その勇者、魔王の親友なりて

上野たすく

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勇者、孤独の中に光りを見つける

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 オレの顔を見て、ハルは瞳を揺らした。

「ハル?」

 呼ぶと、ハルは唇を噛みしめ、地面に横たわるオレの肩を強く掴んでくる。

「死んだかと思った」

 オレも。

「よかった」

 心からの言葉に胸が痛んだ。
 ハルはいつも、オレを心配してくれる。
 神経が鈍感になったように動きにくかったけど、指は動いたし、腕もあげられた。
 ハルの頬はとても冷たかった。
 オレの手に重ねられたハルの手は、もっと冷えていた。

「ごめん。僕が気をつけるべきだったのに」

 そうじゃない。
 オレが目を閉じればよかったんだ。

「キュ。ギギ」

 高い声が怯えたように震えている。
 そうだ。
 赤くて丸い、美味しそうな食べ物。
 靄のかかる頭に、子どもの魔物の顔が浮かび、上半身を苦心して起こした。

「ハル。訳して」
「動かない方がいい。あとは僕が何とかするから」

 何とかって、何とかできなかったから、ハルは彼らを消そうとしたんだ。
 あの子は、ただ、欲しがっただけだ。
 あの赤いプリンセスに恋をしただけだ。
 無邪気に、いいなって思っただけなんだ。

「わかった」

 立ち上がり、高い声の方へと向きを変える。

「ハルはそこにいて」
「シオウ」

 ハルの声に怒気が混じる。

「大丈夫だから」

 ヘマはしない。
 目を伏せながら、一歩一歩、慎重に歩く。

「キキ、キ」

 あの子が泣いている。
 ゆっくり、でも、確実に、声は大きくなっていく。
 灰色の小さな足と細く長い足が見えてくる。

「大丈夫。怖いことはしないから」

 片膝をつけ、腰の布からプリンセスを取り、保管袋を外して差し出した。

「キ……?」
「どうぞ。これは君のプリンセスだ」
「キ? キギュ?」

 灰色の小さな体が自由に動き、ちょろちょろとオレの前を左右に動く。
 オレは瞼を閉じた。
 そっと皮膚が手の甲に触れ、唇を伸ばす。
 柔らかな肌の持ち主がプリンセスの棒を持ったことを、触覚で受けとり、棒から手を離した。
 子どもはとてもうれしそうにはしゃぎ、低い声の主がやさしく相づちを打つ。
 はじめて聞いた時は恐怖で一杯になった声だったのに。
 やさしくて、心地良い。
 親が子に対して出す声だ。
 人間に大切な人がいるように、魔物にも大切にしたい相手がいるんだ。
 魔物の子どもにプリンセスを渡した数時間後、オレは一人で城内のあてがわれた部屋にいた。
 窓から城下街の祭の音が入ってくる。
 オレの隣にハルはいない。
 魔物の親子と魔界へ戻ったからだ。
 ハルは魔物と話すことがあると言っていた。
 それから、ごめん、とオレに謝った。
 祭に行けなくてごめん。
 大丈夫だよ、とオレは笑って言った。
 笑って言って、心で歯を食いしばった。
 行かないでなんて言えない。
 ハルを困らせるだけだから。
 祭は夜遅くまで続く。
 この日ばかりは子ども達も起きたいだけ起きていられる。
 大切な相手と闇夜を照らす淡い蝋燭の光の中で、時を過ごす。
 オレはテーブルの上で揺らめいていた蝋燭の明かりを、息を吹きかけて消した。
 部屋が暗くなる。
 月光だけを頼りに、ベッドに体を沈ませる。
 明日から、また勉強と武術の稽古だ。
 寝なきゃ。
 そう思うのに、なかなか寝つけない。
 外の音がいけないのかも。
 立ち上がり、窓に近づく。
 と、空から、黒い影がおり、息を止めた。

「シオウ」

 ハルはほっとした顔をし、背後を確認してから、オレに笑んだ。
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