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勇者、孤独の中に光りを見つける
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明るく賑やかな音が遠くなっていく。
自分の息遣いと心音がやけに大きく聞こえた。
頭の中はハルで一杯だった。
幹の太い木々の間、雑草を踏みつけて抜けた瞬間、何かが視界を切り裂いた。
誰かが息を飲み込む。
その音の主を思い出す時間も与えられず、オレは黒く大きな物で全身を包まれた。
すぐ傍で、鋼鉄が引き裂かれる音がした。
守ってくれたのか?
「シオウ」
背後から小さく呼ばれ、勢いよく振り向く。
が、目がまだ暗闇に慣れず、黒いシルエットしか見ることができない。
「ハル?」
じゃあ、この黒い物はハルの……翼?
「そう。怪我はしてない?」
緊迫した友だちの小声に、頷いた。
あ、暗くて見えないんだった。
大丈夫、と言おうとし、「よかった」と言うハルの言葉に喉を震わすことを忘れた。
ハルは見えるんだ。
金属音がし、「ぐっ」とハルが呻く。
「ハル!」
黒色のシルエットを掴もうとし、手が空を切った。
胸に穴があくような感覚。
その穴を埋めるように、両手を握られた。
冷たい何かがオレを受けとめてくれている。
「シオウ。よく聴いて。このままじゃ、やられる。だから」
ハルはなぜか囁き声だ。
闇に目が慣れてくる。
ハルの紫色の瞳が見えた。
と、体をハルの胸元へと引き寄せられた。
「しがみついていて」
オレは頷きながら、腕をハルの背中に回した。
ぴったりくっついたハルの体は、布の上からもその冷たさがわかった。
暗闇が開け、同時に、上空へと飛び上がる。
浮遊感に腰の辺りの細胞が怯んでいた。
ハルはオレを片手で抱え、地上へと翼を強く打った。
爆風で木々が揺れる音がした。
なんとかハルの標的を見ようと首をひねった。
が、冷たい手が両目を塞いできた。
耳元で、何かの声がした。
憎悪を圧縮したような、濃厚な低い声。
そいつは確かに意図を持って声を発していた。
だけど、オレにはその言葉の意味を掴むことはできなかった。
体が高速で左右へ移動する。
ハルは攻撃をかわしながら、相手と距離をとろうとしているようだった。
「ハル! 何が起きているんだ? どうしてハルが戦ってる? 相手は誰?」
両目を覆っていた手が唇に人差し指を一本触れさせた。
しゃべるなってこと?
どうして?
またあのおぞましい声がする。
すぐ傍だ。
ゾッとしたのと同時、頭上からそれと同じイントネーションの声を聞いた。
ハルの声!?
体が一点でとまる。
ハルは憎悪と会話をしだした。
理解できない言葉は、音自体が死へ誘うような、纏わりつく闇そのものだった。
怖い。
奈落へ引きずられそうだ。
聞きたくない。
こんな音、おかしくなる。
歯を食いしばり、ハルの胸に顔を埋めた。
ハルが何かを告げ、瞬間、後方で低い悲鳴があがった。
地面に何かが落ちる。
「まだ目は開けないで」
聞き慣れた音にホッとする。
「どうして? ハル、あいつは何なんだ?」
「同郷の住人さ。人間があれと目が合えば石にされ、会話を持つことで死界へと連れて行かれる。あれが人間界へ来られるなんて、僕も驚いた。夢魔や淫魔と扱いが似ているということか。それとも、別の方法があるのか。何にしても、人間にとっては害にしかならない」
オレの知っているハルとは違って、大人っぽい雰囲気をその言葉はかもし出していた。
ハルはオレを抱えたまま地へと足をつけた。
下から呻くような、泣いているような声が聞こえた。
ハルは溜息をついたようだった。
空間の色が変化していく気配を感じる。
ハルが魔法を使おうとしているのだ。
とどめをさす気だ。
目を開けられないオレなんかじゃ、人に危害をくわえる可能性のある魔物を倒すことはできない。
だったら、ハルに任せればいい。
ハルだってそのつもりだ。
オレに期待なんかしていない。
だから、こうして何も見ず、口も開かず、待っていればいい。
きっと、目を開けたときには、恐怖は終わっているはずだ。
こうして、何も知らない振りをし、何も見ないようわざと目を閉じ、ハルの言う通りにしていれば、それで、……それが正解なんだ。
「キ……。ギギ」
憎悪の音よりも高い音に目が見開いた。
高音は憎悪に話しかけ、憎悪は高音に応えた。
憎悪の音に少しのやさしさが混ざる。
憎悪に仲間がいる?
ハルの腕が上げられる。
空間に黒色の火花が散っていた。
闇魔法?
ハルは闇魔法を使えるのか?
火花の量が増え、それにともなってオレの鼓動も大きく多くなっていく。
消すつもりだ。
すべてを。
「しなくていい!」
ハルの腕を押さえつけながら下げた。
相手は驚愕した。
自分の息遣いと心音がやけに大きく聞こえた。
頭の中はハルで一杯だった。
幹の太い木々の間、雑草を踏みつけて抜けた瞬間、何かが視界を切り裂いた。
誰かが息を飲み込む。
その音の主を思い出す時間も与えられず、オレは黒く大きな物で全身を包まれた。
すぐ傍で、鋼鉄が引き裂かれる音がした。
守ってくれたのか?
「シオウ」
背後から小さく呼ばれ、勢いよく振り向く。
が、目がまだ暗闇に慣れず、黒いシルエットしか見ることができない。
「ハル?」
じゃあ、この黒い物はハルの……翼?
「そう。怪我はしてない?」
緊迫した友だちの小声に、頷いた。
あ、暗くて見えないんだった。
大丈夫、と言おうとし、「よかった」と言うハルの言葉に喉を震わすことを忘れた。
ハルは見えるんだ。
金属音がし、「ぐっ」とハルが呻く。
「ハル!」
黒色のシルエットを掴もうとし、手が空を切った。
胸に穴があくような感覚。
その穴を埋めるように、両手を握られた。
冷たい何かがオレを受けとめてくれている。
「シオウ。よく聴いて。このままじゃ、やられる。だから」
ハルはなぜか囁き声だ。
闇に目が慣れてくる。
ハルの紫色の瞳が見えた。
と、体をハルの胸元へと引き寄せられた。
「しがみついていて」
オレは頷きながら、腕をハルの背中に回した。
ぴったりくっついたハルの体は、布の上からもその冷たさがわかった。
暗闇が開け、同時に、上空へと飛び上がる。
浮遊感に腰の辺りの細胞が怯んでいた。
ハルはオレを片手で抱え、地上へと翼を強く打った。
爆風で木々が揺れる音がした。
なんとかハルの標的を見ようと首をひねった。
が、冷たい手が両目を塞いできた。
耳元で、何かの声がした。
憎悪を圧縮したような、濃厚な低い声。
そいつは確かに意図を持って声を発していた。
だけど、オレにはその言葉の意味を掴むことはできなかった。
体が高速で左右へ移動する。
ハルは攻撃をかわしながら、相手と距離をとろうとしているようだった。
「ハル! 何が起きているんだ? どうしてハルが戦ってる? 相手は誰?」
両目を覆っていた手が唇に人差し指を一本触れさせた。
しゃべるなってこと?
どうして?
またあのおぞましい声がする。
すぐ傍だ。
ゾッとしたのと同時、頭上からそれと同じイントネーションの声を聞いた。
ハルの声!?
体が一点でとまる。
ハルは憎悪と会話をしだした。
理解できない言葉は、音自体が死へ誘うような、纏わりつく闇そのものだった。
怖い。
奈落へ引きずられそうだ。
聞きたくない。
こんな音、おかしくなる。
歯を食いしばり、ハルの胸に顔を埋めた。
ハルが何かを告げ、瞬間、後方で低い悲鳴があがった。
地面に何かが落ちる。
「まだ目は開けないで」
聞き慣れた音にホッとする。
「どうして? ハル、あいつは何なんだ?」
「同郷の住人さ。人間があれと目が合えば石にされ、会話を持つことで死界へと連れて行かれる。あれが人間界へ来られるなんて、僕も驚いた。夢魔や淫魔と扱いが似ているということか。それとも、別の方法があるのか。何にしても、人間にとっては害にしかならない」
オレの知っているハルとは違って、大人っぽい雰囲気をその言葉はかもし出していた。
ハルはオレを抱えたまま地へと足をつけた。
下から呻くような、泣いているような声が聞こえた。
ハルは溜息をついたようだった。
空間の色が変化していく気配を感じる。
ハルが魔法を使おうとしているのだ。
とどめをさす気だ。
目を開けられないオレなんかじゃ、人に危害をくわえる可能性のある魔物を倒すことはできない。
だったら、ハルに任せればいい。
ハルだってそのつもりだ。
オレに期待なんかしていない。
だから、こうして何も見ず、口も開かず、待っていればいい。
きっと、目を開けたときには、恐怖は終わっているはずだ。
こうして、何も知らない振りをし、何も見ないようわざと目を閉じ、ハルの言う通りにしていれば、それで、……それが正解なんだ。
「キ……。ギギ」
憎悪の音よりも高い音に目が見開いた。
高音は憎悪に話しかけ、憎悪は高音に応えた。
憎悪の音に少しのやさしさが混ざる。
憎悪に仲間がいる?
ハルの腕が上げられる。
空間に黒色の火花が散っていた。
闇魔法?
ハルは闇魔法を使えるのか?
火花の量が増え、それにともなってオレの鼓動も大きく多くなっていく。
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