クローバー

上野たすく

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 ヤカンの水が沸騰したのを見計らい、朔を起こした。
 野岸は弁当を一つ取り、皿で米や野菜をふやかしてくれている。
 ピンポンとまたセキュリティー装置が鳴った。
「見てくる」
 野岸が素早く動いてくれた。
「悪い」
 朔と遊びながら一心が謝ると、青年は肩越しに振り返り、大丈夫だと言う代わりに手をあげた。
「男がふたり。知らない顔だ。どうする?」
「名前を聞いてくれないか?」
「わかった」
 野岸は装置を操作し、音声を繋げた。
「どちら様ですか?」
「ん? あれ? 部屋、間違うまちごうたか?」
 聞いたことのある方言に一心が口を開いたとき、
「夏目さん。相手の質問に応えていません」
 別の声が冷静に注意した。
「F班の富嶽と夏目です。そちらに月見里一心と朝波朔がいると聞いて来たのですが」
 野岸の視線が一心をとらえる。
「俺が世話になった人達だ」
 言いながら頷くと、青年はセキュリティーを解除した。
 野岸に応えたのは富嶽だったのに、先に部屋へ入ってきたのは夏目だった。
 以前はつけていなかった、派手な色のゴーグルを額につけている。
 夏目はドアの近くにいた野岸に気づき、唇を伸ばした。
「君、見ん顔やね」
「野岸絢斗です」
 野岸は相手の目を見て名乗った。
「夏目啓吾や。よろしく」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
 夏目は野岸に、にこりとすると、一心へと首を回した。
「怪我させてもうて、本間に申し訳なかった」
「夏目さんのせいじゃありません」
「一心をオニキスへ連れてったのは俺や。俺には保護する責任があった」
 一心は口を結び、夏目の言葉を受け入れた。
 朔が不思議そうに顔を覗き込んできた。
 一心は朔に微笑み、彼の頭を撫でた。
 心地よさげに、朔は一心の膝へと頭を預けた。
 夏目がこちらへ歩き出す。
 富嶽は野岸と会釈をしあってから、夏目に続いた。
 夏目はベッドの上にある新月と一心の足下にある紙パンツの袋を見た。
「朝波のことは聞いた。それから」
 言いかけて、ちらりと野岸を窺う。
「眼帯しとる件やけど」
 暗に、左目のことを伝えられる。
「甦禰看さんから何か聞きましたか?」
「ちいとばかし頼まれ事、されてん」
「左目のことは、野岸も知っています」
「そうなん?」
 夏目は一心が首肯するのを見て、野岸へと視線を送った。
「ネオ・シードで行動を共にしていました」
 どことなく、野岸の口調が固い。
 夏目はそんな野岸に微笑んだ。
「そか。一心と一緒におってくれて、おおきに」
「いえ」
 野岸は躊躇いがちに言葉を返した。
 夏目は野岸をじっと見つめ、再度、一心へと体の向きを変えた。
「左目、見せてくれへん?」
 一心は俯きがちに眼帯に触れた。
「外せません」
 夏目か富嶽から罵倒されることも、覚悟のうえだった。
 だが、どこからも一心を攻める声は降ってこなかった。
「理由を聞いてもええ?」
 夏目の声が思いもよらず穏やかで、一心は力が抜けるのを感じた。
「外すと、オニキスへ転送された時のような感覚になるんです」
「甦禰看さんや野岸君が、左目のことを知っとるってことは、初めは目ぇを開いても問題なかったっちゅうことやね?」
「はい。目を覆ったら大丈夫だったので、被さるものがあればいいかと思ったんです」
「だから、眼帯か」
「はい」
 夏目はおもむろにゴーグルを目に当て、しゃべらなくなった。
 何が行われているのかわからず、一心は戸惑った。
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