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117 (金森視点)
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夏目啓吾と別れたあと、金森伊緒は食堂で配給品の弁当を貰い、仕事場へ戻ろうと廊下を歩いていた。前方からラフな格好の青年が来て、伊緒に気づくと、ふわりと微笑む。
「お久しぶりです、金森さん」
青年、青柳柊は指令班に所属しているが、体が弱く、現場には、ほぼ現れない。彼専用の治療室で、彼ができる範囲の仕事をしているらしい。
「お久しぶりです」
伊緒は青柳に笑いかけた。
青年は微笑み返してから、伊緒の手元へと視線を向けた。
「今から昼食ですか?」
「はい」
「僕もこれからなんです。ご一緒しても、良いですか?」
青柳は、食べ物らしきものを持ってはいない。
躊躇っていると、青年は上着のポケットに触れた。
「携帯食を救護班から、いただいています」
伊緒はほっとし、笑んだ。
「そうなんですね。どこで食べますか?」
「静かな落ち着いた場所が良いですね。心当たりはありますか?」
「静かな……」
指の関節を唇に当て、伊緒は思考を巡らせた。
浮かんだのは、馴染みのある空間だ。
「資料室とか」
「え?」
予想だにしなかったのか、青柳が聞き返してくる。
資料室は、そもそも、食事をする場所ではない。
あそこで食べているのは、伊緒だけだ。
「いえ、資料室は静かだと思って。あとは」
再び、考えようとする伊緒の前で、青柳は甘く笑んだ。
「良いですね。資料室なら、来る人が限られています」
他者の侵入を拒むような言い方に引っかかったが、伊緒は唇を伸ばして応えた。
伊緒が歩くのに、一歩遅れて、青柳が歩き出す。
守られているような感覚が懐かしくて、戸惑った。
青柳は伊緒の視線に気づくたび、微笑んでくれる。
地上にいる時の、夏目の笑顔が重なって見え、伊緒は先刻の懐かしさが、夏目のくれたものであったことを思い出し、俯いた。
伊緒は中三のある時期まで、夏目のことを、下の名前で呼んでいた。
啓吾、と。
夏目も、そうだ。
伊緒と呼んでくれていた。
無邪気に、友だちとして。
キラキラした笑顔が頭の中で再生され、胸が痛んだ。
夏目は伊緒に心を許してくれていた。
最初は嬉しかった。
けど、段々、苦しくなった。
先に、苗字を口にしたのは、伊緒だった。
夏目を嫌いになったからではない。
自分達の関係が変われば良い、と思ったのだ。
夏目に、幼馴染みではなく、一人の女性として意識してもらいたかった。
きっかけは、友だちが持っていた、まじないの本だった。そこには簡単にできる、日常のおまじないが、項目ごとに載っていた。
勉強、友人関係、良運、金運、恋愛。
好きな相手に意識してもらうためのおまじないが、苗字で呼んでみる、だったのだ。
今の自分達は、そのおまじないの結果だ。
あの日、苗字を呼ばれた夏目は、流さずに立ち止まってくれた。
対応を間違えてしまったのは、伊緒だ。
恥ずかしくて、素直になれず、どうして呼び方を変えたのか、理由を聞いてくれた夏目に、夏目の兄と夏目が、よく似た名前で紛らわしいからだなんて、思ってもいないことを口走ってしまった。
「お久しぶりです、金森さん」
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「今から昼食ですか?」
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「静かな……」
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「いえ、資料室は静かだと思って。あとは」
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「良いですね。資料室なら、来る人が限られています」
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伊緒が歩くのに、一歩遅れて、青柳が歩き出す。
守られているような感覚が懐かしくて、戸惑った。
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地上にいる時の、夏目の笑顔が重なって見え、伊緒は先刻の懐かしさが、夏目のくれたものであったことを思い出し、俯いた。
伊緒は中三のある時期まで、夏目のことを、下の名前で呼んでいた。
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伊緒と呼んでくれていた。
無邪気に、友だちとして。
キラキラした笑顔が頭の中で再生され、胸が痛んだ。
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最初は嬉しかった。
けど、段々、苦しくなった。
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