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本能とは
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サギリは初めて会ったとき、小さくて小さくて。
本当にこんな小さな子が婚約者になるんだろうか、と。いっそ不憫にさえ思っていた。
アルファ、の古い名家ではあったがレイの家はどこか革新的なところがあり、新しい風をとり込むのにちょうど急成長している商家のオメガは良いだろうと、娶わせることになった。
それが大成功で、化学反応を起こした結果レイの実家であるアルファの家はさらなる発展を遂げた。オメガとアルファの結びによる成功例の誕生だ。親たちはどちらもビジネスライクな態度もとるし身内のような雰囲気も醸しつつ、両家は我が世な春な日々を送っている。ただしぽつん、と弾かれたように飛び出た小さな婚約者は、いつもぼーっとしていて。
ホテルでの会食時、母親に連れてこられせめて話しかけようとタイミングを見計らうけれども、どうも、その合わない。つかめなかった。自分が。
なんでか声に出そうとすると、喉の奥が引き絞られた雑巾みたいになって声帯がガチガチになり、身体さえカチンコチンに固まるのである。謎だ。
自身の不思議さに首を捻る間に、サギリとの庭園デートは終わってしまう。
こういった奇妙な出来事は常に起こった。いつもそうだ。もはやそういう運命だと諦めねばならぬほどに、レイは、この符号を神妙に受け止めていた。彼は恋、というものを知らず育ったため、本当はどういった執着を抱いている物か、分からなかったのだ。幼かったというのもある。彼はアルファらしくプライドも高く、過小評価していたのだ、この感情を。
そのため、時々、サギリと同じオメガで試すのだ。
どうすれば、オメガは良い声で反応を返してくれるのかを。
同じオメガである彼らならば、レイの実験のごとき振る舞いでしかない意図的な愛撫を、喜び、返してくれると度重なる行為によって判明していくのである。
尻をいじってやれば、濡れるし。
胸をいじってやれば尖ってくる。
口を舐めてやれば、やわやわと反応を返してくるし。時々啜って、吸血鬼みたいにこちらの唾液さえも舐め返してくる。
貫いてやれば、良い具合に締まる。
そしてそれは、たまらなく気持ちが良い。
特に、彼らオメガ。
それなりに背があり、後ろを向いて小ぶりの尻をレイに向けている姿勢は、もっともレイの股間が固くなる時だ。濡れて包まれ、熱い体内はなんでか気持ちが昂る。
短い髪が感応でゆさゆさと上下に揺れる動きは、一等似ていた。
小さかったサギリは短髪で触ってみたかった。
ぐっと後ろから抱きしめて髪の毛に鼻を突っ込み、婚約者ではないオメガの匂いを存分に嗅ぐ。
(……きっと、サギリも……)
空想上でしかない匂いを想定しながら、思いっきり打ち付けると名も知らぬオメガが一際高く鳴いた。
成長していくサギリに伴い、選ばれたオメガも千差万別になった。
副会長は本当に選り好みしないな、と同級生のみならずオメガたちにもずっと思われていたが、実際には、小さなオメガばかり好んで抱いていた。今は、被験者と婚約者の背格好だけはできうる限り同じようなものでないといけない、というレイなりのこだわりがある。ひょろ長いオメガは数こそ多くはないがそれなりにはいる。妥協も必要だ。昔は似たようなオメガはいっぱいいたので楽ではあったが。もちろん、昔日を思い出して小さなオメガだって美味しくいただくが。
いずれ、サギリは妻となる。
それはレイにとって確定事項であり当然のように訪れる未来であった。
それまでになんとか。
レイは、まともに話をできるようにと研鑽をつむ。
見覚えのないオメガとのピロートークも毎回忘れない。ベッドの上ならいくらでも紡げるのに、いまだに本人とはまともな会話が成り立っていないのには疑問ではあったが、しかし努力は怠らない。
盛り上がるオメガと、平らな感情で静かになっていくレイの頭には、次の予定が積まれている。体もすっきりしたことだし、言葉は長舌にまるで嘘が滑らかに出てくる。最後に体のどこでもいいから触ってやれば相手は勝手に満足していなくなる。性欲発散は良いアイディアが浮かんで良いなと、こういった夕暮れどきの校舎内部を歩きながら常々思う。自分が言うのもなんだが、防犯についての良いヒントが浮かんだ。先ほどまで無人の使われていない実験室は声が篭ってなかなか良かったけれども、生徒会の議案として提出するのにちょうど良いだろう。実験器具が乱雑に置かれていた。
「ん……」
しばし考え事をしながら誰もいない廊下で足音を立てて進んでいくと、オメガの匂いがした。
つい先ほどどうでもいいピロートークをかました相手の匂いではない、真っ直ぐで、どこか瑞々しい緑の香りさえ混じっている、ああ、複数のオメガの匂いだ。考え事をしていたら、オメガのクラスへと近づいてしまったか。
鼻の先をすん、と蠢かす。
特に、サギリがいるオメガクラスからは良い匂いがする。サギリの香りも含まれていると思うと、たまらず喉奥がごくりと鳴る。
(早く、噛みたい)
きっと良い味がするだろうと。
分かっていた。
本当にこんな小さな子が婚約者になるんだろうか、と。いっそ不憫にさえ思っていた。
アルファ、の古い名家ではあったがレイの家はどこか革新的なところがあり、新しい風をとり込むのにちょうど急成長している商家のオメガは良いだろうと、娶わせることになった。
それが大成功で、化学反応を起こした結果レイの実家であるアルファの家はさらなる発展を遂げた。オメガとアルファの結びによる成功例の誕生だ。親たちはどちらもビジネスライクな態度もとるし身内のような雰囲気も醸しつつ、両家は我が世な春な日々を送っている。ただしぽつん、と弾かれたように飛び出た小さな婚約者は、いつもぼーっとしていて。
ホテルでの会食時、母親に連れてこられせめて話しかけようとタイミングを見計らうけれども、どうも、その合わない。つかめなかった。自分が。
なんでか声に出そうとすると、喉の奥が引き絞られた雑巾みたいになって声帯がガチガチになり、身体さえカチンコチンに固まるのである。謎だ。
自身の不思議さに首を捻る間に、サギリとの庭園デートは終わってしまう。
こういった奇妙な出来事は常に起こった。いつもそうだ。もはやそういう運命だと諦めねばならぬほどに、レイは、この符号を神妙に受け止めていた。彼は恋、というものを知らず育ったため、本当はどういった執着を抱いている物か、分からなかったのだ。幼かったというのもある。彼はアルファらしくプライドも高く、過小評価していたのだ、この感情を。
そのため、時々、サギリと同じオメガで試すのだ。
どうすれば、オメガは良い声で反応を返してくれるのかを。
同じオメガである彼らならば、レイの実験のごとき振る舞いでしかない意図的な愛撫を、喜び、返してくれると度重なる行為によって判明していくのである。
尻をいじってやれば、濡れるし。
胸をいじってやれば尖ってくる。
口を舐めてやれば、やわやわと反応を返してくるし。時々啜って、吸血鬼みたいにこちらの唾液さえも舐め返してくる。
貫いてやれば、良い具合に締まる。
そしてそれは、たまらなく気持ちが良い。
特に、彼らオメガ。
それなりに背があり、後ろを向いて小ぶりの尻をレイに向けている姿勢は、もっともレイの股間が固くなる時だ。濡れて包まれ、熱い体内はなんでか気持ちが昂る。
短い髪が感応でゆさゆさと上下に揺れる動きは、一等似ていた。
小さかったサギリは短髪で触ってみたかった。
ぐっと後ろから抱きしめて髪の毛に鼻を突っ込み、婚約者ではないオメガの匂いを存分に嗅ぐ。
(……きっと、サギリも……)
空想上でしかない匂いを想定しながら、思いっきり打ち付けると名も知らぬオメガが一際高く鳴いた。
成長していくサギリに伴い、選ばれたオメガも千差万別になった。
副会長は本当に選り好みしないな、と同級生のみならずオメガたちにもずっと思われていたが、実際には、小さなオメガばかり好んで抱いていた。今は、被験者と婚約者の背格好だけはできうる限り同じようなものでないといけない、というレイなりのこだわりがある。ひょろ長いオメガは数こそ多くはないがそれなりにはいる。妥協も必要だ。昔は似たようなオメガはいっぱいいたので楽ではあったが。もちろん、昔日を思い出して小さなオメガだって美味しくいただくが。
いずれ、サギリは妻となる。
それはレイにとって確定事項であり当然のように訪れる未来であった。
それまでになんとか。
レイは、まともに話をできるようにと研鑽をつむ。
見覚えのないオメガとのピロートークも毎回忘れない。ベッドの上ならいくらでも紡げるのに、いまだに本人とはまともな会話が成り立っていないのには疑問ではあったが、しかし努力は怠らない。
盛り上がるオメガと、平らな感情で静かになっていくレイの頭には、次の予定が積まれている。体もすっきりしたことだし、言葉は長舌にまるで嘘が滑らかに出てくる。最後に体のどこでもいいから触ってやれば相手は勝手に満足していなくなる。性欲発散は良いアイディアが浮かんで良いなと、こういった夕暮れどきの校舎内部を歩きながら常々思う。自分が言うのもなんだが、防犯についての良いヒントが浮かんだ。先ほどまで無人の使われていない実験室は声が篭ってなかなか良かったけれども、生徒会の議案として提出するのにちょうど良いだろう。実験器具が乱雑に置かれていた。
「ん……」
しばし考え事をしながら誰もいない廊下で足音を立てて進んでいくと、オメガの匂いがした。
つい先ほどどうでもいいピロートークをかました相手の匂いではない、真っ直ぐで、どこか瑞々しい緑の香りさえ混じっている、ああ、複数のオメガの匂いだ。考え事をしていたら、オメガのクラスへと近づいてしまったか。
鼻の先をすん、と蠢かす。
特に、サギリがいるオメガクラスからは良い匂いがする。サギリの香りも含まれていると思うと、たまらず喉奥がごくりと鳴る。
(早く、噛みたい)
きっと良い味がするだろうと。
分かっていた。
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