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いろいろな問題と不安があるままに週末を迎えてしまった。

「日本で頂点に立つクラン【SAMURAI】の武田たけだだ」
「順位に興味はあまりないんですが3位になりました【自由人】の天塚あまつかです」
「僕達は【虹色の翼】、僕はそのリーダーの岸畑きしはた 翔馬しょうまだ!」
「【月夜見】の白尾です」
早朝集められたクランのリーダーが代表で挨拶をする。
1人だけフルネームを言っていたけど皆スルーしている

クラン【SAMURAI】は能力主義なクランでクランが有用と判断した能力がないと入れない。
バックに大手の会社が数件パトロンとしてついているので資金も武器や武具類も手に入りやすく、10階層前後のダンジョンをいくつか破壊している実績を持っている。

クラン【自由人】は個性が強い能力を持つ人が集まって出来たクランで、モットーが『好きに自分らしくダンジョンに入ればいいじゃない』というものでその自由さがうまく作用して伸びたと言われている。
クランメンバー以外と関わるのがあまり好きではないらしく、でも今回は活動資金を稼ぐためだと割り切って参加したらしい。

そして七光りの集団【虹色の翼】。
色々な業界のおえらいさんの息子や娘さんだけで結成されたクラン。
活動内容はダンジョン攻略ではなく貸し切りで踊ったり飲んだり遊んだり。
正直ダンジョンに入ったのも資格を得るときくらいというなんで今回参加することになったのかわからない連中だ。
お金に物を言わせて揃えた装備品は立派だけど使いこなすことは出来ないだろうなと思う。
この中の馬鹿が櫻子さんにちょっかいを掛けてくるんですね?潰しておきます?

「眞守、落ち着け」
「大丈夫、一瞬です」
「落ち着け…」
頭をクシャクシャにされてしまう。
「相手が手を出さないとこっちも手が出せないのがもどかしいですね…」
「相手が相手だからな…」
「いっそ呪術スキル取ってしまいましょうか…」
座った目で言えば先生に鼻をつままれてしまう。
「なんでもスクロールで取得すればいいってもんじゃない」
「わかってるんですけど、――こっちを見てくる目が不快で…」
そう七光りメンバーの数人がこっちを品定めするように見てくるのが気持ち悪いのも原因なのだ。
「そういうのはな…?」
言って先生が奴らの方を一瞬見る。
ビクッと体を揺らし何人かがへなへな…と座り込み、お付きの大人が『大丈夫ですか?!』と慌てている姿が。
「威圧ですか…?」
「一瞬だけな?…それにしてもあんな一瞬の威圧でこれって、中に入っただけで驚きすぎて死ぬんじゃないか…?」
弱すぎる…と先生は逆に心配になってきたようだ。
「ここ。適正レベル30前後なのに10超えたくらいですからね、レベル」
「え?」
「自業自得ですよ。あ、でもおつきの人がかろうじて20超えてますから」
「……最悪助けなきゃいけないの面倒クセェ…」
先生が大きくため息をついたところでダンジョンに入る事になった。



飛行系の魔物が出るダンジョンとはいえ、最初は通路が広く天井が高い通路が続く。
蝙蝠系や翅がある昆虫の魔物が襲い来るがどれも私たちの敵ではなかった。
…一部はギャーギャー騒いでいたけれど。
その声で魔物が次々とやってくるものだから、最終的にSAMURAIの武田さんが睨みつけて『これ以上騒いで魔物を寄せ付けるだけなら此処に置いて行くぞ?』と言ったら黙っていたけれど。
このレベルでこれあったらこの先どうなるんだ?とみんなの顔に書いてあった。
攻略は難なく進む。
むしろサクサクと進み過ぎる。
SAMURAIメンバーがこちらに見せつけるように魔物を見つけたら即倒すので他クランはやる事がない。
まぁ自由人もウチも楽が出来てラッキーくらいにしか思っていないから倒すたびにこっちを見てドヤ顔されてもである。
さすが日本で一番のクランなだけあって、小休憩を挟むことなく5階層まで来ることが出来た。
七光り達は肩で息をしている。
一度この階のセーフティゾーンで休憩を取り、各自軽食をとるなりなんなり城という事になった。

SAMURAIは携帯食であるシリアルバーのような物をもそもそと食べ、自由人達はレトルトのパウチを沸かしたお湯で温めて食べている。
七光り達はどうやらコネでマジックバッグを持っていたらしくそこから調理済みの食事を取り出し食べ始める。
ただし時間停止ではないので冷たい模様。
愚痴口文句を言っている。

「作ると時間かかるのでウチも調理済みだしますね~」
言いながら収納からを出す。
鍋の中身はビーフシチューで、パンを入れたバスケットも取り出す。
どちらも作りたて・焼き立てをそのまましまったので温かい。
アウトドア用の椅子とテーブルに乗せて各自好きな量を他所絵というスタイルにする。
「ダンジョンの中で温かい食事ができるって最高だよな…」
先生がしみじみという。
「そうですね…。こちらは収納が無くてもレトルト品や缶詰というものがありますからそこまで悲惨な食事になりませんが前の世界は…」
ユリウスさんも遠い目をしながら言う。
「因みに前はどんなのが主流だったの?」
白尾さんが興味本位で聞けば、二人は目から光を消した『噛み切れない程硬い干し肉と歯が砕ける程硬い堅パン』と呟いた。
「え?それだけ?」
「それだけだ。この世界は職にあふれてて、かつ日本は本当に食事に関しては熱が入り過ぎている世界だと実感するよ」
「あちらは基本食べられればいいという感じですし、香辛料も高いからこそ味など関係ないと使う量が多い程自分の威厳を示せると思っていましたからね…」
「…食事があんまり美味しくない世界だったんですね…」
テンプレですね…と言えば二人はビーフシチューを一瞬で平らげて競うようにおかわりをしていた。
「大丈夫です、攻略中の食事は色々と用意してききてますし食材も色々と持ってきているので魔法のテントの中でいつも通り作る事も出来ます」
もう職で不自由しませんよ?と胸を張って言えば、何故か二人に頭を撫でられた。
「きゅい!」
「ひん!」
オニキスとサンドラがおかわりとお皿を銜えてやってくる。
「はいはい」
お変りだって収納から出せばいいだけである。
オニキスはローストビーフの塊を、サンドラには新鮮な葉物野菜とカット果物を入れれば嬉しそうに食べ始める。

二匹が美味しそうに食べている姿を見ている私を見て三人も同じような顔をしている事に私は気づかなかった。
…というよりもそんな私達を視ている他クランの視線にも気づかなかった。
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