22 / 22
SS:確信犯
しおりを挟む
すっかり暗くなってしまった。
その日雛姫は委員会の集まりがあって、廊下の窓から外を眺めながら、賢人と小春が待つ教室へと急ぎ足で向かっていた。
遅くなるから帰っていいと言っておいたけれども、二人ともニッコリ笑うだけで頷いてはいなかったから、きっと残っているはずだ。
申し訳ないなと思いつつも、そうしてくれるのは、やっぱり、嬉しい。
二年生ももう三学期で、二週間後の期末テストが終わったら、あっという間に三年生になってしまう。
(また小春ちゃんと……舘くんと、一緒になれたらいいな)
小春とは卒業しても会うだろうけれど、賢人とは、多分、ない。高校を出てしまったら、彼との接点はなくなるだろう。
だからこそ。
(最後の一年間は、一緒に過ごしたいな)
そんなことを考えていた時だった。
雛姫のクラスまであと扉三枚、というあたりまで近づいたところで中の会話が漏れ聞こえてきて、何となく、足を止めてしまう。
「お前、このままじゃ本気で留年するぞ?」
この声は、数学教師だ。
そして、それに応えるのは――
「大丈夫ですよ。余裕です」
――賢人、だ。
(留年……?)
雛姫は眉根を寄せた。
これまで追試や補習は免れてきたようだけれども、彼があまり勉強は得意でないことは知っている。
(でも)
留年。
そんなことになれば、一緒のクラスどころの話ではなくなってしまう。
「とにかく、この期末はちょっと気合入れろよ」
雛姫の耳にそんな台詞が届き、クラスから教師が出てきて、雛姫と反対の方向へと去っていった。
留年、なんて。
呆然としたまま雛姫は再び歩き出し、教室に足を踏み入れる。
「雛姫ちゃん、終わったんだ?」
パッと振り返ってそう言ったのは小春だ。
「あ、うん、待っていてくれてありがと……」
答えながら彼女の隣にいる賢人に目を遣ると、彼は満面の笑みを投げてよこす。
「お疲れさん」
晴れやかなその様子に、『留年』という言葉を聞かされた名残はない。
「ありがとう。あの、今、先生、留年って言ってたけど……?」
おずおずと切り出した雛姫の前で、賢人と小春が顔を見合わせた。そして、賢人が雛姫に目を戻す。
「ああ、あれ聞こえた?」
「ホント、なの?」
「ん? ま、大丈夫っしょ」
のほほんとしたその声には緊迫感の欠片もない。
「えっと、二学期って、何点だったの?」
訊ねた雛姫に、賢人がつらつらと答える。
その数値に、雛姫は愕然とした。まさに、ギリギリ、だ。
「期末テスト、がんばろ?」
思わず彼に詰め寄った雛姫に、賢人は目をしばたたかせる。次いで、笑った。
「じゃあ、頑張ったらなんかご褒美くれる?」
「ご褒美?」
「そ。オレ、目先にご褒美ぶら下げてもらえないと、頑張れないタイプだから」
首をかしげてそう言った賢人に、雛姫は頷く。彼がやる気を出してくれるなら、できる限りの協力はしたい。
「いいよ、何がいい?」
「キス」
「……え?」
今、何かとんでもない言葉が耳に飛び込んできたような気がしたけれど、聞き間違えだろうか。
眉をひそめた雛姫の前で、賢人が言う。
「何点取ったら、っていうのは雛姫が決めていいよ。その点数クリアした科目ごとにキスひとつって、どう?」
どう、と言われても。
即座には頷けない提案に固まっていると、賢人は屈託なく笑う。
「大丈夫、服に隠れているところにはしないし、当然、唇もなし」
今は冬服だし、賢人が言うのは、手とか、そういうところだろうか。
(それなら……)
恥ずかしいことには変わりがないけれど、それで高校生活最後の一年間を彼と過ごせるのなら。
「うん、いいよ」
迷いながらも頷いた雛姫に、小春が目を丸くする。
「ちょっと、雛姫ちゃん!?」
声を上げた小春に割り込むようにして、賢人が訊いてくる。
「じゃ、何点にする?」
「え、と」
そこで雛姫は口ごもった。あまりに高い点数にしたら、それほどまでに賢人のキスを嫌がっていると思われてしまうだろう。
(舘くん、傷つく、かな)
逡巡する雛姫に、賢人が問うてくる。
「雛姫?」
本当は、百点とでも言っておきたい、が。
「う……じゃ、あ、七――八十点」
前回どの教科も五十点前後のところを、あと二週間で三十点アップ。
絞ったら、二、三の暗記科目はクリアするかもしれないけれど、そうたくさんはムリだろう。
直前で言い換えた雛姫に、賢人は眉を上げ、ニッと笑った。
「了解。頑張るよ」
「あ、うん、がんばって……」
邪気のない彼の笑顔に微妙に胸をざわつかせながら、雛姫は頷く。その胸騒ぎに気を取られていたから、賢人の背後で小さくため息をこぼした小春には、気付けなかった。
*
昼休みの屋上で、雛姫は、ずらりと並べられた答案を呆然と見つめた。良く晴れてはいるが二月の半ばのこの時期、雛姫、賢人、そして小春の他に、誰もいない。
全部で十二枚。
「これ……」
「七十点以上、だろ?」
「七十点、ていうか――」
どれも、軒並み、九十点を超えている。
(今まで赤点ギリギリ、だったんだよね?)
たった二週間で、どうしてそれがこうなるのか。
何度瞬きをしても数字は変わらず、雛姫の頭はパニック状態だ。
そんな彼女の隣で、小春がため息をつく。
「舘君って、『やれない』じゃなくて、『やらない』口だよね。前、テスト時間の半分くらい、寝てるの見たよ」
「そんなの、赤点にならなきゃいいんだろ?」
つまり、問題から赤点を予想して、そこをクリアできる程度だけ解いていた、ということだろうか。
「詐欺だよねぇ……」
呟いた小春の両脇に賢人が手を入れ、ヒョイと持ち上げた。
「ちょっと、舘君?」
抗議の声を上げた小春に、賢人が言う。
「これからご褒美もらうから、ちょっと席外してくれよ」
「え、待って」
「じゃぁな」
賢人は難なく小春を扉の中に押しやって、近くにあった箒でつっかえ棒をしてしまう。
そしてクルリと振り返った彼は、しゃがみ込んだままの雛姫の前に広げられている答案を雑な手付きで回収した。
「さて、と」
賢人の一言に、雛姫はハタと我に返る。目を上げると、彼がニッコリと笑い返してきた。
「じゃ、ご褒美くれる?」
「え、えぇっと……」
約束したのだから、雛姫に拒否権はない。が、正直、この結果は完全に想定外だ。
口ごもった雛姫に賢人は小首をかしげ、次いで、ヒョイと彼女を抱き上げる。
「た、舘くん!?」
それはいわゆるお姫様抱っこで、咄嗟に手足をばたつかせた雛姫に、賢人は眉をしかめた。
「暴れたら危ないだろ。もうちょっと暖かいとこに行くだけだって」
そう言って、彼は壁際の陽だまりに向かう。
そこに行くだけの間だけ。
雛姫は当然そう思っていたけれど、賢人がしゃがみ込んでも、まだ、彼女は彼の膝の上にいた。腰と肩にがっちりと力強い腕が回されていて、離れることができない。
「あ、あの……?」
「この方が暖かいしご褒美もらいやすいじゃん。で、全部で十二科目だから、十二回分、だよな?」
しなくてもいい計算をした賢人は、しげしげと雛姫を見つめてくる。
そして、彼女の右手を取った。
(手、なの?)
ホッとした瞬間、中指の節に温かなものが触れる。が、それだけではなく。
唇よりも、柔らかく、そして、濡れた感触。
雛姫はビクリと肩をはねさせた。
「舘くん!?」
「ん?」
悲鳴じみた声で名を呼んだ雛姫を、彼は何事もなかったかのような眼で見上げてくる。
そんな無邪気そのものの眼差しを向けられたら。
(今、舐めた、よね?)
とは、訊けない。
「何でも、ない」
眼を逸らして答えると、彼はクスリと笑った。そうして、雛姫の手をひっくり返し、広げた掌に顔を寄せる。
また同じことが繰り返され、雛姫の頬が熱くなる。
(でも、手だけ、だし)
右手が終わって、今度は左手。
あと、八回。
(八回、手だけ、だよね……?)
そう思った瞬間賢人が頭をもたげ、こめかみのあたりに唇を押し当て、そっとついばんだ。
「ッ!」
――手だけでは、なかった。
彼は左右のこめかみに触れた後、目蓋に移る。薄い皮膚を、優しく吸われ、舌先でくすぐられた。
あと、四回。
(もうちょっと、だけ)
だけど、心臓が破裂しそうだ。
左の目蓋に賢人の唇を受けながら、雛姫は頭の中で円周率を唱え始める。けれどそんな彼女の逃避行動は、次の賢人の動きで敢え無く阻止された。
耳たぶに触れた、温かなもの。
次いで、吸われ、甘く噛まれた。
「ひゃぅッ」
手を突っ張って可能な限り身を離すと、賢人が不満そうに唇を尖らせる。
「今の途中だから、カウントしないでよ?」
「途中って、そこ、耳……それ、キスと、違う……」
しどろもどろに答えた雛姫の頬にかかる髪を、彼は指先でよけた。
「え? だって、唇でもないし、服で隠れてもないだろ? それに、口で触れたんだから、キスだよ」
こともなげに、賢人はそうのたまい、そして、ニッと笑う。
「あと四回な?」
牙を剥いた狼のようなその笑みにクラリとめまいに襲われた雛姫を、再び力強い腕が引き寄せた。
その日雛姫は委員会の集まりがあって、廊下の窓から外を眺めながら、賢人と小春が待つ教室へと急ぎ足で向かっていた。
遅くなるから帰っていいと言っておいたけれども、二人ともニッコリ笑うだけで頷いてはいなかったから、きっと残っているはずだ。
申し訳ないなと思いつつも、そうしてくれるのは、やっぱり、嬉しい。
二年生ももう三学期で、二週間後の期末テストが終わったら、あっという間に三年生になってしまう。
(また小春ちゃんと……舘くんと、一緒になれたらいいな)
小春とは卒業しても会うだろうけれど、賢人とは、多分、ない。高校を出てしまったら、彼との接点はなくなるだろう。
だからこそ。
(最後の一年間は、一緒に過ごしたいな)
そんなことを考えていた時だった。
雛姫のクラスまであと扉三枚、というあたりまで近づいたところで中の会話が漏れ聞こえてきて、何となく、足を止めてしまう。
「お前、このままじゃ本気で留年するぞ?」
この声は、数学教師だ。
そして、それに応えるのは――
「大丈夫ですよ。余裕です」
――賢人、だ。
(留年……?)
雛姫は眉根を寄せた。
これまで追試や補習は免れてきたようだけれども、彼があまり勉強は得意でないことは知っている。
(でも)
留年。
そんなことになれば、一緒のクラスどころの話ではなくなってしまう。
「とにかく、この期末はちょっと気合入れろよ」
雛姫の耳にそんな台詞が届き、クラスから教師が出てきて、雛姫と反対の方向へと去っていった。
留年、なんて。
呆然としたまま雛姫は再び歩き出し、教室に足を踏み入れる。
「雛姫ちゃん、終わったんだ?」
パッと振り返ってそう言ったのは小春だ。
「あ、うん、待っていてくれてありがと……」
答えながら彼女の隣にいる賢人に目を遣ると、彼は満面の笑みを投げてよこす。
「お疲れさん」
晴れやかなその様子に、『留年』という言葉を聞かされた名残はない。
「ありがとう。あの、今、先生、留年って言ってたけど……?」
おずおずと切り出した雛姫の前で、賢人と小春が顔を見合わせた。そして、賢人が雛姫に目を戻す。
「ああ、あれ聞こえた?」
「ホント、なの?」
「ん? ま、大丈夫っしょ」
のほほんとしたその声には緊迫感の欠片もない。
「えっと、二学期って、何点だったの?」
訊ねた雛姫に、賢人がつらつらと答える。
その数値に、雛姫は愕然とした。まさに、ギリギリ、だ。
「期末テスト、がんばろ?」
思わず彼に詰め寄った雛姫に、賢人は目をしばたたかせる。次いで、笑った。
「じゃあ、頑張ったらなんかご褒美くれる?」
「ご褒美?」
「そ。オレ、目先にご褒美ぶら下げてもらえないと、頑張れないタイプだから」
首をかしげてそう言った賢人に、雛姫は頷く。彼がやる気を出してくれるなら、できる限りの協力はしたい。
「いいよ、何がいい?」
「キス」
「……え?」
今、何かとんでもない言葉が耳に飛び込んできたような気がしたけれど、聞き間違えだろうか。
眉をひそめた雛姫の前で、賢人が言う。
「何点取ったら、っていうのは雛姫が決めていいよ。その点数クリアした科目ごとにキスひとつって、どう?」
どう、と言われても。
即座には頷けない提案に固まっていると、賢人は屈託なく笑う。
「大丈夫、服に隠れているところにはしないし、当然、唇もなし」
今は冬服だし、賢人が言うのは、手とか、そういうところだろうか。
(それなら……)
恥ずかしいことには変わりがないけれど、それで高校生活最後の一年間を彼と過ごせるのなら。
「うん、いいよ」
迷いながらも頷いた雛姫に、小春が目を丸くする。
「ちょっと、雛姫ちゃん!?」
声を上げた小春に割り込むようにして、賢人が訊いてくる。
「じゃ、何点にする?」
「え、と」
そこで雛姫は口ごもった。あまりに高い点数にしたら、それほどまでに賢人のキスを嫌がっていると思われてしまうだろう。
(舘くん、傷つく、かな)
逡巡する雛姫に、賢人が問うてくる。
「雛姫?」
本当は、百点とでも言っておきたい、が。
「う……じゃ、あ、七――八十点」
前回どの教科も五十点前後のところを、あと二週間で三十点アップ。
絞ったら、二、三の暗記科目はクリアするかもしれないけれど、そうたくさんはムリだろう。
直前で言い換えた雛姫に、賢人は眉を上げ、ニッと笑った。
「了解。頑張るよ」
「あ、うん、がんばって……」
邪気のない彼の笑顔に微妙に胸をざわつかせながら、雛姫は頷く。その胸騒ぎに気を取られていたから、賢人の背後で小さくため息をこぼした小春には、気付けなかった。
*
昼休みの屋上で、雛姫は、ずらりと並べられた答案を呆然と見つめた。良く晴れてはいるが二月の半ばのこの時期、雛姫、賢人、そして小春の他に、誰もいない。
全部で十二枚。
「これ……」
「七十点以上、だろ?」
「七十点、ていうか――」
どれも、軒並み、九十点を超えている。
(今まで赤点ギリギリ、だったんだよね?)
たった二週間で、どうしてそれがこうなるのか。
何度瞬きをしても数字は変わらず、雛姫の頭はパニック状態だ。
そんな彼女の隣で、小春がため息をつく。
「舘君って、『やれない』じゃなくて、『やらない』口だよね。前、テスト時間の半分くらい、寝てるの見たよ」
「そんなの、赤点にならなきゃいいんだろ?」
つまり、問題から赤点を予想して、そこをクリアできる程度だけ解いていた、ということだろうか。
「詐欺だよねぇ……」
呟いた小春の両脇に賢人が手を入れ、ヒョイと持ち上げた。
「ちょっと、舘君?」
抗議の声を上げた小春に、賢人が言う。
「これからご褒美もらうから、ちょっと席外してくれよ」
「え、待って」
「じゃぁな」
賢人は難なく小春を扉の中に押しやって、近くにあった箒でつっかえ棒をしてしまう。
そしてクルリと振り返った彼は、しゃがみ込んだままの雛姫の前に広げられている答案を雑な手付きで回収した。
「さて、と」
賢人の一言に、雛姫はハタと我に返る。目を上げると、彼がニッコリと笑い返してきた。
「じゃ、ご褒美くれる?」
「え、えぇっと……」
約束したのだから、雛姫に拒否権はない。が、正直、この結果は完全に想定外だ。
口ごもった雛姫に賢人は小首をかしげ、次いで、ヒョイと彼女を抱き上げる。
「た、舘くん!?」
それはいわゆるお姫様抱っこで、咄嗟に手足をばたつかせた雛姫に、賢人は眉をしかめた。
「暴れたら危ないだろ。もうちょっと暖かいとこに行くだけだって」
そう言って、彼は壁際の陽だまりに向かう。
そこに行くだけの間だけ。
雛姫は当然そう思っていたけれど、賢人がしゃがみ込んでも、まだ、彼女は彼の膝の上にいた。腰と肩にがっちりと力強い腕が回されていて、離れることができない。
「あ、あの……?」
「この方が暖かいしご褒美もらいやすいじゃん。で、全部で十二科目だから、十二回分、だよな?」
しなくてもいい計算をした賢人は、しげしげと雛姫を見つめてくる。
そして、彼女の右手を取った。
(手、なの?)
ホッとした瞬間、中指の節に温かなものが触れる。が、それだけではなく。
唇よりも、柔らかく、そして、濡れた感触。
雛姫はビクリと肩をはねさせた。
「舘くん!?」
「ん?」
悲鳴じみた声で名を呼んだ雛姫を、彼は何事もなかったかのような眼で見上げてくる。
そんな無邪気そのものの眼差しを向けられたら。
(今、舐めた、よね?)
とは、訊けない。
「何でも、ない」
眼を逸らして答えると、彼はクスリと笑った。そうして、雛姫の手をひっくり返し、広げた掌に顔を寄せる。
また同じことが繰り返され、雛姫の頬が熱くなる。
(でも、手だけ、だし)
右手が終わって、今度は左手。
あと、八回。
(八回、手だけ、だよね……?)
そう思った瞬間賢人が頭をもたげ、こめかみのあたりに唇を押し当て、そっとついばんだ。
「ッ!」
――手だけでは、なかった。
彼は左右のこめかみに触れた後、目蓋に移る。薄い皮膚を、優しく吸われ、舌先でくすぐられた。
あと、四回。
(もうちょっと、だけ)
だけど、心臓が破裂しそうだ。
左の目蓋に賢人の唇を受けながら、雛姫は頭の中で円周率を唱え始める。けれどそんな彼女の逃避行動は、次の賢人の動きで敢え無く阻止された。
耳たぶに触れた、温かなもの。
次いで、吸われ、甘く噛まれた。
「ひゃぅッ」
手を突っ張って可能な限り身を離すと、賢人が不満そうに唇を尖らせる。
「今の途中だから、カウントしないでよ?」
「途中って、そこ、耳……それ、キスと、違う……」
しどろもどろに答えた雛姫の頬にかかる髪を、彼は指先でよけた。
「え? だって、唇でもないし、服で隠れてもないだろ? それに、口で触れたんだから、キスだよ」
こともなげに、賢人はそうのたまい、そして、ニッと笑う。
「あと四回な?」
牙を剥いた狼のようなその笑みにクラリとめまいに襲われた雛姫を、再び力強い腕が引き寄せた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
愛されないと吹っ切れたら騎士の旦那様が豹変しました
蜂蜜あやね
恋愛
隣国オデッセアから嫁いできたマリーは次期公爵レオンの妻となる。初夜は真っ暗闇の中で。
そしてその初夜以降レオンはマリーを1年半もの長い間抱くこともしなかった。
どんなに求めても無視され続ける日々についにマリーの糸はプツリと切れる。
離縁するならレオンの方から、私の方からは離縁は絶対にしない。負けたくない!
夫を諦めて吹っ切れた妻と妻のもう一つの姿に惹かれていく夫の遠回り恋愛(結婚)ストーリー
※本作には、性的行為やそれに準ずる描写、ならびに一部に性加害的・非合意的と受け取れる表現が含まれます。苦手な方はご注意ください。
※ムーンライトノベルズでも投稿している同一作品です。
《完結》追放令嬢は氷の将軍に嫁ぐ ―25年の呪いを掘り当てた私―
月輝晃
恋愛
25年前、王国の空を覆った“黒い光”。
その日を境に、豊かな鉱脈は枯れ、
人々は「25年ごとに国が凍る」という不吉な伝承を語り継ぐようになった。
そして、今――再びその年が巡ってきた。
王太子の陰謀により、「呪われた鉱石を研究した罪」で断罪された公爵令嬢リゼル。
彼女は追放され、氷原にある北の砦へと送られる。
そこで出会ったのは、感情を失った“氷の将軍”セドリック。
無愛想な将軍、凍てつく土地、崩れゆく国。
けれど、リゼルの手で再び輝きを取り戻した一つの鉱石が、
25年続いた絶望の輪を、少しずつ断ち切っていく。
それは――愛と希望をも掘り当てる、運命の物語。
女避けの為の婚約なので卒業したら穏やかに婚約破棄される予定です
くじら
恋愛
「俺の…婚約者のフリをしてくれないか」
身分や肩書きだけで何人もの男性に声を掛ける留学生から逃れる為、彼は私に恋人のふりをしてほしいと言う。
期間は卒業まで。
彼のことが気になっていたので快諾したものの、別れの時は近づいて…。
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
完結 愚王の側妃として嫁ぐはずの姉が逃げました
らむ
恋愛
とある国に食欲に色欲に娯楽に遊び呆け果てには金にもがめついと噂の、見た目も醜い王がいる。
そんな愚王の側妃として嫁ぐのは姉のはずだったのに、失踪したために代わりに嫁ぐことになった妹の私。
しかしいざ対面してみると、なんだか噂とは違うような…
完結決定済み
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
記憶を無くした、悪役令嬢マリーの奇跡の愛
三色団子
恋愛
豪奢な天蓋付きベッドの中だった。薬品の匂いと、微かに薔薇の香りが混ざり合う、慣れない空間。
「……ここは?」
か細く漏れた声は、まるで他人のもののようだった。喉が渇いてたまらない。
顔を上げようとすると、ずきりとした痛みが後頭部を襲い、思わず呻く。その拍子に、自分の指先に視線が落ちた。驚くほどきめ細やかで、手入れの行き届いた指。まるで象牙細工のように完璧だが、酷く見覚えがない。
私は一体、誰なのだろう?
【完結】モブのメイドが腹黒公爵様に捕まりました
ベル
恋愛
皆さまお久しぶりです。メイドAです。
名前をつけられもしなかった私が主人公になるなんて誰が思ったでしょうか。
ええ。私は今非常に困惑しております。
私はザーグ公爵家に仕えるメイド。そして奥様のソフィア様のもと、楽しく時に生温かい微笑みを浮かべながら日々仕事に励んでおり、平和な生活を送らせていただいておりました。
...あの腹黒が現れるまでは。
『無口な旦那様は妻が可愛くて仕方ない』のサイドストーリーです。
個人的に好きだった二人を今回は主役にしてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる