぱっと顔を明るくさせ、ユーリは「意外だな」と驚いていた。
 ドラゴンはこの世界に存在する。
 絶滅したことになっているが、実はそんなことはない。

 まだ、生きている。
 あの森の奥深くで。
 
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