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気持ちの齟齬《そご》
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外来から出て病棟へ向かおうとした清一郎は、か細い声で名前を呼ばれて振り返った。その先に佇んでいた女性に、束の間首をひねる。
実を言うと、彼は、人の顔を覚えるのが苦手だった。
患者の名前と病名、経過などはほぼ完ぺきに頭に入っているのだが、そこらでパッとすれ違って声をかけられても、結構困る。看護師にしても、仕事中の格好ならまだ何とかなっても、私服になられるとさっぱり判らないということも多々あった。
今目の前にいる女性も、その顔にかなり見覚えはあるのだが、記憶を手繰っても彼女とつながる病名が出てこない。
誰だったかと考えて――ハッと気付く。
(キラの、母親だ)
顔立ちは良く似ていても雰囲気が全く違うので、すぐには判らなかった。
「あの、瀧先生、ありがとうございました」
そう言って、キラの母、雨宮裕子は深々と頭を下げる。その目は、微かに潤んでいるようだ。
彼女は清一郎に対してずいぶんと感謝の念を抱いているようだが、しかし、彼にはそうされる理由に思い当たるものがない。
「僕が、何か? 主治医は岩崎ですが」
以前に挨拶したことで、並列してキラの治療に当たっていると勘違いされているのかもしれない。だが、まだメインは岩崎で、清一郎は彼女のカルテを盗み見ている程度に過ぎないのだ。
――確かに、時々相談を持ちかけられることはあるが。
「僕は直接娘さんの治療には関与していませんよ」
「え、あ、はい、その、文化祭の……」
弱々しい、キラの笑顔とは全く似ても似つかない微笑みで、裕子が言う。そして彼女が口にしたその単語で、清一郎は彼女が言わんとしていることを察した。
「……ああ」
ほとんど呻くような声を出し、清一郎は眉間に皺を寄せる。
――文化祭。
その言葉で、一昨日交わした岩崎との遣り取りが、頭によみがえる。
それは、清一郎が夕食を摂っている時のことだった。
いつものように人気も疎らな食堂で声をかけてきた岩崎は、渋い顔でその話題を持ち出してきたのだ。
定食を口に運んでいた清一郎の前の椅子に腰をおろし、両腕をテーブルの上に置いて少し身を乗り出すようにした彼は、渋い顔で切り出した。
「キラに外出許可を出す、と言ったら、お前はどう思う?」
彼が言おうとしていることは、すぐに察しがついた。
「外出? ……ああ、文化祭、か?」
「まあな」
重い表情のまま、岩崎が頷いた。
それは、しばしばキラのカルテに出てきていた単語だった。
もう、十月も後半。
十一月の第一土日に予定されている彼女の高校の文化祭まで、あともう少しだった。
「普通に考えれば、許可を出せないのは判っているだろう?」
清一郎は箸を置いて答えた。
「そうなんだが……」
キラの検査結果は、心電図検査も心エコー検査も、あまり芳しくないものだった。
著しい悪化を呈していたわけではない。だが、院外に出すのはためらわれるもので。
「確かに、データを見ると、ちょっとな」
「なら、駄目だと言えばいい」
「それは、そうだが……」
岩崎はテーブルに視線を落として、言葉を濁す。と、不意にまた目を上げて、清一郎を真っ直ぐに見つめてきた。
「このままだと、多分手術になるだろう?」
「まあ、そうだな」
「そうなると、学校を辞めざるを得なくなるかもしれん」
「……」
岩崎の呟きに、今度は清一郎が口をつぐんだ。
「もう、だいぶ出席日数がまずいことになってきているんだ。学校側を説得して今年は休学扱いにしてもらって、また来年も一年生をやるという選択肢もないわけではないんだが――」
「また登校できるようになる保証もない」
後を継いだ清一郎に、岩崎が目でその言葉を肯定する。
「彼女が高校の文化祭というものに参加できるチャンスは、今回が最後かもしれない」
岩崎はそう言うと、押し黙った。彼の前で箸を取ると、清一郎は再び食事を口に運ぶ。機械的にそうしながら、彼は考える――いや、実際には、ずっと頭の中にあったことを転がしているだけで、考えてはいなかったかもしれない。
やがて食事を平らげた清一郎は、お茶を飲み干し、言った。
「僕がついていこう」
岩崎が、いぶかしげな眼差しを向けてくる。
「え?」
それを受け止めながら、清一郎はもう一度繰り返した。
「僕が外出する彼女に付き添う」
キラが文化祭に行きたいと思っていることは、知っていた。
小児科病棟でのデイルームの一件以来、何となく彼女から足が遠のいていたが、毎日覗いているカルテの中にはしばしばその言葉が出てきていたのだ。だから、キラの目下の望みが何なのか、よく判っていた。
決して、「行きたい」とは言っていない。
だが、ほぼ毎日、その単語がカルテに記載されていた。
それを目にするたび、モヤモヤと清一郎の胸の中で何かがわだかまっていったのだが、文化祭への同行を口にした途端、スッとその何かが消え去った。
それ以上の説明をせずに黙ったままの清一郎に、岩崎がかぶりを振った。
「お前が――って、だが、それは、医者の領域から逸脱していないか? 彼女だけを特別扱いにするわけにはいかないだろう」
「僕は別に彼女の『主治医』なわけじゃない。その日は当直もオンコールも入っていないしな」
淡々と答えた彼を、岩崎はしげしげと見つめてきた。そして、ふっとその目が和らいだ。
「なるほど、な」
何の脈絡もない彼のその呟きに、清一郎は眉をひそめた。
「何がだ?」
「ん? いや――自覚なし、か」
「何の?」
「さあな」
そう答えた岩崎はクスクスと笑ったのだが、清一郎には彼が何を愉快がっているのかが、さっぱり判らなかった。
「まあ、そのうちお前も解かるよ。……少し前までのお前なら、考えられなかった申し出だよな。随分、変わったもんだ。もっとも、お前みたいなタイプは、一度想い入れたらそれまでとはがらりと変わってしまうのかもな」
「人のことを言えるのか?」
変わったと言うなら、岩崎もたいした変わりようなのだが。
結婚する前の彼は結構な遊び人で、女の噂が絶えなかった。医者としては尊敬できるが、男としては誉められたものではなかったのだ。
それが病棟の看護師の一人と結婚してから、ぱったり浮いた話は無くなった。今度は、最近妊娠が判明した妻を気遣う彼の過保護ぶりが語り草となっている。
「大事な存在がこの手の中におさまってくれていることほど幸せなことはないぞ?」
――大事な、存在。
清一郎は、見るともなしに自らの両手のひらに視線を落とした。
(そんなふうに想う相手が、この僕にできるのか……?)
三十五になるこの年まで、彼は特定の誰かに強く心を動かされたことはなかった。人生の半分が経過してもそうだったのだから、これからその相手が現れるとも、思えなかった。
黙りこくったままの清一郎の前で、岩崎はふとまた真面目な顔付きになって姿勢を正した。
「頼む。お前になら、安心して任せられる」
そこにあるのは確かな信頼で、清一郎は、しっかりと頷いたのだ。
「ああ。無理はさせない」
断固とした口調で、彼は宣言した。外出は許すが、その為にほんのわずかでも悪化することがあってはならないのだ。
決意を新たにする清一郎の前で、岩崎が少し考え込んでから言った。
「取り敢えず、両親には許可が出せるかも、とは伝えておくよ。キラ本人には、間際まで黙っておこう。検査の結果次第ではやはり駄目になる可能性もあるからな。ぬか喜びはさせたくない」
「そうだな」
清一郎も、同感だった。
喜ばせておいて駄目になっても、多分キラはがっかりした気持ちをおくびにも出さないだろう。
がっかりする姿を見たいわけではなかったが、無理して平気な顔をする彼女は、もっと見たくなかった。
「文化祭の三日前にまた検査をするから、その結果次第で」
岩崎のその台詞に清一郎が頷き。
――そうして話はそこで終わりになって、今に至るのだが。
「あの、瀧先生?」
おずおずと声をかけられて、清一郎は過去の回想から引き戻される。
「はい」
裕子の顔を見下ろした清一郎に、彼女は組み合わせた細い手をキュッと絞った。
「その、本当に、大丈夫なんでしょうか。あの子を文化祭に行かせて」
「直前の検査結果で最終的な判断を下しますが、恐らく行けると思います」
「そう、ですか……」
呟き、裕子は床に視線を落とした。そして、囁きがこぼれる。
「私のことを、過保護な親だとお思いですよね」
「……ええ、まあ」
過保護というか、少し彼女自身に対して心配になってしまうというか。
清一郎の心の声は当然裕子には届かず、彼女は顔を伏せたまま続ける。
「私も、もっと、あの子の望みを叶えてあげたいとは思ってるんです。でも……やっぱり、怖くて……」
「本当に駄目なことなら、医者の方からはっきりと言います」
「そう、ですね」
裕子の痩せた肩が、震える。
(キラがこんな姿を見せたら、多分、勝手に彼女に手が伸びてしまうだろう)
清一郎は、彼女を見下ろしながらふとそんなふうに思った。
キラと裕子はとてもよく似ている。
似ているのに、今、目の前で肩を震わせている裕子には特に何も感じない。いや、病気の家族を持つ者に対する憐れみや同情心はあるが、だが、それだけだ。
医者の領分を越えようとは、思わない。
――それは、医者の領域から逸脱していないか?
ふと、岩崎のその台詞が、脳裏によみがえった。
確かに、逸脱している。
病院の外で患者の相手をしようだなんて、おかしい。
けれど、キラに対しては、その『おかしい』行動が、つい出てしまうのだ――何故かは判らないが。
「私、あの子に申し訳なくてならないんです」
「え?」
唐突な裕子の言葉に、清一郎は眉間の皺を深くした。ボウッとしていて、彼女の台詞を何か聞き逃したのかもしれない。
だが、眉をひそめる彼に裕子はどこか焦点の定まらない視線を向けて、続ける。
「あの子がこの病気になったことが、申し訳なくて。いつも、私が何をしてしまったんだろうって考えるんです。あの子がお腹の中にいる時に何か変なことをしてしまったんだろうか、お乳をあげているのに良くないものを食べてしまったんだろうか、連れて行くべきじゃない場所に連れて行ってしまったんじゃないか……って」
思わず、清一郎はまじまじと裕子を見つめてしまう。どうしてそんな考えが出てきたのかが、彼にはさっぱり理解できない。
そんな清一郎の視線に、彼女は気付いていないようだった。目を伏せたまま、更に言い募る。
「色々調べてみたんです。何かのウィルスが関係しているとか、栄養不良でなることがあるとか……」
「ちょっと待ってください」
裕子の言っていることは、筋違いな内容だった。
キラの病気の原因は、はっきりとは解明されていない。確かに、何かの感染症がきっかけとなった可能性はある。人混みに連れ出したからそのウィルスに感染して発症した、ということはあるかもしれない。しかし、だからと言って、一生家の中に閉じ込めておくわけにはいかないのだ。あるいは、極端な栄養不良などの関与も示唆されているが、それもキラには当てはまらないだろう。
裕子の考えは、理に合わない。
「岩崎にもその考えを伝えたことがありますか?」
まさか、岩崎がそんな考えを吹き込むはずはないだろうが、清一郎は念の為に訊いてみた。彼の問いに、裕子は弱々しく頷く。
「あります。先生も、違うとおっしゃいました」
「そうでしょうね。では、何故未だにそんなふうに考えているんですか」
清一郎の中には、呆れと疑問が半々あった。彼の視線を受けて、裕子は消え失せそうな微笑みを浮かべる。
「岩崎先生は、とても私に気を使ってくださっていますから……私を責めるようなことは絶対におっしゃいません」
だから、本当のことを隠していると言いたいのだろうか。
どうやら、岩崎の気遣いが仇になったようだ。
清一郎は眉をしかめて彼女を見つめる。
「あなたの懸念は、全く不要なことです」
「え?」
きょとんと、裕子が目を丸くする。その顔は、キラによく似ていた。
彼女を真っ直ぐに見下ろしながら、更に言葉を重ねる。
「僕は患者に余計な遠慮はしません。事実だけを口にします」
殆どぶっきらぼうと言ってもいい口調でそう宣言した清一郎に、裕子は呆気に取られている様子だった。
そんな彼女に、きっぱりと断言する。
「よほどひどい扱いでもしていたのなら別ですが、そうでないなら、あなたの行動でキラがこの病気になることをどうこうできたという可能性は、まず、ありません」
「でも、私が……」
しどろもどろで繰り返そうとする裕子に、ふと、清一郎は思った。
裕子は、こんなふうに自分を責める言葉をキラの前でも口にしているのだろうかと。
「あなたは、キラ――娘さんにもそうやって謝ることがあるのですか?」
清一郎の問いに返事はなかったけれど、その沈黙が彼の考えを肯定していた。
何度か目にした、キラが母を思い遣る場面、その言葉。
それらが彼の頭に浮かんでくる。
「キラは、あなたをとても大事に想っている。その相手にこんなふうに罪悪感を抱かせていると思ったら、彼女はどう感じるのでしょうね」
別に、裕子を責めるつもりで言ったわけではない。だが、思わず口から出てしまった彼のその言葉に、彼女はハッと息を呑んだ。
「それは……」
裕子は、両手を胸に当てて息を詰めている。
誰もが気付きそうなことなのに、誰もそれを示唆したことがなかったのだろうか。
(多分、気を遣い過ぎているんだ)
皆が皆、薄氷を踏むように遣り取りをしていて、その氷の下にある本音を暴露しないから、こんなふうに齟齬《そご》が生じてしまうのではなかろうか。
「僕は彼女をそれほど知っているわけではありませんが、少なくとも、あなたに謝られるよりも、一緒に笑ってもらえる方が嬉しいのではないかと思います」
そう伝えながら、清一郎の脳裏に浮かぶのは、いつも屈託のない――そう見せようとしている、キラの姿だ。
母親からの謝罪の言葉を聞けば聞くほど、キラは強くあろうと思ったに違いない。きっと、裕子が謝るほどに、キラもまた罪悪感を募らせていたのだろう――母を傷付け悲しませているのは自分なのだ、と。
笑顔で自分の中の『罪』を包み込んでいるキラが頭に浮かび、唐突に清一郎のみぞおちが握り締められたように痛んだ。
無性に、キラの元に行きたくなった。
キラの傍に行って、彼女をしっかりと抱き締めたい。
自分の胸の中で、涙を流させたい。
キラの笑顔を見たいと思う一方で、見たくないとも思った。
気持ちを押し隠して浮かべる笑みよりも、彼女の本心を見せて欲しいと思ったのだ。
それが、怒りでも悲しみでも恨みでも、何でも構わないから。
いつも論理的な清一郎の中に、支離滅裂な考えが浮かんでは消えていく。
医者としては正しくないその想いの奔流に押し流されそうになって、清一郎は両手をきつく握り締めた。そうしないと、今すぐ踵を返してキラの病室へと駆け出してしまいそうだったから。
清一郎は、深く息を吸い、吐く。
静かに深呼吸をして心を宥めようとした彼の耳に、不意に小さな嗚咽が届いた。
見れば、裕子の両目には涙が溢れんばかりになっていて、清一郎はハタと自分の失言に気付く。
「雨宮さん……」
キラが傷付けたくないと思っている人物を、彼は傷付けてしまったのだ。
言い繕おうとした彼の前で裕子は一歩後ずさり、そして震える笑みを浮かべる。
「あの、ありがとうございました……失礼します」
か細い声で辛うじてそれだけ言って、裕子はあたふたと背を向け去って行く。そんな彼女を呼び止めることもできずに、清一郎は自分の口の足らなさに臍を噛んだ。
きっと岩崎なら、もう少し巧い言い方をしただろうに。
清一郎は思わずため息をこぼす。
もしかしたら、余計な火種を投げ込んでしまったかもしれない。
かろうじてバランスを取っていた裕子の背中を、間違った方向に押してしまったかもしれない。
キラに、話しておいた方がいいだろうか。
そう思ったけれども、波立ってしまった自分の気持ちが制御できそうもない。
今、彼女の前に行ったら自分がどんなふうに感じるか、さっぱり予測できなかった。
(少し時間を置いて、後で話そう)
清一郎はもう一度ため息をこぼし、もっと解かり易い世界へ――自分の本分へ戻ろうと、病棟に向けて歩き出した。
実を言うと、彼は、人の顔を覚えるのが苦手だった。
患者の名前と病名、経過などはほぼ完ぺきに頭に入っているのだが、そこらでパッとすれ違って声をかけられても、結構困る。看護師にしても、仕事中の格好ならまだ何とかなっても、私服になられるとさっぱり判らないということも多々あった。
今目の前にいる女性も、その顔にかなり見覚えはあるのだが、記憶を手繰っても彼女とつながる病名が出てこない。
誰だったかと考えて――ハッと気付く。
(キラの、母親だ)
顔立ちは良く似ていても雰囲気が全く違うので、すぐには判らなかった。
「あの、瀧先生、ありがとうございました」
そう言って、キラの母、雨宮裕子は深々と頭を下げる。その目は、微かに潤んでいるようだ。
彼女は清一郎に対してずいぶんと感謝の念を抱いているようだが、しかし、彼にはそうされる理由に思い当たるものがない。
「僕が、何か? 主治医は岩崎ですが」
以前に挨拶したことで、並列してキラの治療に当たっていると勘違いされているのかもしれない。だが、まだメインは岩崎で、清一郎は彼女のカルテを盗み見ている程度に過ぎないのだ。
――確かに、時々相談を持ちかけられることはあるが。
「僕は直接娘さんの治療には関与していませんよ」
「え、あ、はい、その、文化祭の……」
弱々しい、キラの笑顔とは全く似ても似つかない微笑みで、裕子が言う。そして彼女が口にしたその単語で、清一郎は彼女が言わんとしていることを察した。
「……ああ」
ほとんど呻くような声を出し、清一郎は眉間に皺を寄せる。
――文化祭。
その言葉で、一昨日交わした岩崎との遣り取りが、頭によみがえる。
それは、清一郎が夕食を摂っている時のことだった。
いつものように人気も疎らな食堂で声をかけてきた岩崎は、渋い顔でその話題を持ち出してきたのだ。
定食を口に運んでいた清一郎の前の椅子に腰をおろし、両腕をテーブルの上に置いて少し身を乗り出すようにした彼は、渋い顔で切り出した。
「キラに外出許可を出す、と言ったら、お前はどう思う?」
彼が言おうとしていることは、すぐに察しがついた。
「外出? ……ああ、文化祭、か?」
「まあな」
重い表情のまま、岩崎が頷いた。
それは、しばしばキラのカルテに出てきていた単語だった。
もう、十月も後半。
十一月の第一土日に予定されている彼女の高校の文化祭まで、あともう少しだった。
「普通に考えれば、許可を出せないのは判っているだろう?」
清一郎は箸を置いて答えた。
「そうなんだが……」
キラの検査結果は、心電図検査も心エコー検査も、あまり芳しくないものだった。
著しい悪化を呈していたわけではない。だが、院外に出すのはためらわれるもので。
「確かに、データを見ると、ちょっとな」
「なら、駄目だと言えばいい」
「それは、そうだが……」
岩崎はテーブルに視線を落として、言葉を濁す。と、不意にまた目を上げて、清一郎を真っ直ぐに見つめてきた。
「このままだと、多分手術になるだろう?」
「まあ、そうだな」
「そうなると、学校を辞めざるを得なくなるかもしれん」
「……」
岩崎の呟きに、今度は清一郎が口をつぐんだ。
「もう、だいぶ出席日数がまずいことになってきているんだ。学校側を説得して今年は休学扱いにしてもらって、また来年も一年生をやるという選択肢もないわけではないんだが――」
「また登校できるようになる保証もない」
後を継いだ清一郎に、岩崎が目でその言葉を肯定する。
「彼女が高校の文化祭というものに参加できるチャンスは、今回が最後かもしれない」
岩崎はそう言うと、押し黙った。彼の前で箸を取ると、清一郎は再び食事を口に運ぶ。機械的にそうしながら、彼は考える――いや、実際には、ずっと頭の中にあったことを転がしているだけで、考えてはいなかったかもしれない。
やがて食事を平らげた清一郎は、お茶を飲み干し、言った。
「僕がついていこう」
岩崎が、いぶかしげな眼差しを向けてくる。
「え?」
それを受け止めながら、清一郎はもう一度繰り返した。
「僕が外出する彼女に付き添う」
キラが文化祭に行きたいと思っていることは、知っていた。
小児科病棟でのデイルームの一件以来、何となく彼女から足が遠のいていたが、毎日覗いているカルテの中にはしばしばその言葉が出てきていたのだ。だから、キラの目下の望みが何なのか、よく判っていた。
決して、「行きたい」とは言っていない。
だが、ほぼ毎日、その単語がカルテに記載されていた。
それを目にするたび、モヤモヤと清一郎の胸の中で何かがわだかまっていったのだが、文化祭への同行を口にした途端、スッとその何かが消え去った。
それ以上の説明をせずに黙ったままの清一郎に、岩崎がかぶりを振った。
「お前が――って、だが、それは、医者の領域から逸脱していないか? 彼女だけを特別扱いにするわけにはいかないだろう」
「僕は別に彼女の『主治医』なわけじゃない。その日は当直もオンコールも入っていないしな」
淡々と答えた彼を、岩崎はしげしげと見つめてきた。そして、ふっとその目が和らいだ。
「なるほど、な」
何の脈絡もない彼のその呟きに、清一郎は眉をひそめた。
「何がだ?」
「ん? いや――自覚なし、か」
「何の?」
「さあな」
そう答えた岩崎はクスクスと笑ったのだが、清一郎には彼が何を愉快がっているのかが、さっぱり判らなかった。
「まあ、そのうちお前も解かるよ。……少し前までのお前なら、考えられなかった申し出だよな。随分、変わったもんだ。もっとも、お前みたいなタイプは、一度想い入れたらそれまでとはがらりと変わってしまうのかもな」
「人のことを言えるのか?」
変わったと言うなら、岩崎もたいした変わりようなのだが。
結婚する前の彼は結構な遊び人で、女の噂が絶えなかった。医者としては尊敬できるが、男としては誉められたものではなかったのだ。
それが病棟の看護師の一人と結婚してから、ぱったり浮いた話は無くなった。今度は、最近妊娠が判明した妻を気遣う彼の過保護ぶりが語り草となっている。
「大事な存在がこの手の中におさまってくれていることほど幸せなことはないぞ?」
――大事な、存在。
清一郎は、見るともなしに自らの両手のひらに視線を落とした。
(そんなふうに想う相手が、この僕にできるのか……?)
三十五になるこの年まで、彼は特定の誰かに強く心を動かされたことはなかった。人生の半分が経過してもそうだったのだから、これからその相手が現れるとも、思えなかった。
黙りこくったままの清一郎の前で、岩崎はふとまた真面目な顔付きになって姿勢を正した。
「頼む。お前になら、安心して任せられる」
そこにあるのは確かな信頼で、清一郎は、しっかりと頷いたのだ。
「ああ。無理はさせない」
断固とした口調で、彼は宣言した。外出は許すが、その為にほんのわずかでも悪化することがあってはならないのだ。
決意を新たにする清一郎の前で、岩崎が少し考え込んでから言った。
「取り敢えず、両親には許可が出せるかも、とは伝えておくよ。キラ本人には、間際まで黙っておこう。検査の結果次第ではやはり駄目になる可能性もあるからな。ぬか喜びはさせたくない」
「そうだな」
清一郎も、同感だった。
喜ばせておいて駄目になっても、多分キラはがっかりした気持ちをおくびにも出さないだろう。
がっかりする姿を見たいわけではなかったが、無理して平気な顔をする彼女は、もっと見たくなかった。
「文化祭の三日前にまた検査をするから、その結果次第で」
岩崎のその台詞に清一郎が頷き。
――そうして話はそこで終わりになって、今に至るのだが。
「あの、瀧先生?」
おずおずと声をかけられて、清一郎は過去の回想から引き戻される。
「はい」
裕子の顔を見下ろした清一郎に、彼女は組み合わせた細い手をキュッと絞った。
「その、本当に、大丈夫なんでしょうか。あの子を文化祭に行かせて」
「直前の検査結果で最終的な判断を下しますが、恐らく行けると思います」
「そう、ですか……」
呟き、裕子は床に視線を落とした。そして、囁きがこぼれる。
「私のことを、過保護な親だとお思いですよね」
「……ええ、まあ」
過保護というか、少し彼女自身に対して心配になってしまうというか。
清一郎の心の声は当然裕子には届かず、彼女は顔を伏せたまま続ける。
「私も、もっと、あの子の望みを叶えてあげたいとは思ってるんです。でも……やっぱり、怖くて……」
「本当に駄目なことなら、医者の方からはっきりと言います」
「そう、ですね」
裕子の痩せた肩が、震える。
(キラがこんな姿を見せたら、多分、勝手に彼女に手が伸びてしまうだろう)
清一郎は、彼女を見下ろしながらふとそんなふうに思った。
キラと裕子はとてもよく似ている。
似ているのに、今、目の前で肩を震わせている裕子には特に何も感じない。いや、病気の家族を持つ者に対する憐れみや同情心はあるが、だが、それだけだ。
医者の領分を越えようとは、思わない。
――それは、医者の領域から逸脱していないか?
ふと、岩崎のその台詞が、脳裏によみがえった。
確かに、逸脱している。
病院の外で患者の相手をしようだなんて、おかしい。
けれど、キラに対しては、その『おかしい』行動が、つい出てしまうのだ――何故かは判らないが。
「私、あの子に申し訳なくてならないんです」
「え?」
唐突な裕子の言葉に、清一郎は眉間の皺を深くした。ボウッとしていて、彼女の台詞を何か聞き逃したのかもしれない。
だが、眉をひそめる彼に裕子はどこか焦点の定まらない視線を向けて、続ける。
「あの子がこの病気になったことが、申し訳なくて。いつも、私が何をしてしまったんだろうって考えるんです。あの子がお腹の中にいる時に何か変なことをしてしまったんだろうか、お乳をあげているのに良くないものを食べてしまったんだろうか、連れて行くべきじゃない場所に連れて行ってしまったんじゃないか……って」
思わず、清一郎はまじまじと裕子を見つめてしまう。どうしてそんな考えが出てきたのかが、彼にはさっぱり理解できない。
そんな清一郎の視線に、彼女は気付いていないようだった。目を伏せたまま、更に言い募る。
「色々調べてみたんです。何かのウィルスが関係しているとか、栄養不良でなることがあるとか……」
「ちょっと待ってください」
裕子の言っていることは、筋違いな内容だった。
キラの病気の原因は、はっきりとは解明されていない。確かに、何かの感染症がきっかけとなった可能性はある。人混みに連れ出したからそのウィルスに感染して発症した、ということはあるかもしれない。しかし、だからと言って、一生家の中に閉じ込めておくわけにはいかないのだ。あるいは、極端な栄養不良などの関与も示唆されているが、それもキラには当てはまらないだろう。
裕子の考えは、理に合わない。
「岩崎にもその考えを伝えたことがありますか?」
まさか、岩崎がそんな考えを吹き込むはずはないだろうが、清一郎は念の為に訊いてみた。彼の問いに、裕子は弱々しく頷く。
「あります。先生も、違うとおっしゃいました」
「そうでしょうね。では、何故未だにそんなふうに考えているんですか」
清一郎の中には、呆れと疑問が半々あった。彼の視線を受けて、裕子は消え失せそうな微笑みを浮かべる。
「岩崎先生は、とても私に気を使ってくださっていますから……私を責めるようなことは絶対におっしゃいません」
だから、本当のことを隠していると言いたいのだろうか。
どうやら、岩崎の気遣いが仇になったようだ。
清一郎は眉をしかめて彼女を見つめる。
「あなたの懸念は、全く不要なことです」
「え?」
きょとんと、裕子が目を丸くする。その顔は、キラによく似ていた。
彼女を真っ直ぐに見下ろしながら、更に言葉を重ねる。
「僕は患者に余計な遠慮はしません。事実だけを口にします」
殆どぶっきらぼうと言ってもいい口調でそう宣言した清一郎に、裕子は呆気に取られている様子だった。
そんな彼女に、きっぱりと断言する。
「よほどひどい扱いでもしていたのなら別ですが、そうでないなら、あなたの行動でキラがこの病気になることをどうこうできたという可能性は、まず、ありません」
「でも、私が……」
しどろもどろで繰り返そうとする裕子に、ふと、清一郎は思った。
裕子は、こんなふうに自分を責める言葉をキラの前でも口にしているのだろうかと。
「あなたは、キラ――娘さんにもそうやって謝ることがあるのですか?」
清一郎の問いに返事はなかったけれど、その沈黙が彼の考えを肯定していた。
何度か目にした、キラが母を思い遣る場面、その言葉。
それらが彼の頭に浮かんでくる。
「キラは、あなたをとても大事に想っている。その相手にこんなふうに罪悪感を抱かせていると思ったら、彼女はどう感じるのでしょうね」
別に、裕子を責めるつもりで言ったわけではない。だが、思わず口から出てしまった彼のその言葉に、彼女はハッと息を呑んだ。
「それは……」
裕子は、両手を胸に当てて息を詰めている。
誰もが気付きそうなことなのに、誰もそれを示唆したことがなかったのだろうか。
(多分、気を遣い過ぎているんだ)
皆が皆、薄氷を踏むように遣り取りをしていて、その氷の下にある本音を暴露しないから、こんなふうに齟齬《そご》が生じてしまうのではなかろうか。
「僕は彼女をそれほど知っているわけではありませんが、少なくとも、あなたに謝られるよりも、一緒に笑ってもらえる方が嬉しいのではないかと思います」
そう伝えながら、清一郎の脳裏に浮かぶのは、いつも屈託のない――そう見せようとしている、キラの姿だ。
母親からの謝罪の言葉を聞けば聞くほど、キラは強くあろうと思ったに違いない。きっと、裕子が謝るほどに、キラもまた罪悪感を募らせていたのだろう――母を傷付け悲しませているのは自分なのだ、と。
笑顔で自分の中の『罪』を包み込んでいるキラが頭に浮かび、唐突に清一郎のみぞおちが握り締められたように痛んだ。
無性に、キラの元に行きたくなった。
キラの傍に行って、彼女をしっかりと抱き締めたい。
自分の胸の中で、涙を流させたい。
キラの笑顔を見たいと思う一方で、見たくないとも思った。
気持ちを押し隠して浮かべる笑みよりも、彼女の本心を見せて欲しいと思ったのだ。
それが、怒りでも悲しみでも恨みでも、何でも構わないから。
いつも論理的な清一郎の中に、支離滅裂な考えが浮かんでは消えていく。
医者としては正しくないその想いの奔流に押し流されそうになって、清一郎は両手をきつく握り締めた。そうしないと、今すぐ踵を返してキラの病室へと駆け出してしまいそうだったから。
清一郎は、深く息を吸い、吐く。
静かに深呼吸をして心を宥めようとした彼の耳に、不意に小さな嗚咽が届いた。
見れば、裕子の両目には涙が溢れんばかりになっていて、清一郎はハタと自分の失言に気付く。
「雨宮さん……」
キラが傷付けたくないと思っている人物を、彼は傷付けてしまったのだ。
言い繕おうとした彼の前で裕子は一歩後ずさり、そして震える笑みを浮かべる。
「あの、ありがとうございました……失礼します」
か細い声で辛うじてそれだけ言って、裕子はあたふたと背を向け去って行く。そんな彼女を呼び止めることもできずに、清一郎は自分の口の足らなさに臍を噛んだ。
きっと岩崎なら、もう少し巧い言い方をしただろうに。
清一郎は思わずため息をこぼす。
もしかしたら、余計な火種を投げ込んでしまったかもしれない。
かろうじてバランスを取っていた裕子の背中を、間違った方向に押してしまったかもしれない。
キラに、話しておいた方がいいだろうか。
そう思ったけれども、波立ってしまった自分の気持ちが制御できそうもない。
今、彼女の前に行ったら自分がどんなふうに感じるか、さっぱり予測できなかった。
(少し時間を置いて、後で話そう)
清一郎はもう一度ため息をこぼし、もっと解かり易い世界へ――自分の本分へ戻ろうと、病棟に向けて歩き出した。
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