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勇者、幸福について考える
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「とんだ、エロ魔法だな」
「だから、シオウが誘ってくれなきゃ、できなかった」
息を吐くと同時に、重々しい感情を外へ押し出してやる。
でも、それだけじゃ、うまく自分をあやせなくて、羞恥心を隠して顎を少しだけ上へあげた。
「キス」
「ん?」
ハルが首を傾げる。
「キ、ス!」
瞼を閉じ、唇を差し出してやる。
「ああ」
ハルは納得したような、あいの手を入れてきた。
「キスしてって言ってくれたら、すぐ分かったのに」
ぶん殴りてえのを拳を振るわせて我慢した。
ほどなくして、両肩にハルの細長い指が置かれ、唇が重ねられる。
ハルが近い。
ほっと体から力が抜ける。
と、ハルの唇が振動した。
フフ、と微かな笑い声。
こいつ、キスしながら笑ってやがる。
半眼で呆れていると、友人は眉を上げた。
さも、不思議そうに。
「どうした?」
幼い頃から知っている男がまとう、知らない空気。
ふわふわしたそれを、巷じゃなんと呼ぶのだろう?
ハルはこちらの質問が分からないという風に、唇を伸ばしながら首を横にした。
「なぜ、笑う?」
「僕、笑ってる?」
「笑ってるだろ?」
自覚ねえのか?
「込み上げてくるものがあって」
嘔吐?
砂利を腹へ入れるのは魔王でも、厳しかったか?
「たしか、ここに薬草が」
城から、ほんの少し、貰ったものがあったはず。
懐で温めている巾着を探す。
「なに? シオウ、どこか具合悪い?」
「具合悪いのはハルだろ?」
「え? 僕?」
瞬きをした友人を前に、巾着を掴んだまま動きを止めた。
「悪くねえの?」
頷かれる。
奴は戸惑う俺を見つめ、ポンと手を打った。
「込み上げてくるもの?」
こくこくと頭を縦に振ってやる。
「違う違う。吐かない、吐かない」
手を左右され、体勢を戻した。
「魔王っぽくないかもしれないけど、そうだな。人の言葉を借りれば、幸せってやつかな?」
ハルが緩く笑む。
俺は拳を握りしめた。
ずっと、幸せなんて言葉、俺には無縁だと思っていた。
この命は誰かの幸せを守るためにあるのであって、自分の幸せを作るためのものではないから。
ようするに、世界中の人々の幸福と俺という存在とは、区別されなきゃならない。
それは、俺が生きた道具だから。
俺は人のために、血を流し、命を減らし、外側から彼らの笑顔を見守らなければいけないから。
勇者なんて大形な呼称を与えられても、望まれていることは苛酷労働だ。
俺は人間でも魔物でもない。
勇者っていう、どこにも所属しない生き物で、人間らしい感情を持っちゃいけないって、持ったら辛いだけだって、そう思ってた。
幸せ。
そっか。
ハルは俺といて幸せなのか。
不安が消え去ったかと言えばウソになる。
ウソになるけど。
「もう一回」
ぼそっと呟く。
ハルは下手なことを言わず、微笑んだ。
「うん」
唇がしっとりと合わさる。
俺も、ハルといて幸せだって思えるようになるだろうか?
そんな時が、なるべく早く来ることを、密かに願った。
「だから、シオウが誘ってくれなきゃ、できなかった」
息を吐くと同時に、重々しい感情を外へ押し出してやる。
でも、それだけじゃ、うまく自分をあやせなくて、羞恥心を隠して顎を少しだけ上へあげた。
「キス」
「ん?」
ハルが首を傾げる。
「キ、ス!」
瞼を閉じ、唇を差し出してやる。
「ああ」
ハルは納得したような、あいの手を入れてきた。
「キスしてって言ってくれたら、すぐ分かったのに」
ぶん殴りてえのを拳を振るわせて我慢した。
ほどなくして、両肩にハルの細長い指が置かれ、唇が重ねられる。
ハルが近い。
ほっと体から力が抜ける。
と、ハルの唇が振動した。
フフ、と微かな笑い声。
こいつ、キスしながら笑ってやがる。
半眼で呆れていると、友人は眉を上げた。
さも、不思議そうに。
「どうした?」
幼い頃から知っている男がまとう、知らない空気。
ふわふわしたそれを、巷じゃなんと呼ぶのだろう?
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「なぜ、笑う?」
「僕、笑ってる?」
「笑ってるだろ?」
自覚ねえのか?
「込み上げてくるものがあって」
嘔吐?
砂利を腹へ入れるのは魔王でも、厳しかったか?
「たしか、ここに薬草が」
城から、ほんの少し、貰ったものがあったはず。
懐で温めている巾着を探す。
「なに? シオウ、どこか具合悪い?」
「具合悪いのはハルだろ?」
「え? 僕?」
瞬きをした友人を前に、巾着を掴んだまま動きを止めた。
「悪くねえの?」
頷かれる。
奴は戸惑う俺を見つめ、ポンと手を打った。
「込み上げてくるもの?」
こくこくと頭を縦に振ってやる。
「違う違う。吐かない、吐かない」
手を左右され、体勢を戻した。
「魔王っぽくないかもしれないけど、そうだな。人の言葉を借りれば、幸せってやつかな?」
ハルが緩く笑む。
俺は拳を握りしめた。
ずっと、幸せなんて言葉、俺には無縁だと思っていた。
この命は誰かの幸せを守るためにあるのであって、自分の幸せを作るためのものではないから。
ようするに、世界中の人々の幸福と俺という存在とは、区別されなきゃならない。
それは、俺が生きた道具だから。
俺は人のために、血を流し、命を減らし、外側から彼らの笑顔を見守らなければいけないから。
勇者なんて大形な呼称を与えられても、望まれていることは苛酷労働だ。
俺は人間でも魔物でもない。
勇者っていう、どこにも所属しない生き物で、人間らしい感情を持っちゃいけないって、持ったら辛いだけだって、そう思ってた。
幸せ。
そっか。
ハルは俺といて幸せなのか。
不安が消え去ったかと言えばウソになる。
ウソになるけど。
「もう一回」
ぼそっと呟く。
ハルは下手なことを言わず、微笑んだ。
「うん」
唇がしっとりと合わさる。
俺も、ハルといて幸せだって思えるようになるだろうか?
そんな時が、なるべく早く来ることを、密かに願った。
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