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【万能収納】にドロップ品を閉まったら詳細がわかった。
殆どがスライムの魔石だったけれど、一部有用なものがあったので遠慮せずに使ってみた。
使ってみた結果魔術が使えるようになったのでそうなれば―――。

「《火の矢ファイアアロー》」
いがぐりのような形状のスライムに火属性の魔術を放つ。
今のところ使えるのは火の球を創り出す火球ファイアボール火の矢ファイアアローである。
水属性もあるけれどこちらも水球ウォーターボール水の矢ウォーターアローで威力はどちらも同じくらいである。
ただし属性による弱点をつければ大ダメージ。
…ただし、どう繕っても弱いスライムにはオーバーキルになる模様です。
スライムはじゅわりと蒸発し、その場に魔石を残しただけだった。

《この世界のダンジョンで誰よりも早く魔術を使用しました。称号とボーナスが与えられます》

なんか来た。
周りにスライムが居ないことを確認して急ぎ確認してみれば、【魔導の目覚め】という称号が【魔道の奏者】に代わっていた。

【魔導の奏者…この世界で誰よりも早く魔術を使用した者に贈られる特殊な称号。ボーナスとして魔力操作が精密となり、また魔力の自然回復が通常よりも早くなる。【重奏魔法アンサンブル】を取得しました】

また大層な能力を得てしまった。
どうやらこれがあれば魔術を同時展開しいくつも放てるようになるらしい。
ならばものは試しに…とやってみるけれどどう頑張っても火球は一つしか撃てなかった…。
「まだ魔術使い始めたばっかだからかなぁ…」
狙いを少し外すときもあるからなぁ…なんて思いながらもこの能力の事は置いといてただひたすら火属性と水属性の魔術を使い、3階層を探索した。

実はこの階に不可思議な場所がある事が分かったのだ。
【魔法の地図】はその階に降りた瞬間にその階層をサーチしてその全貌を大っぴらにしてしまう。
存在する魔物は一度遭遇しないと???となっているけれど一度遭遇してしまえばその位置さえも地図上に表記してくれる万能さだ。
地図はフルカラーで拡大すれば実際にその場所にカメラを置いているかの如く観察することが出来る。
だから今のところ罠マークはないけれど罠があっても事前に知る事が出来るというわけだ。
そんな地図を見ているから階段の場所はもちろん即わかっている。
分かっているけれど、私はまだまだ自分の能力を使い切れていないので、ダンジョンを何とかしたいと思いつつもちゃんと色々と試してスキルや武器やら魔術を何とかちゃんと扱えるようになろうとしているのだ。
下に降りたらスライム以外が出てパニックを起こして終わり…なんてなりたくないので考えるよりも体が動くようにはしたいところである。

そんな万能な地図に不思議な場所が乗っていることに気が付いたのは先程休憩を挟んだ時だった。
フルカラーで表記されている地図の一角がボヤっとしていたのだ。
他の部屋に比べると小さいスペースが不思議とぼやけている。
2階層や1階層の地図を見てもそんな場所はなかったのでそこだけがそういう場所なのかと思ったけれど、ちょっと気になるので確認してみる事にした。

「見た感じはそこら辺の岩肌と何にも変わらない…?」
地図の場所は壁の横に少し大きな岩があるだけで他と何も変わらなかった。
叩いたりさすってみたり押してみたりしたけど何もない。
なんだ何にもないのか…と傍にあった大きな岩に寄りかかったら――岩がガコンと少し沈み横にスライドした。
ビックリして慌てて岩から距離をとってみれば、今度は壁に切り込みが入り横にスライドする。
「…隠し部屋…」
そう、目の前に現れたのは3畳ほどの狭い個室――隠し部屋だった。
その部屋の中には宝箱が鎮座しており【気配察知】や【魔力感知】で探ってみたけれど魔物の類は居ない模様。
「…罠も無し…かな?」
入口を開けたことで隠し部屋も地図に認識されたらしく、その地図を確認してみれば罠のマークもなかった。
「…じゃあ遠慮なく…」
ドキドキしながら宝箱を開ける。
見た目に反して軽い感触で開いた宝箱の中には初級ポーションが5本入っているだけだった。
「…ハズレかぁ~」
まぁまだ始まりの方の階層だし、ここ今のところスライムしか出てこないからな…と宝箱の中身を回収する。

《この世界の誰よりも早く隠し部屋の宝箱を取得しました。称号とボーナスが与えられます》

「へ?」
本日2回目である。
今度は何が?と確認してみれば【宝物収集家トレジャーハンター】という称号が追加されていた。
これも【収集家コレクター】の上位称号らしくこちらも変わっていた。


宝物収集家トレジャーハンター…この世界のダンジョンで誰よりも早く隠し部屋を見つけ宝箱の中身を得た者に贈られる特殊な称号。ボーナスとしてドロップ量、レアドロップ率が80%になる。【看破の魔眼】を取得する】

「…魔眼」
ぼそりと呟いたらなんだか目が熱くなったような気がした。
「なんか…沁みる…」
水球を作りその場に浮かべてその水で目をパシャパシャ洗う。
「冷えてなんとかなったけど…、今日はもう帰ろう…」
とんでもない能力を得てしまって逆にやる気がしぼんでしまった。
隠し部屋を優先にしたのでまだ4階層に降りる階段までは辿り着いていない。
明日だ明日とダンジョンから出て玄関に向かえば、ご近所の奥さん方が我が家の前で井戸端会議をしていた。

「あらすずちゃん、お庭に居たの?」
「あ、はい。祖母が残した庭が地震で少し荒れてしまったのでちょっと…」
そういえば奥様方は遠慮もせずに我が家の庭を見てくる。
「素敵よねぇ~。志保さんガーデニングの腕すごかったのね~」
「こんな事ならお庭でお茶をするって誘われたときに断らなきゃよかった~」
言いながら奥様方は何が面白いのかケタケタと笑う。
心なし奥さん方から赤い靄が出ているような気がした。
「すみません、これから夕飯を作らないといけないので…」
赤い靄は気になるけれど色々とあって疲れているから早く戻りたくてそういえば奥様の一人が『待って』と声をかけてくる。
「この庭の管理、すずちゃん1人じゃ大変でしょ?あたしたち変わるわよ?」
「その代わりうちで使いたいときに貸してくれない?もうすぐ下の子の誕生日なのよ~」
「お庭広いからBBQも余裕でできそうよね~」
「来週でしょ?道具うちから持ってくるわよ?」
「いいわね。お昼前に集合かしら」
こちらの意見なんて聞かないで勝手に決めていく奥様方に開いた口がふさがらなかった。
靄っとしていた赤が色濃く彼女たちの背中から揺らめいている。
赤いのは何なのか分からないけれど、だから何勝手なことを決めてるんだ――と口を開こうとした時だった。

「アンタたち、子供にたかってどうするんだい?ここはあんたたちの土地かい?ちゃーんと使わせてもらうんだったらそれなりのものを包んで渡すんだろうねぇ…?」
奥様方の背後に般若が居た。
―――お隣の阿久津さんの奥さんだ。
「ちょ、なんでうちらが使用料包まないといけないのよ」
「庭の世話をしてあげるから使わせてって言ってるだけじゃない」
「そうよ、助け合いよ」
奥様方は果敢にも阿久津さんに向かっていくが、阿久津さんはそんな奥様方を見てにやりと笑う。
「庭の世話?子供たちの朝顔も枯らせるあんた達が?冗談はその性格だけにしときな!ほら、人様の家の前でだべってる暇があったらあんた達も帰って夕飯の支度しな!!」
「「「っちょ…!」」」
阿久津さんにぐいぐいと背中を押されて奥様方は渋々と帰っていった。
「阿久津さんありがとう」
「いいよ。ほれ、これ作り過ぎた煮物。夕飯の足しにしな。また何かあったらちゃんとあたしに言うんだよ?」
阿久津さんは豪快なウインクを置き土産にそのまま帰っていった。

阿久津さんみたいな女性が格好いいとかいうんだろうなぁ…なんて思いながら再び誰かに絡まれないようにと急ぎ家の中に入る。

阿久津さんが持ってきてくれたのはタケノコの煮物だった。
豪快な性格に似合わず繊細なお出汁の味が沁み沁みでとても美味しかった。
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