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逃げ惑う人々。
双子はいち早く私が逃した。ステラは逃げる人たちが混乱しないよう案内をしている。本当ならロサルを締め上げたかったはずだが、彼女は今自分にできる最善、被害者を可能な限り減らすことに注力している。
騎士団の腕利きたちが集まっているはずだが、客席は混迷を極めており、なかなか脱出できない様子だった。すると必然、ドラゴンの相手をするのはライナスたち騎士学科の生徒になってしまう。
「ロサル!」
「お前は大人しく全てが終わるまでここで待つといいさ。ああ、全部見届けるかい? お前のライナスが、全力でドラゴンを止めにかかっているよ。良い線いっている。きっとおれの母上を止められるのは彼だけだろうね」
ロサルは私に揺さぶられても痛くも痒くもないといった調子だ。
「ただ、あの男も代償を払うことになるだろうね。例えば……手足の一本や二本犠牲にするくらいはしないと、勝ち目はないだろう」
私の体が凍りついた。
この世界に義手義足といった技術は確立されていない。
それはつまり。
ライナス・ウィンズレットの騎士生命の終わり。
彼が夢を叶える可能性が、ゼロになってしまうということ。
「ふざけないで! そんな未来、許せるわけがないでしょう!」
「許せない? そんなにあの男が大事だったのか? ……でもお前は、奴にお前の秘密を話さなかっただろう?」
それは。
「話すチャンスはあったはずだ。だけどお前はそうしなかった! お前にとってあの男はその程度というわけだ」
ドクリと心臓が脈打つ。
秘密を喋ろうとしたことはあった。
だけど、粘ついた不安が心臓を握りしめていて、私は結局一音たりとも発することができなかった。
私はライナスに、心を開けていない。
どこかで彼が私の話を信じないのではないかと疑っている。
不誠実で臆病で、情けないちっぽけな人間だ。
「グオオオオオオオオオ!!!!!!」
はっとする。ドラゴンが火を噴いていた。
ユーリたちと協力して客席から注意をそらし、首を切り付けるなどして励んでいる。火はギリギリで避けていたが、それが何度も続くとまずいだろう。
ただでさえ、連戦で疲れているはずなのだ。
「っ」
私はロサルの体に手をかけ、思い切り引っ張って剥ぎ取った。
「おい、何を!」
「ロサルなんて、大嫌いだから!」
ロサルが固まった。
瞬間冷凍でもされたかのようにカチンコチンに。
「私は守られて満足するつもりはないの!」
ライナスは私の隣に立ちたいと言ってくれた。
私だって、彼の側にいたいのだ。
走る。近くにあった木の剣を拾い、客席から降りて訓練場を駆ける。私にも、気を引くようなことはできるはずだ。
しかし私の想定以上にライナスの体力消耗は激しかったようだ。彼は一瞬、ガクリと膝を折った。
その瞬間を、ドラゴンは見逃さない。一番厄介な人間に向かい、鉤爪を振りかぶる。
「ライナス!」
私は彼を突き飛ばしていた。
一応武器にするつもりだったはずの剣も何もかも放り出して。
全てがスローモーションのようだった。
「フェリシア……?」
ごめんね。
散々酷いことをして、ごめん。
秘密を話してあげられなくて、ごめん。
それから。
私を好きになってくれて。
ありがとう。
その言葉が口から出たかはわからなかった。
一瞬視界の隅に黒い影が映る。そのまま鉤爪は振り下ろされた。
痛みはなかった。
ただ、切りつけられた背中が痛くて。
目の前もぼやけて、うまく前が見えない。
誰かが叫んでいるような気がするけど、その声だって判別できそうになかった。
ああ、でも。
金色のものが、ちらちらと見える。
何?
寝るな、目を覚ましていろって?
随分な無茶を言う。
今私がどれだけ眠たいのか、わかっているのだろうか。
ああでも、ごめんね。
泣かないで。
ちょっと眠るだけだから。
双子はいち早く私が逃した。ステラは逃げる人たちが混乱しないよう案内をしている。本当ならロサルを締め上げたかったはずだが、彼女は今自分にできる最善、被害者を可能な限り減らすことに注力している。
騎士団の腕利きたちが集まっているはずだが、客席は混迷を極めており、なかなか脱出できない様子だった。すると必然、ドラゴンの相手をするのはライナスたち騎士学科の生徒になってしまう。
「ロサル!」
「お前は大人しく全てが終わるまでここで待つといいさ。ああ、全部見届けるかい? お前のライナスが、全力でドラゴンを止めにかかっているよ。良い線いっている。きっとおれの母上を止められるのは彼だけだろうね」
ロサルは私に揺さぶられても痛くも痒くもないといった調子だ。
「ただ、あの男も代償を払うことになるだろうね。例えば……手足の一本や二本犠牲にするくらいはしないと、勝ち目はないだろう」
私の体が凍りついた。
この世界に義手義足といった技術は確立されていない。
それはつまり。
ライナス・ウィンズレットの騎士生命の終わり。
彼が夢を叶える可能性が、ゼロになってしまうということ。
「ふざけないで! そんな未来、許せるわけがないでしょう!」
「許せない? そんなにあの男が大事だったのか? ……でもお前は、奴にお前の秘密を話さなかっただろう?」
それは。
「話すチャンスはあったはずだ。だけどお前はそうしなかった! お前にとってあの男はその程度というわけだ」
ドクリと心臓が脈打つ。
秘密を喋ろうとしたことはあった。
だけど、粘ついた不安が心臓を握りしめていて、私は結局一音たりとも発することができなかった。
私はライナスに、心を開けていない。
どこかで彼が私の話を信じないのではないかと疑っている。
不誠実で臆病で、情けないちっぽけな人間だ。
「グオオオオオオオオオ!!!!!!」
はっとする。ドラゴンが火を噴いていた。
ユーリたちと協力して客席から注意をそらし、首を切り付けるなどして励んでいる。火はギリギリで避けていたが、それが何度も続くとまずいだろう。
ただでさえ、連戦で疲れているはずなのだ。
「っ」
私はロサルの体に手をかけ、思い切り引っ張って剥ぎ取った。
「おい、何を!」
「ロサルなんて、大嫌いだから!」
ロサルが固まった。
瞬間冷凍でもされたかのようにカチンコチンに。
「私は守られて満足するつもりはないの!」
ライナスは私の隣に立ちたいと言ってくれた。
私だって、彼の側にいたいのだ。
走る。近くにあった木の剣を拾い、客席から降りて訓練場を駆ける。私にも、気を引くようなことはできるはずだ。
しかし私の想定以上にライナスの体力消耗は激しかったようだ。彼は一瞬、ガクリと膝を折った。
その瞬間を、ドラゴンは見逃さない。一番厄介な人間に向かい、鉤爪を振りかぶる。
「ライナス!」
私は彼を突き飛ばしていた。
一応武器にするつもりだったはずの剣も何もかも放り出して。
全てがスローモーションのようだった。
「フェリシア……?」
ごめんね。
散々酷いことをして、ごめん。
秘密を話してあげられなくて、ごめん。
それから。
私を好きになってくれて。
ありがとう。
その言葉が口から出たかはわからなかった。
一瞬視界の隅に黒い影が映る。そのまま鉤爪は振り下ろされた。
痛みはなかった。
ただ、切りつけられた背中が痛くて。
目の前もぼやけて、うまく前が見えない。
誰かが叫んでいるような気がするけど、その声だって判別できそうになかった。
ああ、でも。
金色のものが、ちらちらと見える。
何?
寝るな、目を覚ましていろって?
随分な無茶を言う。
今私がどれだけ眠たいのか、わかっているのだろうか。
ああでも、ごめんね。
泣かないで。
ちょっと眠るだけだから。
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