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11-2〈過去 景虎視点〉
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結果から言えば、俺達のもくろみは、あっけなく砕けた。ルイの両親や兄弟姉妹は、ルイのことを一切、擁護せず、また、自分達とは全く関係がないと切り捨てたのだ。
そのため、ルイはブロサムに、国家転覆の罪で牢屋に放り込まれた。
俺達は軍を解散させ、ちりじりになった。
俺も、故郷へ帰ろうと思った。
独りになろうとした俺を引き留めたのは、アリサだった。
彼女は俺を真っ直ぐに見つめ、「ルイを独りにするの?」と問うた。
ダラクを弱らせる道具だったはずの、憎い人間。
もはや、ルイには何の価値もない。
なのに、どうして、俺はアリサの問いに、すぐに応えることができないんだ?
アリサの説得もあり、俺はブロサムに仕える道を選んだ。
城で働けば、ルイを見に行くことができる。
ルイを罪人にしたのは、俺だ。
死に行く様を、この目に焼き付けなければいけない。
理由のない使命感があった。
だが、ルイは死へ向かうことを拒み続けた。
水分や食料を欲しがり、寒さをしのぐ毛布を求め、それだけでなく、俺と話したがった。
抵抗しなければ、そのまま、楽に死ねるのに、どうして、苦しもうとする?
理解できず、ルイからの要求をすべて、無視した。
人は食べなければ生きていけない。
体温を維持しなければ、待つのは死だ。
ルイとの無意味なやり取りも、長くは続かないだろうと高をくくっていた。
それなのに、こともあろうか、ルイは瀕死の状態で脱獄したのだ。
そう、ルイは二回、牢を抜け出しているのだ。
一回目の時は、動くことができたから、俺は城を探し、ついで城下街へと走った。
寒い日だった。指の先が痛くなるほどの……。
城下街の森に面した路地にさしかかったとき、アリサに会った。彼女は俺の姿を見て、「落ち着いて」と言った。
「ルイは生きているわ。大丈夫よ。私も探すから」
俺はアリサの言葉に苛立った。
何を言っている? あいつは死ぬんだ。俺が罪を背負わせたせいで。俺が食べ物も飲み物も与えず、寒さの中に放置したせいで!
苛立ちから溢れた感情に、ハッとする。
俺はルイの死が怖いのか?
突如、途切れ途切れの歌声が、森の奥から聞こえてきた。
「どうして……?」
俺は息を飲み、言葉を詰まらせた。
やわらかいメロディーに唇が戦慄く。
「どうしたの?」
「俺の」
頭の中には、豊かではないが、助け合いながら暮らしていた故郷の人々の笑顔が浮かんでいた。
「ふるさとの歌だ」
俺はアリサの呼び声を振り切って、森へと走った。
今や、俺しか知らないであろう歌。
何年も聞いていない歌。
ずっと、心にあった、愛しい歌。
誰だ?
誰が歌っている?
声が大きくなる。
月明かりが地面を明るく照らす。
木々の間から、ルイが見えた。
雪の涙が咲き乱れている。
ルイは、か細い声で、繰り返し、同じメロディーをなぞった。
大っ嫌いだった。
憎くてしかたがなかった。
それなのに、腹の奥から沸き上がってくる感情は、途方もなく熱く、その想いを自覚せざるを得ない程だった。
ルイは歌いながら、時折、雪の涙を口へと運び、咳き込んでは、血を吐いた。
俺は彼の前で膝をつき、彼の細い指から雪の涙を払い、代わりに、固形の携帯食を握らせた。
「お前の好きな、パンの味だ」
ルイの鼻血を拭ってやる。
「水も、すぐに持ってくる。ここで待っていろ」
返事はない。
俺に絶望し、話すことさえ嫌なのだろう。
「必ず、戻ってくるから」
自分に言い聞かせるように言い、立ち上がった。
ルイは歌を再開させながら、手に合った携帯食を地面へと落とし、雪の涙を無造作につんで、口元へと持っていった。
咄嗟に、ルイの手を叩いた。雪の涙が地面へと散らばる。
ルイは驚いた顔で、自分の掌を見つめていたが、見る間に、瞳を涙で一杯にした。
「あ……して、るから」
「え?」
「愛、して……る、から……、ゆ……き。なみ、だ……、あげる、ねっ」
愕然とした。
「あ、あ、愛して、るから」
幼い頃の自分とルイのやり取りが想起され、涙が零れ落ちた。
許される行為ではないと思った。
それでも、痩せたルイの体を抱きしめ、「愛してる」と祈るように声にした。
ルイの体は氷のように冷たかった。
ルイは笑っていた。
俺など居ないかのように、一人だけの世界で。
俺はルイを城へと連れて帰り、王に謁見した。
牢屋ではなく、自分の部屋にルイを置きたいと伝えたが、王は首を縦に振ってはくれなかった。
暖房も効かない牢屋に、ルイを運び、毛布と飲食物を傍らに置いた。
ルイは力なく横たわり、僅かに目を開いていた。
呼吸が弱い。
俺はルイの冷えた体に毛布を被せ、医師を呼びに走った。
同行してくれた医師の処方により、ルイの症状は回復に向かった。だが、視力や聴覚は失われてしまった。
俺の声は聞こえず、姿も見えない。俺が物を食べさせようとしても、恐怖からか、泣き叫び、抵抗した。
これは罰だ。
罪もない、一人の人間を傷つけ続けた、俺への罰だ。
何度か、医師の協力で、ルイを押さえつけ、睡眠薬を注射器で打ち、生理食塩水と栄養剤、そして、俺の血液を点滴した。
それでも、ルイは日に日に、衰弱していった。
俺への罰であるなら、俺だけが苦しめばいいはずだ。
城での訓練や任務をこなしながらも、ルイへの罪悪感が消えることはなかった。
ある日、辺境の村へ井戸を掘りに行った帰り道、ふと見上げた空に、月が淡く輝いていて、思わず、立ち止まってしまった。
月の光は、何秒か前の光りである。
そう、どこかの本に書いてあった。
俺が見ているのは、過去の月だ。
淡い光りに、幼いルイが重なった。
俺ではダメだ。あいつの傍にいるべき人は、過去ではなく、今を、そして、未来を見ることができる人であるべきだ。
それからは、ルイが新たに歩き出せるよう模索し、俺は医療都市の技術に行き着いた。聴力は難しいが、視力であれば、生きた人間の瞳の移植で甦らせることができるかもしれない。
俺は城勤めで溜めた金をつぎ込み、ルイへの移植手術を願い出た。彼に移植されるのは、俺の左目だ。
移植手術に、はじめ、ブロサムの王は消極的だった。ルイを断罪したいからだ。罪人には罪人の生き方がある。王は頑なだった。
俺は心の芯を強く感じながら、断罪も見えなければ意味を持たないと王に訴えた。
王はしばしの沈黙のあと、納得を示し、手術を許可してくれた。しかし、手術は不衛生な塔で行われた。
王に言った手術の理由は、むろん、嘘だった。ルイには、綺麗なものを見てもらいたい。憎しみあう人々ではなく、汚らわしい者を見るような鋭い眼差しではなく、例えば、風に靡く木々の緑や、夜に煌めく民家の仄かな灯り。
この世界は、醜いものばかりではない。
美しい景色を目にし、やさしい人達に囲まれていれば、俺がどれだけ愚かな人間なのかが、わかるだろう。そして、きっと、彼を愛し、抱擁してくれる誰かが、俺という過去の闇から、ルイを引き上げてくれるはずだ。
俺の役割は、手術を受けさせ、体調の良くなったルイを、牢から逃がすこと。
無事、やり遂げたなら、俺は罪人を逃がした罪で罰せられるだろう。
どのような苦痛が待っているのか定かではないのに、なぜか、安堵している自分がいた。
俺はアリサに私物を預け、自分に何かあれば、好きなように処分してもらってもいいと伝えた。
そして、今日、手術が行われた。手術間際まで、ルイは泣き叫び、暴れた。麻酔で大人しくなった彼の、涙で濡れた顔を見つめている間に、俺の意識も麻酔で薄れていった。
数時間後、手術は成功したが、施術場所が医療施設でなかったことから消毒剤が限られており、優先してルイに使用してもらったため、消毒しきれなかった医療機器での処置で、俺の左目は化膿し、高熱が出た。
体を起こすのも辛く、自室のベッドで安静にしていたのだが、ルイが目覚め、奇行の症状が診られると一報を受け、牢屋に駆けつけた。
ルイは悲鳴にも近い声を出し、牢の中を彷徨っては倒れ、這っては床に頭を打ち付けた。左目を保護していた包帯もとれていた。
俺は牢に入り、懐刀で腕を切り裂いて、ルイの口へと押し込めた。
ルイの喉が鳴る。
飲んでくれた。
ほっとし、顔が弛緩する。
ルイの瞳が揺れ動いた。
見えているのか!?
泣きたいほどの喜びが体を突き抜ける。
よかった。本当に、よかった。
ルイは周囲を視線だけで確認し、また、俺を見た。
今なら、そこに置いてある食事や水が見えるだろう。
これまでとは違うことが、ルイに生きて欲しいと望んでいる人間がいることが、少しでも伝わっただろうか。
ルイ、と声を出しそうになり、口を閉じた。感情を吐露してしまいそうだったからだ。それに、ルイに俺の声は聞こえない。聞こえるのは、城の兵士や使用人だ。
俺の感情がルイに向いていることが露見すれば、ルイを自由にしてやる機会を無くしてしまうかもしれない。
俺は用心深く、表情を引き締め、ただ、瞳には好意ある決意を込めた。
待ってろ。今、医師を呼んでくる。
俺はルイに頷いて見せ、牢の鍵を閉めたのだった。
数分後に、ルイが逃亡のすえ、殺されるとも知らずに、この時、俺は未来への希望を感じていた。
そのため、ルイはブロサムに、国家転覆の罪で牢屋に放り込まれた。
俺達は軍を解散させ、ちりじりになった。
俺も、故郷へ帰ろうと思った。
独りになろうとした俺を引き留めたのは、アリサだった。
彼女は俺を真っ直ぐに見つめ、「ルイを独りにするの?」と問うた。
ダラクを弱らせる道具だったはずの、憎い人間。
もはや、ルイには何の価値もない。
なのに、どうして、俺はアリサの問いに、すぐに応えることができないんだ?
アリサの説得もあり、俺はブロサムに仕える道を選んだ。
城で働けば、ルイを見に行くことができる。
ルイを罪人にしたのは、俺だ。
死に行く様を、この目に焼き付けなければいけない。
理由のない使命感があった。
だが、ルイは死へ向かうことを拒み続けた。
水分や食料を欲しがり、寒さをしのぐ毛布を求め、それだけでなく、俺と話したがった。
抵抗しなければ、そのまま、楽に死ねるのに、どうして、苦しもうとする?
理解できず、ルイからの要求をすべて、無視した。
人は食べなければ生きていけない。
体温を維持しなければ、待つのは死だ。
ルイとの無意味なやり取りも、長くは続かないだろうと高をくくっていた。
それなのに、こともあろうか、ルイは瀕死の状態で脱獄したのだ。
そう、ルイは二回、牢を抜け出しているのだ。
一回目の時は、動くことができたから、俺は城を探し、ついで城下街へと走った。
寒い日だった。指の先が痛くなるほどの……。
城下街の森に面した路地にさしかかったとき、アリサに会った。彼女は俺の姿を見て、「落ち着いて」と言った。
「ルイは生きているわ。大丈夫よ。私も探すから」
俺はアリサの言葉に苛立った。
何を言っている? あいつは死ぬんだ。俺が罪を背負わせたせいで。俺が食べ物も飲み物も与えず、寒さの中に放置したせいで!
苛立ちから溢れた感情に、ハッとする。
俺はルイの死が怖いのか?
突如、途切れ途切れの歌声が、森の奥から聞こえてきた。
「どうして……?」
俺は息を飲み、言葉を詰まらせた。
やわらかいメロディーに唇が戦慄く。
「どうしたの?」
「俺の」
頭の中には、豊かではないが、助け合いながら暮らしていた故郷の人々の笑顔が浮かんでいた。
「ふるさとの歌だ」
俺はアリサの呼び声を振り切って、森へと走った。
今や、俺しか知らないであろう歌。
何年も聞いていない歌。
ずっと、心にあった、愛しい歌。
誰だ?
誰が歌っている?
声が大きくなる。
月明かりが地面を明るく照らす。
木々の間から、ルイが見えた。
雪の涙が咲き乱れている。
ルイは、か細い声で、繰り返し、同じメロディーをなぞった。
大っ嫌いだった。
憎くてしかたがなかった。
それなのに、腹の奥から沸き上がってくる感情は、途方もなく熱く、その想いを自覚せざるを得ない程だった。
ルイは歌いながら、時折、雪の涙を口へと運び、咳き込んでは、血を吐いた。
俺は彼の前で膝をつき、彼の細い指から雪の涙を払い、代わりに、固形の携帯食を握らせた。
「お前の好きな、パンの味だ」
ルイの鼻血を拭ってやる。
「水も、すぐに持ってくる。ここで待っていろ」
返事はない。
俺に絶望し、話すことさえ嫌なのだろう。
「必ず、戻ってくるから」
自分に言い聞かせるように言い、立ち上がった。
ルイは歌を再開させながら、手に合った携帯食を地面へと落とし、雪の涙を無造作につんで、口元へと持っていった。
咄嗟に、ルイの手を叩いた。雪の涙が地面へと散らばる。
ルイは驚いた顔で、自分の掌を見つめていたが、見る間に、瞳を涙で一杯にした。
「あ……して、るから」
「え?」
「愛、して……る、から……、ゆ……き。なみ、だ……、あげる、ねっ」
愕然とした。
「あ、あ、愛して、るから」
幼い頃の自分とルイのやり取りが想起され、涙が零れ落ちた。
許される行為ではないと思った。
それでも、痩せたルイの体を抱きしめ、「愛してる」と祈るように声にした。
ルイの体は氷のように冷たかった。
ルイは笑っていた。
俺など居ないかのように、一人だけの世界で。
俺はルイを城へと連れて帰り、王に謁見した。
牢屋ではなく、自分の部屋にルイを置きたいと伝えたが、王は首を縦に振ってはくれなかった。
暖房も効かない牢屋に、ルイを運び、毛布と飲食物を傍らに置いた。
ルイは力なく横たわり、僅かに目を開いていた。
呼吸が弱い。
俺はルイの冷えた体に毛布を被せ、医師を呼びに走った。
同行してくれた医師の処方により、ルイの症状は回復に向かった。だが、視力や聴覚は失われてしまった。
俺の声は聞こえず、姿も見えない。俺が物を食べさせようとしても、恐怖からか、泣き叫び、抵抗した。
これは罰だ。
罪もない、一人の人間を傷つけ続けた、俺への罰だ。
何度か、医師の協力で、ルイを押さえつけ、睡眠薬を注射器で打ち、生理食塩水と栄養剤、そして、俺の血液を点滴した。
それでも、ルイは日に日に、衰弱していった。
俺への罰であるなら、俺だけが苦しめばいいはずだ。
城での訓練や任務をこなしながらも、ルイへの罪悪感が消えることはなかった。
ある日、辺境の村へ井戸を掘りに行った帰り道、ふと見上げた空に、月が淡く輝いていて、思わず、立ち止まってしまった。
月の光は、何秒か前の光りである。
そう、どこかの本に書いてあった。
俺が見ているのは、過去の月だ。
淡い光りに、幼いルイが重なった。
俺ではダメだ。あいつの傍にいるべき人は、過去ではなく、今を、そして、未来を見ることができる人であるべきだ。
それからは、ルイが新たに歩き出せるよう模索し、俺は医療都市の技術に行き着いた。聴力は難しいが、視力であれば、生きた人間の瞳の移植で甦らせることができるかもしれない。
俺は城勤めで溜めた金をつぎ込み、ルイへの移植手術を願い出た。彼に移植されるのは、俺の左目だ。
移植手術に、はじめ、ブロサムの王は消極的だった。ルイを断罪したいからだ。罪人には罪人の生き方がある。王は頑なだった。
俺は心の芯を強く感じながら、断罪も見えなければ意味を持たないと王に訴えた。
王はしばしの沈黙のあと、納得を示し、手術を許可してくれた。しかし、手術は不衛生な塔で行われた。
王に言った手術の理由は、むろん、嘘だった。ルイには、綺麗なものを見てもらいたい。憎しみあう人々ではなく、汚らわしい者を見るような鋭い眼差しではなく、例えば、風に靡く木々の緑や、夜に煌めく民家の仄かな灯り。
この世界は、醜いものばかりではない。
美しい景色を目にし、やさしい人達に囲まれていれば、俺がどれだけ愚かな人間なのかが、わかるだろう。そして、きっと、彼を愛し、抱擁してくれる誰かが、俺という過去の闇から、ルイを引き上げてくれるはずだ。
俺の役割は、手術を受けさせ、体調の良くなったルイを、牢から逃がすこと。
無事、やり遂げたなら、俺は罪人を逃がした罪で罰せられるだろう。
どのような苦痛が待っているのか定かではないのに、なぜか、安堵している自分がいた。
俺はアリサに私物を預け、自分に何かあれば、好きなように処分してもらってもいいと伝えた。
そして、今日、手術が行われた。手術間際まで、ルイは泣き叫び、暴れた。麻酔で大人しくなった彼の、涙で濡れた顔を見つめている間に、俺の意識も麻酔で薄れていった。
数時間後、手術は成功したが、施術場所が医療施設でなかったことから消毒剤が限られており、優先してルイに使用してもらったため、消毒しきれなかった医療機器での処置で、俺の左目は化膿し、高熱が出た。
体を起こすのも辛く、自室のベッドで安静にしていたのだが、ルイが目覚め、奇行の症状が診られると一報を受け、牢屋に駆けつけた。
ルイは悲鳴にも近い声を出し、牢の中を彷徨っては倒れ、這っては床に頭を打ち付けた。左目を保護していた包帯もとれていた。
俺は牢に入り、懐刀で腕を切り裂いて、ルイの口へと押し込めた。
ルイの喉が鳴る。
飲んでくれた。
ほっとし、顔が弛緩する。
ルイの瞳が揺れ動いた。
見えているのか!?
泣きたいほどの喜びが体を突き抜ける。
よかった。本当に、よかった。
ルイは周囲を視線だけで確認し、また、俺を見た。
今なら、そこに置いてある食事や水が見えるだろう。
これまでとは違うことが、ルイに生きて欲しいと望んでいる人間がいることが、少しでも伝わっただろうか。
ルイ、と声を出しそうになり、口を閉じた。感情を吐露してしまいそうだったからだ。それに、ルイに俺の声は聞こえない。聞こえるのは、城の兵士や使用人だ。
俺の感情がルイに向いていることが露見すれば、ルイを自由にしてやる機会を無くしてしまうかもしれない。
俺は用心深く、表情を引き締め、ただ、瞳には好意ある決意を込めた。
待ってろ。今、医師を呼んでくる。
俺はルイに頷いて見せ、牢の鍵を閉めたのだった。
数分後に、ルイが逃亡のすえ、殺されるとも知らずに、この時、俺は未来への希望を感じていた。
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