その勇者、魔王の親友なりて

上野たすく

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魔王、己の決断に悩む

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 ホタルを見た数時間後、シオウは驚異的な回復力で、朝食用の魚を釣り出した。
 勇者の魂が魔の力に順応したとは思えない。
 魔が飲み込まれたのか?
 だけど、シオウの腹の真ん中に、自分の分身の鼓動は確かにあり、眉を歪ませた。
 魔力を持つ者にしか見聞きできない、心音と黒紫色の丸い炎。
 お前がある限り、魔界の知性ある者達は、人間界へ攻め入ることはしないだろう。
 お前は母体を突き破って生まれてくるのだから。
 それも、僕の意思で、いつでも。
 人間界へ攻め入らずとも、その気になれば、勇者は殺すことができる安心感。
 遠隔操作ができる点も、評価に値するだろう。
 さながら、時限爆弾のようだ。
 シオウが女であったなら、自然な形で子を宿すことも可能だった。
 もちろん、その場合、母体が死ぬ確立は、格段に下がる。
 シオウが勇者であったから、僕は魔界と人間界の新たな未来を描けた。だけど、シオウと過ごす時間が多くなればなるほど、僕は彼を傷つけたくないと思うようになった。それでも、僕は魔王で、シオウは勇者であって、だから、僕が魔界と彼を守るためには、こうするしかなかった。
 僕はどちらも大切なんだ。
 どちらも、傷ついて欲しくないんだ。
 だけど、と、シオウの腹部の炎を見ながら、奥歯を食いしばる。
 僕がしたことは、シオウへのリスクが高い。
 シオウが知ったなら、僕がどんなに言葉を尽くして説明しても、言い訳にしか聞こえないかもしれない。そのうえ、僕の分身の存在が、魔族の心の支えであるなら、僕は安易に本心を話せない。
 僕が、シオウと普通に話せているのは、何を口にしても、分身を宿らせたという、魔族にとって、得にしかならない決定打があるからだ。僕のシオウへの気持ちを、魔界の仲間達が本物であると知ってしまったら、彼らは僕だけでなく、シオウをも手にかけるだろう。
 絶対に、知られてはいけない。
 シオウがこの世で、生をまっとうするまで。
 とくん、とくん、と炎の鼓動が聞こえる。
 分身が僕を非難しているようだった。
 産声もあげさせてもらえず、朽ちるのだ。
 納得のいくものではないだろう。
 それでも、甘んじて受け入れてもらわなければいけない。
 どんな生き物も、それになろうとして、生まれてくるわけではない。
 姿形、能力、周囲の環境を、自ら、選べられないのだ。
 僕も、そうだった。
 シオウだって。
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