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「はあ。助かった」
ライナスは大きくため息をつき、洞窟にもたれかかった。
剣からは血が垂れ、服は血を吸って赤黒くなっている。ライナスがいかに狼を殺したか、そして私たちを守ってくれたかがよく表れていた。
「あの、お二人とも、助けてくださって本当にありがとうございます……。で、でも
私のせいでこんな、ジメジメした暗い場所に……」
ステラは今にも泣き出しそうだった。
「気にしなくていい。俺が勝手にやったことだ。悲鳴を聞きつけて走ったんだが、間に合って良かったよ。フェリシアも、たぶん悲鳴を聞いてやって来たんだろ? お前、意外と優しいからな」
しみじみと言われた。
意外と優しいという評価は置いといて……。
「そんなところよ」
まさかライナスとステラの出会いのシーンを見たくて後を付けたとは言えない。それにしても、壁の向こうにはまだ狼の群れがいるし、この分では助けに来たユーリに見つけてもらうのも難しいだろう。
となれば……。
原作通り、洞穴の奥に進むしか道はない。
「俺はライナス。こっちはフェリシアだ。すぐそこの宿泊施設に学校行事で合宿に来ている。喋りながら進めば怖くないかもしれない。行けそうか?」
緊張しきっていたのだろう。
ステラは震えていた。だけど、ライナスに言われておずおずと頷き──私の服をちょん、と掴んだ。
「お二人が一緒なら、私も大丈夫です」
か、か、か、かわいい。
こんなのイチコロだ。私がライナスだったら絶対に恋に落ちてた。例えローブで顔が見えなくても、仕草と声だけで人をメロメロにできそうだ。
にしても、原作ではライナスの裾を掴んだと思うのだが。
なぜ私を? 同性だからかな。まあいいや。ライナスのイベントを奪ってしまって悪いが、役得かもしれない。
少なくとも大筋のストーリーは原作通りだ。
つるりと滑ってしまわないよう、足の裏全体で踏みしめながら歩く。少し下り坂になっていたり、上り坂になっていたりと位置感覚を麻痺させそうな通路だった。だが恐らく、森の奥に来ているのだろう。
「そう言えば、あなたは何故あんなところに? ……あっ、答えたくなければ」
「いえ、命の恩人であるお二人には、話せることは話したいと思っています。話せないこともあるのですが……私は、ドラゴンを探しているんです」
ドラゴン。
この森には、伝説がある。
アスカム王国初代国王とその仲間が倒した、世界最後のドラゴンの遺骸があると言う──。
「あなたもドラゴンの存在を信じているんですか? 俺とフェリシアもなんですよ。ロマンがありますよね」
ステラが怖がらないようにだろう。ライナスが明るい声で話す。
だが、ステラはそれを単なる伝説として受け止めてはいなかった。
「実際、ドラゴンは存在します。アスカムの初代国王らがドラゴンと戦い、勝利したことは紛れもない事実です。時代がくだるにつれて、ドラゴンを実際に見たと言う人々もいなくなり、御伽話のように語られていますが」
そう言い切ってから、ぶるりと震えた。
「ドラゴンは倒された……そのはずです。遺骸はこの森の奥にある。心臓も止まって、息もしていません。ですが、私たちはまだ確信を持てずにいるのです。ずっと不安で仕方ないのです。まだ、ドラゴンが生きているような……そんな感覚が止まらない。だから確認しに来ました。私はドラゴンの遺骸を見て、とっくの昔にドラゴンが絶滅したのだと確信したい」
アスカム王家の末娘、ステラ・ルース・アスカム。『引きこもりのお姫様』と呼ばれる彼女は、その名の通り私たちと同年齢であるにも関わらず、学園に入学していない。ずっとお城の自室で引きこもっている……否、閉じ込められている。
幼い頃から不安そうにドラゴンがまだ生きているのではないかと周りに聞いて回った彼女は周りの大人から大いに気味悪がられた。アスカム王家の人間がそんなことを言い出せば、民を不安がらせる。さらにステラが虚言癖のお姫様なんてレッテルを貼られれば、アスカム王家の評判は落ちてしまう。表に出すには都合が悪かった。
結果としてステラは学園にも通えず、ただ一人、自室でドラゴンに怯えて生きることになった。今回、彼女は療養として一時的に森にあるお城に移された隙をつき、ドラゴンの生死を確かめに一人で抜け出してきたのだ。
実際、彼女は正しい。
ステラはアスカム初代王の血をより多く汲むがゆえに、ドラゴンの気配に異常なほど敏感だったのだ。
「あなたたちも……私をおかしな人だと、思いますか?」
自分の意見を否定され続け、一度も耳を貸してもらえなかったステラ。それならと、一人でも確認しようとする勇気。おどおどしているけれど、本当に芯から強い人なのだ。
「思わないよ」
「思わないわ」
ライナスと私が否定の言葉を口にしたのはほとんど同時だった。
ステラは小さく唇を噛んで……それから、頭を下げ、涙を流し始めた。
私たち三人は歩くのをやめ、ステラが泣き止むまで側にいた。じめじめした洞穴の中だったけど、お互いに触れ合っている肩は暖かかった。
ライナスは大きくため息をつき、洞窟にもたれかかった。
剣からは血が垂れ、服は血を吸って赤黒くなっている。ライナスがいかに狼を殺したか、そして私たちを守ってくれたかがよく表れていた。
「あの、お二人とも、助けてくださって本当にありがとうございます……。で、でも
私のせいでこんな、ジメジメした暗い場所に……」
ステラは今にも泣き出しそうだった。
「気にしなくていい。俺が勝手にやったことだ。悲鳴を聞きつけて走ったんだが、間に合って良かったよ。フェリシアも、たぶん悲鳴を聞いてやって来たんだろ? お前、意外と優しいからな」
しみじみと言われた。
意外と優しいという評価は置いといて……。
「そんなところよ」
まさかライナスとステラの出会いのシーンを見たくて後を付けたとは言えない。それにしても、壁の向こうにはまだ狼の群れがいるし、この分では助けに来たユーリに見つけてもらうのも難しいだろう。
となれば……。
原作通り、洞穴の奥に進むしか道はない。
「俺はライナス。こっちはフェリシアだ。すぐそこの宿泊施設に学校行事で合宿に来ている。喋りながら進めば怖くないかもしれない。行けそうか?」
緊張しきっていたのだろう。
ステラは震えていた。だけど、ライナスに言われておずおずと頷き──私の服をちょん、と掴んだ。
「お二人が一緒なら、私も大丈夫です」
か、か、か、かわいい。
こんなのイチコロだ。私がライナスだったら絶対に恋に落ちてた。例えローブで顔が見えなくても、仕草と声だけで人をメロメロにできそうだ。
にしても、原作ではライナスの裾を掴んだと思うのだが。
なぜ私を? 同性だからかな。まあいいや。ライナスのイベントを奪ってしまって悪いが、役得かもしれない。
少なくとも大筋のストーリーは原作通りだ。
つるりと滑ってしまわないよう、足の裏全体で踏みしめながら歩く。少し下り坂になっていたり、上り坂になっていたりと位置感覚を麻痺させそうな通路だった。だが恐らく、森の奥に来ているのだろう。
「そう言えば、あなたは何故あんなところに? ……あっ、答えたくなければ」
「いえ、命の恩人であるお二人には、話せることは話したいと思っています。話せないこともあるのですが……私は、ドラゴンを探しているんです」
ドラゴン。
この森には、伝説がある。
アスカム王国初代国王とその仲間が倒した、世界最後のドラゴンの遺骸があると言う──。
「あなたもドラゴンの存在を信じているんですか? 俺とフェリシアもなんですよ。ロマンがありますよね」
ステラが怖がらないようにだろう。ライナスが明るい声で話す。
だが、ステラはそれを単なる伝説として受け止めてはいなかった。
「実際、ドラゴンは存在します。アスカムの初代国王らがドラゴンと戦い、勝利したことは紛れもない事実です。時代がくだるにつれて、ドラゴンを実際に見たと言う人々もいなくなり、御伽話のように語られていますが」
そう言い切ってから、ぶるりと震えた。
「ドラゴンは倒された……そのはずです。遺骸はこの森の奥にある。心臓も止まって、息もしていません。ですが、私たちはまだ確信を持てずにいるのです。ずっと不安で仕方ないのです。まだ、ドラゴンが生きているような……そんな感覚が止まらない。だから確認しに来ました。私はドラゴンの遺骸を見て、とっくの昔にドラゴンが絶滅したのだと確信したい」
アスカム王家の末娘、ステラ・ルース・アスカム。『引きこもりのお姫様』と呼ばれる彼女は、その名の通り私たちと同年齢であるにも関わらず、学園に入学していない。ずっとお城の自室で引きこもっている……否、閉じ込められている。
幼い頃から不安そうにドラゴンがまだ生きているのではないかと周りに聞いて回った彼女は周りの大人から大いに気味悪がられた。アスカム王家の人間がそんなことを言い出せば、民を不安がらせる。さらにステラが虚言癖のお姫様なんてレッテルを貼られれば、アスカム王家の評判は落ちてしまう。表に出すには都合が悪かった。
結果としてステラは学園にも通えず、ただ一人、自室でドラゴンに怯えて生きることになった。今回、彼女は療養として一時的に森にあるお城に移された隙をつき、ドラゴンの生死を確かめに一人で抜け出してきたのだ。
実際、彼女は正しい。
ステラはアスカム初代王の血をより多く汲むがゆえに、ドラゴンの気配に異常なほど敏感だったのだ。
「あなたたちも……私をおかしな人だと、思いますか?」
自分の意見を否定され続け、一度も耳を貸してもらえなかったステラ。それならと、一人でも確認しようとする勇気。おどおどしているけれど、本当に芯から強い人なのだ。
「思わないよ」
「思わないわ」
ライナスと私が否定の言葉を口にしたのはほとんど同時だった。
ステラは小さく唇を噛んで……それから、頭を下げ、涙を流し始めた。
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「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
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