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遭遇すること
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「サギリ~」
「これ、あげる」
ここしばらく、ずっと元気がない僕のために仲良しなクラスメイトたちは心配げに飴ちゃんとか、美味そうなお菓子とかくれる。僕はすべすべな彼らの手からありがたくいただく。
「ありがとう……」
「どういたしまして!」
「元気だせー」
「……ん」
わちゃわちゃとあれこれ会話をし、しばらくすると予鈴がなり、先生がやってくる。
ひとり、またひとりと席につくオメガたち。
当たり前の光景だったけれどもこうして見回すや、本当に僕より華奢でくりくりとした目鼻立ちの。保護意欲そそるような、可愛らしい姿形ばかりの子に囲まれている。対し、僕はこうだ。まず、顔立ちが地味だ。
(オメガよりも太めの足に太い腕、首だってそうだし、
身長も……)
そりゃベータだから、花園の中にいるとにょきっと生えるように見えるわけである。
目立ってたけど、昨日よりもまた背丈が伸びた気がする……。
教科書を開き、先生の穏やかな声を聞いて黙読しながら、なんとはなしにこのクラスともお別れなのだろうと思うと、鼻の奥がつんとする。
(どうして僕はオメガじゃなかったんだろう。
なんで、ベータなの?
……そして、どうしてこのタイミングで……)
この学園も卒業したらしたで、各々、それぞれの人生を歩む。
まんま進学し、大学へ行くアルファも多いだろうし婚姻は家と家が絡む場合もあるが、案外と結婚して子を持ちながら学生をしてしまうものもいるにはいる。そういった子持ちアルファはどこか落ち着きがあり、魅力が増してみえるようで、モテモテであるという。単に安全牌だという見方をしているという節もあるが、ああ、こんな情報。
(……卒業しても僕はベータだし。
……いらない情報ばかりだ)
きゃっきゃうふふしながらも、オメガだって未来に不安はあるのだ。
あらゆる噂話を面白半分に流しながら、将来へ思いを馳せる。
僕は旧オメガの割に力があるので、よく先生方に物を持たされる。
(実質ベータなので、華奢じゃないから持てると思われて当たり前だけど)
実際にこうしたガラス部品が含まれているものだって、僕はきちんと持ち上げて抱えることができた。実験器具だ。あのまばらに置いてあった実験器具は、ただ単に先生のものぐさ……準備かもしれないけど、そのために広げてあっただけであるらしい。
(まあその割に埃が積もってたけど)
でも、頼まれて嫌な気はしない。
休憩時間だというのに、先生は用事があると申し訳なさそうに頭を下げていた。
元々、僕はこういったことは頼まれやすかった。
人が良い、とオメガの友達はいう。
オメガのクラスメイト曰く、「そういったことはそこらにいる子に、きゅるるるんと頼めば喜んでやってくれるよ。馬車馬のように」とのことだ。カラカラと笑うオメガたる彼は、間違いなく姫ポジだろう。小悪魔的な微笑で滅多にあえないオメガに言われるってのはやっぱり違うらしい。お近づきになれるかもしれないと、下心丸出して誰もが我も我もと押しかけていた光景はゾッとした。確かに、手に届かないと思っている子が急に近づいてきたら、そりゃあ俄然張り切るものだ。それも相手から甘い声をかけられでもしたら。
(僕じゃ、そんなこと。できないし)
上目遣いでお願いなんて、物語の中の話ばかりではなかった。
可愛い子にデレデレになっているのを目撃するのは、何も通りすがりの人に頼み事をするクラスメイトの揺らめく悪魔の尻尾……ばかりじゃない。
本当にお尻を振っているのを見たのは、いつのことだったか。
丸くて、触り心地良さそうな臀部が上下に動いているのを見つけてしまったのは。
衝撃的すぎて、僕はそれ以降の、彼の動きについてはさほど気にもとめなかった。
彼らは、あまりにも甘すぎる空間にいた。
湿っていて、それでいて、僕の心を抉った景色。
それは、夕暮れどき。
学校帰りの、あのとき。
(何がどうして、あのとき足が向いたのかはわからない。
ただ、僕は彼を探していた)
今は荷物を抱えている。
落としたらガラス部分が割れてしまうから、ゆっくりと動かなきゃならない。
ふうふうと息を吐きながら、僕は進んだ。
オメガクラスのいるところからはかなり距離があるけれど、必ず通るのは過去。
そう、いうことなんだろう。
(あ……)
あともう少し、といったところで、真昼間であるというのに、その現在が近づいてきた。
ゆっくりと、ゆっくりと進む僕の足取り。
「あ、ぅんっ、レ……」
間違いなく、これは。
僕は冷や汗をかいた。身体中が、鳥肌立つ。
行ってはいけない、いけないよ。分かっている。でも。
僕は実験器具を抱えている。大事にしなきゃ。ゆっくりと歩む。
「レ、イ……あ、そこ……いぃ……」
嫌な声だ。
身体中の血の気が引く。
「やんっ、吸わないで……」
(気持ち悪い)
心底思う。
「あん、あ、ん、んん、っ。
レイぃ……ぼくも、チューしたい……」
「これ、あげる」
ここしばらく、ずっと元気がない僕のために仲良しなクラスメイトたちは心配げに飴ちゃんとか、美味そうなお菓子とかくれる。僕はすべすべな彼らの手からありがたくいただく。
「ありがとう……」
「どういたしまして!」
「元気だせー」
「……ん」
わちゃわちゃとあれこれ会話をし、しばらくすると予鈴がなり、先生がやってくる。
ひとり、またひとりと席につくオメガたち。
当たり前の光景だったけれどもこうして見回すや、本当に僕より華奢でくりくりとした目鼻立ちの。保護意欲そそるような、可愛らしい姿形ばかりの子に囲まれている。対し、僕はこうだ。まず、顔立ちが地味だ。
(オメガよりも太めの足に太い腕、首だってそうだし、
身長も……)
そりゃベータだから、花園の中にいるとにょきっと生えるように見えるわけである。
目立ってたけど、昨日よりもまた背丈が伸びた気がする……。
教科書を開き、先生の穏やかな声を聞いて黙読しながら、なんとはなしにこのクラスともお別れなのだろうと思うと、鼻の奥がつんとする。
(どうして僕はオメガじゃなかったんだろう。
なんで、ベータなの?
……そして、どうしてこのタイミングで……)
この学園も卒業したらしたで、各々、それぞれの人生を歩む。
まんま進学し、大学へ行くアルファも多いだろうし婚姻は家と家が絡む場合もあるが、案外と結婚して子を持ちながら学生をしてしまうものもいるにはいる。そういった子持ちアルファはどこか落ち着きがあり、魅力が増してみえるようで、モテモテであるという。単に安全牌だという見方をしているという節もあるが、ああ、こんな情報。
(……卒業しても僕はベータだし。
……いらない情報ばかりだ)
きゃっきゃうふふしながらも、オメガだって未来に不安はあるのだ。
あらゆる噂話を面白半分に流しながら、将来へ思いを馳せる。
僕は旧オメガの割に力があるので、よく先生方に物を持たされる。
(実質ベータなので、華奢じゃないから持てると思われて当たり前だけど)
実際にこうしたガラス部品が含まれているものだって、僕はきちんと持ち上げて抱えることができた。実験器具だ。あのまばらに置いてあった実験器具は、ただ単に先生のものぐさ……準備かもしれないけど、そのために広げてあっただけであるらしい。
(まあその割に埃が積もってたけど)
でも、頼まれて嫌な気はしない。
休憩時間だというのに、先生は用事があると申し訳なさそうに頭を下げていた。
元々、僕はこういったことは頼まれやすかった。
人が良い、とオメガの友達はいう。
オメガのクラスメイト曰く、「そういったことはそこらにいる子に、きゅるるるんと頼めば喜んでやってくれるよ。馬車馬のように」とのことだ。カラカラと笑うオメガたる彼は、間違いなく姫ポジだろう。小悪魔的な微笑で滅多にあえないオメガに言われるってのはやっぱり違うらしい。お近づきになれるかもしれないと、下心丸出して誰もが我も我もと押しかけていた光景はゾッとした。確かに、手に届かないと思っている子が急に近づいてきたら、そりゃあ俄然張り切るものだ。それも相手から甘い声をかけられでもしたら。
(僕じゃ、そんなこと。できないし)
上目遣いでお願いなんて、物語の中の話ばかりではなかった。
可愛い子にデレデレになっているのを目撃するのは、何も通りすがりの人に頼み事をするクラスメイトの揺らめく悪魔の尻尾……ばかりじゃない。
本当にお尻を振っているのを見たのは、いつのことだったか。
丸くて、触り心地良さそうな臀部が上下に動いているのを見つけてしまったのは。
衝撃的すぎて、僕はそれ以降の、彼の動きについてはさほど気にもとめなかった。
彼らは、あまりにも甘すぎる空間にいた。
湿っていて、それでいて、僕の心を抉った景色。
それは、夕暮れどき。
学校帰りの、あのとき。
(何がどうして、あのとき足が向いたのかはわからない。
ただ、僕は彼を探していた)
今は荷物を抱えている。
落としたらガラス部分が割れてしまうから、ゆっくりと動かなきゃならない。
ふうふうと息を吐きながら、僕は進んだ。
オメガクラスのいるところからはかなり距離があるけれど、必ず通るのは過去。
そう、いうことなんだろう。
(あ……)
あともう少し、といったところで、真昼間であるというのに、その現在が近づいてきた。
ゆっくりと、ゆっくりと進む僕の足取り。
「あ、ぅんっ、レ……」
間違いなく、これは。
僕は冷や汗をかいた。身体中が、鳥肌立つ。
行ってはいけない、いけないよ。分かっている。でも。
僕は実験器具を抱えている。大事にしなきゃ。ゆっくりと歩む。
「レ、イ……あ、そこ……いぃ……」
嫌な声だ。
身体中の血の気が引く。
「やんっ、吸わないで……」
(気持ち悪い)
心底思う。
「あん、あ、ん、んん、っ。
レイぃ……ぼくも、チューしたい……」
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