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掌のスマホから、朔の呼吸が聞こえてくる。
端末を強く握りしめた。
一心は、母を説得しようとし、できなかった。
助け船を出してくれたのは、神薙渉という若い男だった。
神薙は他の二人より、柔和な面持ちをしていた。
「自分が必ず、ご子息を家へお送りします」
母は神薙を信じ、一心が施設へ行くことを許した。
一心は飯島と、がたいの良い男に挟まれる形で、黒色のセダンに乗った。
神薙は運転席へ行き、エンジンをかけた。
海から山の方へと、北へ進んでいく。
空の色が変化し、いくつかの星が光を放った。
民家や商業施設より、田畑の割合が多くなり、自然、目線が下がった。
と、体が前へと倒れ、息をつめた。
何の変哲もなかった、平面の道路が、突然、斜面になり、セダンはぽっかりと空いた空間へと滑り込んでいく。
「さきに、謝罪しておきます。君と君の母親に見せた施設の情報は、フェイクです。実際に建物も人も配置してありますが、表向きという訳です」
身の危険を感じた。
だが、シートベルトを外そうとし、今まで言葉を発したことのない男に、両手を固定された。神薙は関与してこない。
「君はまだクローバー病を克服していませんね?」
飯島は姿勢をそのままに、話を続けた。
「模様が出ていない人間に、あれは使いこなせません」
男は一心の制服を乱暴にはだけた。
神薙はバックミラー越しに、それを見たのだろう。アクセルを緩め、声を荒げた。
「待ってください。せめて、血液検査をしてから」
「どの道、新月は彼にしか使えない。検査をしようがしまいが、結果は同じだ」
「しかし、自分は彼の母親と」
「今、我々の組織は一枚岩にならなければいけない。感情論だけで動く人間は邪魔だ」
飯島の冷淡な言葉に、神薙は押し黙った。
一心は神薙に失望し、また、これから自分に起こりうる未来を恐れた。
飯島は神薙を負かした興奮を冷ますように、息をついた。
飯島の意識が、再び、一心へと戻ってくる。
肝が冷えた。
「クローバー病は感染することはない。そう発表されています」
背後でカチャカチャと物音がする。
「多くの場合、それは正しい。発症する人間のほとんどが、三つ葉だからです」
物音が消える。
背後の男の行動がわからないのに、悪寒がした。
「しかし、稀に、三つ葉以外の人間が現れる。彼らは別です。いくつかの条件が満たされた場合、体液でクローバー病が移ります。しかし、そうして発症した人間で、今のところ、死亡した者はいません。条件が満たされたなら、血液型が異なっても、支障ありませんが、満たされなかった場合は、君の体に不具合が出るでしょう。私としても、条件が満たされることを、願うばかりです」
液体が出る音がし、アルコール臭が車内に漂った。
右肩にひやりとしたものを塗られたかと思った瞬間、体が右方向へと引っ張られるように傾いた。前方の男も、一心を拘束する手を離し、衝撃に耐え、飯島はバランスを崩して運転席のシートにぶつかった。
セダンが急ブレーキをかけたのだ。
神薙、と無言を通していた男が、初めて口を開いた。
どこか、神薙を労るような声音だ。
「すみません!」
神薙のそれは、彼の名を、一番に呼んだ男への謝罪だった。
「月見里君!」
神薙がセダンのキーを抜き、シートベルトを外す。
一心もシートベルトを外し、指示を求めるよう、神薙を見た。
神薙が視線を送ったのは、飯島ではなく、もう一人の男だった。
「左側から出て!」
飯島の方が、まだ、拳でわたりあえそうなのに、なぜ、そちらなのか。
不安と疑念を抱いたが、「朝波君に会いたいんだろ?」という神薙の言葉に背を押され、武術にたけていそうな男の前を通り、ドアを開けた。
男は何もしてこなかった。
戸惑った一心の視線に、名も知らぬ男のものが絡まる。
動こうとすればできるのに、動かない選択をしたことを知った。
「待て」と背後で、飯島の弱々しい声がする。
大人ふたりが作ってくれたチャンスを、逃す愚行はしたくなかった。
一心は振り向かず、素早く、外へ出た。
端末を強く握りしめた。
一心は、母を説得しようとし、できなかった。
助け船を出してくれたのは、神薙渉という若い男だった。
神薙は他の二人より、柔和な面持ちをしていた。
「自分が必ず、ご子息を家へお送りします」
母は神薙を信じ、一心が施設へ行くことを許した。
一心は飯島と、がたいの良い男に挟まれる形で、黒色のセダンに乗った。
神薙は運転席へ行き、エンジンをかけた。
海から山の方へと、北へ進んでいく。
空の色が変化し、いくつかの星が光を放った。
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と、体が前へと倒れ、息をつめた。
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「さきに、謝罪しておきます。君と君の母親に見せた施設の情報は、フェイクです。実際に建物も人も配置してありますが、表向きという訳です」
身の危険を感じた。
だが、シートベルトを外そうとし、今まで言葉を発したことのない男に、両手を固定された。神薙は関与してこない。
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飯島は姿勢をそのままに、話を続けた。
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「待ってください。せめて、血液検査をしてから」
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「しかし、自分は彼の母親と」
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飯島の冷淡な言葉に、神薙は押し黙った。
一心は神薙に失望し、また、これから自分に起こりうる未来を恐れた。
飯島は神薙を負かした興奮を冷ますように、息をついた。
飯島の意識が、再び、一心へと戻ってくる。
肝が冷えた。
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背後でカチャカチャと物音がする。
「多くの場合、それは正しい。発症する人間のほとんどが、三つ葉だからです」
物音が消える。
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「しかし、稀に、三つ葉以外の人間が現れる。彼らは別です。いくつかの条件が満たされた場合、体液でクローバー病が移ります。しかし、そうして発症した人間で、今のところ、死亡した者はいません。条件が満たされたなら、血液型が異なっても、支障ありませんが、満たされなかった場合は、君の体に不具合が出るでしょう。私としても、条件が満たされることを、願うばかりです」
液体が出る音がし、アルコール臭が車内に漂った。
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どこか、神薙を労るような声音だ。
「すみません!」
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