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男が一心を睨み付ける。
音もなく、太い首に刀がめり込んだ。
男は野岸を離し、腕を振り回した。
一心のすぐわきに、野岸を抱えた朔がくる。
朔が生きている。
よかった。
涙が頬を伝った。
朔は一心の泣き顔を見て、驚いたように口を僅かに開けたが、すぐさま、感情のこもらない目で、男へと刀を構えた。
男はクツクツと笑った。
「お前、本当に生命体か?」
朔は眉すら動かそうとしない。
と、男が眼球を上空に向けた。
男の視線が朔へと戻る。
「朗報だぞ。撤退命令が出た」
朔が男へにじり寄る。
「俺はいいぞ。このまま、続けてもな。だが、お前は炎の中、生きられても、他の連中は生きられるかな?」
朔が動きを止める。
男は朔を鼻で笑い、空へと浮き上がった。
男の目が一心を射る。
鋭い眼差しが、痛々しげなものになり、一心は漠然とした疑問を抱いた。
数秒の間のあと、男が両手の親指と人差し指で四角を形作る。
「魔弾器」
発せられた音に引き寄せられるように、人型ではないイーバが男へと集結し、男が作った四角い空間へと吸い込まれていく。
上空を埋め尽くしていた虫がいなくなるのを見計らい、男が印を解いた。
「聞け、家畜共。我が名はミゲル。この第二実験場の総括を、前第二軍隊長ダデルから引き継いだ者なり」
ちらりと、ミゲルが一心を見る。
何かを探るような眼差しだった。
「お前達の主を忘れたごとき所業、デネボラ様に、しかと報告させてもらう」
ミゲルはグッと歯を食いしばった。
「いいな?! 兄じゃ!!」
ミゲルは、そう、一心に対し、怒鳴った。
兄と呼ばれても、何のことか、わからない。
ミゲルは不服げに視線をそらし、両手の親指と人差し指で丸みを帯びた三角を作った。
「次空間」
三角の空間が、宇宙を切り取ったように、闇と星々に彩られる。
ミゲルは一心を一瞥し、三角形の宇宙へと入っていった。
朔は刀をホルダーにおさめ、一心に振り返った。
鋭かった眼が、感情を含み、悲哀に揺れる。
一心は、何かを言おうとし、両手の痛みに呻いた。
手が紫色になり、ひび割れていく。
「ツナギを使ったのか?! 待ってろ、まだ薬があったはず」
野岸が白衣の内ポケットに手を突っ込んだ。
朔は一心へと歩くと地面に膝をついた。
「あった。これで」
小瓶を出した野岸が固まる。
一心の唇には、朔の唇が触れていた。
「どうして、戻ってきたんだよ」
朔がキスをしたまま、しゃべる。
「こんなに傷ついて」
つながっている部分から、さらさらと何か心地よいものが流れ込んでくる。
両手のひび割れが進行しないばかりか、紫色が引いていく。
「俺がなんとかしてやれるのは、ツナギの副作用だけだ。部屋に運んだら、甦禰看さんに来てもらう」
朔とのキスの合間、野岸が去ろうとするのが見えた。
「野岸、待って」
一心がキスをやめると、朔は切なげに目を伏せた。
「朔?」
朔は一心を見つめると、わざとらしい笑顔を顔にはりつけた。
「欲張り」
「え?」
呆気に囚われた一心を残し、朔は立ち上がると、野岸を呼び止めた。
「野岸君も、一緒してもらっていい?」
「俺がお前達に同行する利点は?」
「そうだなあ。良いことって、人それぞれだからさ。まずは、野岸君の良いことを聞かせてよ」
野岸の尖った物言いを、朔は笑顔で対処した。
「俺は……、人に。人としての権利を、持ちたい」
野岸の切なる願いに、一心は胸が痛んだ。
「なるほどね。けどさ、ここにいる限り、自由や権利は制限されるだろ? 例外は、班に属すことかな? AからFまでのどこかに入ることができれば、ある程度、人としての権利は確保できるんじゃない? そんかし、イーバとの戦闘を強いられるけどね。救護班でも、いざと言うときは刀を振らなければいけない。野岸君は自分の命で、自由と権利を買える?」
「人として死ねるなら」
野岸の揺るぎない眼差しを受け、朔は小さく息を漏らした。
「俺は野岸君には生きてもらいたい。一心のためにもね」
自分の名前が出てきたことに、一心は面食らった。
野岸は朔をじっと見つめている。
「人として死ねる、じゃなくて、人として生きる、にしとこうぜ」
朔が野岸に笑いかける。
野岸は口を結び、俯いた。
なぜか、泣き出しそうな野岸に、朔が眉を上げ、思い至ることがあったのか、悲しげに唇を伸ばした。
音もなく、太い首に刀がめり込んだ。
男は野岸を離し、腕を振り回した。
一心のすぐわきに、野岸を抱えた朔がくる。
朔が生きている。
よかった。
涙が頬を伝った。
朔は一心の泣き顔を見て、驚いたように口を僅かに開けたが、すぐさま、感情のこもらない目で、男へと刀を構えた。
男はクツクツと笑った。
「お前、本当に生命体か?」
朔は眉すら動かそうとしない。
と、男が眼球を上空に向けた。
男の視線が朔へと戻る。
「朗報だぞ。撤退命令が出た」
朔が男へにじり寄る。
「俺はいいぞ。このまま、続けてもな。だが、お前は炎の中、生きられても、他の連中は生きられるかな?」
朔が動きを止める。
男は朔を鼻で笑い、空へと浮き上がった。
男の目が一心を射る。
鋭い眼差しが、痛々しげなものになり、一心は漠然とした疑問を抱いた。
数秒の間のあと、男が両手の親指と人差し指で四角を形作る。
「魔弾器」
発せられた音に引き寄せられるように、人型ではないイーバが男へと集結し、男が作った四角い空間へと吸い込まれていく。
上空を埋め尽くしていた虫がいなくなるのを見計らい、男が印を解いた。
「聞け、家畜共。我が名はミゲル。この第二実験場の総括を、前第二軍隊長ダデルから引き継いだ者なり」
ちらりと、ミゲルが一心を見る。
何かを探るような眼差しだった。
「お前達の主を忘れたごとき所業、デネボラ様に、しかと報告させてもらう」
ミゲルはグッと歯を食いしばった。
「いいな?! 兄じゃ!!」
ミゲルは、そう、一心に対し、怒鳴った。
兄と呼ばれても、何のことか、わからない。
ミゲルは不服げに視線をそらし、両手の親指と人差し指で丸みを帯びた三角を作った。
「次空間」
三角の空間が、宇宙を切り取ったように、闇と星々に彩られる。
ミゲルは一心を一瞥し、三角形の宇宙へと入っていった。
朔は刀をホルダーにおさめ、一心に振り返った。
鋭かった眼が、感情を含み、悲哀に揺れる。
一心は、何かを言おうとし、両手の痛みに呻いた。
手が紫色になり、ひび割れていく。
「ツナギを使ったのか?! 待ってろ、まだ薬があったはず」
野岸が白衣の内ポケットに手を突っ込んだ。
朔は一心へと歩くと地面に膝をついた。
「あった。これで」
小瓶を出した野岸が固まる。
一心の唇には、朔の唇が触れていた。
「どうして、戻ってきたんだよ」
朔がキスをしたまま、しゃべる。
「こんなに傷ついて」
つながっている部分から、さらさらと何か心地よいものが流れ込んでくる。
両手のひび割れが進行しないばかりか、紫色が引いていく。
「俺がなんとかしてやれるのは、ツナギの副作用だけだ。部屋に運んだら、甦禰看さんに来てもらう」
朔とのキスの合間、野岸が去ろうとするのが見えた。
「野岸、待って」
一心がキスをやめると、朔は切なげに目を伏せた。
「朔?」
朔は一心を見つめると、わざとらしい笑顔を顔にはりつけた。
「欲張り」
「え?」
呆気に囚われた一心を残し、朔は立ち上がると、野岸を呼び止めた。
「野岸君も、一緒してもらっていい?」
「俺がお前達に同行する利点は?」
「そうだなあ。良いことって、人それぞれだからさ。まずは、野岸君の良いことを聞かせてよ」
野岸の尖った物言いを、朔は笑顔で対処した。
「俺は……、人に。人としての権利を、持ちたい」
野岸の切なる願いに、一心は胸が痛んだ。
「なるほどね。けどさ、ここにいる限り、自由や権利は制限されるだろ? 例外は、班に属すことかな? AからFまでのどこかに入ることができれば、ある程度、人としての権利は確保できるんじゃない? そんかし、イーバとの戦闘を強いられるけどね。救護班でも、いざと言うときは刀を振らなければいけない。野岸君は自分の命で、自由と権利を買える?」
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野岸の揺るぎない眼差しを受け、朔は小さく息を漏らした。
「俺は野岸君には生きてもらいたい。一心のためにもね」
自分の名前が出てきたことに、一心は面食らった。
野岸は朔をじっと見つめている。
「人として死ねる、じゃなくて、人として生きる、にしとこうぜ」
朔が野岸に笑いかける。
野岸は口を結び、俯いた。
なぜか、泣き出しそうな野岸に、朔が眉を上げ、思い至ることがあったのか、悲しげに唇を伸ばした。
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