喫茶店

久手堅悠作

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喫茶店

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喫茶店に着くと、彼女の横顔が目に入った。彼女は半分まで減ったオレンジジュースにストローでぶくぶくと泡を立て遊んでいた。

「ごめん。遅れた」

僕は彼女の前に座った。すると彼女は僕の胸元を見た途端、ハッという表情になり、突然僕のペンダントを握った。

「ねぇこれ欲しい。私にちょうだい」

そうは言っているが、ペンダントを見ようともせず、なぜか誰にも見せないようにとギュッと握りしめている。

「ダメ。これはそもそもこれは〇〇教の……」

「ダメならいいや。それなら見せびらかさないでよ」と彼女は僕の言葉を遮るように言うと、僕の服の中にペンダントを突っ込んだ。それから僕は一息つくと、彼女が僕のために注文していたであろうホットコーヒーを一口飲んだ。

「冷たっ。……ごめん。コーヒーがこんなに冷えるまで待たせちゃった?」

「いや、私は15分前に来た。冷たいのは私のオレンジジュースの氷を翔太くんのホットコーヒーに入れたからだよ」

「なんで?」

「遅刻の反省を促すため」

彼女はそう言うと皮肉っぽく笑った。

「ごめんね。今日は僕が奢るよ」

「いいの?」と彼女は目を輝かせた。そして、間髪入れずに店員さんを呼んだ。

「すみません。この特大ジャンボチョコパフェ一つ」

値段を見てギョッとした。5万円もするし、しかも5人前だ。

「こんなに食べるの?」

「いや、私じゃなくて翔太くんが食べるんだよ。だって、翔太くん甘いもの好きでしょ? 私はチョコとか好きじゃないし」

僕は絶句しつつ、昨日のニュースの話題を彼女に振った。

「昨日のニュース見た? 〇〇教の施設で火事があって100人以上死亡だって。本当に可哀想だよね」と僕が言った。

彼女は「へ~、自業自得じゃん」と言って、オレンジジュースを一口飲んだ。

「……最低」

「だって、〇〇教って前にテロ起こした団体の後継組織じゃん。だから別に可哀想じゃないでしょ」

「そんなことない。〇〇教は……」

僕は大声でそう言ってカバンから本を出そうとした。すると突然、彼女が立ち上がってパチンと手を叩いた。周りの人間の視線が彼女に向く。

「皆さん、昨日の〇〇教の火事どう思いました? 自業自得だと思う人はその場で拍手してください」

パチパチパチパチパチパチパチパチ。喫茶店にいた客が全員拍手をした。

「私の勝ち」

彼女は勝ち誇ったように唇を吊り上げた。

「……なんで?」

僕が困惑していると、彼女が僕に耳打ちした。

「ここの喫茶店では今日、テロで亡くなった人の家族が会合してんの。余計なこと言わない方が良いよ」

「余計なこと?」

それから彼女はゆっくりとイスに座ると、僕の質問には答えずにスマホをいじり始めた。数秒後、彼女からこんなLINEが届いた。

【私のこと呼び出したのって〇〇教への勧誘のためでしょ? そもそもここは店長がテロ被害者家族なの。こんなとこで宗教勧誘なんて警察署で殺人計画立ててるのと一緒だよ】
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