追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

文字の大きさ
14 / 95
おっさん、新人冒険者の面倒を見る

3人の日々

しおりを挟む
 ダンテがセレナ、リンを拾ってから数日が経った。
 彼らの泊まる宿の中庭では、朝から昼の間まで騒がしくなる時間がある。

「――とおぉーうっ!」

 それは彼女達がダンテの指導の下、戦闘訓練をする時間だ。
 今日もまた、尻尾で木剣を掴んだセレナが、素手のダンテとぶつかり合っていた。
 しかも彼女の動きは、初めて彼と戦った時よりもずっと鋭く、機敏きびんで、がむしゃらさを感じさせない洗練されたものとなっているのだ。

「いいぞ、セレナ! 俺だけじゃない、後ろのリンの位置も常に意識しろ!」

 彼が教えるまでもなく、セレナは自分とリンの位置を把握している。
 少なくとも、仲間に誤射をさせてしまうようなマヌケな失敗はしない。

「リン!」
「ラジャー」

 攻撃を続けるセレナの呼びかけに応じて、リンは魔導書を光らせ、呪文を読み上げた。

「『踏まれた土くれ、お前が呑みこむ者となれ』」

 すると、彼女の足元がめきめきと膨れ上がったかと思うと、地割れの如くダンテのそばまで届き、魔法が彼の足場を持ち上げてしまった。

(土属性の魔法……地面を隆起りゅうきさせて、俺の姿勢を崩すつもりか)

 うまくいけば、彼が転んでいるうちに木剣の打撃を叩き込めるだろう。

「よし、これなら!」

 セレナもそうなると確信したが、相手はダンテだ――簡単にはいかない。

「甘いぞ」

 つまずいたように見えたダンテは、なんと隆起した地面に手の指を突き刺して、体を支えてしまったのだ。
 彼が必ず転ぶと思っていたセレナの一撃は、そのせいで空振りしてしまった。

「え、ええっ!? 指だけで体を支えて……」
「ぼさっとするな」
「んぎゃっ!」

 驚くセレナの頭に、立ち上がったダンテのげんこつが命中した。

「リンもだ」
「あてっ」

 いでたちまち距離を詰められたリンの頭にも、げんこつを一発。
 ひりひりと痛む頭を抑えるふたりを交互に見て、ダンテは満足げに鼻を鳴らした。

「今日も賭けは俺の勝ち、一撃も与えられなかったな。約束通り、次の食料品の買い出しはお前らに任せたぞ」

 落としてしまった木剣や魔導書を拾い上げながら、セレナもリンも口を尖らせる。

「うーん……昨日よりは絶対にうまくいったはずなんだけどなあ……」
「ボク達、本当に強くなってるのかな?」
「何言ってんだ。訓練を始めてまだ数日だが、ふたりとも、めきめき上達してるぞ」

 ふたりの疑問に、ダンテが当然のように答えた。

「セレナはほとんど無意識にリンの場所を把握して、攻撃しながらも魔法の邪魔をしないポジションにつけてる。リンは魔法の発動回数を最小限に減らして、一番効果のある時に撃てるようになった」

 ダンテの目から見ても、ふたりの動きは初日とは比べ物にならない。
 彼女達の実力が想像以上に低ければ、ダンテはもう少しレベルを落とした基礎的な戦闘訓練に変えるつもりだったが、その必要もないだろう。

「少なくともお前らの実力は、もう新米冒険者の域を出てる。俺の教えのたまものだな」

 自分には教師の才能もあったのかとひとりごちて、ダンテは腕を組んで頷いた。

「確かに、リンの場所がなんとなくわかるかも! ダンテの教えかはともかく」
「ボクも、魔法を撃っても疲れなくなった。ダンテの教えかはともかく」
「ひどくないか?」

 もっとも、今時の若者は教えを大事にしないものだ。
 ちょっぴり生えたひげをさすりながら、ダンテはちょっぴり寂しそうにため息をついた。

「とにかく、ここまでやれたなら上出来だ。それじゃあ、今日もクエストを受けに行くか」
「「はーい!」」

 こうして訓練が終われば、3人は軽く汗を流してからギルドに向かい、受付嬢からクエストの一覧表をもらいに行く。
 特に買い出しなどがない日は、ダンテ達は冒険者活動にいそしんでいた。
 軽く準備を整えて、宿屋のおかみと娘に挨拶して宿を出るのもいつも通り。
 ギルドまで一直線に続く目抜めぬき通りを歩くのも、いつも通りだ。

「そういえば、ダンテと出会ってもう半月も経つんだね」

 冒険者や行商人ぎょうしょうにん、様々な人間や獣人が行き交う中、ふとセレナが思い出して口を開いた。

「フレイムリザードを討伐してから、C級に昇格した。受けられるクエストも増えた」

 リンの言うように、ふたりはあっという間にC級冒険者に昇格できた。
 巨大なフレイムリザードを討伐した実績が認められたのと、その後に何度か連続でクエストを成功させたのもあって、昇格はあっという間だった。

「ま、だいたいは俺がどうにかしてやったけどな」

 ダンテが歯を見せて笑うと、セレナがむくれる。

「むーっ! そんなことないよ、あたし達だって大活躍してたじゃん!」
「そうか? セレナは『スカーウルフ』を追いかけてひどい目に遭ってただろ」
「あ、あれは……!」

 だが、ダンテがとある話を切り出すと、急に彼女の顔が赤くなった。
 リンもくすくすと笑いだす話は、さかのぼること2日前にあった、スカーウルフと呼ばれる凶暴なモンスターを討伐するクエストの最中に起きた事件だ。
 クエスト自体は単調で、森にいたモンスターはセレナが簡単に斬り伏せた。

『やった、スカーウルフ討伐! もう1頭は逃げたけど、すぐに追いかけよう!』
『納品する分の毛皮は、もう足りてるよ』
『追加で狩れば、その分報酬がもらえるじゃん! リンとダンテは待ってて、あんなの、あたしの爪でパパっと細切こまぎれにしちゃうからさ!』

 ダンテは無言でリンの意見に賛成したが、セレナは欲を出して駆けてしまった。
 森の中に姿を消した彼女がいつ戻ってくるのか、リンは少しだけ心配そうにしている。

『行っちゃった』
『なに、すぐ戻ってくるさ。なんせスカーウルフは……』

 リンの隣で眉を動かすダンテが話している途中に、彼の予想は的中した。

『……ぬ、死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ絶対死ぬっ……!』

 鼻水と涙をまき散らして、セレナが戻ってきた。
 ――しかも後ろに、雄たけびを上げる9頭のスカーウルフを引き連れて、だ。

『最低でも10頭で群れパックを構成するからな。いい勉強になったろ?』
『はひ、はひ、た、たっ、助けてぇーっ!』

 けらけらと笑うダンテのところに全力疾走してくる、迫真極まりないセレナの顔は、忘れようと思っても忘れられないだろう。
 結局スカーウルフは全部ダンテが討伐したのだが、セレナはしばらく腰を抜かしていた。
 あの時の話をすると、リンが今みたいに、珍しく口を押さえて笑うのだ。

「狼に追いかけられてるセレナ、すごい顔だった。ふふっ」

 ただ、セレナもカウンターになる話題をもっている。

「ふん! リンだって、すっごく恥ずかしい経験があるでしょ!」
「ああ、確かにあったな。ありゃ今でもお笑いぐさだ」
「む……お、思い出させないでよ」

 今度はリンがリンゴのように頬を膨らませるが、当然セレナは口を閉じない。

「ダメダメ! 『ウンコ手づかみ事件』は、ぜーったい忘れられないもんね!」

 しかもリンに関する失敗談の方が――セレナより、ずっと恥ずかしいのである。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい

桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

空月そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜

桜井正宗
ファンタジー
 能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。  スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。  真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。

固有スキルガチャで最底辺からの大逆転だモ~モンスターのスキルを使えるようになった俺のお気楽ダンジョンライフ~

うみ
ファンタジー
 恵まれない固有スキルを持って生まれたクラウディオだったが、一人、ダンジョンの一階層で宝箱を漁ることで生計を立てていた。  いつものように一階層を探索していたところ、弱い癖に探索者を続けている彼の態度が気に入らない探索者によって深層に飛ばされてしまう。  モンスターに襲われ絶体絶命のピンチに機転を利かせて切り抜けるも、ただの雑魚モンスター一匹を倒したに過ぎなかった。  そこで、クラウディオは固有スキルを入れ替えるアイテムを手に入れ、大逆転。  モンスターの力を吸収できるようになった彼は深層から無事帰還することができた。  その後、彼と同じように深層に転移した探索者の手助けをしたり、彼を深層に飛ばした探索者にお灸をすえたり、と彼の生活が一変する。  稼いだ金で郊外で隠居生活を送ることを目標に今日もまたダンジョンに挑むクラウディオなのであった。 『箱を開けるモ』 「餌は待てと言ってるだろうに」  とあるイベントでくっついてくることになった生意気なマーモットと共に。

世界最強の賢者、勇者パーティーを追放される~いまさら帰ってこいと言われてももう遅い俺は拾ってくれた最強のお姫様と幸せに過ごす~

aoi
ファンタジー
「なぁ、マギそろそろこのパーティーを抜けてくれないか?」 勇者パーティーに勤めて数年、いきなりパーティーを戦闘ができずに女に守られてばかりだからと追放された賢者マギ。王都で新しい仕事を探すにも勇者パーティーが邪魔をして見つからない。そんな時、とある国のお姫様がマギに声をかけてきて......? お姫様の為に全力を尽くす賢者マギが無双する!?

収納魔法を極めた魔術師ですが、勇者パーティを追放されました。ところで俺の追放理由って “どれ” ですか?

木塚麻弥
ファンタジー
収納魔法を活かして勇者パーティーの荷物持ちをしていたケイトはある日、パーティーを追放されてしまった。 追放される理由はよく分からなかった。 彼はパーティーを追放されても文句の言えない理由を無数に抱えていたからだ。 結局どれが本当の追放理由なのかはよく分からなかったが、勇者から追放すると強く言われたのでケイトはそれに従う。 しかし彼は、追放されてもなお仲間たちのことが好きだった。 たった四人で強大な魔王軍に立ち向かおうとするかつての仲間たち。 ケイトは彼らを失いたくなかった。 勇者たちとまた一緒に食事がしたかった。 しばらくひとりで悩んでいたケイトは気づいてしまう。 「追放されたってことは、俺の行動を制限する奴もいないってことだよな?」 これは収納魔法しか使えない魔術師が、仲間のために陰で奮闘する物語。

処理中です...