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遠く離れて◇サイドA

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 見上げると、どこまでも、どこまでも続く青い空。
 顔を仰向けるとまともに日差しが目を射って、わたしは思わず眉をしかめました。夏も盛りを越えた筈なのに、まだまだ暑いです。

 眩しい太陽の金色。
 透き通る、明るい青。

 ――こんな空を見ていると、どうしても旦那さまのことを思い出してしまいます。

 旦那さまは、今時分、何をしていらっしゃるのでしょう?
 みなさんのご迷惑にならないように、ちゃんと起きられているのでしょうか。
 ご飯は、きちんと食べていらっしゃるのでしょうか。
 怪我なんて、していないですよね……?

 こぼれてしまうため息と一緒に、わたしは反らしていた頭を戻しました。

 春の初め、ようやく花芽が膨らみ始めた頃に旦那さまが笑顔でお屋敷を出て行かれてから、一年と六ヶ月と十二日。
 ……もう、そんなに経ってしまったのです。
 あの日、いつも通りの笑顔でカルロさん、ゲイリーさん、そしてデニスさんのお三方と一緒にお屋敷を出発する旦那さまをお見送りするのは、ちょっとムカッとしました。
 だって、そんなふうにニコニコしながら旦那さまが向かわれようとしていたのは、戦場だったのですから。

 お友達のお屋敷のパーティーだとか、チャリティの競馬だとか、そんなのではないのです。
 それなのに、笑って手を振って「行ってくるよ」だなんて!

 多分、旦那さまのそんな態度に腹を立てていたから、わたしは旅立たれる旦那さまに何も申し上げることができませんでした。
 旦那さまがわたしの言葉を待つように首をかしげて見つめておられるのが判ったけれど、どうしても、噛み締めた唇を緩めることができませんでした。
 少し困っているようなその時の旦那さまの眼差しが、くっきりとわたしの脳裏に刻まれてしまっています。

 ――「行ってらっしゃいませ」とか、「お帰りお待ちしています」とか、何か言っておけば良かった。

 お屋敷の中に旦那さまがおられないことを実感するたびにそう思ってしまいますが、もう遅いのです。
 あとは、ただただ、旦那さまが一刻も早くご無事で帰ってきてくださることを祈るばかりなのです。
 そうして、帰ってこられた時には、ちゃんと「お帰りになって嬉しいです」と言わなければ。

 ……いけない、またため息がこぼれてしまいました。

 頭を振ったらこの重い気分も一緒に飛んで行ってくれたらいいのですが。
 遠く離れてしまった旦那さまですが、一、二ヶ月に一回ほどで、お手紙をくださいます。お屋敷のみんなに向けてと、そしてそれとは別に、わたし宛てに。
 中身はだいたいいつも同じです。

「僕は怪我もなく元気にやっているよ」

 その言葉から始まって、お屋敷に変わりはないかとか、体調を崩さずに過ごしているかとか。
 最後も、いつも同じ。

「早く君に逢いたいよ」

 お屋敷にいた頃と全然変わらない綺麗な文字で書かれたその短い一文に、読むたびわたしも同じ言葉を胸の中で呟いてしまいます。

 ――わたしも早くお逢いしたいです、と。
 紙に書かれた文字ではなくて、本当にご無事でいることを今すぐにでもこの目で確かめたいのです。

 この一年と半年の間に、何度も旦那さまの夢を見ました。
 出てくる旦那さまは、色々です。
 その色々なお姿の旦那さまに、わたしの心は振り子のように大きく揺らされてしまいます。
 元気で笑っていらっしゃった時にはホッとして、疲れたお顔でうなだれていらっしゃった時には胸を締め付けられて、――お身体のどこかから血を流して地面に伏しておられた時には、止まらない涙で頭が痛くなって、目が覚めます。

「早く、帰ってきてください」
 わたしはもう一度空を見上げて、呟きました。
 この空は旦那さまがおられる所にもつながっているわけですから、ここでこぼした祈りは旦那さまの所にも届いてくれるかもしれません。
 そんなふうに思うことは、ばかげているでしょうか。
 わたしはもう何度目になるかもわからない小さなため息をこぼして、止まってしまっていた足をまた踏み出しました。

 旦那さまが戦場に行ってしまわれてから、わたしはずっと都のタウンハウスにいます。都から離れた領地にいるよりも色々な報せが早く受け取れるから、とジェシーさんと一緒に、わたしも残らせていただきました。
 以前は都にいてもあまり外出しなかったわたしですが、旦那さまがお発ちになってからは、お休みの日にお父さんのお墓を訪れるのが習慣のようになっています。
 毎週日曜日、は無理ですが、少なくともひと月に一回は来るようにしています。
 もしも――もしも旦那さまがお父さんの所へ行きそうになっても、絶対すぐに追い返してやってください、とお願いする為に。旦那さまとお父さんはとても親しくされていたそうですから、きっとわたしがお願いしなくてもそうしてくれる筈ですが、念には念を入れておかないと。

 墓地の中にはチラホラと人がいて、みなさんそれぞれに大事な方のことに思いを馳せていらっしゃるようです。
 悲しそうにうなだれておられるのは、喪ったばかりの方でしょうか。
 中には、微笑みながら、愛おしそうに石に手を伸ばしている方もおられます。
 そんな人たちの間を、わたしは足を進めます。すっかり通い慣れた道筋を辿って真っ直ぐにお父さんとお母さんが眠っている所へ着くと、二つの墓石のちょうど真ん中にしゃがみこんで、途中で買った黄色い月見草を一輪ずつ置きました。

 お墓の石というのは、元々はただの石に過ぎないのに、その下に大事な人が眠っているのだと思うと、不思議と何か特別な輝きを持っているような気持ちになってきます。
「まだ暑いですね、お父さん、お母さん」
 囁きながらお父さんの墓石に触れるととても熱くて、何故か、最後に旦那さまと一緒にここにいた時のことを思い出しました。

 あの時はまだ寒くて、墓石は痛いほどに冷え切っていて――今とは正反対です。
 それなのに、指を焼きそうなその熱さが、鮮明な記憶を呼び起こします。
 あの時、旦那さまは、「絶対に帰ってくる」と、わたしにおっしゃいました。

 ですが。

「……旦那さまは、いつお帰りになるんでしょう」
 問いかけたところで答えが無いのは判っていますが、ここに来るといつも同じことを言ってしまいます。

 戦場の旦那さまは、どんなふうなのでしょう。
 お屋敷の中での姿しか存じ上げないわたしには、想像もできません。

 旦那さまは、お父さんの上官でした。
 だから、お父さんが亡くなった時、わたしをお屋敷に連れて行ってくださったのです。
 旦那さまはわたしに向けてよくおしゃべりなさる方でしたが、戦場でお父さんと過ごした時のことをお話になることは、ほとんどありませんでした。
 けれど、時たま、本当に時たま、それをこぼされることがあって、そんな時の旦那さまは決まって、いつもは明るいその青い目にどこかが痛んでいるかのような暗さを滲ませていらっしゃっていました。

 戦場が、楽しいところである筈がありません。
 お父さんが亡くなった時のことを事細かに伺ったことはありませんが、旦那さまがそのことで何か重いものを抱え込んでいるのだということは、わたしにも判ります。
 もしかしたら、お父さんが戦場で命を落としたことに対して、旦那さまは必要以上に責任を感じておられるのかもしれません。
 だから、わたしのことをとても大事にしてくださるのかもしれません。

「でも、お父さんは、別に旦那さまのことを責めたりなんて、してないでしょう?」
 石を撫でながらそう尋ねると、一瞬サッと風が吹いて、黄色い花がコロンと転がりました。それがまるで頷きのようで、わたしは思わず笑ってしまいました。
 笑って――そして、ふと、お腹の辺りが何かにきゅうっと締め付けられたような感じになりました。

 旦那さまに、早く帰ってきて欲しい。
 昔、つらい思いをされたその場所に、今また旦那さまが立っておられるのかと思うと、無性に苦しくなってしまいます。

 八年前、わたしはお父さんを亡くして、とても悲しかったです。
 その悲しさを、旦那さまが包み込んで癒してくださいました。

 けれど、旦那さまの悲しさは、どうやって癒せたのでしょう?
 旦那さまは、お屋敷で働くみんなを、とても大事にしています。ほとんど家族同然に、と言ったら失礼になるのかもしれませんが、わたしがそう言ったら、きっと旦那さまは笑顔で頷いてくださいます。
 そんな旦那さまですから、戦場で部下だったわたしのお父さんのことも、大事に思ってくださっていたに違いありません。
 そんなお父さんのことを死なせてしまって、とてもおつらかったに違いありません。
 その場所にまた戻るのは、とても苦しいことでしょう。

 苦しんでいる旦那さまを思うと、わたしの心臓は、ギュッときつく握られたような、そんな痛みに襲われます。
 毎日お傍にいると、ただ日常のことだけで時間が流れていってしまっていました。
 こうやって遠く離れて、むしろ旦那さまのことを考える時間が増えたような気がします。
 その分、一緒にいる時には見えていなかったことが、見えてきたような気がします。

 昔のわたしは、自分の悲しみだけで手一杯でした。
 戦争で苦しい思いをしてこられた旦那さまに、甘える一方でした。

 ――今のわたしなら、何かしてあげられることがあるでしょうか?

 それはわかりませんが、何ができるかと考えることはできます。
 でも、その為には、まずは旦那さまにお戻りいただかなければ。

「だから、ちゃんと通せんぼしていてくださいね?」
 お父さんに向けてそう念を押して、わたしは膝に手を置いて立ち上がりました。

 と。

「おじょぉうちゃん、ひとりなのぉ?」
 ろれつのまわっていない声。
 最初、それがわたしに向けられたものだとは思いませんでした。
 だから、突然腕を掴まれて引っ張られても、目を丸くしてその相手――脂っぽい髪をぼさぼさに乱して、黄色く濁った眼でわたしを睨んでくるその男の人を、黙って見返すことしかできませんでした。わたしよりも頭半分ほど高いくらいの背丈のその人は、多分、わたしのお父さんが生きていれば同じくらいの年の筈。

「おいおい、なにムシしてんだよ!?」
 荒っぽい声がお酒臭い息と一緒に顔に叩き付けられて、思わず顔をしかめてしまいます。それがいっそう男の人を怒らせてしまったらしく、わたしの腕をギュッと掴んできました。
「い、た……」
「ああ!? オレがわるいのか!? なんだよ、ぜんぶオレがわるいってのかぁ!?」

 支離滅裂です。
 ギラギラした目でそんなふうに怒鳴られても、何も答えられません。

「わたしは、あなたのことを存じ上げませんが……」
「そうだよな、オレがわるいんだよな?」
「いえ、そうではなくて――ッ」
 喋っている途中で急に肩を掴まれガクガクと身体を揺さぶられて、頬の内側を噛んでしまいました。鉄の味が口の中に溢れて、気持ちが悪いです。

「ああ、オレがぜんぶわるいんだよッ!」
 どうしましょう。全然、聞く耳を持ってくれません。
 放してくださいと言ったら、余計に怒らせそうです。
「そうなんだよ、オレがかせげないのがわるかったんだよ……だから、おまえを……」
 今度は、泣いていらっしゃるのでしょうか。
 わたしの肩を掴んだまま顔を伏せた男の人からは、ズズッと鼻をすする音が聞こえてきました。
 そして、嗚咽。

 困りました。

「あの……」
 少し迷ってから、そっと、男の人に声をかけた時でした。

「君、その手を放しなさい」
 別の方からかけられた低い声に、男の人の肩がビクッと震えます。
 わたしと男の人がそちらへと顔を向けると、厳しい顔をした茶色い髪、茶色い目の若い男性が立っていました。年は、旦那さまよりもいくつか下かもしれません。
 わたしは、突然現れたその人を、まじまじと見つめてしまいました。
 お屋敷にも同じように茶色の髪と目をした人はいますが、無性に目が引かれてしまうのは、この場所だから、でしょうか。
 お父さんも、この人のような髪と目をしていました。珍しいくらいに短く刈り込んだ髪型も、よく似ています。

「あぁ?」
 酔った男の人はわたしから手を放すと、その若い男性に向き直りました。彼の茶色い目が、冷静に見返しています。
「その人を放しなさい」

 静かな声。

「その人は、違うだろう?」
 その言葉に男の人はボウッとした目でわたしを見つめ、しばしばと瞬きします。
「あ、ああ……」
 男の人はもごもごと何かを言いながら後ずさって、ゆっくりと背中を見せたかと思うと、ふらつきながら行ってしまいました。

 どういうことなのでしょう。
 訳が解からず隣に立った男性を見上げると、遠ざかっていく酔った男の人の背に向けられていた茶色の目がわたしに向けられました。

「大丈夫だったかい?」
「はい」
 頷くと、やっぱりお父さんのものとよく似たその目に、温かな微笑みが浮かびました。
「オレはブラッド・デッカー――警官だよ」
「わたしはエイミー・メイヤーです。どうもありがとうございました」
 わたしがそう言って頭を下げると、身体を起こした時、デッカーさんの目はお父さんとお母さんのお墓の方に向けられていました。釣られて、わたしもそちらを見てしまいます。

「君の……ご両親?」
「はい」
「そうか」
 短く頷いたデッカーさんは、また首を捻じって、さっきの男の人が歩いていった方を見やりました。そして、低い声で話し始めます。
「今の彼は――一昨年の冬にはやった流感で、娘さんを亡くしたんだよ。酔っぱらって墓参りに来ては、似たような年頃の娘と今みたいなことになってね」
「娘さん、を……」
「君を怖がらせたかもしれないけれど、悪い人間じゃない。素面の時は、真面目でおとなしい男なんだ」
 何となく、デッカーさんの声には弁解するような響きがありました。
 理由を聞いてしまえば、ただただ気の毒なばかりです。
「だいじょうぶです。驚きはしましたが、別に怖くはありませんでしたから」
 首を振ってそう答えると、デッカーさんは少し首をかしげてわたしを見つめ、そしてふっと微笑みました。
「そうかい?」
 デッカーさんは身体も大きくて、少し厳つい感じもしますが、そんなふうに微笑まれると雰囲気ががらりと優しそうになりました。

 そう言えば、デッカーさんは、どうしてここにおられたのでしょうか。
 辺りにはわたしとあの男の人とのことを遠巻きにして見ている人が何人もいますが、その前に特に揉め事があったようには思えません。あのひと騒動が起きるまでは、墓地は静まり返っていた筈ですが。
 そんなわたしの疑問を感じ取ったのか、デッカーさんはまた少し口元を緩めました。それもまた笑顔なのですが、さっきのものとは微妙に違います。どこか、寂しげな、悲しげな……

 首をかしげたわたしには気付いていない様子でデッカーさんは斜め後ろを振り返ると、言いました。

「何も起きてないよ。私用なんだ」
 ポツリとこぼれたようなその一言を呟いたデッカーさんの目は、愛おしそうに細められて、可愛らしい花束が置かれた一つの墓石に向けられていました。

   *

 ――時刻は深夜。

「で、どういう事情なのかね」
 屋敷中が寝静まっているこんな真夜中に厳しい眼差しでそう訊いてきたのは、ジェシーさんです。その隣にはマーゴさんもいて、やっぱり眉間に皺を寄せてわたしをジッと見つめてきます。

「これは……」
 何をどう説明しようか、言葉に迷います。
 わたしがこんな事態に陥っているのは、寝る前の着替えで同じ部屋のドロシーさんに、腕の痣を見られてしまったからでした。

 あの男の人に掴まれたところにくっきりと指の痕がついているなんて、服を脱がなければ気付きませんでした。別に、痛くもなんともなかったですから。
 なので普通に服を脱いでしまって、そんなわたしの腕を見るなりドロシーさんが悲鳴を上げて、他のメイド仲間が飛び込んできて、あっという間にマーゴさんに伝わりました。

 いつになく渋い顔のジェシーさんとマーゴさんを前にして、わたしはお墓参りで男の人に腕を掴まれたこと、警官のデッカーさんに助けてもらったことを話しました。
 わたしの説明を聞くうちに、どんどん二人の顔が怖くなってきて――いたたまれません。

 わたしが話し終っても、二人ともしばらく黙ったままでした。
 先に口を開いたのは、ジェシーさんです。

「あの辺りは治安が良いと思っていたが……今度からはルイスを連れて行きなさい。セドリック様もおられない今は、特に仕事もないからね」
「ええっ? だいじょうぶです、必要ありません」
 わたしは思いきり、首を振りました。

 ルイスさんはコーチマンで、確かに旦那さまがいらっしゃらない今はお手すきなのかもしれませんが、だからと言って、わたしのことでお時間を割いていただくわけにはいきません。
 それに、今度からは一人ではありませんから。

「デッカーさんは、ほとんど毎週、お墓に行かれてるそうなんです。なので、わたしも一緒に連れて行って下さると……」
「彼と、一緒に?」
「はい」
 願ってもないお話だと思うのですが。
 なぜか、ジェシーさんは難しい顔をして考え込んでしまいました。

「あの……?」
 ためらいがちに声をかけると、ジェシーさんの目がようやくわたしに向けられましたが、そのままやけにしげしげと見つめてきます。
 そうして、おっしゃいました。

「では、デッカー氏に一度会わせてもらおうか」
「え、でも、そんなご面倒をかけるわけには……」
「君のことはセドリック様からくどいほどに申し付けられているんだよ。くれぐれも、何事もないように、と」
 その言葉に、少しムッとしました。
 旦那さまは、わたしのことをまだ十歳の子どものままだと思っていらっしゃるのでしょうか。

 もう十八なのに。
 十八と言えば、早い人なら子どもだっている年頃です。
 それなのに、まるでお守りが必要な子どものように言うなんて。

 悔しいような気がして目を床に落としてギュッと唇を引き結ぶと、わたしの耳に微かな忍び笑いが届きました。
 パッと目を上げましたが、そこにはいつもの生真面目なジェシーさんがいるだけです。
 見つめるわたしの前でジェシーさんが漏らした小さな咳払いは、なんだか何かをごまかそうとしたようにも聞こえましたが?

「まあ、とにかく、セドリック様に代わって屋敷の者に目を光らせておくのは、私の仕事だからね。来たら必ず私に会わせなさい。いいね?」
「……わかりました」
 わたしを子ども扱いなさるのは不満ですが、ハウススチュワードとしての義務だとおっしゃるなら仕方がありません。
 頷いたわたしに、それまで黙っていたマーゴさんが口を開きました。

「じゃあ、もう休みましょう。その前にその腕に軟膏を塗ってあげるから」
「大丈夫です。もう、痛くも何ともありません」
「いいから、いらっしゃい」
 マーゴさんは一歩も退く様子がありません。先に戸口の方に向かって、半分扉を開けて手招きしてきます。ぐずぐずしているわたしに、ジェシーさんも参入してきました。
「素直に言うことを聞いた方が、時間の節約になると思うがね」

 本当に、たいしたことではないのですが。
 でも、お二人に逆らっても勝ち目なんてないのです。

「わかりました。ありがとうございます。ジェシーさん、おやすみなさい」
 わたしはお辞儀をして、マーゴさんに従いました。
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