クローバー

上野たすく

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 一心は朔の声がした方へと顔を上げた。
「朔の声がしたんです」
「今もしとるんか?」
「いえ」
 夏目が白く輝く球体へと視線を向け、手を伸ばした。
「おいで」
 白色の球体が揺れ、おずおずと夏目の掌へ集まっていく。
 彼は白い球体に目を細めた。
「夏目さん?」
 不安で名前を呼ぶと、青年は複雑な笑みを浮かべた。
「俺には朝波の声は聞こえへん。俺ができるんは、イメージや感覚の共有や。それによると、この白い球体は朝波から散らばったもんで、それから、散らばったんは他にもあるみたいなんや」
 夏目は瞼を閉じて唸り、「そうやな。やっぱり、それが一番の安全牌や」と一人納得したように言いながら、目を開けた。
「よう聞いてくれ。朝波のために俺達がすべきことは、散らばった白い球体の回収や。ただ、君が触ったら、色が変わってまうかもしれへん。変わってすぐやったら、戻せるかもやけど、俺がいっつも傍におるとは限らん。それに、白いもんが全部、朝波やって確証もないでな。一回、俺が確認した方がええ。てな訳で、これをやる」
 夏目は一心の左手の上で、また、ナンバーパズルを解くような動きをした。
 左の小指に現れたのは、銀色の指輪だ。
「朝波にもな」
 夏目は微笑み、朔の左手の小指にも指輪を形成した。
「朝波やと思う球体を見つけたら、その球体を指輪に吸い込ませるイメージを強く持てば、その通りになる。指輪は君と朝波の二つあるで、近い方をイメージしたらええ。試しに、やってみ」
 夏目が一歩下がり、球体を手にのせ、一心へと腕を伸ばした。
 左の小指にある指輪に、球体が浸透するような動画を思い描く。
 が、現実の球体はピクリともしない。
 夏目は動じなかった。
「慣れやから。やっとる内に、できるようになるに」
 それじゃあ、朔の球体を回収し損ねるかもしれない。
 一心の気持ちを汲んだように、夏目が「ドント ウォーリーや」と口角を上げた。
「イメージだけで無理な時は、声に出せばええ」
「声、ですか?」
「そや。空気の振動で球体に触ればええ。どんな言葉でも、自分のイメージを引き出せられるなら、ウエルカムや」
 一心は白色の球体を見て、朔に視線を向け、それから、傍らにある新月に触れた。
 夏目からの情報は、前例のない道にできた道しるべだ。
 一心には朔を新月から人へ戻す力はない。
 けど、朔の欠片は見ることができる。
 やっと、大切な人を取り戻すために、直接、関われるのだ。
 白い球体を見つめ、左手を差し出した。
「朔」
 一緒にいよう。
「朔」
 一緒にいて。
 白い球体がふわりと動く。
 朔が一心の指輪を覗き込んできた。
 一心は記憶をなくした彼に微笑み、もう一度、煌めく球体に願いをこめた。
「朔」
 傍にいて。
 煌めく白が、笑顔の朔の前を通り、指輪へと入り込んでいく。
「上出来や」
 夏目に応えようとした。
 そのとき、意識が、一瞬、途切れた。
 意識がはっきりすると、一心は、暗闇の中、高速で行き来する色とりどりの球体を見た。
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