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晴天。からっと晴れやかな今日、騎士学科のトーナメント戦が行われる。
スタジアム仕様の訓練場にはびっしりと客が詰めかけていた。学園の生徒たちにとって、学期末に行われるトーナメントは良い娯楽だ。ここまでは中等部と同じ。
違うのは、客席東側の前列。数十人の現役騎士たちが見物に来ていることだった。各騎士団の騎士団長と副騎士団長までが揃い踏みになっている様子は圧巻だ。
彼らの目的はまだ若い騎士の卵たちにライバルの騎士団よりも早く実力を見物し、スカウトを仕掛けることにある。
もちろん、私の父、レンテリア公爵も来ている。
「胃が、キリキリするわ」
自分の授業参観でもないのに。
「フェリシア様、お気を確かに!」
「ライナスさんならきっと公爵閣下のお眼鏡にも叶いますよ!」
サリーとコニーが笑顔で応援してくれている。
ああ、そうだよね。私の心配は杞憂に終わり、彼はきっと上手くやってくれるだろう。
「もしかすると、張り切りすぎて怪我をしてしまうかもしれないぜ? それか、何か予期せぬトラブルがあるかもな? 騎士団がここまで揃うなんてなかなかない」
ロサルは私の不安を煽りつつ、私の側で緩やかに揺蕩っていた。
「あなた。ロサルと言いましたね。何か知っているのですか?」
と、そこに。
凛とした高い声が頭上から降ってきた。聞き覚えのある声にはっとして振り向くと、美しいドレスで飾り立てた姫君の姿。もともと質素な服装でも美しかったが、いざ本気でドレスを着こなしているのを見ると、同性ながらぼうっと見惚れてしまう美貌である。
ステラ・ルース・アスカム王女殿下。
私が頭を下げたのに倣い、双子も慌てて頭を低くする。
「王国の星であられるステラ王女殿下にご挨拶いたします」
「頭を上げてください。私たちはお友達でしょう」
ステラはそう言うと、ふわりと花の妖精のような身軽さで私の隣席におさまった。まだ少しロサルを警戒しているのか、空中で浮遊するドラゴンにちらりと目をやっていた。
「ふふ。やはりフェリシアさんは最初から気づいておられたのですね。私を見ても驚きませんでした」
「……そうかなと、思ってはいました」
「フェリシアさんには叶いませんね」
ライナスはずっと気づいてなかっただろけどね。
私は原作を読んでローブの少女の正体を知っていたのが大きいが、彼女の所作は明らかに高度な教育を受けている高位貴族か王族のものだった。
「お二人と同じ学園に通いたいのは山々なのですが、何分忙しくなってしまいました。こうしてどうにかお時間を作れたのは良かったです」
ライナスが出場するトーナメント。
ステラがそれを見に来たと言うことは、つまり。
体がぎくりと固まる。
ライナスは今、私を好きでいてくれている。彼の気持ちは疑っていないが、今後ステラのように美しく可愛らしい少女が自分に好意を寄せてきたとして、揺らがないと言えるだろうか。
私に、彼の気持ちを繋ぎ止めるだけど魅力はあるのだろうか。
私はライナスに、ずっと酷いことを言ってきたのに。
「フェリシアさん?」
「……。なんでもありません」
「そうですか? 顔色が優れないようです。あまり無理はなさらないでくださいね」
ステラに心配そうにされるたびに、自分の心の内の汚さが際立つような気がした。ステラは、心優しく、少し臆病なところもあるけれど、それを乗り越えるだけの勇気をたっぷりと持った魅力的な美少女だ。
一方の私は、ライナスの気持ちに応えるどころか、彼が告白することさえ許せていない、余裕がなくて醜い令嬢。簡単に人を犠牲にしてしまえる女なのだ。その上、私はまだ自分の過去をライナスに話せていなかった。彼は己のいっとう弱いところまで晒し出してくれたのに。
私はずっと怖くて、殻の中に篭り切り。
心の開き方がわからないまま。
「フェリシア!」
ハッとする。
冷たくなっていた手を握りしめ、目の前を向いた。
快活な笑顔のライナスが、こちらに向かって手を振っているところだった。
ああ。
いつだって、私を明るいところに引き戻してくれるのは彼なのだ。
私も、ライナスにとってそういう人間になりたい。
自然と笑顔がこぼれ、私も手を振りかえしていた。
ずっと手を振っているライナスに苦笑したユーリがこちらに会釈して引きずって行ったことで、無事にトーナメントに出場するメンバーが出揃ったようだった。
「はあ。私の親友として、フェリシア様を王城で役職にスカウトするためにここに来たのに。これではライナス様に独り占めするなと怒られてしまうでしょうね」
ぷくり、と可愛らしく頬を膨らませたステラ。
私は目を瞬かせ、少し笑ってしまった。
「私は本気なんですからねっ」
「ええ。殿下が……私の親友がそう言ってくださるのなら、私はきっと王城に行きますよ」
「それは……本当ですか! それが聞ければ今日は大収穫です!」
ステラが満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。可愛い。役得。
一方のロサルは私とステラの女同士の友情になど興味がない様子で、少し遠いところまで浮かんでいる。ステラがそれをさっと確認すると、私の方に真剣な顔で向き直った。
「フェリシアさん。お耳に入れたいことが。古代種の生態について調べるため、私から幾人か研究者をやりました。しかし、どうもそれ以外の所属の研究者も紛れ込んだようなのです。ドラゴンの生態についてはまだ未知数。好奇心の強さに振り切れ、それ以外を疎かにする優秀な研究者とはいつの時代にもいるものです。犯人は捕まえましたが、どうやらすでに『実験』を実行した様子なのです」
なるほど。ステラが直々にここまで足を運んだ真の理由は別にあったようだ。
「ここに、ドラゴンの気配がします。ロサルかと思いましたが、やはり違います」
ゾクリと肌が泡だった。
「フェリシアさん。私たちはまだ、──何か見落としているのかもしれません」
スタジアム仕様の訓練場にはびっしりと客が詰めかけていた。学園の生徒たちにとって、学期末に行われるトーナメントは良い娯楽だ。ここまでは中等部と同じ。
違うのは、客席東側の前列。数十人の現役騎士たちが見物に来ていることだった。各騎士団の騎士団長と副騎士団長までが揃い踏みになっている様子は圧巻だ。
彼らの目的はまだ若い騎士の卵たちにライバルの騎士団よりも早く実力を見物し、スカウトを仕掛けることにある。
もちろん、私の父、レンテリア公爵も来ている。
「胃が、キリキリするわ」
自分の授業参観でもないのに。
「フェリシア様、お気を確かに!」
「ライナスさんならきっと公爵閣下のお眼鏡にも叶いますよ!」
サリーとコニーが笑顔で応援してくれている。
ああ、そうだよね。私の心配は杞憂に終わり、彼はきっと上手くやってくれるだろう。
「もしかすると、張り切りすぎて怪我をしてしまうかもしれないぜ? それか、何か予期せぬトラブルがあるかもな? 騎士団がここまで揃うなんてなかなかない」
ロサルは私の不安を煽りつつ、私の側で緩やかに揺蕩っていた。
「あなた。ロサルと言いましたね。何か知っているのですか?」
と、そこに。
凛とした高い声が頭上から降ってきた。聞き覚えのある声にはっとして振り向くと、美しいドレスで飾り立てた姫君の姿。もともと質素な服装でも美しかったが、いざ本気でドレスを着こなしているのを見ると、同性ながらぼうっと見惚れてしまう美貌である。
ステラ・ルース・アスカム王女殿下。
私が頭を下げたのに倣い、双子も慌てて頭を低くする。
「王国の星であられるステラ王女殿下にご挨拶いたします」
「頭を上げてください。私たちはお友達でしょう」
ステラはそう言うと、ふわりと花の妖精のような身軽さで私の隣席におさまった。まだ少しロサルを警戒しているのか、空中で浮遊するドラゴンにちらりと目をやっていた。
「ふふ。やはりフェリシアさんは最初から気づいておられたのですね。私を見ても驚きませんでした」
「……そうかなと、思ってはいました」
「フェリシアさんには叶いませんね」
ライナスはずっと気づいてなかっただろけどね。
私は原作を読んでローブの少女の正体を知っていたのが大きいが、彼女の所作は明らかに高度な教育を受けている高位貴族か王族のものだった。
「お二人と同じ学園に通いたいのは山々なのですが、何分忙しくなってしまいました。こうしてどうにかお時間を作れたのは良かったです」
ライナスが出場するトーナメント。
ステラがそれを見に来たと言うことは、つまり。
体がぎくりと固まる。
ライナスは今、私を好きでいてくれている。彼の気持ちは疑っていないが、今後ステラのように美しく可愛らしい少女が自分に好意を寄せてきたとして、揺らがないと言えるだろうか。
私に、彼の気持ちを繋ぎ止めるだけど魅力はあるのだろうか。
私はライナスに、ずっと酷いことを言ってきたのに。
「フェリシアさん?」
「……。なんでもありません」
「そうですか? 顔色が優れないようです。あまり無理はなさらないでくださいね」
ステラに心配そうにされるたびに、自分の心の内の汚さが際立つような気がした。ステラは、心優しく、少し臆病なところもあるけれど、それを乗り越えるだけの勇気をたっぷりと持った魅力的な美少女だ。
一方の私は、ライナスの気持ちに応えるどころか、彼が告白することさえ許せていない、余裕がなくて醜い令嬢。簡単に人を犠牲にしてしまえる女なのだ。その上、私はまだ自分の過去をライナスに話せていなかった。彼は己のいっとう弱いところまで晒し出してくれたのに。
私はずっと怖くて、殻の中に篭り切り。
心の開き方がわからないまま。
「フェリシア!」
ハッとする。
冷たくなっていた手を握りしめ、目の前を向いた。
快活な笑顔のライナスが、こちらに向かって手を振っているところだった。
ああ。
いつだって、私を明るいところに引き戻してくれるのは彼なのだ。
私も、ライナスにとってそういう人間になりたい。
自然と笑顔がこぼれ、私も手を振りかえしていた。
ずっと手を振っているライナスに苦笑したユーリがこちらに会釈して引きずって行ったことで、無事にトーナメントに出場するメンバーが出揃ったようだった。
「はあ。私の親友として、フェリシア様を王城で役職にスカウトするためにここに来たのに。これではライナス様に独り占めするなと怒られてしまうでしょうね」
ぷくり、と可愛らしく頬を膨らませたステラ。
私は目を瞬かせ、少し笑ってしまった。
「私は本気なんですからねっ」
「ええ。殿下が……私の親友がそう言ってくださるのなら、私はきっと王城に行きますよ」
「それは……本当ですか! それが聞ければ今日は大収穫です!」
ステラが満面の笑みを浮かべて喜んでくれた。可愛い。役得。
一方のロサルは私とステラの女同士の友情になど興味がない様子で、少し遠いところまで浮かんでいる。ステラがそれをさっと確認すると、私の方に真剣な顔で向き直った。
「フェリシアさん。お耳に入れたいことが。古代種の生態について調べるため、私から幾人か研究者をやりました。しかし、どうもそれ以外の所属の研究者も紛れ込んだようなのです。ドラゴンの生態についてはまだ未知数。好奇心の強さに振り切れ、それ以外を疎かにする優秀な研究者とはいつの時代にもいるものです。犯人は捕まえましたが、どうやらすでに『実験』を実行した様子なのです」
なるほど。ステラが直々にここまで足を運んだ真の理由は別にあったようだ。
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「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」
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