欺瞞と欲望

ちか

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第1話 皆さんと美里ちゃん

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 Q.美里ちゃんについての印象を教えてください。

「あぁ、私同じ小学校に通ってたんですけど、とても良い子でしたよ!いつも笑顔で、人当たりもよくて!みんな優しい子だねって言ってました!」

「私美里ちゃんと同じ中学でしたけど、成績は良くて、顔も可愛い。みんなの憧れって感じでしたね。」

「彼女を一言で表現することは難しいけれど、とにかく人を虜にしちゃう人だった。美里は博識で、何の話題にもついていけちゃうから、美里ちゃんの周りにはいつもたくさんの人がいたな」

 「私一緒にアルバイトしていたんですけど、ノリの良い子で、お客さんからも人気者でしたよ!あんなに可愛くて頭も良くて、人からもモテるなんて、ほんと嫌になっちゃう」

 

 梶原刑事はホワイトボードに記されている美里に関する証言を見て、首を傾げながら呟いた。

「うーん…頭脳明晰、容姿端麗、おまけに謙虚で人に好かれる女性か…」

 すると梶原の背後に、部下である井上刑事が忍び寄った。井上は世間が想像する刑事とはかなりかけ離れており、顔つきは強面よりは舐められるタイプで、性格だって何を考えているのか一切わからない。常に顔にスマイルを浮かべているようなやつだ。

「そいえば最近行方不明者数多いですよね」

 梶原は井上の存在に体がびくりとしたが、すぐに平静に戻った。井上の顔を睨みつけ、頬を軽く叩くと、美里の顔写真が貼られているホワイトボードの方に目をやる。

 ホワイトボードには美里の一枚の顔写真、交友関係、聞き込みで得た美里の印象が丁寧に書かれている。
 
 井上がホワイトボードから1番近い机に腰掛け、美里の写真を見ながらおもむろに言った。

  「こんなに顔も綺麗で頭も良くて、おまけに父親があの政治家ですものね。見つからなかったら梶原さん、やばいんじゃないですか」
 
 井上は梶原の方をみて、ニヤリとした。すかさず梶原は井上に、梶原お得意の意味の籠った眼光を突きつけた。井上は梶原の意図することを勘ぐり、すかさず謝罪した。この二人は署内で有名なコンビだった。

 「しかしわからんな、防犯カメラで足取りも追えないし、まるで神隠しだ。おまけに聞き取りだって皆似通ったことを言う。井上、お前もう一度、大学で聞き取りしてこい」

 梶原は井上に指示を出すと、井上は行儀の良い返事を返し、颯爽と署を出て行った。その頃、都心は赤紫色の夕陽に照らされていた。

 東京でも閑静な地域にあるこの大学は、生徒数2000人に満たない規模の小さい女子大学で、就職先は多岐にわたっている。研究者を目指す学生も多く、美里は英文学部の4年次生だった。井上は美里が所属していた企業研究サークル、ゼミに顔を出し、生徒に知っている情報を求めたが、またもや同じ解答しか得られなかった。梶原さんに怒られることを悟った井上は、梶原への貢物として自動販売機でコーヒーを買い、ベンチに座った。
 
 するとそこへ、1人の少女が駆け寄ってきた。

 「あの、友達から美里ちゃんのことを聞いている刑事がいると聞いて。あの、春って子に話は聞きましたか?」

 少女は背丈が小さく、高校生の面影が残る学生だった。見慣れない刑事に怯えながらも、勇気を出して尋ねたことが、少女の顔色から伺えた。井上は自動販売機で少女にジュースを買い、ベンチの隣に座らせた。少女は大きなリュックサックを膝の上に乗せ、缶を開けた。そして井上が調査者名簿を確認するのを待った。数分後、井上はパタンと名簿を閉じ言った。

 「春っていう子の記録はないね。君、春と美里ちゃんの関係について何か知っていることがあったら、教えてくれるかな。」
 
 少女は缶を両手で握り締め言った。

 「私は1年前、映画と文学という授業を受講していました。その授業には美里ちゃんも参加していて、私陰ながら美里ちゃんのファンだったので、常に後ろの席に座っていました。その授業は1年生ターゲットだったから、美里ちゃんは1人だったんです。でもある時から春って人が美里ちゃんの隣の席に座り出して、美里ちゃんも楽しそうでしたし、仲の良い友達なんじゃないかと思って」

 少女は泣き出しそうだった。井上は少女が美里ちゃんを心配しているのだと思い、警察は全力で捜査している旨を伝え励ました。夕陽も沈みかけ、夜になる前の束の間の時が訪れた。井上は少女を駅まで送り届け、去り際に尋ねた。

 「貴重な情報ありがとう。春って子について調べてみるね。あ、最後に君名前は何ていうの?」

 少女は俯き言った

「風花です、さようなら」

 
 井上は署に戻り、大学の学生名簿を調べた。しかし、春という人物は在籍名簿にも、卒業名簿にも載っていなかった。

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