追放された美少女を助けた底辺おっさんが、実は元”特級冒険者”だった件について。

いちまる

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おっさん、ドラゴンを討伐する

10年越しの邂逅

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 リンを地面に下ろしたダンテと、ギラヴィの目が合った。

『……おう、おう、おう。誰かと思えば、竜殺しの人間か』

 不思議とギラヴィは、すぐさまに怒りをあらわにはしなかった。

『少し老けたが、その顔、その獲物……忘れはせぬぞ、ああ、父を、母を、同胞をむごたらしく死に至らしめたのを我は忘れておらぬぞ、ダンテ・ウォーレン!』

 もっとも、決して怒りを孕んでいないわけではない。
 むしろ腹の中にある激情を、ただ必死に抑え込んでいるようにも見える。

「俺の顔の記憶だけで、よくもまあ、名前までたどり着いたもんだな」
『我の憎しみを舐めるな、人間の名を追うくらい造作もない!』

 ギラヴィが前脚を掲げると、一斉にワイバーン達がダンテめがけて突進してきた。

『『ギャアオオオオ!』』

 数は少なく見積もっても10匹以上。
 一般人どころか、並の冒険者でも死を覚悟する数だ。

「話の邪魔をすんじゃねえよ」

 だが、ダンテは眉を動かしすらしなかった。
 彼がナイフを振るうだけで、たちまちワイバーンの首が刎ねられた。

『ギャガァ!?』
『アギャアア!』

 首以外は、完全に無傷。
 なのに、ワイバーンは確実に死に至り、血の一滴も流さないまま絶命した。
 どう、と襲い掛かってきたモンスターのすべてが一瞬で絶命するさまを、ギラヴィもまた、まばたきすらせずに見つめていた。

『鍛え上げられたワイバーンを、一撃で仕留めるか』
「仲間がやられても顔色ひとつ変えないあたり、お前はこいつらを手駒程度にしか思ってないみたいだな。ワイバーンからしてみりゃ、お前は救世主なんだぜ?」

 瞳の細い黒点が、一層細くなる。

『ほう?』
「ワイバーンは素材の優秀さから、人間に狩られてきた過去のあるモンスターだ。だから、人目につかない深い峡谷に棲む傾向がある」

 ひとりも1匹も、声を決して荒げていない。
 それでもごうごうと唸る炎の音に、どちらの声もかき消されないのだ。

「ところがギラヴィ、お前はこいつらを引きずり出してきたわけだ。自分の復讐の道具にするために、人への怒りや憎しみを煽り立てたんだろ」
『煽るとは人聞きの悪い。我はただ、人間がどれほど邪悪かを説いただけだ』
「ワイバーンは王国の法で、もう許可なしには狩れない。お前が垂れたご高説こうせつは、10年前の知識を引っ張り出しただけの……いわゆる、嘘だ」
『嘘? 人の残虐さが嘘というのが、もはや嘘であろう?』

 ようやく、ギラヴィの声に憤怒の感情がにじみ出した。

『ただ殺せばいいものを、どれだけ苦しめてドラゴンを殺した? 父と母が哀願するさまを見ても眉ひとつ動かさん貴様の心が、人間の愚かさと傲慢さ、残虐さを表していないとは言わせんぞ、ダンテ・ウォーレン……ッ!』

 ぎりぎりと歯が鳴り、口元から炎が漏れる。
 もしも視線だけで相手を呪い殺せるなら、ダンテはもう10回は死んでいるだろう。

『貴様は人を襲わない、人と関わらないと約束した我が一族を皆殺しにした! ドラゴンが何をした、貴様ら人間を滅ぼそうとでもしたか!? 否、いつの世も我らに害をなし、くだらぬ理由で滅しようとしたのは貴様ら人間だ、人間という名の獣だ!』

 金色の竜がここまで人を憎むのは、種族としての愚かさを知っているからに他ならない。
 何よりこのドラゴンは、その犠牲者でもある。

『父が、母が人を戯れに殺めたことなど一度もない! 善良なドラゴンだ、生きるためにしか狩りをしない、正しきものだ!』

 ギラヴィにとって、家族とはかけがえのない存在だった。
 竜としての誇りのもと、あくまで一族のためにだけ他者を殺めるのだという決まりのもと、自信を持って狩りをするのだと教えられた。
 ついぞ仲間のもとでハンティングはできなかったが、ギラヴィもいずれは、家族のために狩りをするのだと誓っていた。
 果たして願いは叶わなかった――ダンテに、すべて殺されたからだ。

『なのに貴様は、惨たらしく殺した! だから我にも資格があるのだ――人間を残酷に殺し尽くし、貴様に最も恐ろしい恐怖と痛みを与える資格が!』

 復讐者の高説を聞いても、ダンテはやはり、表情ひとつ変えなかった。

「お前も同じことをしてるのに気づいた方がいい」
『我は正当な復讐。貴様のはたわむれの虐殺よ』
「正当な復讐、か。お前の一族に傷つけられた……」

 何かを言おうとしたダンテだったが、不意に口を閉じた。
 戸惑いと躊躇いで、ほんのわずかに視線を泳がせたダンテは、意を決した。

「……ギラヴィ、真実を話させてくれ」
『真実だと? 真実はひとつ! 貴様がドラゴンの一族の虐殺を詫び、無様に、惨めに死に至る未来だけよ! 貴様はそのためだけに、ここにいるのだ!』
「もっと早く、話しておくべきだった。お前は――」

 突っぱねられようと何かを話そうとしたダンテに対し、ギラヴィはもう対話ではなく、手に入れた己の武力で解決するつもりしかないようだった。

『ところで貴様は、随分とこの小娘らに肩入れしているようだな?』

 足元で倒れるセレナの背に、ギラヴィが爪を立てる。
 そうしてやっと、ダンテの表情が崩れた。

「……肩入れしてると分かってるなら、爪を離せ。俺はそいつらを守るなら、10年前の因縁も何もかも無視して、お前を殺せるぞ」
『ほう、ほう? こやつらが人質であるとも知らずに、大言を吐くものよなあ?』

 ずぶずぶ、と爪がセレナの背に食い込む。
 血が穴から噴き出し、きゃしゃな少女の体が痙攣する。

「あが、ぐぅ……!」
「ギラヴィ……!」
『この子娘どもを助けたければ、貴様に残された道はひとつだ』

 爪を突き刺すのをやめたギラヴィが言った。

『ここで死ね、ダンテ・ウォーレン。我が同胞を殺した刃で、己の腹をえぐれ』

 ギラヴィはダンテを自らの手で殺すより、もっとたのしい手段を思いついていた。
 彼を己の手で殺させるのだ。
 竜に触れることも許さず、絶望の中で死なせるにはうってつけであった。
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