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「野菜の準備はオレがしておくよ。サリーさんとコニーさんも手伝ってもらえないかな」
本当に慣れているのだろう。
ユーリがてきぱきと指示をこなしていく。私の視線に気づいたユーリは気まずそうに視線を逸らした。
「高位貴族が、みっともないと思った?」
原作のユーリは侯爵家の嫡男で、心の中では商人になりたいと思っていた。そのため、平民的なことへの理解も深く、彼の言うとおり趣味の一環でやってきたのだろうと思う。
原作フェリシアだったら、こういう時なんと言うのだろうか。彼女は地位のある立場としての品格を自他に強く求めた。傲慢で高圧的、貴族としての名誉を一番に考える彼女はきっと、料理をするユーリを嘲笑っただろう。
だが、今の私はユーリを揶揄できる立場にない。
何故なら。
「妙に手捌きが良いな、お前。もしかして料理経験者か?」
ライナスに感心したように覗き込まれ、ユーリにも驚きの目で見られている。
仕方ないのだ。だって包丁を使うんだから、わざと下手に使ったら危ないでしょ! 私だけじゃなくて、まわりにも迷惑をかけてしまうかもしれない。
前世の感覚がまだ残っていたのか、ライナスには及ばないがそこそこ器用にこなせてしまっている。
「……。みっともないなんて、思わないわよ。見たらわかるでしょ」
「オレの杞憂だったみたいだ。あなたはオレが思っているよりもずっと、親しみやすい存在だったのかもしれないな」
ユーリが柔らかく笑った。
綺麗な赤毛が揺れる。いつもの気障なわざとらしい笑顔ではない、きっと、彼の素の笑顔。ふいに漏らされた美しいそれに、思わず見惚れてしまう。
もしかするとユーリは、私の前でずっと気を張っていたのかもしれない。私はずっと、ライナスに高位貴族としての振る舞いを要求していたから。
「あ、鳥」
そのライナスがふいに、近くを通りかかった鳥に向かって木剣を投げた。
良い音がして、命中した鳥が地面に落下する。
「よし、これも鍋に入れよう」
てきぱき鳥をおろしていくライナスの姿は、騎士というより腕利きの狩人だ。彼の反射神経や力が強いことは知っていたが、彼の主人公チートは止まることをしらない。
彼が同じ班にいる限り、例え森で迷子になっても一ヶ月は生き延びられそうだ。
野蛮よ! とか、これだから平民出身は! とか言いたいところだが、これはたぶん平民とかじゃなくてライナスがおかしいだけだ。
鳥肉入りのスープを私も食べたかったので、今回ばかりは黙ることにした。
出来上がったのはポトフのようなスープだ。
あたたかく、肉も野菜もゴロゴロ入っているので食べ応えがある。
「あ、これわたしが切った野菜です!」
ぱああっと顔を輝かせ、サリーがそれを口に入れる。
「自分で作ると、こんなに美味しいんですね」
コニーと一緒にあれこれ話しながら食べている。微笑ましい。
私もぺろりと完食してしまった。
みんなで片付けをし終えると、ちょうど課題の時間も終盤になる。
「明日は寝るのが少し遅くなるかもしれないので、今日は早めに夕食をとってたっぷり寝ておきましょうね」
昼間食べれなかった生徒のことも思いやってか、それがデフォルトなのか、夕食はバーベキューだった。先生の指示に従い、さっさと自室に戻ることにする。
明日は午前中に騎士学科の訓練、午後に狩猟大会が行われる。その後大会の打ち上げとしてダンスパーティーが開かれるのだ。夜遅くまで遊んで、寝て、次の日学校に帰るというスケジュールになっている。
ダンスパーティーの主役としてファーストダンスを踊る権利は狩猟大会の優勝者と、そのパートナーに与えられるということで、男女共に浮き足立っていた。
私は普段女子寮の一人部屋を使っているが、今日は双子と相部屋になった。
寝ようとしたが、キラキラした目を向けられて少しだけ起きておくことにした。こういう宿泊での醍醐味、夜の女子会が開かれるようだから。
小さなランプだけこっそりと付け、持ち込んだ菓子とティーセットを並べる。
前世でも経験のあるそれよりも豪華だが、話す内容はさほど変わらない。
「──それで、明日の狩猟大会、フェリシア様は誰を応援なさるのですか? 大会優勝者は、フェリシア様をお誘いになる確率が高いと思いますよ」
「特に決めていないわね」
悪いが、私にとってダンスパーティーのイベントは大して重要なものではない。
原作でダンスパーティーのファーストダンスを踊ったのは誰なのか、はっきり描写はされていなかった。そもそも主人公はパーティーに参加していないし、大会での優勝もできていない。誰かが優勝し、公爵令嬢であるフェリシアとお近づきになりたくて誘った可能性もありそうだが、原作の彼女が受けたかどうかはわからない。
「そうなのですね。わたしは今日、鳥を仕留めているライナスさんを見て、今回の優勝者は彼なのではないかと思っています」
「わたしはユーリさんが。普段は控えめな方ですが、ここぞという勝負には勝つタイプだと思います」
森の中は剣を振り回すには向いていないのだ。振りかぶった時に剣が木に引っかかることがよくある。ライナスのように強い力で押し切るタイプは特に苦手としている戦場だろう。逆に、ユーリのように身軽で小回りがきくタイプは適性がある。
地面が普段の訓練場より凸凹していて道が悪いので、腕が良くても一匹も獲物を捕まえられない生徒も珍しくないだろう。
あれこれ話す双子に相槌を打ったり、話を振られたり、ささやかな女子会は夜が更けるまで続いた。
本当に慣れているのだろう。
ユーリがてきぱきと指示をこなしていく。私の視線に気づいたユーリは気まずそうに視線を逸らした。
「高位貴族が、みっともないと思った?」
原作のユーリは侯爵家の嫡男で、心の中では商人になりたいと思っていた。そのため、平民的なことへの理解も深く、彼の言うとおり趣味の一環でやってきたのだろうと思う。
原作フェリシアだったら、こういう時なんと言うのだろうか。彼女は地位のある立場としての品格を自他に強く求めた。傲慢で高圧的、貴族としての名誉を一番に考える彼女はきっと、料理をするユーリを嘲笑っただろう。
だが、今の私はユーリを揶揄できる立場にない。
何故なら。
「妙に手捌きが良いな、お前。もしかして料理経験者か?」
ライナスに感心したように覗き込まれ、ユーリにも驚きの目で見られている。
仕方ないのだ。だって包丁を使うんだから、わざと下手に使ったら危ないでしょ! 私だけじゃなくて、まわりにも迷惑をかけてしまうかもしれない。
前世の感覚がまだ残っていたのか、ライナスには及ばないがそこそこ器用にこなせてしまっている。
「……。みっともないなんて、思わないわよ。見たらわかるでしょ」
「オレの杞憂だったみたいだ。あなたはオレが思っているよりもずっと、親しみやすい存在だったのかもしれないな」
ユーリが柔らかく笑った。
綺麗な赤毛が揺れる。いつもの気障なわざとらしい笑顔ではない、きっと、彼の素の笑顔。ふいに漏らされた美しいそれに、思わず見惚れてしまう。
もしかするとユーリは、私の前でずっと気を張っていたのかもしれない。私はずっと、ライナスに高位貴族としての振る舞いを要求していたから。
「あ、鳥」
そのライナスがふいに、近くを通りかかった鳥に向かって木剣を投げた。
良い音がして、命中した鳥が地面に落下する。
「よし、これも鍋に入れよう」
てきぱき鳥をおろしていくライナスの姿は、騎士というより腕利きの狩人だ。彼の反射神経や力が強いことは知っていたが、彼の主人公チートは止まることをしらない。
彼が同じ班にいる限り、例え森で迷子になっても一ヶ月は生き延びられそうだ。
野蛮よ! とか、これだから平民出身は! とか言いたいところだが、これはたぶん平民とかじゃなくてライナスがおかしいだけだ。
鳥肉入りのスープを私も食べたかったので、今回ばかりは黙ることにした。
出来上がったのはポトフのようなスープだ。
あたたかく、肉も野菜もゴロゴロ入っているので食べ応えがある。
「あ、これわたしが切った野菜です!」
ぱああっと顔を輝かせ、サリーがそれを口に入れる。
「自分で作ると、こんなに美味しいんですね」
コニーと一緒にあれこれ話しながら食べている。微笑ましい。
私もぺろりと完食してしまった。
みんなで片付けをし終えると、ちょうど課題の時間も終盤になる。
「明日は寝るのが少し遅くなるかもしれないので、今日は早めに夕食をとってたっぷり寝ておきましょうね」
昼間食べれなかった生徒のことも思いやってか、それがデフォルトなのか、夕食はバーベキューだった。先生の指示に従い、さっさと自室に戻ることにする。
明日は午前中に騎士学科の訓練、午後に狩猟大会が行われる。その後大会の打ち上げとしてダンスパーティーが開かれるのだ。夜遅くまで遊んで、寝て、次の日学校に帰るというスケジュールになっている。
ダンスパーティーの主役としてファーストダンスを踊る権利は狩猟大会の優勝者と、そのパートナーに与えられるということで、男女共に浮き足立っていた。
私は普段女子寮の一人部屋を使っているが、今日は双子と相部屋になった。
寝ようとしたが、キラキラした目を向けられて少しだけ起きておくことにした。こういう宿泊での醍醐味、夜の女子会が開かれるようだから。
小さなランプだけこっそりと付け、持ち込んだ菓子とティーセットを並べる。
前世でも経験のあるそれよりも豪華だが、話す内容はさほど変わらない。
「──それで、明日の狩猟大会、フェリシア様は誰を応援なさるのですか? 大会優勝者は、フェリシア様をお誘いになる確率が高いと思いますよ」
「特に決めていないわね」
悪いが、私にとってダンスパーティーのイベントは大して重要なものではない。
原作でダンスパーティーのファーストダンスを踊ったのは誰なのか、はっきり描写はされていなかった。そもそも主人公はパーティーに参加していないし、大会での優勝もできていない。誰かが優勝し、公爵令嬢であるフェリシアとお近づきになりたくて誘った可能性もありそうだが、原作の彼女が受けたかどうかはわからない。
「そうなのですね。わたしは今日、鳥を仕留めているライナスさんを見て、今回の優勝者は彼なのではないかと思っています」
「わたしはユーリさんが。普段は控えめな方ですが、ここぞという勝負には勝つタイプだと思います」
森の中は剣を振り回すには向いていないのだ。振りかぶった時に剣が木に引っかかることがよくある。ライナスのように強い力で押し切るタイプは特に苦手としている戦場だろう。逆に、ユーリのように身軽で小回りがきくタイプは適性がある。
地面が普段の訓練場より凸凹していて道が悪いので、腕が良くても一匹も獲物を捕まえられない生徒も珍しくないだろう。
あれこれ話す双子に相槌を打ったり、話を振られたり、ささやかな女子会は夜が更けるまで続いた。
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「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
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