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18 フェリシア/ライナス
「そろそろ寝た方がいいんじゃないかしら」
暗い中をずっと歩いていると、時間の感覚がわからなくなっていく。どこまで歩けているかわからないが、体力のない女二人連れ、洞窟の道は悪く、狭い。滑らないよういつも以上に精神を使うこともあり、自分が思っている以上に集中力が欠けてきていた。
このままでは、近いうちに怪我をしてしまいそうだ。
「そうしようか」
「……はい」
携帯食として持ってきていたパンを三人で分け合って食べる。私とステラから少し距離でライナスは自身の寝床を作っていた。
どちらから来たかわからなくなることがないよう、ランプの側に矢印を書いておく。
「私たち、ここから出られるんでしょうか……私が洞穴の奥に扉を見つけなければ……」
「あなたが道を作ってくれなきゃ、私たちはあそこで死んでいたわよ」
涙ぐむステラを放っておけず、激励する。
彼女には主人公ライナスを支える立派なヒロインになってもらわなければいけないのだ。
「あの……手を繋いで、眠ってもらってもいいですか?」
差し出された手は震えている。
私は一瞬躊躇ったが、結局拒絶することはできなかった。
さっきからずっとライナスのイベントを奪っている気がする……。
ステラはそれで安堵したようで、私の側に横になった。
「私、友達って今までできたことがなかったんです。もしご迷惑でなければ、お二人を友達だと思ってもいいですか?」
断る理由はない。
私とライナスは同時に頷いた。私はともかく、ライナスはステラの正体を知らない。名前を名乗らない、ローブを脱がない彼女に詮索することもない。
ライナスは一直線だが、人のプライベートに土足で上がり込む真似はしないのだ。
隣で寄り添っているステラの体温があたたかくて、酷い場所なのに不思議と睡眠欲が襲ってくる。私が思っていた以上に、この公爵令嬢の体は疲労しきっているらしかった。
「おや、すみ……」
返事が返ってきたのか定かではないが。
ステラのローブがずれて、優しい笑顔が覗いた気がする。
まろく白い肌が朱に染まり、愛おしいものでも見るかのようなキラキラした水色の瞳は飴細工のようだ。薄い桃色の癖っ毛がその周りを囲っている。
すぐに見えなくなってしまったが、今日はきっと良い夢を見られるだろう。
***
一番気を張っていた人が、ことんと眠りに落ちた。
彼女は責任感の強い人だ。俺が剣を渡したから、必要以上に凛々しく振る舞っていたように思う。特にステラに対しては、これ以上ないほど親切にしていた。
もともと他人に対して平等に優しい令嬢なのは知っていたが……自分の扱いが扱いなだけに、心の奥底が拗ねたようざわめく。
子供っぽい嫉妬だ。わかっている。
様々なものを内包したため息をつき、俺も瞼を伏せようとした、その時。
「少し、話をしてもいいですか」
ステラだった。すぐにフェリシアの心をこじ開け、優しさを引き出し、今も側にいることを許された少女。自分の話をしない、まだ謎の多い彼女を本来ならフェリシアの側になんて置いておきたくなかったが……悪い人ではないのだと、本能が感知していた。むしろボロいローブを纏っているのに、まるで国王陛下に出会ったかのような威圧感だ。彼女の命令ならと頭を垂れたくなる。
どちらかというとフェリシアに似ていた。出自は高位貴族なのかもしれない。
「……なんだ」
「ライナスさんとフェリシアさんは、友達……なんですか?」
痛いところを突く。
同じ学校の生徒だと紹介した割に、仲が悪そうに見えたのだろうか。
「フェリシアさんが、ライナスさんを避けているように見えました。もしかしたら、私のせいでフェリシアさんは、その……」
嫌いな相手と一緒にいる羽目になったのではないか、と。
その先を言わせるのは忍びなく、俺が引き継ぐことにした。
「嫌われていない、とは言えないだろうな」
彼女の言動は変わらない。ずっと俺を敵対視している。フェリシアと出会ってしばらく経つが、わかるのは彼女は理由もなく他人に攻撃的になるような人ではないということだ。
つまり、何かを間違っているのは俺の方なんだろうと思う。
フェリシアに嫌味を言わせるような何かが、俺の中にある。
ユーリの方は俺ほどフェリシアを良く思っていないみたいで、「フェリシア嬢が優しい人なのは同感だが、同時に君が思っている以上に冷徹だよ」と言っていたが。
「わ、私。お二人が友達になれるように協力したいと思っています。お節介なのはわかっているんですが……どちらも素敵な方なのに。きっと何か、誤解があるのではないですか? フェリシアさんにとっても、その方が良いはずです」
友達。そこでようやく、俺は考えていなかった問題にぶち当たった。
──俺は、フェリシアと友達になりたいのか?
仲良くなりたい、とは思っているはずだ。近づきたい。俺を見てほしい。あわよくば、隣に立たせてほしい。高貴な令嬢に相応しい立派な貴族に、そして騎士になって。
彼女に微笑んでもらえたなら……。
そこでようやく、自分の意思に気づいた。
まだ未熟な自分が、考えることすら烏滸がましくて無意識に自分の気持ちと向き合うのをやめていたのかもしれない。
ここが暗くて良かった。もし光があったら、ステラに、首まで赤くなった様子を見られていただろう。
「ありがたい申し出だが、俺は俺なりに、フェリシアにアプローチする……したいと、思っている。友達になりたいわけじゃない……そうじゃ、なかったんだ。俺は、フェリシアのことが好きだから」
暗い中をずっと歩いていると、時間の感覚がわからなくなっていく。どこまで歩けているかわからないが、体力のない女二人連れ、洞窟の道は悪く、狭い。滑らないよういつも以上に精神を使うこともあり、自分が思っている以上に集中力が欠けてきていた。
このままでは、近いうちに怪我をしてしまいそうだ。
「そうしようか」
「……はい」
携帯食として持ってきていたパンを三人で分け合って食べる。私とステラから少し距離でライナスは自身の寝床を作っていた。
どちらから来たかわからなくなることがないよう、ランプの側に矢印を書いておく。
「私たち、ここから出られるんでしょうか……私が洞穴の奥に扉を見つけなければ……」
「あなたが道を作ってくれなきゃ、私たちはあそこで死んでいたわよ」
涙ぐむステラを放っておけず、激励する。
彼女には主人公ライナスを支える立派なヒロインになってもらわなければいけないのだ。
「あの……手を繋いで、眠ってもらってもいいですか?」
差し出された手は震えている。
私は一瞬躊躇ったが、結局拒絶することはできなかった。
さっきからずっとライナスのイベントを奪っている気がする……。
ステラはそれで安堵したようで、私の側に横になった。
「私、友達って今までできたことがなかったんです。もしご迷惑でなければ、お二人を友達だと思ってもいいですか?」
断る理由はない。
私とライナスは同時に頷いた。私はともかく、ライナスはステラの正体を知らない。名前を名乗らない、ローブを脱がない彼女に詮索することもない。
ライナスは一直線だが、人のプライベートに土足で上がり込む真似はしないのだ。
隣で寄り添っているステラの体温があたたかくて、酷い場所なのに不思議と睡眠欲が襲ってくる。私が思っていた以上に、この公爵令嬢の体は疲労しきっているらしかった。
「おや、すみ……」
返事が返ってきたのか定かではないが。
ステラのローブがずれて、優しい笑顔が覗いた気がする。
まろく白い肌が朱に染まり、愛おしいものでも見るかのようなキラキラした水色の瞳は飴細工のようだ。薄い桃色の癖っ毛がその周りを囲っている。
すぐに見えなくなってしまったが、今日はきっと良い夢を見られるだろう。
***
一番気を張っていた人が、ことんと眠りに落ちた。
彼女は責任感の強い人だ。俺が剣を渡したから、必要以上に凛々しく振る舞っていたように思う。特にステラに対しては、これ以上ないほど親切にしていた。
もともと他人に対して平等に優しい令嬢なのは知っていたが……自分の扱いが扱いなだけに、心の奥底が拗ねたようざわめく。
子供っぽい嫉妬だ。わかっている。
様々なものを内包したため息をつき、俺も瞼を伏せようとした、その時。
「少し、話をしてもいいですか」
ステラだった。すぐにフェリシアの心をこじ開け、優しさを引き出し、今も側にいることを許された少女。自分の話をしない、まだ謎の多い彼女を本来ならフェリシアの側になんて置いておきたくなかったが……悪い人ではないのだと、本能が感知していた。むしろボロいローブを纏っているのに、まるで国王陛下に出会ったかのような威圧感だ。彼女の命令ならと頭を垂れたくなる。
どちらかというとフェリシアに似ていた。出自は高位貴族なのかもしれない。
「……なんだ」
「ライナスさんとフェリシアさんは、友達……なんですか?」
痛いところを突く。
同じ学校の生徒だと紹介した割に、仲が悪そうに見えたのだろうか。
「フェリシアさんが、ライナスさんを避けているように見えました。もしかしたら、私のせいでフェリシアさんは、その……」
嫌いな相手と一緒にいる羽目になったのではないか、と。
その先を言わせるのは忍びなく、俺が引き継ぐことにした。
「嫌われていない、とは言えないだろうな」
彼女の言動は変わらない。ずっと俺を敵対視している。フェリシアと出会ってしばらく経つが、わかるのは彼女は理由もなく他人に攻撃的になるような人ではないということだ。
つまり、何かを間違っているのは俺の方なんだろうと思う。
フェリシアに嫌味を言わせるような何かが、俺の中にある。
ユーリの方は俺ほどフェリシアを良く思っていないみたいで、「フェリシア嬢が優しい人なのは同感だが、同時に君が思っている以上に冷徹だよ」と言っていたが。
「わ、私。お二人が友達になれるように協力したいと思っています。お節介なのはわかっているんですが……どちらも素敵な方なのに。きっと何か、誤解があるのではないですか? フェリシアさんにとっても、その方が良いはずです」
友達。そこでようやく、俺は考えていなかった問題にぶち当たった。
──俺は、フェリシアと友達になりたいのか?
仲良くなりたい、とは思っているはずだ。近づきたい。俺を見てほしい。あわよくば、隣に立たせてほしい。高貴な令嬢に相応しい立派な貴族に、そして騎士になって。
彼女に微笑んでもらえたなら……。
そこでようやく、自分の意思に気づいた。
まだ未熟な自分が、考えることすら烏滸がましくて無意識に自分の気持ちと向き合うのをやめていたのかもしれない。
ここが暗くて良かった。もし光があったら、ステラに、首まで赤くなった様子を見られていただろう。
「ありがたい申し出だが、俺は俺なりに、フェリシアにアプローチする……したいと、思っている。友達になりたいわけじゃない……そうじゃ、なかったんだ。俺は、フェリシアのことが好きだから」
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