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目録(作者用途 辞典的なもの) 番外編
巫女 番外編
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昔はとても大事にされていたわ。
祭祀の家だもの、当然ですわね。なんたって神人が関わっている関係ですもの、この家を蔑ろにするなんて言語道断……いえ。獣にも悖る行いですわね……。
それが、わたくしの時代で終わるなんて。信じられない暴挙。
もう……呆れて、いえ、諦観、といったらいいのかしらん? どうしようもないことなのですわ。神も人も、距離が離れてしまいましたから、心も離れていくのも当然、時代の流れ、というべきなのかもしれません。
嗚呼、どうしてこうなってしまったのかしら。
なぜ、わたくしの代で終焉、と。
苦しいわ。
物事はいずれは終わるとはいえ、ここまでひどい道を歩まねばならぬとは。
神も人も、あったものではありませんわね。
かつての暖かな記憶があればこそわたくしはこんなにも辛い。辛抱できる痛みではありませんわ。
助けなんぞないってことは、わかっております。
不肖、この身は代々の巫の血が流れているのですもの。
承知しております。神人のために、生きてきたのです。善良でしたもの、幸せがあっても良いのでは?
そう思うのも当然でありましょう?
でも……そんな贅沢な未来は存在しうるのでしょうか。
わたくし、女としての幸福を損ないましたので、今後、どういったものが巡り合わせとしてやってくるのか、まったく想定できません。
「……ひとつ、お聞きしたいが」
「なんでしょう、人の顔さん」
「……その顔ってなんですか」
はは、と苦笑気味の男性が、肩を竦めて微笑みます。
「……少なくとも、あなた様がわたくしの家を貶め、
取り上げた雲上人であることは存じておりますわ」
「……それは、俺じゃなく」
「いいえ。もう何もおっしゃらないでくださいな。
わたくしは少なからずとも、あなた様の家のためにも
仕えてきた家なのです。
罰した、となればその判断を覆すことは難しい」
涼やかな目を持つ男の傍には、いく人かの只人ではない者どもが控えています。
目に見えない彼らは、きっとあの方の元へと足取りを追いかけていったのでしょう。
「俺が生まれる前は、神鳥たちの祭祀はきちんと行われていた。
それが覆ったのは、兄上のときだった。
兄上は……」
「改革を推し進め、求める欲を表に出しすぎたのですわ」
いいえ、いずれにしろ。
「どちらにせよ、わたくしたちの道は交わることはなかったのです。
王弟殿下」
「もう……ダメなのか」
「人間はダメです」
「頑張っても?
リアさんに、あの人に、
求められても?」
「無理です。
わたくしが許しません」
「はは……まいったな」
すべてを持ち合わせ、金も権力も容姿も頭脳も人間関係ですら神人との関わりがあった男だった。本来であれば、彼は何もかもを手に入れられるほどの担力と才も持ち合わせ、その聡明さで戦争さえも回避してみせることも難しいことではなかったはずだった。
「俺だって……」
わたくしは、きちんと最後通牒を突きつけて差し上げます。
「あなたは欲をかきすぎました。
もう無理なものは無理なのです。ダメなものはダメなのです」
立場的にも娼婦という場末の女が、こんな高貴なる男を手前において、まっすぐに見返し拒絶するとは。
告げるわたくしは、なんと残酷なことで、そして愉快なことでありましょう。
男の顔はなんとも不可思議な、妙な顔つきでいらっしゃる。
感情を表に出すべきではない貴族の中の貴族である彼は、こんな時でもその貴族らしく立ち振る舞いを忘れることはせず、わたくしを拒絶もせずにいる。いいえ、心の中では吹き荒れているのでしょう、きっと、彼もまた求めていた。わたくしは泥の中の泥、地獄の泥にまみれておりましたが、彼は金満な世界でごろごろと。
彼女の後ろを必死に追いかけた、そうですが、なんとも眉唾なものです。
痛ましいわたくしはこうみえて、潔癖なのです。
二股男に、リアを渡しません。
婚約者、がいるということは彼は一人の身ではないのです。
神人は寂しがり屋なのですから。
心が一途であれば何をしてもいい、なんてことはわたくしには理解できませんのよ。
(わたくしを蹂躙してきた男たちは、元婚約者でさえ、
心にもない言葉ばかり吐いて、ヘドロをわたくしに吐いてみせた。
二股なんて、気味の悪い、後味の悪い残酷な、傷さえも塗りつぶして広げる悪行ですわ)
嗚呼、どうして人の心とはままらないものかしら。
嘘も偽りも、真実も混ぜながらわたくしを嫌悪させてくれる。
人は、自分を守るために嘘をつきますが、しかし、決してすべてがすべて、嘘というわけでもないのです。神人は、本当に、好ましい雰囲気の持ち主でしたわ。
(このようなドロドロとしたものは、流し切ってしまいたいものですのに)
さて、わたくしの友は、支えるべきあの方は、どう思うのでしょう。この身を。このわたくしを。
触れるのも悍しい、ひとりぼっちのわたくしを。
わたくしの手を、とってくださるでしょうか。
昔日の、神代のごとく。
わたくしは、最後の終わりを迎えることになるのでしょうか。
絶望をかき集めるのでしょうか。
わかりません。
神々が立ち去った世界は、とても歪で、しかし、閉じたものなのですから。
祭祀の家だもの、当然ですわね。なんたって神人が関わっている関係ですもの、この家を蔑ろにするなんて言語道断……いえ。獣にも悖る行いですわね……。
それが、わたくしの時代で終わるなんて。信じられない暴挙。
もう……呆れて、いえ、諦観、といったらいいのかしらん? どうしようもないことなのですわ。神も人も、距離が離れてしまいましたから、心も離れていくのも当然、時代の流れ、というべきなのかもしれません。
嗚呼、どうしてこうなってしまったのかしら。
なぜ、わたくしの代で終焉、と。
苦しいわ。
物事はいずれは終わるとはいえ、ここまでひどい道を歩まねばならぬとは。
神も人も、あったものではありませんわね。
かつての暖かな記憶があればこそわたくしはこんなにも辛い。辛抱できる痛みではありませんわ。
助けなんぞないってことは、わかっております。
不肖、この身は代々の巫の血が流れているのですもの。
承知しております。神人のために、生きてきたのです。善良でしたもの、幸せがあっても良いのでは?
そう思うのも当然でありましょう?
でも……そんな贅沢な未来は存在しうるのでしょうか。
わたくし、女としての幸福を損ないましたので、今後、どういったものが巡り合わせとしてやってくるのか、まったく想定できません。
「……ひとつ、お聞きしたいが」
「なんでしょう、人の顔さん」
「……その顔ってなんですか」
はは、と苦笑気味の男性が、肩を竦めて微笑みます。
「……少なくとも、あなた様がわたくしの家を貶め、
取り上げた雲上人であることは存じておりますわ」
「……それは、俺じゃなく」
「いいえ。もう何もおっしゃらないでくださいな。
わたくしは少なからずとも、あなた様の家のためにも
仕えてきた家なのです。
罰した、となればその判断を覆すことは難しい」
涼やかな目を持つ男の傍には、いく人かの只人ではない者どもが控えています。
目に見えない彼らは、きっとあの方の元へと足取りを追いかけていったのでしょう。
「俺が生まれる前は、神鳥たちの祭祀はきちんと行われていた。
それが覆ったのは、兄上のときだった。
兄上は……」
「改革を推し進め、求める欲を表に出しすぎたのですわ」
いいえ、いずれにしろ。
「どちらにせよ、わたくしたちの道は交わることはなかったのです。
王弟殿下」
「もう……ダメなのか」
「人間はダメです」
「頑張っても?
リアさんに、あの人に、
求められても?」
「無理です。
わたくしが許しません」
「はは……まいったな」
すべてを持ち合わせ、金も権力も容姿も頭脳も人間関係ですら神人との関わりがあった男だった。本来であれば、彼は何もかもを手に入れられるほどの担力と才も持ち合わせ、その聡明さで戦争さえも回避してみせることも難しいことではなかったはずだった。
「俺だって……」
わたくしは、きちんと最後通牒を突きつけて差し上げます。
「あなたは欲をかきすぎました。
もう無理なものは無理なのです。ダメなものはダメなのです」
立場的にも娼婦という場末の女が、こんな高貴なる男を手前において、まっすぐに見返し拒絶するとは。
告げるわたくしは、なんと残酷なことで、そして愉快なことでありましょう。
男の顔はなんとも不可思議な、妙な顔つきでいらっしゃる。
感情を表に出すべきではない貴族の中の貴族である彼は、こんな時でもその貴族らしく立ち振る舞いを忘れることはせず、わたくしを拒絶もせずにいる。いいえ、心の中では吹き荒れているのでしょう、きっと、彼もまた求めていた。わたくしは泥の中の泥、地獄の泥にまみれておりましたが、彼は金満な世界でごろごろと。
彼女の後ろを必死に追いかけた、そうですが、なんとも眉唾なものです。
痛ましいわたくしはこうみえて、潔癖なのです。
二股男に、リアを渡しません。
婚約者、がいるということは彼は一人の身ではないのです。
神人は寂しがり屋なのですから。
心が一途であれば何をしてもいい、なんてことはわたくしには理解できませんのよ。
(わたくしを蹂躙してきた男たちは、元婚約者でさえ、
心にもない言葉ばかり吐いて、ヘドロをわたくしに吐いてみせた。
二股なんて、気味の悪い、後味の悪い残酷な、傷さえも塗りつぶして広げる悪行ですわ)
嗚呼、どうして人の心とはままらないものかしら。
嘘も偽りも、真実も混ぜながらわたくしを嫌悪させてくれる。
人は、自分を守るために嘘をつきますが、しかし、決してすべてがすべて、嘘というわけでもないのです。神人は、本当に、好ましい雰囲気の持ち主でしたわ。
(このようなドロドロとしたものは、流し切ってしまいたいものですのに)
さて、わたくしの友は、支えるべきあの方は、どう思うのでしょう。この身を。このわたくしを。
触れるのも悍しい、ひとりぼっちのわたくしを。
わたくしの手を、とってくださるでしょうか。
昔日の、神代のごとく。
わたくしは、最後の終わりを迎えることになるのでしょうか。
絶望をかき集めるのでしょうか。
わかりません。
神々が立ち去った世界は、とても歪で、しかし、閉じたものなのですから。
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