クローバー

上野たすく

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「友だち? 朔の?」
「はい」
 頷く甦禰看に、朔を思い出す。
 なぜ、戦うのかと聞いた甲子に、朔はこう言った。
――戦わなきゃ、俺の代わりに、戦わされる人がいるからだよ。
 その戦わされる人は、朔の大事な幼馴染みだ。
 もし、月見里一心がその幼馴染みであったなら、班員になろうとすることに、朔が黙っているはずがない。
「朔、何か言ってなかった? その人が班員試験を受けること、朔は知ってるんだよね?」
「いえ。月見里君が班員を志望する意思を明確にしたとき、朝波君は眠っていましたので」
 まだ、月見里一心が朔の大事な幼馴染みであるかは、はっきりとしないが、可能性があるなら、情報は広めない方が賢明だ。
「じゃあ、その人の班員試験の件は、いったん、保留にしとこうよ。三代さん、他の班長には伝えてないんでしょ?」
「ええ。ですが、班員試験のための書類を作らなければ行けません。記載事項があやふやでは、選考基準にも乱れが生じます」
 月見里一心が試験を受けないなら、葉数を用紙に記載させたいということか。 
「あのさ、その人が今回、受けなくても、班員を増やすために葉数は無視していいと思うんだ。理由は二つ。負傷による班員の欠如と、今後のための戦力の確保。人型イーバが三つ葉以外の人を襲ったのなら、葉数で役割を分けるのは古いよ」
「わかりました」
 三代の言葉に、ほっとする。
 が。
「一意見として、覚えておきます」
 なんだよ。相手にしてくんないのかよ。
「あ! あの! 私も赤星君の意見に賛成です!」
 浮世絵が胸元で祈るように指を組みながら、応戦してくれる。
「ネオ・シードの人々、みんなが戦えれば! その、戦うっていうのは、武器を持って戦うっていう意味だけじゃなくて、救護班の人たちだって、死者がでないよう、私たちを守るために戦ってくれています! だから、あの、その。何を言いたいかって言うと……、その」
 浮世絵が論理を組み立てられなくて、縮こまっていく。
 甲子は浮世絵の勇気に感謝し、スッと背筋を伸ばした。
 自分の主張と浮世絵の構想を、頭で整理し、
僭越せんえつながら、浮世絵班長の言葉を引き継がせてもらいます。ネオ・シードは変革の時期に来ているということです。今までは、三つ葉を囮に、イーバをオニキス内で駆除すればよかった。ですが、これからはそれでは通用しないことを、俺達は人型イーバの出現によって、教えられました。ネオ・シードのすべての人々に、何らかの戦う術を得てもらうことは、重要であり、だからこそ、葉数ありきの選考は控えるべきだと、考えます」
「赤星君……」
 浮世絵が潤んだ瞳で見つめてくる。
 甲子は意思を貫くため、姿勢を保った。
「わかりました。指令班には私が責任を持って、班長である、あなた達の考えを伝えます」
「俺も、一心さんを葉数で考えたりしない。指令班の思いをむよ」
 三代が緩く唇を伸ばす。
「ありがとうございます、赤星班長」
 横で、安心したように浮世絵が息をついた。

* * *

 会議室から解放され、甲子はネオ・シードまでの行き道を、浮世絵と歩いた。
 さっきから、物言いたげに、うずうずしていた浮世絵が、「あのね」と甲子を振り向いた。
「さっきみたいな、話し方、とってもいいなって思うの」
 一大決心のように、真剣な眼差しをされる。
 甲子は他人が何を言おうが、基本、構わないと思っている。
 人は人だ。
 その代わり、こちらも、どう受けとろうが、勝手だろうとも思う。
 だから、浮世絵が彼女の意見を言うことに、ビクビクすることはないのだが。
「さっき?」
「う、うん。三代さんに、です、ますって」
「ああ」
「かっこよかったよ」
「ああやって言うと、大人からの受けはいいよね」
 浮世絵が立ち止まる。
「知ってる。だから、あんまり使いたくないんだ」
「どうして? それじゃあ、赤星君が損しちゃうよ」
 浮世絵は悲しげだ。
「だって、人は見た目や話し方じゃないじゃん? どう行動するかだよ」
「そうかもしれないけど、でも」
「凜や朔、富嶽も、C班じゃないのに、俺が敬語を使わなくても、普通にしゃべってくれるじゃん」
「だって、赤星君は赤星君だから。でも、でもね。先に生まれた人を敬うっていうのも、大切なんじゃないかな?」
 甲子はそっと目を細めた。
 浮世絵が青くなる。
 甲子は普段通りの笑みを、浮世絵のために作った。
「凜の言いたいことも、わかるよ」
「ほんと?!」
 彼女の顔色に、パッと血色が戻る。
「ほんと、ほんと。譲れない時は、相手の懐に入るのも手だよね?」
「う、うん?」
 浮世絵は歯切れ悪く頷いた。
「あっ! それはそうと」
 たった今、思いついたと言わんばかりに、甲子は浮世絵に心から笑いかけた。
「俺の意見に乗ってくれて、ありがと。嬉しかった」
 浮世絵の笑顔が輝く。
「うん!」
 浮世絵は裏表がない。
 彼女は自分らしくあっても、人から反感を買うことは少ないだろう。
 天性の才能だ。
 かたや、甲子は自分らしくあろうとして、対人関係にひびを入れている。
 浮世絵のような才能がないから、仮に、人と上手く付き合おうとすれば、口当たりの良い人格を装わなければいけない。厳密に言えば、そういう付き合い方を選び、人と接したとしても、甲子が甲子であることに変わりはない。実際、地上にいる間、甲子はそうやって自分を殺して生活をしてきた。
 浮世絵の言う通り、過去の自分に頼らなければいけない場面が、この先、出てくるかもしれない。
 甲子が選択した、自分らしくあろうとする行為は、風当たりがきつくて、生きづらい。
 マナーをわきまえている人からしたら、単なる我が儘で不作法に映るだろうことも、承知の上だ。だけど、正しいとされた線路に踏み込んだら、居心地が良くて、なかなか抜けられない。そんな自分の弱さを知っているから、できるだけ線路には入りたくない。地上での絶望感を、地下では味わいたくなかった。
 甲子は後頭部で腕を組み、伸びをした。
「凜が頑張ってくれたんだから、俺も、復旧作業、頑張らないとね」
「私も、早く、みんなが安心して生活できるように、頑張る」
 浮世絵の、とびっきりの笑顔は眩しくて、そして、羨ましかった。
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