大嫌いな後輩と結婚することになってしまった

真咲

文字の大きさ
14 / 30

13

しおりを挟む
 朝だ。
 チチチ、と呑気に鳴く鳥が恨めしい。
 腰の辺りに少し気怠さがあるものの、痛みや生活に支障がありそうな疲労感はなかった。当然だ。ヤるべきことをヤッてない。レオは昨夜、あろうことか前戯の途中で寝た。

 自分で誘っておいて、である。
 覚悟も決めていたし、知識だって十分だ。何度も頭の中でシミュレーションした。紆余曲折あったものの、先輩としてリードすることもできた。気がする。途中までは。

「うう……」

 自分のあられもない声とヨアヒムの色っぽい顔を思い出して恥ずかしくなる。
 前戯のことを考えるのはやめて、今一度状況を整理しよう。

 レオは一度は可愛がったがその後決別した後輩、ヨアヒムと結婚した。ヨアヒムは決別について特に重く捉えていなかったし、むしろレオに恋をしていたと言う。その恋を成就させるため、レオとの結婚を決めた。金銭的援助も惜しまない様子だった。
 しかしいざやって来たレオを見て、自分がレオの気持ちを考えていなかったと気づき、レオに手を出すことを躊躇う。

 だがレオは覚悟を決めて初夜に挑み……

 つまるところ、冷静に考えればレオはヨアヒムと前戯どころか一緒の寝室に行く必要もなかった。ヨアヒムはレオに何も求めていない──いや、隣に立つことを求めていた、が──性的な要求はなかった。
 ただ、後輩から金を受け取る罪悪感を誤魔化したくて、自分の体を提供するレオに付き合っただけだ。

 提供できてないけど。

「レオ、起きたの?」

 夜の雰囲気のない、朝日差し込む爽やかな寝室。
 大人が二人寝転んでも十分なほど広いベッド。

 レオの隣に、ヨアヒムがいた。

「だっうわっ!? なんでお前がここに!?」
「そのリアクションは酷くない?」

 当然だが、誰かと共寝したのは今回初めてである。同じベッドに自分以外の誰かがいるという状況に心底驚いた。でもまあ、寝室は一室しかないようだし、初夜だし、夫婦だし、本番はなくともそういうことはやった。
 むしろヨアヒムが隣にいるのは当然だ。

「わ、悪い…つい、驚いて」

 ヨアヒムの声が掠れているし、顔を見ると昨夜のことを思い出して気まずい。

「百面相してるレオが面白くて話しかけなかった僕も悪いからおあいこってことで」

 ぐ。
 わかっていたが、見られていたらしい。

「結婚前の僕が調子に乗って寝室を一室にしただけだし、今日からは他の部屋を使っていいし、自室にベッドを置いてもいいよ。部屋は余ってるから、ハンネスに言えばすぐ用意してもらえるはずだ」

 ヨアヒムは一線を引く。
 昨夜のことがまるでなかったかのように。性の香りを感じさせない、穏やかながらも淡々とした口調。

「いや、ここでいい」

 ヨアヒムが困った顔をする。

「何度言ってもわからないようだから言うけど、僕に気を遣わなくていいよ。君に強請るつもりはない」

 だから、レオはただ屋敷にいて、金を受け取っていれば良いと?

「……」

 最善を示しているのはヨアヒムなのに、レオはヨアヒムの善意を全て受け取ることができない。性行為を善意の対価にするなんて自分でも酷いことをしていると思うけど。

「いいよ。僕はレオの後輩だからね。レオが望むなら、ここで寝ようか」

 何も言えなくなってしまったレオの頬をなぞり、ヨアヒムが優しく笑った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クリスマスには✖✖✖のプレゼントを♡

濃子
BL
ぼくの初恋はいつまでたっても終わらないーー。 瀬戸実律(みのり)、大学1年生の冬……。ぼくにはずっと恋をしているひとがいる。そのひとは、生まれたときから家が隣りで、家族ぐるみの付き合いをしてきた4つ年上の成瀬景(けい)君。 景君や家族を失望させたくないから、ぼくの気持ちは隠しておくって決めている……。 でも、ある日、ぼくの気持ちが景君の弟の光(ひかる)にバレてしまって、黙っている代わりに、光がある条件をだしてきたんだーー。 ※※✖✖✖には何が入るのかーー?季節に合うようなしっとりしたお話が書きたかったのですが、どうでしょうか?感想をいただけたら、超うれしいです。 ※挿絵にAI画像を使用していますが、あくまでイメージです。

アプリで都合のいい男になろうとした結果、彼氏がバグりました

あと
BL
「目指せ!都合のいい男!」 穏やか完璧モテ男(理性で執着を押さえつけてる)×親しみやすい人たらし可愛い系イケメン 攻めの両親からの別れろと圧力をかけられた受け。関係は秘密なので、友達に相談もできない。悩んでいる中、どうしても別れたくないため、愛人として、「都合のいい男」になることを決意。人生相談アプリを手に入れ、努力することにする。しかし、攻めに約束を破ったと言われ……?   攻め:深海霧矢 受け:清水奏 前にアンケート取ったら、すれ違い・勘違いものが1位だったのでそれ系です。 ハピエンです。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。 自己判断で消しますので、悪しからず。

給餌行為が求愛行動だってなんで誰も教えてくれなかったんだ!

永川さき
BL
 魔術教師で平民のマテウス・アージェルは、元教え子で現同僚のアイザック・ウェルズリー子爵と毎日食堂で昼食をともにしている。  ただ、その食事風景は特殊なもので……。  元教え子のスパダリ魔術教師×未亡人で成人した子持ちのおっさん魔術教師  まー様企画の「おっさん受けBL企画」参加作品です。  他サイトにも掲載しています。

追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される

水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。 行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。 「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた! 聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。 「君は俺の宝だ」 冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。 これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される

秋津むぎ
BL
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。 ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。 死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――? 傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

《本編 完結 続編 完結》29歳、異世界人になっていました。日本に帰りたいのに、年下の英雄公爵に溺愛されています。

かざみはら まなか
BL
24歳の英雄公爵✕29歳の日本に帰りたい異世界転移した青年

処理中です...