自殺してしまった友人へ

久手堅悠作

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自殺してしまった友人へ

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いつも通る道にある、あのマンション。友人がそこに住んでいた。そして飛び降りて死んだ。理由はわからない。遺書もなかった。

彼は恵まれていた。優しい両親がいて、スポーツもできて、頭も良かった。彼は一体何に悩んでいたのだろう。自殺する前の日まで僕の悩みを聞いてくれた。僕は彼が悩んでいるなんて思いもしなかったし、彼は何も打ち明けてくれなかった。きっと僕のことを思ってのことなのだろう。それでも、少し寂しい。

彼が死んで何年が経っただろうか。今でもあの日のことを鮮明に思い出すことができる。目の前に落ちてきた彼の体。飛び散った脳みそ。彼に群がるハエ。あれが全部夢だったらいいのに。どこかでそう思い込まないと生きていけない。だから僕は彼の葬式に行かなかった。怖かった。現実を直視するのが。棺に横たわっている彼の姿なんて想像もしたくなかった。もしかしたら、彼はどこかで生きているのかもしれないと思ったが、そんなはずはない。

彼が死んでから、僕は1週間、部屋に引きこもった。現実を受け入れたくなかったから、彼が自殺したことは僕の妄想だと思い込むことにした。学校に行くと、彼が座っていたいつもの席には花が置かれていた。それが僕の幻想を打ち砕く。そうだ、彼は死んでしまったのだ。できることならずっと目をそらし続けていたかった。それこそ、もう何も思い出したくない。記憶から消し去りたい。僕には友人なんていなかった。だから、自殺した友人なんて存在しない。それでいいじゃないか。

彼が終わらせた彼自身の物語。綴られることのない新たなページ。彼を救ってあげたかった。でも、彼を責めることはできない。悩みに気づいてあげられなかった僕たちにももちろん責任はある。それから逃げることは、たとえどんなことがあっても許されない。死ぬまで十字架を背負い続けるべきだ。いや、あとを追って自殺しようが、死者はきっと許してくれない。ただ、うわ言のようにこう呟くだけだろう。『どうして助けてくれなかったの』と。

生きることが、思い続けることが自殺した者への唯一の償いだ。目をそらして逃げることは、死者への冒涜でしかない。

彼が住んでいたマンションを通るたびに、僕は立ち止まり、それをじっと見つめる。彼は自殺した罪でずっと飛び降り続けているのだろうか。僕には霊感がないし、何も見えないからそんなことはよくわからない。でも、それなら友人として彼のことを救ってあげたいとそう思う。苦しみから解放されたくて飛び降りたのに、解放されずに彷徨っていると思うと、どうも心苦しい。だから、誰でもいいから一度彼のマンションを見に来てほしい。そしてまだ彼が彷徨っているのなら、お願いだ。彼を救済してほしい。
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