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休んだはずなのに休みじゃなかった。
それでもダンジョンを攻略するために頑張らないといけない。

「3階層の途中から…」
前回進んでいた場所まで最短ルートで向かい、そこからスタートである。
「隠し部屋はなさげだからこのまま下の階段に向かえば良いね…」
果たして四階層にはどんなスラムが出るのか。
…いや、スライムしか出ないとか確定ではないんだけど。

途中からスタートし下への階段にたどり着いたのは30分後だった。
「空飛ぶスライム…」
4階層目で遭遇したのはプカプカと浮いたスライムだった。
フォルムは普通のスライムとほぼ変わらない。
変わっているとしたら小さな羽があるということと白い色と言うことだ。
「それ以外にもなんか銀色のいかにも経験値が多そうなスライムも居るし…」
しかもそいつには角が生えている。
倒したら経験値的に美味しいのだろうかと思ったけれど普通だった。
昨日取得した【闘拳術】も試したけれどスライムが爆散したので使うのをやめた。
【生活魔法】の【プチファイア】は赤いスライムが放った小さな炎によく似たもので、でも指先から飛んでいくことはなかった。
【土属性】の魔術は石の礫を飛ばす《チップストーン》と石の壁を生み出す《ストーンウォール》の2つだった。
《チップストーン》の威力は水や火属性のものと比べると殺傷能力は低く牽制に使える位のものだった。
但し、【魔力操作】でもう少し鋭く硬い礫を作り出せばその限りではないと思うけれど、これも要練習である。
壁は発動してから壁になるまでに少し時間がかかった。
これも練習が必要である。

色々と確認しながら4階層に降りる。
「4階層は隠し部屋が3つ…」
下に降りるにつれてダンジョンが広くなっているようでこのフロアの三方向の隅にある隠し部屋を全て見に行くとなると今日だけでは足りないかもしれない。
「今日が4日で学校が始まるのは10日だから…」
ギリギリまでみっちりと潜るのならあと5日しかない。
「このダンジョンが何回層まであるのかだよね…」
できれば5~10位で終わってほしいのだけれど。
「こればっかりはわからないからなぁ…」
【魔法の地図】も到達した階層じゃないと全貌がわからないわけで。
「頑張ろう…」
スライムだらけでちょっと作業ゲー感が拭えないけれど。

今日は2箇所の隠し部屋を回ることが出来た。
一箇所目で『朧の衣』を二箇所目で『彗星の剣』を手に入れた。
ちゃんとした武器と防具をやっと手に居入れた。
今までちょっとボロい木の宝箱だったのに装飾されたしっかりとした宝箱に入っていたけれど、罠がしっかり施されていた。
私には【看破の魔眼】があるので罠を看破して解除する事が出来たけれど、出来なかった時に発動する罠は毒霧と硫酸散布と結構極悪だった。
鑑定系、または罠感知や解除系のスキルが無いとこれは開けられないな…と思いながらも初めての武具類に顔がにやけてしまう。

【朧の衣…姿をボヤかせて認識を阻害させる防具。【認識阻害】【防寒】【サイズ自動調整】が付与されている】

【彗星の剣…白く半透明の刀身をもつ剣。剣筋に冷気が走り彗星の尾のように見えることから名付けられた。氷属性】

中々である。
『朧の衣』はスモーキーブルーのフード付きのコートだった。
最初は大きくてダブダブだったのに袖を通したらとたんに私にピッタリのサイズになったから驚いた。
脱いでもそのサイズのままなので他の人が袖を通すか私が大きくならないと変わらないのかもしれない。

次は『彗星の剣』である。
藍色の装飾が少ない鞘から刀身を抜いてみれば、説明の通り白い半透明の刀身が現れる。
持ちて部分は鞘と同じ色合いの皮が張られ所々に白金色の細工が施されている。
刀身からひんやりとした冷気が感じられ、試しに振り下ろしてみれば白い尾がゆらりと流れる。
「…もし仮に自分の足とか切ったら凍っちゃうのかな…」
それを想像してちょっと怖くなった。

翌日5日、残りの隠し部屋に向かう。
道中装備品の能力を確認しながら進んだけれど、スライム相手ではオーバーキル過ぎた。
「せめてスライム以外の魔物で試し切りしたい…」
スライムに刀身をちょん!と当てただけで瞬時に凍りつき砕けるものだから最初はとても驚いた。
まだ色々な能力が使い切れていないのにどんどん能力が増えて上がっていく。
「天狗にならないように気をつけなくちゃ…。私知ってる、こういう場合天狗になって調子に乗ると痛い目に合うパターンになるって…」
所謂『お約束』というやつである。
すごい能力を得ても堅実に。
お祖父ちゃんも『どんなに凄いことが出来ても、それをひけらかすやつは二流だ』って言ってた。
組子細工職人だったお祖父ちゃんだからこそ、様々な理由で浮かれて消えていった人を見ているからこその言葉だったんだろうなぁ…と思う。

「ここが最後の隠し部屋…」
そこそこの時間がかかってしまった。
隠し部屋が有る付近の壁を『看破の魔眼』で見てみればここだと言わんばかりに緑色の光がぽやりとでてくる。
そこを探せば不自然に盛り上がった突起があり、それを押せば…。
「隠し部屋はっけーん」
いや、あったのは知ってるんだけど。
でもこうやって入り口を開ける仕掛けを見つけないとあけられないなんて、他の人見つけられるのかな?

まず部屋に入る前に【看破の魔眼】を使う。
罠って宝箱だけに使われているとは限らないからだ。
幸い今まで刃なかったけれど――。
「あ、宝箱の周りからトゲが出てくる仕掛けが…」
宝箱の周りの床が赤く光りその詳細がポップしてくれるから助かる。
トゲが出てくる範囲を避けて宝箱を開ければ鑑定した通りジャキン!っと音を立ててトゲが飛び出してきた。
飛び出して引っ込めばその後はどうやら罠は発動しないらしく普通に宝箱の中身を取る事が出来た。

【魔法の鞄(中)…ウエストポーチ型の収納機能が付いた鞄。体育館程の収納スペースがあり重量は制限されていない。時間経過が緩いため肉や野草の劣化を遅らせる事が出来る。生きたものは収納できない】

中に入っていたのは魔法の鞄だった。
普通ならば喜ぶところなんだろうけれど【万能収納】がある私からすると―――。
「まぁ収納スキルをごまかす手段としては使えるかなぁ…」
最後の宝箱だからすごいものが入っているかもしれないと思ったけれどちょっとだけしょっぱい結果になってしまった。

そんな扱いを受けている魔法の鞄がまだ世界的に数人しか持っていない物だと知るのはもう少し先のお話である。
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