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第五十四話 不明瞭な罪
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ローガンが衛兵に拘束された翌日。僕達はジャンレーの冒険者ギルドを訪れた。今回の件を冒険者ギルドが把握しているのか確かめるためだ。
ちなみにユリウスとソニアには、念のため[無限保存庫]に入ってもらっている。
「すみません。ローガン・ウェルドという冒険者を探しているのですが」
「ローガンさん?どんなご用件かしら?」
何も知らない体で受付の職員に尋ねると、女性職員はにこやかに応対した。
「以前、お世話になったお礼をしたくて」
しれっと作り話で答えると、女性職員は嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、護衛依頼の依頼主さんかしら?わざわざお礼だなんて、ローガンさんも冒険者冥利に尽きるわね」
女性職員は書棚から書類を一束選び取り、慣れた手つきでめくっていく。
「うーん……。ここしばらく、ローガンさんが依頼を受けた記録が無いわね……。ねえ、ダン。最近ローガンさんを見た?」
「ローガンさん?……どうだろう、最近は…見てないかも」
声をかけられたダンという職員は首を振って答えると、ややあってから自分の仕事に戻った。その微妙な間に違和感を覚えるが、何と問い質したものか。
その間に女性職員は僕達に向き直ると申し訳なさそうに、
「依頼の受諾中なら、ジャンレーにいるかどうかだけでも分かるんだけど…。自宅とかは教えてあげられないの。ごめんなさいね」
「いえ、ありがとうございました。またの機会に伺います」
あまり食い下がると怪しまれてしまうので、僕達は礼を言ってその場を離れた。
「ギルドは何も知らないみたいですね」
表に出たところでベルハイトが小声で呟いた。
ジャンレーに問題なく入れたため予想はしていたが、やはり冒険者ギルドは今回の件を把握していない。衛兵に拘束されるような罪過がある冒険者は、一次的にその資格を凍結されるため、必然的に冒険者ギルドも事態を知ることになるのだ。
おそらく冒険者タグを提示したことで、ローガンがジャンレーに入ったことが、衛兵の詰め所に通達されたのだろう。街に入る時点で拘束されなかったところを見ると、やはり公的に指名手配などされていたわけではないようだ。あくまで内密に、ローガンを拘束する必要があったと考えられる。となると、浮かび上がってくる可能性は公にできない罪状か、あるいは何らかの企て。
あのダンというギルド職員に感じた違和感は、おそらく間違いない。問題はどうやって追及するかだが……。
「――君達、ちょっといい?」
その時声をかけてきたのは、ダンと呼ばれていたあの職員だった。
「ローガンさんを探してるんだろう?」
「はい。なにかご用ですか?」
問い返すと、ダンは少し周囲を気にするように視線を動かした。
「この話、僕から聞いたって言わないでほしいんだけど……」
そう前置きし、
「ローガンさん、衛兵に捕まってると思う……」
「……」
「うん。ローガンさんが少し前に言ってたんだけど…その……、酒場で女の人を口説いたらしくて、その女の人の恋人が衛兵で、恨みを買っちゃったって。しかもその衛兵、すこぶる評判の悪いやつみたいで……」
……。
…………。
………………うん?
これはちょっと予想外の話だ。らしいと言えばらしいが、現状では想定していない内容だ。
「だから、もしかしたら今頃、捕まってるかも……」
ダンの想像通りなら、昨晩の衛兵は随分な職権濫用罪だが……。というか、そう思うならギルド長に相談するなりすればいいのに。
「君達も無理に会いに行かないほうがいいよ。衛兵に目をつけられたら大変だから」
そう言って、ダンはそそくさと冒険者ギルドへ戻っていった。それを見送ったあと、僕はベルハイトに尋ねる。
「……どう思います?今の話」
「無いとは思いますけど……、想像できてしまうのは何故ですかね……?」
たぶんローガンの日頃の軽い言動のせいだと思う。
宿屋に戻った僕達は、今後のことについて話し合うことにした。
ローガンがこんな形で離脱するなんて、誰も予想していなかったが、僕達は人工魔石の件でも動かなければならない。
「ところで、ローガンさんの件が無かったとしたら、どうするつもりだったんです?」
きっとユリウス達も思っていたであろう疑問をベルハイトが口にしたので、僕は正直に答える。
「王城に忍び込むつもりでした」
「「「…………」」」
「バライザ王と王太子殿下にアポイント無しの謁見を賜って、その首から魔道具を強奪しようかと」
「「「………………」」」
ベルハイト達は真顔で黙ってしまった。
しかしこんな提案するのには、それなりの理由がある。
「人工魔石が精神にも影響を与える以上、長く放置するのは危険です。少しでも早く遠ざけるなり破壊するなりしたほうがいい。であれば、多少の無茶は必要かと」
この意見には三人も同意であるため、何も反論はない。
「でも王城への潜入は、あくまでローガンさんがいることが前提でした」
「ローガンが?」
首を傾げるユリウス達に、僕は少し前の話をする。
「ローガンさんは、ロブエで僕達の居場所を魔法で特定したと言っていたのを覚えてますか?」
「そういえば、そんなこと言ってましたね…。結局、今の今まで、知る機会が無かったですけど」
ベルハイトが思い出したように言った。
「あの人が特定したのは僕達の居場所ではなく、正確にはユリウスさんの居場所だったんだと思います。先日メルビアに戻った時に、魔法に詳しい知人から聞いた話では、神聖魔法にそれが可能な魔法があるそうです。あの時の状況などから考えて、ユリウスさんの居場所を特定できる魔法は、おそらく神聖魔法のひとつではないか、と」
仮説ではあるが、魔法に関することではバージルの見解は百発百中と言ってもいい。
「なので、まず先にローガンさんに接触します」
現段階では、あくまで接触するだけ。こちらの事情も一刻を争うが、ローガンがなぜ拘束されたのかも分からない以上、軽率なことはできない。
ギルド職員のダンが言っていた「女性をナンパしてその恋人に恨まれた末に捕まった」説は、とりあえず置いておく。
それに、もしかしたらローガンは――。
口に出しかけ、それは本人に訊こうと思って止めた。
彼を解放できない時は、危険は増すが、僕が単独で王城に潜入するしかない。万一の事を考えて、ベルハイトにはユリウスとソニアとともに城下に残ってもらわなければ。
今それを言えば確実に反対されそうなので言わないが。
僕が何を考えているのか、おそらく知らないまま、ベルハイトは恐る恐るといった様子でこちらを見た。
「ローガンさんに接触するということは……」
「場所と相手が違うだけで、やることは変わりません。――今夜、衛兵詰所に忍び込みます」
傍から見れば、なんとも無謀な行いだろう。だがそれを実行する理由も、実現する必要も多大にある。
僕達が今会わなければならない相手は、誰も彼も簡単には手の届かない場所にいるのだから。
ちなみにユリウスとソニアには、念のため[無限保存庫]に入ってもらっている。
「すみません。ローガン・ウェルドという冒険者を探しているのですが」
「ローガンさん?どんなご用件かしら?」
何も知らない体で受付の職員に尋ねると、女性職員はにこやかに応対した。
「以前、お世話になったお礼をしたくて」
しれっと作り話で答えると、女性職員は嬉しそうに微笑んだ。
「ああ、護衛依頼の依頼主さんかしら?わざわざお礼だなんて、ローガンさんも冒険者冥利に尽きるわね」
女性職員は書棚から書類を一束選び取り、慣れた手つきでめくっていく。
「うーん……。ここしばらく、ローガンさんが依頼を受けた記録が無いわね……。ねえ、ダン。最近ローガンさんを見た?」
「ローガンさん?……どうだろう、最近は…見てないかも」
声をかけられたダンという職員は首を振って答えると、ややあってから自分の仕事に戻った。その微妙な間に違和感を覚えるが、何と問い質したものか。
その間に女性職員は僕達に向き直ると申し訳なさそうに、
「依頼の受諾中なら、ジャンレーにいるかどうかだけでも分かるんだけど…。自宅とかは教えてあげられないの。ごめんなさいね」
「いえ、ありがとうございました。またの機会に伺います」
あまり食い下がると怪しまれてしまうので、僕達は礼を言ってその場を離れた。
「ギルドは何も知らないみたいですね」
表に出たところでベルハイトが小声で呟いた。
ジャンレーに問題なく入れたため予想はしていたが、やはり冒険者ギルドは今回の件を把握していない。衛兵に拘束されるような罪過がある冒険者は、一次的にその資格を凍結されるため、必然的に冒険者ギルドも事態を知ることになるのだ。
おそらく冒険者タグを提示したことで、ローガンがジャンレーに入ったことが、衛兵の詰め所に通達されたのだろう。街に入る時点で拘束されなかったところを見ると、やはり公的に指名手配などされていたわけではないようだ。あくまで内密に、ローガンを拘束する必要があったと考えられる。となると、浮かび上がってくる可能性は公にできない罪状か、あるいは何らかの企て。
あのダンというギルド職員に感じた違和感は、おそらく間違いない。問題はどうやって追及するかだが……。
「――君達、ちょっといい?」
その時声をかけてきたのは、ダンと呼ばれていたあの職員だった。
「ローガンさんを探してるんだろう?」
「はい。なにかご用ですか?」
問い返すと、ダンは少し周囲を気にするように視線を動かした。
「この話、僕から聞いたって言わないでほしいんだけど……」
そう前置きし、
「ローガンさん、衛兵に捕まってると思う……」
「……」
「うん。ローガンさんが少し前に言ってたんだけど…その……、酒場で女の人を口説いたらしくて、その女の人の恋人が衛兵で、恨みを買っちゃったって。しかもその衛兵、すこぶる評判の悪いやつみたいで……」
……。
…………。
………………うん?
これはちょっと予想外の話だ。らしいと言えばらしいが、現状では想定していない内容だ。
「だから、もしかしたら今頃、捕まってるかも……」
ダンの想像通りなら、昨晩の衛兵は随分な職権濫用罪だが……。というか、そう思うならギルド長に相談するなりすればいいのに。
「君達も無理に会いに行かないほうがいいよ。衛兵に目をつけられたら大変だから」
そう言って、ダンはそそくさと冒険者ギルドへ戻っていった。それを見送ったあと、僕はベルハイトに尋ねる。
「……どう思います?今の話」
「無いとは思いますけど……、想像できてしまうのは何故ですかね……?」
たぶんローガンの日頃の軽い言動のせいだと思う。
宿屋に戻った僕達は、今後のことについて話し合うことにした。
ローガンがこんな形で離脱するなんて、誰も予想していなかったが、僕達は人工魔石の件でも動かなければならない。
「ところで、ローガンさんの件が無かったとしたら、どうするつもりだったんです?」
きっとユリウス達も思っていたであろう疑問をベルハイトが口にしたので、僕は正直に答える。
「王城に忍び込むつもりでした」
「「「…………」」」
「バライザ王と王太子殿下にアポイント無しの謁見を賜って、その首から魔道具を強奪しようかと」
「「「………………」」」
ベルハイト達は真顔で黙ってしまった。
しかしこんな提案するのには、それなりの理由がある。
「人工魔石が精神にも影響を与える以上、長く放置するのは危険です。少しでも早く遠ざけるなり破壊するなりしたほうがいい。であれば、多少の無茶は必要かと」
この意見には三人も同意であるため、何も反論はない。
「でも王城への潜入は、あくまでローガンさんがいることが前提でした」
「ローガンが?」
首を傾げるユリウス達に、僕は少し前の話をする。
「ローガンさんは、ロブエで僕達の居場所を魔法で特定したと言っていたのを覚えてますか?」
「そういえば、そんなこと言ってましたね…。結局、今の今まで、知る機会が無かったですけど」
ベルハイトが思い出したように言った。
「あの人が特定したのは僕達の居場所ではなく、正確にはユリウスさんの居場所だったんだと思います。先日メルビアに戻った時に、魔法に詳しい知人から聞いた話では、神聖魔法にそれが可能な魔法があるそうです。あの時の状況などから考えて、ユリウスさんの居場所を特定できる魔法は、おそらく神聖魔法のひとつではないか、と」
仮説ではあるが、魔法に関することではバージルの見解は百発百中と言ってもいい。
「なので、まず先にローガンさんに接触します」
現段階では、あくまで接触するだけ。こちらの事情も一刻を争うが、ローガンがなぜ拘束されたのかも分からない以上、軽率なことはできない。
ギルド職員のダンが言っていた「女性をナンパしてその恋人に恨まれた末に捕まった」説は、とりあえず置いておく。
それに、もしかしたらローガンは――。
口に出しかけ、それは本人に訊こうと思って止めた。
彼を解放できない時は、危険は増すが、僕が単独で王城に潜入するしかない。万一の事を考えて、ベルハイトにはユリウスとソニアとともに城下に残ってもらわなければ。
今それを言えば確実に反対されそうなので言わないが。
僕が何を考えているのか、おそらく知らないまま、ベルハイトは恐る恐るといった様子でこちらを見た。
「ローガンさんに接触するということは……」
「場所と相手が違うだけで、やることは変わりません。――今夜、衛兵詰所に忍び込みます」
傍から見れば、なんとも無謀な行いだろう。だがそれを実行する理由も、実現する必要も多大にある。
僕達が今会わなければならない相手は、誰も彼も簡単には手の届かない場所にいるのだから。
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