その勇者、魔王の親友なりて

上野たすく

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勇者、幸福について考える

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 俺の額があたたかく、そして、瞼の裏側が少しだけ明るくなる。

 魂よ。迷わず、天へ。

 氷が爆ぜる音がそこかしこでし、額が光りによって天に向く。
 瞼を上げると、青空へと何百個ものクリスタルが、上っていくのが見えた。
 トロールの表情が、安らかなものへと変化する。

「さすが勇者様。どんな命にも、お優しい」
「呪われんのが面倒だっただけだ」

 クナイについた血を、空を切って吹き飛ばし、ベルトへと戻した。
 ハルが息をつきながら苦笑する。

「品行方正なシオウは嘘っぱちだって思っちゃうけど、少しは人が好むような態度も覚えなきゃ」

 城の皆は、俺を無口だと決めつけた。
 笑わないことは、厳格で良いと褒めた。

「関係ない」

 城からまた一歩離れる。
 土を蹴り、まだ見ぬ世界へ、足が急ぐ。

 俺は運命から逃げている?
 違う。
 自由を求めているんだ!

 カラフルな鳥が、白いウサギが、茶色のクマが木々の間から顔を現す。

 枷のついた生活は終わった。
 俺を縛るものは、もうない!

 角鹿が道に飛び出してきた。
 地面を蹴り、木の枝を片手で掴んで後転し、遠心力でより遠くに着地する。
 体が軽い。
 こういうのをハイになってるって言うのかもしれない。
 森を抜けると草原が広がっていた。
 背の高くない黄緑色の草が茂り、風が吹くたび同じ方角へなびく。

「シオウ?」

 殺気を放ちながら歩いてきたハルが横で立ち止まる。

「波みたいだ」
「波?」
「本に書いてあった。この世界には海って大きな水溜まりがあって、俺達がいるここ」

 地面を踏んでみせる。

「ここが陸って奴で、海は風によって動くんだってよ」
「そうなんだ」

 ハルが優しく唇を伸ばす。
 見守られているような気恥ずかしさに頬が火照った。
 ガキっぽかったか?

「行くか」

 強気に出たが、体が熱くて上手く歩けない。
 ハルはズボンのポケットに手を突っ込み、やや後方を陣取り続ける。
 顔面の評価や背丈だけじゃなく、精神年齢も負けたようで居たたまれない。
 お、とハルが声をあげ、しゃがみ込む。

「なに?」
「ん? ホタルブクロだよ。ほら」

 ハルは紫色のチューリップハット型をした花の茎を折り、俺へと向けた。
 造形はかわいいが匂いはまったくない。

「どうすんだ、それ」
「かわいいだろ?」

 愛しむように花を撫でる、ハル。
 これが魔王なんだから、世界の常識ってのは、インチキなものだ。

「ホタルを入れたら提灯みたいになる。綺麗だよ」
「ふうん」

 やっぱ、こいつ、俺より賢い。
 ハルが指を鳴らす。
 空中に水が生まれ、ホタルブクロをそこにさした。
 大切に掌にのせ、微笑みかけてくる。

「行こうか。目指せ、ギルドだ」

 歩き出したハルを、足早に追いかけた。
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