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15-1〈現在・縁視点〉

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 エニシは気絶しているオーガストを横に担いだ。
「機械の都合ですぐには行けない。先に、ルイ達を部屋へ通してやってくれないか?」
 エニシが孤に微笑む。
 孤は快く受け入れた。
 三人を見送ったあと、エニシが小さく折り曲げた紙を手渡してきた。
「客人のもてなしは、俺がするから、リストのものを、すぐに使えるようにしておいてくれ」
 縁はエニシの顔色を目にし、眉をひそめた。
「僕を単独で孤のところへ行かせたのには、他の理由があったみたいですね?」
 エニシは息をついた。
「俺の体が役に立ちそうだったから、そうしたまでだ」
 思えば、機械製作には時間がかかる。
 エニシが糸トンボ型のロボットを、パッと出した時に、もっと疑うべきだった。
「オーガストが使用した睡眠薬に、耐性があったんですね?」
 エニシは縁を見つめ、無言で視線を逸らすと家へと歩き出した。
 縁は唇を噛みしめ、渡された紙を開いた。
 殴り書きで、何度も書き直しされた、薬の調合方法。
 いくつかの薬品名を、インプットされた知識と照らし合わせる。
 エニシが用意しろと言ったのは、何らかの毒を中和する解毒剤だ。
 思い出す。
 四面楚歌だった城で、毒を盛られたエニシを。
 医師と名乗る人間が何人も来たが、原因がわからないと言い、去って行った。
 エニシは薄ら笑いをした。
 彼は縁に解毒剤を作らせ、大事に至らなかったのだが、そういう出来事が何度もあり、狂ったように、自ら毒を服用していた時期があった。毒を体内に入れては、手に入る薬で治すのだ。解毒剤が発明されてない毒ですら、お構いなしだった。あんなエニシを、縁は二度と見たくなかったのに、また、飲んだのだろう。
 毒で浮かび上がるのは、池の水とソロの村人たちだ。
 エニシは孤を池で見つけるまで、池の水と流行病についての関連性を知らなかったはずだが、それも演技だったのか?
 何も話してくれないから、こちらは推測するしかない。
 エニシが考えを伝えてくれたなら、彼が毒を体内に入れずに済む案を、捻り出せたかもしれない。
 すべては仮定ではあるが、可能性はゼロではない。
 縁は苦痛で歪む文字に、目を伏せた。


 エニシから指示された薬品を地下で用意し、リビングへと上がる。
 テーブルにつくルイ達に、孤とエニシが紅茶をいれていた。
 エニシは孤の前では、穏やかな顔をする。彼が傷ついていないのに、なぜか、縁の感情は苦しみを表した。プログラミングされた感情に、問題が起きている。落ち着いたなら、エニシに直してもらわなければ。
 孤をルイの前の席に座らせ、エニシはキッチンへとたった。
「エニシ」
 頼まれていたものを差し出す。
 エニシはステンレス製の水筒の液体を、喉に通してから受けとった。
「助かる」
 微笑む口元から鉄の匂いがする。縁の臭気センサーでごく微量にひっかかる程度であり、液体の色は茶色だったから、孤達が見たならお茶だと勘違いしただろうが、人の血液を真似て作った液体だ。
 奥歯を噛むと、相手はキッチンに凭れた。
「なにか言いたげな顔だな」
「感情と表情の連動が上手くいかないみたいです」
「…………そうか。時間ができたら、メンテナンスをしてやらないとな」 
 言いながら、水筒の液体をすする。
 こんなもの、ソロの村へ下りる時は持っていなかった。
 血の補給を絶ってから久しい。
 孤に求めたくないのだろう。
 血液の補給だけではない。
 常日頃、夜更かしをし、機械を組み立てているのは知っていたが、外にある人型の不細工なロボットも、完成にまで至ってはいなかったはずだ。
 今回、どれだけ無理をしたのか。耳の通信機も、外すのを忘れているほどであることは、確かだろう。
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